第63話 勇者って暗殺者と変わらないんですよ?
ホテルから近場の観光地を巡り、昼飯時になったので一真達は昼食をとる事にした。
「ロコモコ!」
一真に考える頭はない。
とりあえず、日本人に一番馴染み深く、有名である料理を頼んだ。
ハワイはつい最近復興されたばかりだが、アメリカと日本の迅速な対応によりホテルや飲食店などの従業員は揃っている。
そのおかげで一真達はこうしてハワイを満喫する事が出来ているのだ。
「おお~! これがロコモコ!」
出てきたロコモコを見て感動する一真。
「いただきます!」
早速、ロコモコを口に運んでいく。
出来立てホヤホヤのハンバーグに目玉焼きをものともせず、一真は食べ進めていき、早々に一皿食べ終える。
「おかわり!」
「結構な量があったと思うんだけど……」
「アリシア。あれだけじゃ全然足りんよ! 俺はもっと食える!」
「流石です、一真さん!」
「だろう! シャルは可愛いな! ハッハッハッハッハ!」
煽てられて、すぐに調子に乗る一真は運ばれてきたロコモコを早食い競争の選手も真っ青になるくらいの速度で食べ尽くした。
が、流石に無理をし過ぎたようで一真は喉に詰まらせてしまい、顔面蒼白となる。
「全く、無茶をするからですよ。はい、お水です」
最早、一真の扱いには手慣れたもので水をスタンバイしていた桃子はすぐさま動き、喉を詰まらせて死にかけている一真を助けた。
「ありがとね、桃子ちゃん!」
「はいはい。どういたしまして」
「冷たい! このお水みたいに!」
「助けてあげたんですから文句を言わないでください」
「あい……」
夫婦というよりは、やはり世話の焼ける弟と気苦労の絶えない姉である。
桃子はハンカチを取り出して、一真の口元についているソースを拭い、周囲の女性を圧倒するヒロイン力を見せつけた。
「ねえ……やっぱり、桃子が一番のライバルじゃない?」
「ライバルどころじゃありませんよ。あれでは公認のカップルです!」
アリシアとシャルロットは桃子に掛けられた認識阻害が効いていないので普通に彼女の事を認識しており、一番の恋敵としてライバル視していた。
そして、桃子に掛けられている認識阻害が効いている学生の楓達はぽっと出の謎の人物に嫉妬していた。
「何あれ……」
「いきなり出て来てなんなんですかね」
「流石に見過ごせない」
「ホンマに大切な人なんやろうか……」
謎は深まるばかりであったが、隅の方で静かに食事をとっていた桜儚に注目する。
彼女は以前、一真にお正月招待された時に見た事がある女性だと気が付いた女性陣は謎のの人物の手がかりを持っている彼女へ近づいた。
「何かしら?」
近くに寄ってきた楓達に目だけ向ける桜儚。
「聞きたい事があるんですけど……」
「答えれる事なら答えてあげるわ」
「その前に一ついいですか? どうして貴女がここに? 確か、貴女は一真さんの所の従業員ですよね?」
「それはあの子にお願いしたのよ。ハワイに行くって聞いたから、私も連れて行ってほしいって」
「身内には甘い」
「そうよ~。あの子は身内にはとっても優しいの」
「話が脱線してますよ。それで? あの子は一体何者なんです?」
「最初に言ってたじゃない。大切な人だって」
「それは本当なんですか?」
「本当よ。あの子にとって彼女は大切な相棒である事は間違いないわ~」
桜儚の言っている事に偽りはない。
恋愛関係ではないがビジネスといった意味ではもう手放せない関係になっている。少なくとも死別するまでは一生付き合っていく関係だろう。
桜儚の思わせぶりな発言に楓、火燐、雪姫の三人は嫌そうに顔を顰めたが、弥生だけは違ったようで彼女へ再び話しかけた。
「相棒という事は別に恋人といった関係ではないという事でよろしいです?」
