第76話 世界中ロマンティック!
◇◇◇◇
翌朝、久しぶりにベッドの上で目覚めた一真。
のっそりとベッドから起き上がり、すっぽんぽんのまま大きなベランダの方へ向かい、両手でカーテンを勢いよく開ける。
そして、朝日が全裸の一真を照らし、うっすらと全身が光り輝いていた。
「世界は美しい……」
感傷に浸っているが本日は合宿の最終日である。
とはいってもやる事は何もない。
実のところ、この合宿は卒業する生徒会メンバーへのご褒美な面もある。
一年間、もしくは二年間、はたまた三年間、頑張ってきた生徒への慰労会のようなものなのだ。
一真はほぼほぼ自分の為にやった事なのだが、結果的に言えば最大の功労者である。
「腹減ったな。もう朝食バイキングが始まってるか?」
時刻を確認してみると6時を指していた。
5時から朝食バイキングが始まっているので丁度いい頃だろう。
一真は手早く着替えを済ませると、軽く顔を洗ってバイキングの行われている会場へ向かった。
朝早めの時間だったが、そこそこ人はおり、会場は賑わいを見せている。
一真が顔を出すと会場にいた生徒達は会釈したり、手を振ったりと快く受け入れてくれた。
「お~!」
先日の晩餐会にも引けを取らない豪勢な料理に一真は感動の声を上げる。
毎朝、これくらい豪勢な朝食なら最高の気分だ。
もっとも、五つ星ホテルだから出来る事で個人では到底無理であろう。
「よし!」
朝からハイカロリーだが一真の運動量は凄まじく、消費カロリーも凄まじい。
そもそも鍛えている事もあって基礎代謝が常人よりも非常に高いので一真の食事量は成人男性の倍くらいだ。
「いただきます!」
行儀よく手を合わせた一真はバクバクと料理を食べ進めていき、十数分ほどで完食した。
満腹ではないが満足した一真は合宿最終日である今日の予定を確認する。
午前は自由行動で昼食にビーチでBBQ。
午後から夕飯までの間は自由行動で最後は一真も何も知らされていない。
恐らく、卒業生にサプライズでも送るのだろうと予想している。
一真は午前の自由時間はビーチで遊ぼうと決めて部屋に戻った。
「……まだ朝早いか」
時刻を確認するとまだ7時を過ぎたばかり。
大半の生徒が起きてくる時間だろうが、まだ寝ている生徒もいるだろう。
一真は宗次や隼人を遊びに誘いたかったがまだ朝食を取っている時間かもしれない、もしくは寝ているかもしれないと気を遣い、一人でビーチに向かった。
「いやっほう~~~!」
朝8時前だというのに元気いっぱいの一真。
朝日に輝くきらきらビーチで一人で大はしゃぎ。
散歩していた生徒達はそんな一真を微笑ましく眺める。
時折、海の上を爆走しているのを見て目玉が飛び出すくらい驚いたが、一真の事なので深く考えないようにした。
「うっひょおおおおおおお!」
奇声を上げながら海面を爆走している一真。
一般の観光客がいたらまず間違いなく目を疑うだろうが、今のハワイには一真の関係者しかいない。
だから、一真が海面を爆走していているのを見ても生徒達は何の不思議も感じなかった。
「そろそろ飽きてきたな……。マリンジェットのレンタル出来るか聞いてこよ!」
一人だけでもハワイを満喫している一真は逞しいものだ。
一真は海パンのままホテルへ戻り、マリンジェットのレンタルが出来るかどうかを訊いた。
本来であれば未成年には貸し出しをお断りしているのだが、相手が一真なのでレンタル業者は快く貸し出してくれる。
「あざーっす!」
「一応、操縦方法を教えますね~」
「はーい」
マリンジェットの操縦方法を教わった一真は風となる。
海面を切り裂くように走り、蛇のように蛇行運転していた。
「うおおおおおおお! 俺は風! 一陣の風なりぃぃぃ!」
最後はハンドル操作を誤ってマリンジェットから投げ出され、宙を舞い、海面に叩きつけられた。
一通りマリンジェットで遊んだら、マリンジェットを業者に返却し、砂浜で日光浴を始める。
照りつける太陽が一真の肌を焦がしていると宗次達が浜辺に姿を現した。
「よう、一真。何してるんだ?」
「はよっす、宗次先輩! 今は日光浴してました!」
「朝から一真君は元気だね~」
「隼人先輩はちょっと眠そうですね。夜更かしでもしたんです?」
「まあ、ちょっとね」
「日光浴って大丈夫なのか? 確かハワイって日本よりも紫外線がキツイって聞いてるけど」
「マジっすか!? てか大我先輩もいるって珍しいですね」
日光浴を楽しんでいた一真だが大我の言葉を聞いて慌てて体を起こした。
しかし、すでにハワイに来てから何時間も日光を浴びているので今更だ。
「つってもハワイに来て三日も遊んでるんだから今更じゃないか?」
「宗次の言う通りだよ。今更気にするほどの事じゃないって」
「そうっすね。お二人の言う通りだと思います。皐月、もう手遅れだ」
「健康的な小麦肌になってAV男優ごっことかしたかったのに……」
