第69話 え、マジ?
新旧生徒会のバトルロイヤルが終わり、一真はVRマシンから降りる。
仮想空間では大暴れしていた一真だが現実世界ではVRマシンに乗っていただけなので肩が凝っていた。
凝り固まった筋肉を解すように肩を回し、首を鳴らしていると見知った顔が集まってくる。
「よ、お疲れ」
「お疲れっす。宗次先輩」
「今回はいけると思ったんだけどな~」
「いい線いってましたよ? 片腕吹き飛ばされましたし」
「いや、それは俺の功績じゃないだろ。西条が頑張った証だ」
「まあ、そうですね。西条先輩には驚かされました」
「僕としては詩織の胸を触った一真君に物申したいんだけど?」
「まあまあ、隼人先輩。触ってはいませんよ。貫いただけです」
「それでも胸中穏やかじゃないからね?」
詩織の彼氏としては黙っていられない隼人は一真をジト目で睨んでいる。
一真も悪いと思っているが戦っている最中だったので下劣な感情は一切抱いておらず、そこまで罪の意識はなかった。
「と言われましても俺は別に西条先輩にこれっぽっちも興味ありませんから」
「それはそれで腹が立つね……」
「そこまでにしておけよ、隼人。ほら、西条も一真に何か言いたそうにしてるぞ」
宗次が二人の間に割って入ると、詩織が何か言いたげそうにしていると指を差して二人に教えた。
隼人は詩織の顔を見て、宗次の言う通り、何か言いたい事があるのだろうと察し、一歩下がる。
隼人が下がると、詩織が前に出てきて、一真の前に立った。
「さっきぶりね。一真君」
「そうですね。今回は一番驚かされましたよ」
「そう言われると頑張った甲斐があったわ」
「こちらも鍛えた甲斐がありましたよ」
「そうそう。その事だけど、一真君が言ってた私が怖いって意味を教えてくれる?」
「戦っている最中にも言いましたけど、西条先輩も隼人先輩も宗次先輩も怖いです。だって、まだまだ発展途上なんですから」
「それが分からないのよね~。雲母坂疾風と雷華の方が実力もあって怖いと思うんだけど?」
「あの二人は完成してるんですよ。自らの戦闘スタイルを確立させ、自らの欠点を自覚し、個としての強さが完結してるんです」
「それなら尚更、二人の方が怖いはずじゃない?」
「いやいや、戦ってる最中にパターンや癖を覚えれば対処は簡単なんでそこまで脅威じゃないです。それよりも、西条先輩達みたいに未完成の方が俺にとっては怖いです。実際、片腕を吹き飛ばされたのは予想外の攻撃をされたからですし」
「なるほど。言いたい事は分かったけど……それはそれとしてあの超高速戦闘の中、相手の戦い方を分析してたの?」
「そうですけど、それが何か?」
もう異次元過ぎて参考にすらならない一真の言い分に詩織は呆れ果てる。
確かに、奥の手、切り札、虎の子と呼ばれるような技や武器は恐ろしい。
しかし、種さえ分かればどうという事はない。
無論、それは戦った後に分析したりすればの話で、戦闘中に分析して冷静に対処するなど出来るような芸当ではない。
「一真君は私達の事を怖いっていうけど、貴方の方がよっぽど怖いわね」
「まあ、そうですね!」
一応、自覚しているだけあって一真は詩織の嫌味に笑っている。
彼女の言う通り誰もが一真の方を恐ろしく感じるだろう。
目にも止まらぬ速度で動き回り、尚且つ相手の動きを分析して、適応して来るのだから敵からしても一般人からしても恐怖でしかない。
実際、一真の一番の強みはそこにある。
一真が勇者として育てられた時、一番鍛えられたのは適応能力だ。
如何なる状況下であろうとゴキブリのようにしぶとく生き残れるように、あらゆる能力を満遍なく鍛えた。
だから、一真は総合的に最強と呼べるが剣術、体術、魔法といった特定分野のみという条件を設けられると、二番手、三番手になり得る。
とはいえ、今の一真はまず相手の能力を見極めて生き残るのに特化しているので限定された状況だろうと負ける事はない。
はっきり言って戦えば戦うほど損をするので短期決戦で勝負を決めるのが一番の解決策だ。
つまり、一真を倒すには初見殺しの必殺技しかない。
「皐月!!!」
一真が詩織と話し終えると、群衆を掻き分けて一星が飛び出してくる。
大声で名前をを呼ばれるものだから一真は何事かと一星の方へ勢いよく振り向いた。
「なんだ? そんなに大声出して」
「あ、えっと、ごめん。その実は……お願いがあって」
「お願い? 俺にか?」
「ああ……」