「あら、鋭いわね~。そうよ。あの二人はそういう関係ではないわね」
「では、まだ私らにも希望は残されてると」
「そもそも一夫多妻制を望んでなかったかしら?」
「それは当然。一真さんほどの優秀な雄に雌が群がるのは自然な事やから。せやけど、正妻を譲るとは言ってませんよ」
「あら~、強かなお嬢様ね~。側室は許すけど正妻はあくまでも自分ってわけね」
「ええ。勿論です」
自信満々に胸を張る弥生。
彼女は一夫多妻を認めているどころか推奨しており、一真には積極的にアピールしているのだ。
しかし、それはそれとして正妻を狙っているので一番計算高い事は間違いなく、一真にとってもっとも難敵になるかもしれない。
「わ、私だって負けないんだから!」
「そうです! まだ勝負が決まったわけではありません!」
「む。私は一真の同級生だからまだまだチャンスはいくらでもある」
「ふふふ……。ええ、勝負はまだまだこれからや」
「楽しそうね~」
隣で盛り上がっている四人を横目に桜儚は食事を楽しんだ。
食事を終えた一行はホテルへ戻り、アリシアとシャルロット、桃子と桜儚は一真達と分かれる。
一真は楓達と新旧生徒会のバトルロイヤルが始まるまでのんびりと過ごすのであった。
「えー、それでは新旧生徒会によるバトルロイヤルを開催しようと思います。まずはルール説明ですが、仮想空間で新生徒会メンバーと旧生徒会メンバーに分かれて、先に全滅した方が負けというシンプルなものになっております」
一真達はホテルから移動しており、VRマシンが設置された競技場に来ていた。
用意されていた壇上で一真はマイクを片手に持ち、VRマシンの横に座っている生徒達へルールを説明している。
「旧生徒会メンバーは人数合わせの為にNPCをメンバーとします。フレンドリーファイアが起こらないように味方には被弾しないように設定していますのでご安心を。勿論、痛覚もオフになっているので思う存分戦ってください」
説明をしている一真は途中、ルールを忘れたようで渡されていたメモ用紙に書かれているルールを再確認する。
「あと、基本的なルールについては学園対抗戦のクラウンバトルで同じです。近接類の武器は使用を認められていますが銃火器についてはハンドガンのみとなっておりますのでご容赦ください。パワードスーツについては使用可能なのは俺だけです」
一真は一応、元支援課で異能も置換という戦闘には不向きなものとなっており、特例としてパワードスーツの使用を許可されている。
とはいえ、最近の活躍を見る限りではパワードスーツも必要ないのではないかと議論されているのだが、今のところ禁止されるような事はない。
「これでルール説明は終わります。何か質問などあったら手をあげてください」
特に質問する事もないので生徒達は誰も手をあげなかった。
一真は質問がない事を確かめ、スピーチを終える。
「質問がないようなので、これで終わります。次は来賓者による挨拶がありますのでお静かにお願いします」
と言って一真は壇上から降りて、用意されているVRマシンの傍に腰を下ろした。
それから、来賓者による挨拶が終わり、新旧生徒会オリエンテーションの一番の目玉であるバトルロイヤルが幕を開ける。
だが、その前の十五分間のインターバルを挟み、各学園の生徒達は作戦会議を行い始めた。
「お~い、一真」
「ん? 宗次先輩じゃないですか。どうしたんです?」
「いや~、作戦会議って言ってもぶっちゃけ俺等旧生徒会チームはお前対策しかなくてな」
「なるほど。それで俺に直接聞きに来たんですか?」
「ああ。それでお前はどういう作戦で来るつもりなんだ? セオリー通りなら、チームを組んで各個撃破って感じだがお前は単独行動だと思うんだが違うか?」
「あってますよ。俺は基本自由行動で好きすればいいって言われました!」