下らない遊びを思案している一真に呆れる三人。
「とりあえず、BBQまで何する? 観光でもするか?」
「ハイハイ! 俺やりたい事があるんです!」
「却下」
「どうしてですか! 説明してください。隼人先輩!」
「どうせ、下らない事だろ? 隼人先輩もそれが分かってるから却下したんだよ」
「何も聞いてないのに最初から否定するのは良くありませんよ!」
「じゃあ、何するんだ?」
仕方ないが一応は一真の意見を聞いてやろうと宗次が尋ねた。
「ふっふっふ! よくぞ聞いてくれました! これをやりましょう!」
そう言って一真はスマホ取り出し、ある動画を三人に見せる。
その動画を見て三人は顔を見合わせる。
「どうする? 案外、面白そうだが」
「う~ん……。この炎天下でやる事ではないと思うけど」
「俺はお二人に任せるっす」
「ま、学生最後の思い出には丁度いいかもな」
「あ~、それは確かに。仕方ない。いっちょやりますか」
というわけで一真の提案した即興バンドが組まれる事となった。
機材などは予め一真がホテルの人間に用意してもらっていたので、すぐに準備が整い、ワイキキビーチでライブが開催される。
「イエアアアアアアアッ!」
「準備良すぎだろ……」
「人が集まって来たね」
「俺、出来るかな~……」
ギターボーカルの一真、ドラムの宗次、ベースの隼人、ギターの大我。
即興バンドの四人組である。
いつものメンバーに加わった大我はギターなど弾いた事がなく、演奏出来るか自信はなかったが、一真も見様見真似で適当に頑張るらしいので、とりあえずやってみる事に。
「ノリとテンションでいけます! それじゃあ、ミュージックスタート!」
「へいへいっと」
「頑張ろう~」
「よ、よし! いつでもいいぞ!」
いつの間にか見物客も増えて来て、浜辺にはほとんどの生徒が集まっていた。
そこに引率の教師陣に加えて、VIPの方々もやってきてとんでもない事態にまで発展する。
まさか、首相や大統領といったVIPまで見物に来るとは思っていなかった宗次達は緊張に動けなくなったが、主役の一真がライブ会場を沸かせるかのように叫び声をあげた。
「俺の歌を聴けー!!!」
有名なセリフをまんまパクッた一真はギターを弾き始める。
動画を一回見ただけとは思えない程の上手さで、その場にいた全員の度肝を抜いた。
歌っている曲は有名なアニソン。
一真の演奏は上手いが歌に関しては素人よりはマシレベルだが、楽しそうに歌い、観客を盛り上げるには十分だった。
一真の熱気にやられ、宗次達も負けじと演奏を始める。
全員が楽器など触った事もない素人であったが不思議と音楽になっていた。
ただただ一真につられるように演奏し、動画で見たように楽器を弾く宗次達。
きっとプロから見れば、あまりにも出鱈目でお粗末なものに映るだろうが、少なくとも今この瞬間だけは最高のバンドであった。
「ふう……! いや~、どうもどうも! 皆さん、楽しんでもらえました?」
歌い終えた一真が観客に尋ねるとアンコールが返ってくる。
まさか、アンコールされるとは思っていなかった一真は驚きに目を丸くしたが、すぐにいつものように調子のいい笑みを浮かべた。
「ようし! 皆のアンコールに応えて、もう一曲いっちゃうぞ~!」
「おいおい! さっきので精一杯だぞ! 流石にもう一曲なんて無理だ!」
先程のは動画で予習していたから何とか乗り切る事が出来た。
しかし、次の曲は完全に無理である。
宗次は声をあげて一真に反対した。
「大丈夫っす。ちょっと、皆さん集まってください」
一真はメンバーを集めると観客に聞こえないよう声を抑えて、ある作戦を伝授する。
「もう演奏はしなくていいっす。音源はスマホでやりますから皆さんはエアーギターしてください」
「マジか。演奏してるように見せろってか」
「さっきは夢中だったけど今度は違う意味で緊張しそうだよ」
「パ、パフォーマンスとかどうやればいいんだ?」
「そんなのは雰囲気で十分っす! とりあえず、スピーカーにスマホを繋げるんで後は適当によろしくっす!」
一真はスマホとスピーカーを繋ぎ、会場の雰囲気に合ったアニソンを流す。
任侠と人魚を掛け合わせたラブコメディ風アニメのOPを一真は流し、エアーギターで会場を盛り上げる。
「皆も一緒に踊りましょう!」
いつの間にか用意されていた巨大スクリーンに一真が歌っているアニソンのOPが公開される。
映像の中で踊っている踊りを一真が踊り、ハイテンションになっている観客も一緒に踊りだした。
流石にいい年した大人達は見ているだけで踊りはしなかったが、中にはノリノリで踊っている者もいた。
そうしてBBQが始まるまで一真達は歌って踊ってどんちゃん騒ぎするのであった。
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