バツが悪そうに後頭部をかいている一星はチラチラと一真に目を向けている。
まるで何か隠し事をしている子供のような一星。
一真は気味悪そうに一星を見ていると、彼は意を決したように深呼吸した。
「頼む! 俺を弟子にしてくれ!」
「嫌だ。断る」
「えッ!? す、少しくらいは考えてくれても……」
「お願いしてる立場の癖に図々しいな、お前」
一真のセリフに誰もが「お前が言うな」と内心でツッコミを入れた。
まるで一真は心を読んだかのように自分達を取り囲んでいる人達を一瞥し、ジロリと睨みつける。
まさか、心を読まれたのだろうかと周囲の人達は焦り、咄嗟に顔を逸らしてしまう。
その反応だけで一真は彼等彼女等が何を考えていたのかを察し、不貞腐れたように文句を垂れる。
「言っておきますけど、割と俺は礼儀正しいですからね」
ほとんどの人達は驚いているが第七異能学園のメンバーは、言われてみれば一真は目上の人間に対してきちんと筋を通し、礼儀正しく接している事を思い出した。
「そういえばそうね……」
「確かに一真君って普段の言動で勘違いされがちだけど、ちゃんとするとことはしてるもんね」
「体育会系みたいなノリだけど敬語も使ってるね」
「戦っている最中はキャラが変わりますけどね」
「そういやそうだな。アイツにタメ口で聞かれた事ないし」
「お母さんの教育のおかげ。一真はいい子」
「ありがとうね、みんな! なんか馬鹿にされてるような気もするけど!」
仲間達からの評価に一真は感謝を述べるが、少しだけ不服そうにしていた。
「はあ……。話が逸れて悪かったな。さっきも言ったけど、お前を弟子にするのはごめんだ」
「…………それは俺が嫌いだからか?」
一星は納得いかないのか下を向き、怒りに震えながら一真へ尋ねた。
「それもあるが……普通に考えて何も考えてないお前がダメだからだ」
「なっ!? 何も考えてないわけないだろ! 俺は少しでも強くなろうと思って――」
「あ~、違う違う。言い方が悪かった。お前のそういう我武者羅な部分は個人的に好みだ」
「じゃあ!」
「だけどな、如月。師匠の気持ちも一切考えてないお前はダメだ」
「え……」
「戦ってる姿は見てないから何も言えんが……お前は星空ノ記憶で呼んだ日ノ森椿、藤崎彩芽の二人から師事してもらってるんじゃないのか?」
「あ……」
「お前が嫌いだと言う俺に頭を下げてまで強くなろうとするお前は嫌いじゃないが師匠を蔑ろにする奴は嫌いだ。だって、そうだろ? もしも、俺より強い奴を見つけたらお前は俺を見限ってそっちに行くんだから。そんな奴を弟子にしたいとは思えんな」
一真の言葉に頭をぶん殴られたような衝撃を覚える一星。
何一つ間違った事を言っていない。
一星は強くなろうと努力している。
過去の英雄を呼べる星空ノ記憶という破格の異能に胡坐をかかず、懸命に強くなろうとしている姿勢は評価出来る。
星空ノ記憶で呼び出した英雄に師事してもらい、必死に頑張っている一星は褒めてもいいくらいだ。
しかし、その英雄よりも強い存在が現れれば、師事してくれていた人達を見限るのだけは許せない。
「……ごめん。俺が間違ってた」
「謝るべきは俺じゃないだろ。間違えるな。お前が謝るべき存在は向こうにいる」
「ああ。俺、謝ってくる。それでお前に弟子入りしてもいいか、ちゃんと聞いてくるから」
「あ、それはごめん」
「なんでっ!? 今、いい感じに纏まりそうだったじゃん!」
「いや、許可を貰ってもお前を弟子にするメリットがないし……」
「ッ~~~! あ~もう!」
地団太を踏む一星。
腹立たしいのは分かるが、最初から言っている通り、嫌いなのだから弟子にするはずがないだろう。
どうして、それが分からないのだろうかと一真は不思議そうに一星を見詰めていた。
「じゃあ、俺と一対一で組手してくれ! それで俺が勝ったら弟子にしてくれ!」
「負けたら?」
「ま、負けたら……もう弟子にしてくれなんて二度と言わない」
「ふざけてるのか? 俺にメリットが一切ないじゃないか! それなのに、よく喧嘩を売れたな、お前!」
「うぐ……! じゃ、じゃあ……お前の好きそうな女の子を紹介する!」
「その話、詳しく聞こうじゃないか。ちょっと、向こうに行こう」
一星の事は気に食わないし、好きでもないが、メリットを提示されれば一真は速攻で手の平を返すのであった。
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