第64話 乱戦、混戦、熱戦
一星に絡んでいる所を楓に襲撃され、ズタボロになった一真だったが数秒もしない内に奇跡の復活を遂げ、再び一星に絡んでいた。
「とりあえず、作戦という作戦はないんだが如月の召喚する英雄は俺の指示に従ったりしてくれる?」
「多分、俺が言えば従ってくれると思う」
「そうか……」
一真は少しだけ考える。
一星が召喚する英雄は日ノ森椿と藤咲彩芽の二人。
椿は攻防一帯の結界という異能を持ち、彩芽は剣聖と呼ばれた剣士だ。
恐らく、一星の護衛を務める椿を同行させるのは難しいが彩芽であれば可能だろう。
しかし、こちらの言う事に従ってくれるかどうかは分からない。
流石に不安要素がありすぎるので一真は単独行動する事に決めた。
「やっぱり、いいわ。多分、俺一人の方が強い」
「そ、そうか。まあ、皐月の実力は皆よく知ってるからな。一人で動く方がいいと思う」
「そうするわ。じゃあ、戦場で会ったらよろしくな」
それから間もなくしてインターバルが終了し、生徒達はVRマシンに乗り込む。
準備が整い、教師の合図と共に仮想空間へダイブし、新旧生徒会によるバトルロイヤルが始まった。
「ふむ……。今回はなんというか現代的だな」
「国防軍と同じ装備ですか」
バトルロイヤルが始まり、競技場に用意されているVIP席では慧磨達が観戦していた。
巨大なモニターの向こう側では一真達が学生が複数のエリアに分けられた無人島で戦っている。
その中で一番注目されているのが、やはり一真である。
一真は今回、現代風の衣装を着ており、迷彩柄の戦闘服に身を包んで、ジャングルの中に潜んでいた。
「ところであの格好は何を参考にしてるんだ?」
「一応、調べてみたんですが、どうやら大昔にあったゲームの主人公ですね」
「ほう。渋いオジサンキャラだな。なんで眉間の皴がバンダナにもあるんだ?」
「さあ? 分かりませんが一真君の格好は似てると思いませんか?」
「大分似せて来てるな……」
「そうですね。銃火器の類はハンドガンのみ許可されてるみたいですから、一真君も装備してるようです。あと、ロングボウですか」
「銃火器ではないからセーフとなっているが一真君だからな~。今後、禁止されるんじゃないか?」
「どうでしょうか? 一真君が特殊なだけで禁止されるような事はないんじゃないでしょうか」
「それもそうか……」
銃火器は戦闘系の異能者であっても脅威とみなされるため、こういった競技では禁止されているが弓であれば問題ないと許可されている。
その為、一真も今回は宗次からの希望でマジの本気を所望されたので弓を装備していた。
これで一真は遠距離、中距離、近距離の万能キャラとなっている。
しかも、そこに隠密性が加わっているので、恐らく旧生徒会チームは蹂躙されるだろう。
「(さて、ここからどうするかな~)」
ジャングルの中に身を潜めていた一真はどう動こうかと考える。
今回のバトルロイヤルも学園対抗戦の時と同じくランダム転移なので誰がどこにいるのか分からない。
恐らくだが、旧生徒会チームは予めポイントを決めて集合する手筈になっているのだろう。
インターバルの時に宗次が余計な一言を言ったと隼人が旧生徒会チームに共有しているであろうと一真は予想し、ジャングルで獲物が通るのを待ち構えていたが、どうやらジャングルを遠回りしているらしく、誰も通る気配がない。
「(ここにいても時間の無駄か。隠れるポイントが多い市街地エリア、山岳エリア、密林エリアは除外。残るのは海岸、草原の二つ。俺を最大限警戒しているなら、その二つだが……問題は俺以外の選手だ。特に如月は英雄を二人呼べるから俺の次に警戒はされてるはず……)」
戦闘面に関しては冷静な分析ができる一真は一つ一つ可能性を潰していく。