「まあ、一真君の実力ならそうだろうね~」
いつの間にか来ていた隼人は一真の実力を知っている為、呆れたように頷いていた。
「お前と一星がタッグを組めば無敵なんじゃないか?」
「ああ~、如月でしたっけ? アイツじゃなくて星空ノ記憶で呼んだ英雄と俺が組めば、まあ負けないんじゃないですか?」
「ふ、それはどうかな」
「お、自信ありそうですね、宗次先輩」
「まあな。こんなに早くリベンジする機会があると思ってなかったが、丁度いいチャンスだ。修行の成果を見せてやるぜ」
「修行なんてしてたんですね! それは楽しみです!」
「おう。お前も全力で来てくれよな!」
「……全力ってマジのガチでいいんです?」
一真のトーンが少しだけ低くなる。
はて、自分は何かおかしな事でも言っただろうかと宗次は首を傾げた。
隣にいた隼人は一真のトーンが下がり、体感温度が下がったように感じて、瞬時に不味いと判断する。
「宗次。悪い事は言わないから一真君には普段通りにしてもらおう」
隼人は一真の異変を感じて宗次の説得を試みた。
しかし、学園対抗戦のリベンジする機会が訪れた宗次は止まらない。
「なんでだよ。本気じゃないとつまらないだろ」
「そうだけど、一真君はほら、異常だから」
「異常に強いってのは分かってるって。でも、俺だって必死に修行したんだぜ? 前よりいい勝負が出来るって」
「そうかもしれないけど……」
「まあまあ、いいじゃないですか。隼人先輩。宗次先輩が俺のガチの
悪魔のように口元を三日月状に歪めている一真を見て隼人は全身に悪寒が走った。
絶対に碌な事にはならないと隼人は今までの経験から警告音が脳裏に響いていたが、最早止められそうにないので諦める。
「ちなみに一真君。ガチの本気ってどんな感じなの?」
「死角からの不意打ちに決まってるじゃないですか。真正面から戦うより、はるかに安全で楽でしょう?」
「(ああ、終わった……)」
一真のニンジャ装備が伊達ではない事を一番知っている隼人は宗次が瞬殺される未来しか見えなかった。
「ねえ、なんでそんなに一真君は殺意が高いの?」
「皐月流が殺人術だからですよ? 忘れたんですか?」
「覚えてるけどさ~……」
皐月流というよりは異世界で勇者として育てられたからというのが大きい。
そもそも勇者とは勇敢なる者だという認識であるが、大概の勇者は少数精鋭で魔王という一国一城の主を殺すのだから、突き詰めれば暗殺者と呼ぶ方が相応しい。
実際、一真も異世界では暗殺術を学び、運が良ければ魔王を暗殺するといった形だったのだ。
ただ、一真が敵対した魔王はとんでもない実力者であり、聡明な魔王だったので暗殺は不可能だった。
それゆえに最後は真正面から勇者一行対魔王といった多対一でぶつかり合い、激闘の末に勝利したのである。
「潜伏とかなしにしない?」
「宗次先輩が望んだんで俺はガチの本気でやりますよ」
「お願いだよ~。それじゃ勝負にならないって~」
「な、なあ、さっきから横で聞いてるけど、一真のマジってそんなにやばいのか?」
「さっき言ったじゃないか。悪い事は言わないから普段通りにしてもらおうって!」
「アレはそういう意味だったのか……」
流石に隼人の慌てっぷりを見ていると宗次も一真がどれだけ危険かを察し、やはりいつも通りにしてもらおうかと提案する。
「なあ、一真。さっきの無しにしてもらえるか?」
「一度吐いた唾は飲み込めないって事を教えてあげますよ」
「宗次のバカ! すぐに戻って作戦を練り直さないと勝負にすらならなくなるよ!」
「お、おう! そういう訳で一真。もう少しだけ作戦会議させてくれ」
「いいですよ~」
隼人と宗次は大急ぎで旧生徒会チームのもとへ戻る。
