第60話 ちょっと、詳しく話そうか
ギリギリと一星の手を握り潰さんばかりに力を込めている一真。
「そ、その悪いんだけどなんで皐月が怒っているのか分からなくて……!」
「俺と貴様は敵だ……!」
親の仇と言わんばかりに一星を睨みつけている一真。
一星は一連の出来事を思い出しても、ここまで怒りを抱かれる原因に覚えがない。
「と、とりあえず、どうして怒ってるか教えて欲しいんだが……!」
「いいだろう! 俺がどうしてここまで怒っているのかお前に教えてやる」
そう言って一真は一旦、一星の手を離した。
ようやく解放された一星は痛む手を庇いながら、一真の言葉を待つ。
そして、大きく息を吸った一真はビシッと一星に指を突きつけた。
「それはお前が可愛い女の子に囲まれているからだッ!!!」
「え……?」
ポカーンとした顔で一星は一真を見る。
一体、何を言っているのだ。
いつ、自分が女の子に囲まれていたというのか。
「えっと、言っている意味が分からないんだが……」
「己ェ! 貴様、どこまで罪を重ねる気だ! まさか、鈍感系主人公を気取っているつもりか!?」
「鈍感系主人公って、そんなつもりはないけど……。それよりも皐月の言っている事が分からないんだが? いつ俺が女の子に囲まれてたんだ?」
「ついさっき俺の前で三人の女の子に囲まれてただろ!」
「あ~! 別にそんなんじゃないけど。只の幼馴染と義妹と師匠だし」
「な~に~!? なんじゃ、その王道みたいなハーレムは!?」
「別にハーレムじゃないって! 言ってるだろ? 幼馴染と義妹に師匠だって」
そう強く主張する一星の背後では少し悲しそうに眉を下げている女性達の姿が見えた。
一星は見えていないが一真からは彼女達の様子は良く見えていた。
そして、観察力に優れている一真は一目で彼女達が一星に好意を寄せている事を見抜いたのである。
というよりも明らかに見れば分かるくらい彼女達は一星に対して好意を見せている。
「ゆ、許せぬ! 最早、許してはおけぬ! 貴様はここで葬り去ってくれる!」
「え、え~~~ッ!? なんでそうなるんだ!?」
「黙れ! お前は不倶戴天の敵じゃあ!」
一真が一星に飛び掛かろうとした時、不意に肩を叩かれる。
一体、どこのどいつが邪魔をするのだと一真は勢いよく振り返ると、そこにはアリシア達が立っていた。
「……何故ここに?」
VIPのアリシアとシャルロットは別のホテルで食事会を楽しんでいたはず。それなのにどうしてここにいるのかと一真は驚愕と恐怖に震える声で尋ねる。
「向こうはつまらないから抜け出してきたのよ。それよりも一真。面白い事になってるじゃない」
「いや、あの、これは、その、違くて~」
「ハーレムね~。確かに許せない事よね」
「そうです! 許されない事なんです!」
「ふ~ん、私達の気持ちに気が付いておきながらフラフラと遊んでいるくせによくそんな事が言えるわね~」
「はわわわ……! ち、違うんですよ、アリシアさん。これには色々と深い理由があって」
「どういう理由なのかしら~」
「あ、えっと、その、ほら! 僕ってまだ学生だからそういの考えてないっていうか~。ちょっと、将来を決めるには早すぎるって言うか~」
見苦しい言い訳を述べる一真であるが、自分の事を棚に上げて一星を責めていた事が許せないアリシア達は結束し、怒りの鉄槌を喰らわせる事を決めていた。
「常日頃から彼女が欲しいって聞いてるけど……?」
「それは言葉の綾と言うか、なんと言うか、思春期男子高校生あるあるでして……」
「へえ~、そう」
「そう! そうなんですよ、アリシアさん!」
「一真」
「はい!」
「お仕置きね」
語尾にハートマークがついてそうなほどに甘い声でアリシアは死刑宣告する。
「ゆ、ゆるちて……」
「ダ~メ」
「あ、あ、あ、あ」
顔がぐしゃぐしゃに歪み、瞳には後悔の念から涙が浮かんでいる一真。
