第65話 ぼっちやん!!!

「ふむ……。隼人先輩と宗次先輩の二人を狙い撃ちしたんだけどな。まさか、避けられるとは思わなかった。宗次先輩が模倣してるのは星空ノ記憶と予知系の異能かな?」


 木の陰に隠れて戦場の様子を窺っている一真は宗次が模倣している異能を予測していた。

 先程、二連射で隼人と宗次を狙ったのだが避けられてしまったので、未来予知などの予知系の異能だと判断する。

 そうでもなければ数百メートル以上離れた場所からの狙撃を避けるなど出来ないだろう。


「面倒だな~。どうしよう」


 こちらの思惑はすでに見抜かれているだろう。

 狙撃が意味を成さないのであれば特攻しかない。

 かといって、草原エリアには遮蔽物などなく、真正面から特攻しようものなら、どうぞ狙ってくださいと言わんばかりに狙い撃ちにされるのは間違いない。

 敵側にも狙撃手がいるのだ。弾道を予測して避ける事など容易ではあるが、絨毯攻撃などされると流石に厳しいものがある。

 まあ、厳しいだけで防げないとは言っていないが。


「折角、弓矢を持ってきたのにな~」


 披露できなくて残念だ、一真は不満を口にして手に持っていた弓矢を背中に戻す。

 現在の一真の装備は弓矢、ハンドガン、刀剣類といったものだ。

 遠距離、中距離、近距離の全てをカバーできる。

 しかし、先程も言ったように草原エリアには遮蔽物がない。

 そんな場所を突っ切るのは勇気がいるだろう。


「まあいいか……」


 狙撃が不可能となった以上、やる事は限られている。

 近付いてのインファイトだ。

 ハンドガンで中距離を戦ってもいいが、残念な事に弾数制限がある。

 弓矢であれば矢を回収さえすれば無限に使えるのだがハンドガンはそういった事が出来ない。

 もっとも、ハンドガンは市街地などで暗殺に使用する事を想定していたので別に使えなくても一切問題はない。

 強いて言えばハンドガンを持っている事で相手の思考を乱す事が出来る。

 近接戦でも無類の強さを誇る一真がハンドガンを装備している分かれば、相手は動揺するのは間違いないだろう。


「よし、突っ込むか!」


 グダグダ考えるのはやめだ。

 こうしている間にも味方の戦力が削られ、どんどん不利になってきている。

 とはいっても、味方が全滅しても自分が頑張ればいいだけだ。

 であるなら、ここで観戦してもいいのだが、流石に新生徒会チームの代表であるのでそれは出来ない。


「疾風!!! 今すぐ一真に向かって最大出力!」

「任せろ、主!!! ぶっ飛ばしてやるよ!!!」


 一真が木陰から姿を現し、走り出そうとした瞬間を狙って、宗次は疾風に最大出力で攻撃するように命じた。

 疾風は空気の大砲を放ち、一真が隠れていた木々を吹き飛ばす。


「マジか!?」


 点での攻撃ではなく面での攻撃で流石の一真も避け切れずに木々と一緒に後ろへ吹き飛んでいく。

 木々に巻き込まれ、常人ならば無事では済まないだろうが、そこは一真である。

 後ろへ吹き飛ばされながらも、しっかりと受け身を取り、無傷で切り抜けた。


「ハッハー! 主の記憶で知ってたがとんでもない身体能力だな!」


 華麗に着地を決めた一真の前には疾風が迫っていた。


「む! 宗次先輩が呼んだ英雄か!」

「そうとも! 俺の名前は雲母坂疾風! お前を倒す男の名だ。よく覚えておきやがれ!」


 自己紹介と共に疾風は一真へ風を纏った拳を突き出す。


「そうか! なら、そちらも覚えておくといい! お前を倒す男の名を! その身に刻め、皐月一真の名を!」


 瞬時に一真は疾風が風を身に纏い、攻防一体である事を見抜て、距離を離した。


「そう言いながら逃げるとは男としてどうかと思うぜ!」


 距離を離した一真に情けないと罵倒する疾風。

 しかし、一真が距離を離した最大の理由は逃げる為ではない。

 疾風が迫り来る中、一真は黒い手袋をはめて拳を握り締めた。


「お前をぶん殴るにはちょっとだけ工夫がいると思ってんでな」