そして、残された選択肢の中からもっとも高いであろうものを選んで一真は移動を始めた。
「(これは下手をしたら真正面からの総力戦になるか?)」
旧生徒会チームは一真が潜んでいるかもしれない市街地、山岳、密林エリアを迂回して草原、海岸エリアに向かっているならば、総力戦になるかもしれない。
勿論、道中でエンカウントして戦闘が起きるかもしれないが、そこまで大規模なものは起きないだろう。
隼人、宗次、詩織の三人が旧生徒会チームで作戦を練っているのなら、下手な小細工をせずに総力戦で一真を叩き潰す事を選んでいるはずだ。
「(……宗次先輩の模倣で確実なのは如月から模倣した星空ノ記憶だろう。過去の英雄を召喚出来るのは桁違いに強い。こちらに同じ手札があっても、そもそも如月自身が弱い以上、勝ち目はほぼない。総力戦になれば戦力差で負ける可能性が大きい。が……クックック。楽しくなってきたな)」
新生徒会チームには一真が育てた楓、雪姫、火燐、大我の四人もいるが、やはり戦力の差は大きい。
何せ、旧生徒会には元学生最強の宗次に加えて、一真の一番弟子である隼人、そして詩織もいるのだ。
そこに過去の英雄が加われば鬼に金棒といったところだろう。
とはいえ、星空ノ記憶は召喚主を倒せばさほど脅威ではないが英雄を突破するのは至難の業なので、やはり強力な異能である。
しかし、一星は宗次ほど強くないので英雄の守りさえ突破出来れば、一気に戦力を削る事が出来るので、旧生徒会は積極的に一星を狙うだろう。
「(よし! 一番可能性が高い草原エリアに向かおう!)」
そうと決まれば話は早い。
一真は意気揚々とジャングルを飛び出した。
向かう先は旧生徒会チームが集結してるであろう草原エリア。
ここから反対の方角だがそう時間はかからないだろう。
身体強化5倍のパワードスーツを身に着けているのだから。
一真がジャングルを飛び出して草原エリアに向かっている頃、草原エリアでは新生徒会チームと旧生徒会チームが集結しており、今か今かと睨み合っていた。
「まさか、同じ事を考えてるとはね」
「一真君が削ってくれてると思ってたんですが、どうやら計算違いだったようで」
「ここに来るまで相当神経を削ったわよ。どこから一真君の奇襲が来るんじゃないかって内心冷や冷やしっぱなしだったわ」
「運がよかったですね……」
隼人、火燐、詩織、雪姫の四人は互いの戦力を確かめるように向かい合っている。
どちらも半数ほど集まっており、いつでも戦える状態であったが、どちらもエースが不在であった。
新生徒会のエースである一真、旧生徒会のエースである宗次がいないのだ。
どちらかが来た瞬間、戦いの火蓋が切って落とされるだろう。
暑くはないのだが緊張感から肌がピリピリとし、早く来てくれと焦燥感に包まれていた時、草原エリアに新たな生徒が姿を現した。
「悪い! 遅れた!」
「宗次!」
待ち望んでいた最強のエースが現れた旧生徒会チームの士気が一気に沸き上がる。
対して新生徒会チームは焦燥感が増し、額にじんわりと脂汗が浮き出た。
「ッ! 如月君!」
先頭にいた火燐は宗次が来て、お互いのパワーバランスが崩れたのを察し、早急に如月へ指示を飛ばす。
「彩芽!」
「お任せを!」
火燐からの指示を受けた一星は待機させていた剣聖、藤咲彩芽を宗次に向かわせる。
驚異的な速度で草原を駆け抜け、一気に宗次のもとへ肉薄する彩芽は煌めく銀閃を走らせた。
「悪いわね! そう簡単に大将首は取らせないわよ!」
宗次と彩芽の間に割り込んできたのは全身から電気を迸らせる詩織だった。
彼女は一真によって鍛えられた一人であり、現代でも屈指の実力者だ。
詩織は彩芽の剣を装備していた剣で受け止めている。
