第68話 これでおしまいだーっ!

 詩織の自爆に巻き込まれそうになった一真だったが紙一重で助かった。

 死に掛けたが見事に無傷で切り抜けた一真は呆然としている宗次達を見据える。


「どうした? 先程の自爆に巻き込まれ死ぬと思ったか?」

「そりゃそうだろ……」

「そうか。それは残念だったな」


 思い通りにならなくて本当に残念だったと一真は嫌味ったらしく肩を竦めてみせた。


「……雷華! アレをやるぞ!」

「分かりました!」


 疾風が雷華を抱きかかえると、空へ向かって上昇する。

 どんどん高度を増していき、一真が身体強化五倍のパワードスーツで全力ジャンプしても届かないくらいの高さだ。

 空を見上げる一真は二人が何をしようとしているのかを瞬時に理解する。


「なるほど。それがもっとも合理的だろうな」


 既に一真の声は二人に届かない。

 大空に浮遊している二人は真下にいる一真を見下ろす。


「雷華。主には当たらんから遠慮はするな。思いっ切りやれ」

「ええ。分かっていますよ、兄さん。全力でやりますとも」


 そう言って雷華は両手を一真に向ける。

 そして、雨のように電撃を大空から一真に向けて撃ち放った。

 一方的な蹂躙である。

 疾風の協力によって一真が手の届かない空中に逃げ、安全圏からの電撃。

 最早、勝負どころではない。

 ただ一方的に相手を甚振る残虐な行為である。


 しかし、それ以外に二人は勝ち目がないと確信していた。

 だからこそ、卑怯だと罵られても実行するに至ったのである。

 もっとも、一真は卑怯などと一切思っていない。

 むしろ、二人がやはり英雄なのだと強く思っていた。

 敵に対して慈悲のない攻撃に感心すらしている。


「ハーッハッハッハッハ! 安全圏からの一方的な電撃か! 実に合理的で効果的だ! 大半の敵なら手も足も出ずに蹂躙されるだけだろう。だが、しかし! 例外がいるという事を教えてやろう!」


