第62話 観光地巡り
単純思考の一真はすっかり上機嫌になり、隼人と宗次の前を意気揚々と歩いている。
そのままホテルへ戻り、一真は各学園と行われる今年度の学園行事についての会議をする為に用意された会議室へ向かう。
まだ会議の時間ではないが何人かの生徒が既に集まっており、各自用意されていた席に座って楽しそうに喋っていた。
そこに一真達が現れ、楽しそうにしていた生徒達は立ち上がり、礼儀正しく頭を下げる。
「「「「「おはようございます! 皐月会長!」」」」」
「いや、そんな畏まらなくても……」
あまり慣れない対応に一真はオロオロしてしまう。
確かに一真は今回の主役であり、最高責任者ではあるが素行を見れば分かるが、今回集まった生徒の中で一番下だ。
勿論、素行が悪く、周囲に迷惑をかけているわけではない。
ただ単に一番はしゃいでおり、本来の目的を忘れているだけだ。
無論、それは他の生徒も同様だが一真と比べれば些細なものだろう。
「一応、お前は総括みたいなもんだからな。そりゃ他の生徒は挨拶くらいするだろ」
「一真君が一番遊んで楽しそうにしてても最高責任者なのは事実だからね~」
「なんか馬鹿にされてません? 気のせいですか?」
「気のせいだ」
「気のせいじゃないかもね」
「一体、どっちなんだ……」
翻弄される一真。
結局、どうでもよくなって一真は指定された席に座り、会議が始まるまで会議室にいた生徒達と適当に世間話などして過ごした。
会議の時間が迫ると他の生徒達も続々と現れ、用意されている席に座り、会議の時間まであと少しとなる。
それから間もなくして会議の時間が来て、全ての生徒達が会議室に集まり、今年度の学園行事についての会議が始まるのであった。
「それでは時間になりましたので今年度異能学園の各行事及びに催し物についての会議を行います。起立、礼、着席」
一真の号令を行い、会議は進んでいく。
まずは新入生歓迎会といった議題から行われる。
「新入生歓迎会……? なにそれ……?」
「え? 一真君、知らないの?」
「火燐、一真君は入学式初日に交通事故にあって三か月遅れの登校だったんですよ」
「あ、そうだった。じゃあ、新入生歓迎会なんて知らなくて当然か」
「まさか、そんな面白イベントがあったなんて……。あの新入生何者だ! ムーブが出来たのに!」
などと言っているが、もしもトラックに撥ねられる事無く、無事に入学出来ていたら一真はこの場にいなかっただろう。
多少、支援科の生徒にしては目立ったかもしれないが、異世界の経験が無ければ戦闘科の生徒を圧倒する事は出来ないのだ。
「でも、それだと一真、学園対抗戦というビッグイベントで皆を驚かせる事が出来ないよ?」
楓の指摘に一真は目を見開き、大きく口を広げる。
「本当だ!!!」
「おっほん。堅苦しい会議よりはいいが脱線しすぎないように」
「あ、サーセン」
他の学園から来た監督役の教師に注意され、一真は即座に謝ると話を戻した。
「え~っと、新入生歓迎会ですね。去年は何をしたんです?」
「去年は各学園で違うけど」
火燐が目で雪姫に指示を出し、会議室にあるホワイトボードに去年行われた新入生歓迎会について書き記していく。
「へ~……」
「まあ、こんな感じね。今年はどうしようか考えてるんだけど」
「なら、第七異能学園は俺VS新入生全員ってのはどうですか!?」
「却下。なるべく、他の学園と似たような感じしましょうね」
「は~い」
ちなみに他の生徒会も同じように今年の新入生歓迎会は何をしようかと各自で話し合っている。
それからも会議は続いていき、学園対抗戦などの議題も出たり、次のオリエンテーション先はどこにしようかと盛り上がったりしたのだった。
「それでは会議を終わります。しばらく自由時間を挟み、昼食後、休憩が終わってから新旧生徒会によるバトルロイヤルとなりますので各自準備を怠らないようにお願いします。それでは解散! ひゃっほ~う!!!」