「私の剣を止めますか」
「剣聖、藤咲彩芽にこんな事を言ったら失礼だけど、一真君に比べたら怖くないわ!」
「ほう。主からの記憶で知っていますがそれ程までですか。一度、剣を交えてみたいものですね」
「多分、心折れるだろうからやめておいた方がいいと思うわっ!」
彩芽を押し返した詩織は後ろへ跳ぶ。
距離を離し、互いの動向を探り合う。
詩織は彩芽が剣聖と呼ばれていた事を知っており、剣術では絶対に勝てない事を理解していた。
であれば、電撃の異能で底上げした身体能力で後の先を取るしか、勝機はないと確信し、彩芽が動くの待っている。
それに対して彩芽は全身から青白い電気を迸らせる詩織を警戒していた。
先程の動きは尋常ではなく、油断すればこちらが負けるだろうと思っており、彩芽も迂闊に手が出せないでいる。
そして、同時にやはり孫子の世代がこれほどまでに成長している事が堪らないほどに嬉しく、戦いの最中だというのに笑みが零れそうになっていた。
「やはり、嬉しいですね。私達が紡ぎ、守ってきたものの成長を見れるのは」
「そう? なら、ご先祖様に失望されないようにしなきゃね」
「ええ。期待していますよ!」
目にも止まらぬ速さで踏み込んできた彩芽にかろうじて詩織は反応できた。
寸前のところで防御が間に合い、鍔迫り合いになる。
電撃の異能で身体能力を底上げしているというのに全く引けを取らない速度の彩芽に顔を顰める詩織。
これが剣聖と呼ばれ、英雄と称えれた人間の力。
それを痛感しながら詩織は彩芽と打ち合うのであった。
「この時代には良き戦士が多くいるのですね」
一星の護衛として傍にいる椿は彩芽と互角に渡り合っている詩織を見て感慨深そうにしていた。
星空ノ記憶で呼ばれた英雄は召喚主の記憶を介して現代の知識や常識などを学ぶ。
勿論、椿は一星の記憶から現代についての知識や常識を学んでいるのだが、その中でも彼女が気にしていたのは現在の日本の異能者達についてだ。
かつて、まだ安全圏がそう無かった頃、日本人だけでなく世界中の人間がイビノムとの戦いに明け暮れていた。
毎日のように人が死に、イビノムを殺し、殺伐とした日々を送っており、多くの同胞が志半ばで散っていった時代だ。
無論、今とは環境が違い、数多くの戦士が存在した。
そして当然ながら質も違い、現代に比べたら歴然の差がある。
とはいえ、現代にも実力者はいる。
それこそ、キング、覇王、太陽王といった者達は昔の強者と比べても遜色ないだろう。むしろ、三人の方が強いまである。
ただし、上記の三人は例外だ。勿論、紅蓮の騎士もだ。
「ご主人様も負けてられませんね」
「ああ。俺ももっと強くなるんだ」
まだまだ弱い一星は椿に守られてばかりだ。
多少、戦えるようにはなったが、それでも目の前で戦っている宗次達に比べれば一星など赤子に等しい。
「異能がなくても強くなれる。その証明がいるんだから」
一星はいまだに姿を見せない一真を目標にしている。
置換という戦闘に不向きな異能だろうと関係なく、宗次や重蔵といった強者を倒している一真は一星にとって憧れの存在なのだ。
性格面は残念な所もあるが、その実力だけは確かなものである。
「ご主人様!」
「うおっ!?」
突如として飛来した光の矢に驚く一星。
椿の結界によって守られ、事なきを得た一星は胸を撫でおろす。
「ありがとう、椿」
「いえ、お礼を言われるほどではありません。お気を付けください。どうやら、狙われているようです」
「はは……だよな」
現在、新生徒会と旧生徒会の戦力は僅かに旧生徒会に軍配が上がっている。
一星が召喚した椿、彩芽の二人に加えて一真の弟子である楓、雪姫、火燐、大我の四人が奮闘しているとはいえ、相手は旧生徒会長達だ。