二人を見送った一真は新生徒会チームのもとへ向かい、事情を説明してインターバルを少しだけ伸ばした。
「ところで如月」
一真は作戦会議をしていた新生徒会チームの中心にいた一星に話しかけた。
「お前って何人英雄を召喚出来るんだ?」
「二人が限界かな」
「限界って事は三人は限界を無視すれば可能って事か?」
「出来るとは思うんだが……」
「やったら不味いってか?」
「多分……」
自身の力不足に申し訳なさを感じる一星は顔を曇らせる。
別に一真はその事について責めるつもりはないのだが、傍から見れば彼が一星を追い詰めたように見えた。
そのせいだろう。一星と同じ第一異能学園の生徒会メンバーが彼を庇うように一真の前へ躍り出てくる。
「いきなり出て来て一星を責める気!? 自分がちょっと強いからって調子に乗るんじゃないわよ!」
「え? いや、ただの確認なんだが……」
「ただ確認するだけなら、どうして義兄さんが悲しそうな顔をしてるんですか!」
「そんな事言われても知らんとしか」
先程から言い訳しか述べない一真に怒りを増したようで、さらなる追撃を仕掛けようとするも一星によって止められる。
「待ってくれ、皆! 皐月は何も悪くないんだ。本当に能力の事を確認しに来ただけで何もされてない。だから、落ち着いてくれ」
「でも、一星――」
「皐月はこれから一緒に戦う仲間だろう? 分かってくれ」
「義兄さんがそこまで言うなら……」
「如月……。やっぱり、俺はお前が憎い」
「なんでぇ!?」
女性陣に罵倒される事には慣れている一真は大して傷ついていないが、一星が女性陣から好意の眼差しを浴びている方がよほど許せなかった。
「やっぱり、こいつ! 一星をどうする気!」
「義兄さんに手を出そうものなら容赦はしません!」
「……なあ、如月。今更で悪いんだがこの子達の名前は?」
「えっと、自己紹介はしてたと思うんだが……」
「すまん。あんまり興味なくて」
ナチュラルに煽る一真。
最愛の人を傷つけようとする上に人の名前まで覚えようとしない失礼な一真に二人は憤慨する。
「私の名前は
「私は
「赤城と如月妹でいい?」
「多分いいと思うけど……」
「なんで私達に訊かないのよ!」
「目の前にいるのに失礼じゃありませんか?」
「とりあえず、如月。お前が召喚出来る英雄を教えてくれ。多分というか十中八九、俺とその英雄が最高戦力だろう」
「まあ、そうだな。一応、昨日顔を合わせている椿が一人目だ。二人目は剣聖と呼ばれた
「なんでお前、女ばっかり召喚するんだよ。ぶっ飛ばすぞ!!!」
庇うように立っていた花蓮と麻里奈の横をすり抜けて一真は一星に詰め寄る。
あまりにも自然な動作に二人は全く反応出来ず、後ろを振り返った時には一真が一星の目と鼻の先にいて驚いたが、それよりもまずは彼を助けなければと二人は動き出そうとした。
その瞬間、ギロリと一真に睨まれ、蛇に睨まれたカエルのように二人は動けなくなる。
心臓を鷲掴みにされたような恐怖が二人を支配し、ガチガチと歯を鳴らし、脂汗をダラダラと流し始めた。
「なあ、なんでお前はそんなに女ばっかり召喚するんだ? ええ?」
「いや、相性っていうか、多分そういうのがあって……」
「ちくしょう! 羨ましい事しやがって!」
「でも、皐月も世界的に有名な魔女や聖女と知り合いじゃないか」
「……それとこれとは話が違うのであって~」
「一真」
底冷えのするような声が聞こえて一真は振り返ると、そこには無表情でこちらを見下ろす楓が立っていた。
「…………ごめんちゃい」
「お仕置き」
「ンぎいいいいいいい!!!」
頭を念力で万力のように締め付けられた一真はズルズルと引きずられて行くのであった。
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