最後の最後まで我慢が出来なかった一真は風のように会議室を出て行った。
相変わらず、一番元気で、一番楽しそうにしている一真に会議室にいた生徒達は笑顔になる。
一真のおかげで我慢せずに自分達も思う存分、羽目を外す事が出来るのだから笑顔になるもの当然だろう。
とはいえ、中には真面目に仕事をしろ、と不満を抱えるものは少ないが存在していた。
勿論、口には出さないがほんの少しだけムスッとした顔を浮かべていたりする。
「ねえ、一星。今年は絶対に私達が優勝しましょうね」
「あの人、実力はあるみたいですが品性はなさそうです。上に立つ者として相応しくありません」
「え、俺はいいと思うけど……。楽しそうだし」
「楽しいからって仕事を放棄していいわけじゃないでしょう? 後半の方なんてほとんど雑談だったじゃない!」
「あれでは下の人達が苦労してしまいます。やはり、私達第一が他の学園を先導してあげませんと」
「そ、そこまで考えなくても……。まだ学生なんだから、アレくらいが丁度いいと思うんだけどな」
「もう私達も16歳よ。大人とは言えないけど、今までみたいに遊んでばかりじゃいけないの。きちんとしなきゃね」
「そうです。今から将来を見越して動くのは何もおかしくはありません。ですから、節度ある行動を心掛けるようにしましょうね」
「お、おう……」
幼馴染と義妹に詰め寄られる一星は反論する事が出来なくなる。
そのまま二人に連れられて一星は観光地を巡る事になった。
「ふむ……。何故、アリシアとシャルがここに?」
一真は自由時間を使ってハワイを観光しようとしたのだがホテルの出口にアリシアとシャルロットが待ち構えていた。
不思議に思った一真は立ち止まり、腕を組んで考えてみるが何も分からず、ただ無駄に時間を浪費するだけだった。
「遅い! 待ってたんだからね!」
「え……。待ち合わせなんてしてたっけ?」
開口一番に怒られる一真であったが、デートの約束をしていたわけでもないのに怒られる理由がよくわからなかった。
「一真さん。飛行機の中で言った事を覚えてないんですか?」
「なんて言ってたっけ? 俺」
「ハワイでデートしようって言ってましたよ?」
「そんな事言ったかな……?」
言ってない。
正確に言えば一緒に見て回ろうと言っていた。
しかし、一真が覚えていないのをいい事にアリシアとシャルロットは事実を捻じ曲げる。
「言ってたわよ」
「言ってましたよ」
「そうか~。そうだったのか~」
覚えていないが多分言ったのだろうと、一真は記憶を改竄されてしまった。
とはいえ、特に問題はないので一真はすぐに気持ちを切り替え、二人にどこへ行こうかと尋ねる。
「じゃあ、どこ行く? 観光スポット沢山あるけど、時間的に見て回れるのは限られるからどこ行くか決めようぜ!」
「それじゃあ、私は――」
「ちょっと、待った」
「貴女達は……」
一真を狙っているのは二人だけではない。
楓、火燐、雪姫、弥生の四人も一真を狙っているのだ。
一真を連れて行かせるわけにはいかないと四人は待ったをかけた。
相手が世界的に有名な異能者であろうと関係ない。
恋愛は戦争なのだから。
「えっと……」
バチバチと火花を散らせる二人と四人。
先日は一致団結して一真にお仕置きした仲だと言うのに。
間に挟まれている一真はどうしたらいいのだろうかとオロオロしているだけだった。
やがて、痺れを切らしたのか双方近づくと妥協する事にした。
「ここで睨み合っていても仕方ないし、移動しながら話さない?」
「それがいい。このままだと一真はこっそり一人で遊びに行ってたから」
楓が指摘した通り、一真はこっそりと逃げ出そうとしていた。
気付かれている事を知った一真は誤魔化すように曖昧な笑みを浮かべる。
それを見て呆れてしまう女性陣であったが、そもそも自分達が牽制しあっていたのが原因なので何も言わず、一真を連行するのであった。
「あの……何故、両脇を固めてるんです?」