「悪いが俺の風の鎧はどんな攻撃も通さねえよ!」

「阿呆。風の軌道をさえ読めれば、触れない事はないんだよ」


 その言葉通り、一真は疾風が纏っている風の鎧をすり抜けて頬を打ち抜いた。


「んなッ!?」

「おっと。止まっていてもいいのかな」

「ぐがぁ!?」


 本来であれば疾風が纏っている風の鎧はどのような攻撃も通さない。

 少しでも疾風に触れようものなら風の鎧が猛威を振るい、相手の手や足を斬り裂き、ズタボロにしてしまうのだ。

 しかし、一真は荒れ狂い、軌道が全く読めない風の鎧を攻略して見せた。

 そして、ひと呼吸の後に一真は疾風に連打を叩き込み、最後に大きく振りかぶって殴り飛ばす。


「これで終わりなら、英雄の肩書は返上した方がいいぜ?」


 殴り飛ばされ、地面に倒れる疾風。

 かろうじて意識は保っているがあまりにもダメージが大きすぎる為に、すぐには動けそうにない。


「ぐ…………! へへ。まさか、ここまでとはよぉ……。想像もしてなかったぜ」

「おお、流石は英雄か。気絶してないなんてやるじゃないか」

「どうも。だが、ちっとばかし辛いな」

「安心してくれ。次で沈める」


 倒れている疾風に向かって一真は止めの一撃を放とうと跳躍したが、そこへ宗次が駆けつける。

 一真より早く宗次は疾風を救出し、間一髪のところで間に合った。


「まあ、そうでしょうね」

「相変わらず、容赦の欠片もないし、異次元に強いな。雲母坂疾風は妹の雷華と風神、雷神と恐れられた兄妹だぜ? それなのにほんの数秒でKOするとかどんなだよ……」

「兄妹? 妹の方は……?」


 一真はちらりと宗次の後ろへ目を向ける。

 ここからそう遠くない場所で炎と氷と雷の三つがぶつかり合っており、激しい音を鳴らしているのを見つけた。

 最初は雪姫、火燐、詩織の三人が戦っているのかと思ったら、見覚えのない女性が戦っているのを見て一真は彼女が雷華だろうと判断した。


「先輩方が奮闘してくれてるみたいですね」

「ああ。計画通りとは中々いかないもんだ……」

「なるほど。宗次先輩に雲母坂兄妹の三人がかりで俺を倒そうと考えていたわけですね」


 確かに宗次と疾風、雷華の三人掛かりでならば一真を倒す事は出来るかもしれない。

 しかし、忘れてはいけないのだが一真は勇者である。

 逆境にこそ輝き、その真価を発揮する。

 つまり、一真は追い詰められるほどに強さを増すのだ。

 敵側からすれば最悪の存在だ。

 追い詰められてから本領を発揮するのだから。

 とはいえ、本領発揮される前に速攻で潰してしまえばいいのだが、それが出来れば苦労はしない。


「しかし、残念でしたね。宗次先輩。ここでおしまいです」

「さて、どうかな?」


 すでに宗次と疾風は一真の間合いの中だ。

 宗次が以前のように瞬間移動で逃げようとも、その前に一真は仕留めれる自信がある。

 だというのに、不敵な笑みを崩さない宗次を見て一真は不気味に思う。

 今、宗次が模倣している四つの異能は危険予知、星空ノ記憶の二つ。

 では、あと二つは一体なんなのか。

 致命的なミスを犯す前に一真は装備していたナイフで宗次目掛けて振り下ろした。


「ちっ!!! 結界の異能か!」

「ご名答! 悪いが今回の俺は生存に特化した異能を模倣してるんでな! そう簡単にはくたばらねえよ!」


 ガキンッとナイフを弾かれる一真は舌打ちをしながら後ろへ下がった。

 結界の異能は名前の通り結界を生み出し、守りに特化した異能だが、その守りは決して破れないという事はない。

 結界の強度は異能者の力量によって左右され、ガラスのように脆ければ、鋼鉄のように頑丈なものにもなる。

 宗次の場合はどれくらいなのかは分からないが、少なくとも鉄よりは強固なものだろう。


「面倒くさいな……」

「ハハ、悪いがここは一時撤退させてもらう」

「俺がそれを許すとでも?」

「結界で守りを固めた俺を倒せるか?」