 降り注ぐ万雷を一真はヒラリヒラリと避ける。

 電撃を避けている最中に宗次が攻撃を仕掛けるが、一真はそれすらも華麗に避けてみせる。

 上空で地上の様子を眺めている二人はもう驚くどころか呆れてすらいた。


「これも避けるか……!」

「彼が死ぬまで続けてみますが……多分、無理でしょうね」

「俺の風、雷華の電撃、主の援護。これら全部を使っても届かねえとはな」

「どうしますか? 兄さん」

「続けるんだ。アイツがどれだけ凄くても人間である事に違いはない。どこかで限界が来るはずだ……多分」

「多分ですか……。まあ、やるしかありまんね」


 地上で出鱈目な動きを見せる一真に二人は呆れつつも称賛はしている。

 二人が生きていた時代に一真以上の人間は存在しなかった。

 それゆえに二人は一真の実力を惜しみなく称賛するのであった。

 とはいえ、限度があるだろうと内心怒っていたりもするが。


「さて、そろそろ攻めようか」

「ここからどうやって二人を攻撃するんだよ! 弓矢もこの距離じゃ疾風の風に防がれて意味がないだろ!」


 雷を避けながら自身の攻撃も避ける一真に宗次は怒気を含んだ声で問いかける。


「簡単な話だ。俺も空を飛ぶ」

「ど、どうやって!?」

「こうやってだ!」


 一真は手に持っていた石を空に投げつけると置換で木と入れ替えた。

 しかも、複数の石を投げ、空中にまるで階段のように木が置かれる。

 重力によって自然落下が始まる木に向かって一真は跳び上がり、物理法則を無視した動きで空を駆けあがっていく。


「嘘だろ……」


 冗談のような光景であったが、目の前で一真は宙に浮かぶ木を足場にして駆け上がっている。

 物理法則というものが存在し、普通なら出来ない芸当なのだが一真は実現して見せているのだ。


「ど、どうなってんだよ! お前は!」

「ハハハハハハハハ! これぞ、皐月流奥義! 空玄歩くうげんほだ!」


 いい感じの名称が思いつかなかったので適当にそれらしい名前を付けた一真は木を蹴って万雷の中を突き進んでいく。

 物理法則も無視した一真の出鱈目な動きに疾風と雷華は泣き叫びたくなるが意地で堪え、何度も撃墜しようと試みた。

 しかし、電撃が当たったかと思えば一真は陽炎のように姿を消し、別の木に飛び移っており、攻撃は一切当たらない。

 それでも諦めず、二人は何度も一真に向けて攻撃を仕掛けるが、その全てが避けられる。


「兄さん!」

「分かってる!」


 徐々に距離を詰めてくる一真から距離を離すべく疾風は上昇する。

 疾風に抱えられている雷華も距離を詰めさせまいと一真に向かって電撃を放つも当たらない。

 しかし、回避行動を取らなければならないので一真の動きも僅かに遅れが生じ、ほんの少しだが距離を稼ぐ事が出来た。


「ここまで来れば!」

「背後には注意した方がいいぞ?」


 一真にばかり注意を向けていた疾風と雷華の背後に何本もの木が現れ、逃げ道を塞がれてしまう。

 風の鎧を身に纏っている疾風はダメージこそ負わなかったが木が邪魔をして逃げ遅れてしまった。

 魔の手が迫る。

 ほんの僅かな隙を狙って一真は一気に距離を詰め、雷華の首を掴んだ。


「がっ!?」

「砕けろ!」


 一真は雷華のか細い首を万力の如く握り締め、呆気なくへし折った。


「よくも雷華を!!! 許さん!!!」


 光の粒子になって消えていく雷華を見て疾風が激昂し、一真に詰め寄るが近づいた瞬間、絡め取られてしまい身動きが取れなくなる。


「なっ!?」

「この程度で動揺しすぎだ。お兄ちゃん」


 まるで蝶のように捕まった疾風は一真に締め技を空中で極められ、雷華と同じように光の粒子となって消えていった。

 これで残るのは一真と宗次の二人だけ。

 旧生徒会チームのエースと新生徒会のエースだ。

 新旧生徒会のバトルロイヤルは最終決戦を迎える。


「結局こうなるのかよ!」


 大空に飛び立ち、豆粒のようになっている一真を眺めながら宗次は悪態を吐く。

 疾風と雷華の二人はよく戦ってくれた。

 しかし、相手が悪かった。

 二人の戦法なら並大抵の異能者は手も足も出ずに敗北していただろう。

 高高度からの電撃による範囲攻撃だ。

 普通は一方的に蹂躙されて、嬲り殺しにされるだけ。

 だというのに一真は雨のように降り注ぐ電撃を避け、二人を見事に撃破してみせた。

 最早、芸術の域と言ってもいいくらいだ。


「一か八か……。最後まで足掻くかね!」


 だからと言って諦めるわけにはいかないし、勝負を投げ捨てるわけにもいかない。

 先輩としての意地もあるが旧生徒会のエースであるのだ。

 ならば、最後の最後まで諦めるわけにはいかない。


「撤退の意志はない。迎え撃つ気満々ってところか」


 疾風と雷華の二人を倒した一真は重力に身を任せ、地上へと落ちていく。

 ぐんぐん落下速度は増していき、一真は隕石のように火の玉と化す。


「結界で身を守りつつ、念力で迎撃……。無理かな~!」


 今、宗次が模倣している異能では空から隕石のように降ってくる一真から逃げ切る事が出来ない。

 かといって迎撃となれば火力不足である上に宗次の実力では一真に勝てないだろう。


「それでもやるしかないんだよな~」


 宗次は結界を張って一真との衝突に備える。

 一真は宗次が逃げずに結界を張って待ち構えているのを見て不敵に笑う。


「受けてみるがいい! 皐月流奥義! 天墜脚てんついきゃく!」


 空中で身を翻し、宗次に向かって飛び蹴りを放つ一真。

 隕石のように急降下した一真の飛び蹴りと宗次の結界がぶつかり合い、轟音を立てる。

 普通なら一真の体がくの字に曲がり、原形を保てずに消滅するのだが相変わらずの常識破りで彼は宗次の結界を打ち破った。


「ったく……勘弁しろよな」

「お疲れっす! 宗次先輩!」


 鮮やかな笑みを浮かべ、飛び蹴りで宗次の体を突き抜けた一真は華麗に着地を決める。

 特撮ヒーロードラマなら宗次の体が爆発し、一真のバックに爆炎が上がるような決着だった。

 宗次が戦闘不能になり、しばらくして新生徒会チームの勝利が告げられ、新旧生徒会によるバトルロイヤルは幕を下ろしたのである。

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