一真は現在、捕らえられた宇宙人のように両脇を楓とアリシアに抱えられていた。
「一真が逃げ出さないようにするためよ」
「一真はすぐ迷子になるから」
「まだその設定生きてたんだ……」
「でも、実際、一人だとすぐに知らない場所に行くでしょ?」
「ごもっともで」
楓の鋭い指摘に一真は何も言い返せなかった。
流石にずっと拘束される事はなく、一真はすぐに解放される。
解放された一真は女性陣を引き連れて観光地に向かおうとしたのだが、その前に大事な用事があると言って、一人でどこかへ行ってしまった。
「桃子ちゃん! 一緒に遊ぼ!」
「嫌です!」
「問答無用!」
「きゃっ! な、何をするんですか!?」
別のホテルに泊まっていた桃子のもとへ来た一真は彼女を肩に担ぐと走り出す。
一真の大事な用事というのは桃子の事だった。
女性陣と観光地を巡るのなら、桃子も一緒の方がいいだろうと考えて一真は彼女を拉致したのである。
当然、一緒にいた桜儚も脇に抱えており、いつもの三人となっていた。
「彼女は素顔がバレたら大変な事になると思うんだけど大丈夫なの~?」
「問題ない。俺が認識阻害の魔法をかけてるから決してバレる事はない」
「でも、貴方が喋ったら効果は切れるんじゃないの?」
「その点についても問題はない。学生達には記憶に残らないようになってるからな」
「便利ね、魔法って……」
「うおおおおお! 離せ! この! ちくしょうっ!」
脇に抱えられている桜儚と肩に担がれ大暴れしている桃子。
桃子がどれだけ抵抗しようとも屈強な肉体を持ち、鋼の精神をしている一真を止める事は出来ない。
やがて、桃子はあきらめぐったりとしなだれ、流れに身を任せるのであった。
「お待たせ~!」
「……一真。その二人は?」
「俺の大切な人達だ!」
アリシアがぐったりとしている桃子と呆れた顔をしている桜儚を指さすと、キリッとした顔で一真はとんでもない発言をする。
もう慣れたものでアリシアは特に指摘する事なく話を進めた。
「どうせ無理やり連れてきたんでしょ。もういいわ。それより、早く行きましょ。一真、あんまり時間がないんでしょ?」
「一応、自由時間は昼飯含めて三時間程だな。午後から新旧生徒会のバトルロイヤルがあるから、それまでにはホテルに戻らないといけない」
「じゃあ、急がないと。時間が勿体ないわ」
「よし! レッツゴー!」
アリシア、シャルロット、楓、雪姫、火燐、弥生、桃子、桜儚と大所帯になってしまった。
単純に人が増えた事で一真はテンションが上がり、一人張り切って前を歩くのであった。
「アレどうなってるの?」
観光地にやって来た一真達の前には未知のものが沢山ある。
ホテルにあったパンフレットを参考に歩いてきたのだが、実際に見てみると不思議でしかなかった。
「アレ? アレはウォータースライダーを参考にして作られたウォーターロードってやつですね。浮き輪に乗って移動も出来ますし、カプセルに入って熱帯魚と一緒に水中を進む事も出来るんですよ。しかも、渋滞しないし、混雑する事もないように上下左右に動けるんです」
「そ、そうなんだ。一真君、詳しいね」
「火燐先輩。事前に調べてきたんですよ」
「ネットには一切情報が載ってないですけど……」
「雪姫先輩。紅蓮の騎士から聞いたに決まってるじゃないですか」
「なんか怪しい……」
「楓。俺の目を見てくれ。嘘をついているように見えるか?」
「すっごいキラキラした目やね~」
「弥生さん。ちょっと金色のビキニとか着てみません?」
解説役に忙しい一真であるが一番楽しそうにしている。
そもそも、開発者であり発案者なのですでにハワイにある全ての施設を体験している。
それでも、親しい友人達と来るとまた違うのだろう。
一真は戸惑う女性陣を引き連れ、観光地を巡るのであった。
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