「さあ、それは分かりませんが……宗次先輩の結界がどの程度のものなのかによりますね」

「じゃあ、無理だろう。お前の装備じゃ俺の結界は破れねえよ」

「クックック! ならば、試すまで!!!」


 一真が持っているナイフはイビノムの素材から作られたものであり、耐久性は抜群だ。無論、切れ味も従来のものとは比べ物にならない。

 たとえ、鋼鉄の扉を何度切りつけようとも決して折れず、刃が欠ける事もない代物だ。

 とはいえ、ある程度の技量がなければ満足に扱う事も出来ないが、その点は一真なので問題ない。

 十全にナイフの性能を発揮し、宗次の結界を打ち破ろうと試みた。


「おいおい、マジか……」

「流石にそう簡単にはいかないか……」

「いやいや! お前、ナイフ一本でひび割れさせてる時点で化け物だからな!?」


 身体強化五倍のフルパワーとはいかないまでも、そこそこ力を込めて結界を破壊しようとナイフを突き立てた一真であったが、宗次の結界は思っていた以上に頑丈でひび割る事は出来たが、破壊するまでは出来なかった。

 悔しそうに顔を顰める一真であるが、宗次からすれば身体強化五倍とナイフ一本で結界をひび割った事に恐れ戦いていた。


「主、そろそろ動けそうだ……」

「お! ようやくか!」


 宗次に介護されていた疾風が回復し、ゆっくりと立ち上がった。

 宗次と疾風の二人が相手となると絶望的なものだが生憎一真からすればどうという事はなく、むしろ燃え上がっている。

 戦闘意欲が高まり、一真の体温が上昇する。

 スタート前のレーシングカーのように一真は闘志を高ぶらせていた。


「さあ、始めましょ――」


 と、一真が戦いのゴングを鳴らそうとした時、不意に攻撃の気配を感じ、振り返ると電撃が飛んできている。

 ヒョイと軽々しく電撃を避けると、そこには疾風の顔立ちが似ている女性が立っており、一真は彼女が雷華だろうと判断した。


「……雪姫先輩と火燐先輩はどうした?」

「彼女達なら倒しました。とても強くて苦戦を強いられましたが、最後は数の差で勝てましたよ」

「なに?」


 雷華の後方を確認すると、先程まで新旧生徒会が激しい戦闘を繰り広げていたはずなのに、今は新生徒会が一方的に蹂躙されている。

 一星が召喚した椿と彩芽が奮闘しているものの、新生徒会の戦力は着々と削られ、全滅するのも時間の問題であった。


「マジか……」


 新生徒会チームには一真が育てた楓、大我、雪姫、火燐の四人に加え、過去の英雄を召喚出来る一星がいる。

 旧生徒会には元学生最強の宗次、そして一真の一番弟子である隼人と詩織を筆頭に各学園の元生徒会長に元副会長がいる。

 戦力で言えば元生徒会も十分に強いが新生徒会の方が上であった。


 しかし、一つだけ計算外だったものがある。

 それは経験だ。勿論、二年生である大我、雪姫、火燐といった者達も経験は積んでいるが三年生と比べると一年の差がある。

 しかもだ、新生徒会もそうだが旧生徒会も切磋琢磨するライバルだったのでお互いの癖や動きなどもある程度は分かっている。


 そういったものが加わり、新生徒会よりも旧生徒会の方がチームワークに秀でており、戦力差を埋めたのだ。

 そして、結果的に旧生徒会は新生徒会を見事に打ち破り、今に至った。

 ただやはり、椿や彩芽といった規格外の存在が最大の障害となっており、全滅までは出来ていない。

 とはいえ、詩織を始めとした元生徒会長、元副会長といった強者が取り囲んでいるので、一真の救援には来れないだろう。


「皆、どいて!!!」


 詩織の叫び声が聞こえたと思ったら、次の瞬間――


「最大出力! 結界もろともぶっ飛びなさい! 荷電粒子砲!!!」


 極光が草原を駆け抜け、椿の結界ごと一星達を飲み込んだ。

 そして、光が過ぎ去った後には何一つ残っておらず、文字通り一真以外の新生徒会チームは全滅したのである。


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