各学園の元最強が徒党を組んでいるのだから強いのは当然である。
まだ戦況が保っているのは先程挙げた六人がいるからであって、一人でも欠けたら一気に戦線は崩れ、新生徒会は敗北するだろう。
「俺を倒すのが一番手っ取り早いもんな……」
椿という規格外の存在がいるので難しいが一星を倒す事が出来れば、新生徒会の戦力を大幅に削る事が出来る。ならば、一星を狙うのが最も効率的であろう。
自分が弱いという事を改めて自覚させられる一星は凹む。
「やっぱり、一筋縄じゃいかないか~」
一星を狙って渾身の矢を放った蒼依は椿の守りが固いのを改めて実感する。
この混戦の中ならいけるかもしれないと思っていたが、やはりそう甘くはないらしい。
ただ、それでも椿という規格外を自由にさせない為に蒼依は一星を執拗に狙撃するのであった。
「学生にしては歯応えあったぜ?」
「ち、ちくしょう……」
戦闘不能となり、仮想空間から姿を消したのは大我であった。
一真に鍛えられ、並みの生徒では全く歯が立たない大我であったが、やはり英雄と呼ばれた男には勝てなかった。
大我を倒したのは宗次が召喚した
風の異能を持ち、空を自由に舞い、鎌鼬のように敵を切り裂く。
数多くのイビノムを倒した歴戦の英雄だ。
「不味いわね。大我がやられるなんて……」
「拮抗していた戦場が崩れますね……。どうします? 火燐」
「一時撤退って言いたいけど、そう簡単に逃がしてくれると思う?」
「まあ、無理でしょうね……。それにしても、まさか剣崎先輩も二人召喚出来るようになってるなんて予想外でした」
「お話は終わりましたか? これから攻撃しますが……大丈夫そうですか?」
火燐と雪姫を心配そうに見つめているのは
椿達とは違う時代の人間だが、規格外の強さを持っているのは間違いなく、二人掛かりでも勝てるか怪しいところだ。
「ご心配をおかけして申し訳ないわ。でも、大丈夫。そうやわな鍛え方をしてないんでね!」
「ご先祖様には申し訳ありませんが勝たせていただきますよ!」
「ふふ、それは結構。では、こちらも貴女達の成長を見せてください」
氷と炎と雷が轟音を響かせ、ぶつかり合う。
草原エリアで激しい戦闘が行われている中で楓は宗次を相手にしていた。
一真に鍛えられ、学生の中ではトップクラスの強さを誇る楓だが宗次の相手は荷が重く、苦戦を強いられている。
「流石、元最強。強い……」
「そっちこそ意外と粘るじゃねえか」
「ん。一真に鍛えてもらったから」
「ハハハハハ! そうか。やっぱり、アイツはとんでもないな」
「ぐっ!」
宗次に殴られ、吹き飛ぶ楓。
念力を使って防御したが、それでも腕が痺れている。
楓はやはり、宗次も一真同様に学生レベルではない事を痛感する。
「さて、悪いけど一真が来る前に片付けておこう」
「そう簡単にはいかない……!」
「健気なところで悪いけど、僕もいるって事を忘れちゃいけないよ」
「しま――」
敵は宗次だけではない。
旧生徒会にはまだ隼人がいるのだ。
気付いた時にはもう遅い。
隼人の糸が楓の細い首に巻き付き、バッサリと切断する。
楓が戦闘不能になったのを見届け、宗次へ近寄る隼人。
その時、宗次は模倣していた危険予知が発動し、隼人へ警告すると、その場から逃げ出した。
「逃げろ、隼人!」
「え――」
次の瞬間、隼人の側頭部に矢が突き刺さり、戦闘不能と判断され、仮想空間から姿を消したのだった。
「くそったれ! まさか、弓矢を持ってたなんて!」
地面を殴り、矢が放たれた方角を見つめる宗次。
その先には何十メートルとある高さの木が並んでいるだけで一真の姿は見えなかった。
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