どれだけ許しを乞おうも許される事はないと、はっきりと自覚した一真は足元が崩れていく幻聴が聞こえた。
「皆! やるわよ!!!」
「合点承知です!」
シャルロットがアリシアに呼応して拳を構える。
一番槍としてシャルロットは一真の懐に踏み込んで怒りのアッパーカット。
「ぐわあああああ!」
顎を打ち抜かれ、宙を舞う一真。
すかさず、そこへ火燐が参戦し、一真を空中で氷漬けにした。
「冷たーい!」
身動きの取れなくなった一真だがまだ余裕がありそうに叫んでいた。
そこへ雪姫と弥生が火と風の合体技を放ち、一真は火柱に包まれる。
会場にいた人達は慌てふためくが、中心にいる人物が一真だと知ると、落ち着きを取り戻し、一種のエンターテイメントとして楽しみ始めた。
「熱いよ~!」
ギャグ漫画のように真っ黒こげになった一真へトドメの念力。
アリシアと楓のコンビが一真の右半身と左半身を引き裂きにかかる。
「うわあああああああッ!!!」
あわや大惨事であるが被害者は一真なので惨劇は起こらない。
普通なら右半身と左半身はお別れしなければならない事態であったが、一真は持ち前のパワーで念力を振り解き、華麗に着地した。
「ふ……!」
決め顔を見せるもお仕置きは継続中で待ち構えていたシャルロットが怒涛のラッシュを叩き込む。
「一真さんのバカバカバカバカバカバカ!!! おバカァッ!」
「おぶ! ぶへ! あば! ふぎぃ! うぎゃあ!」
プロボクサーも真っ青になるくらいのラッシュが一真に叩き込まれた。
すでにボロ雑巾になっている一真を女性陣は取り囲む。
そして、最後の仕上げとして一真を袋叩きにし、満足したように引き上げていく。
残されたのはボロボロになってあちこち曲がっている一真であった。
「あ、あの皐月。無事か?」
「……これを見て無事だと思えるか?」
「良かった。生きてはいるんだな……」
「一つ聞きたいんだけどあの子達は暴力とか振るったりするの?」
「いや、文句や悪口はたまに言われるけど、殴られたり、蹴られるとかはないな」
「やっぱり、俺はお前が憎いよ」
「でも、数で言ったら皐月の方がハーレムだと思うぞ?」
確かにその通りなのだが、如何せん女性が強すぎる。
弱い子が好きという訳ではないがもう少し大人しくなってもらいたいものだと一真は思っている。
しかし、今のところ一真は出会った女性はすべからく暴力性を秘めており、お淑やかな女性は一人もいない。
もっとも、お淑やかとは言えなかったが暴力とは無縁だったシャルロットを魔改造したのは前例がある。
今後もしかしたら、お淑やかな女性が一真の前に現れるかもしれないがシャルロットが告げ口をすれば間違いなく嫌われるだろう。
「数の問題じゃないんだよ……!」
「質も十分だと思うけど何が不満なんだ?」
「もっとお淑やかで大人しい子がいいんだ!」
「じゃあ、そういう子を探せばよくないか?」
「それが出来たら苦労せんわい! あと、そういう子に知り合いがいたら紹介して」
「もう、なんていうか随分と自由だな、皐月は」
あれだけの目にあっても、まだ懲りない一真をある意味で尊敬する一星。
「もしかして、そういう子がいるのか!?」
「いや、その……いない」
「なんで!?」
「俺、友達少ないんだ……」
「ああ。分かる。だって、俺も嫌いだもん」
「えッ!? なんでだ!?」
「いや、男からしたら可愛い幼馴染と義妹に美人の師匠がいる奴って羨ましいし、憎いだろ。しかも、本人はそれをあまり自覚してないってわかったら、そりゃ余計に嫌うね」
「そ、そうだったのか。で、でも、それならなんで皐月は俺とこうして話してくれるんだ?」
「嫌いだから話さない、関わらないってのはあるけど、俺は僅かにでもメリットがあるなら話すよ」
「そのメリットって俺の知り合いの女の子を紹介して欲しいって事か」
「正解! お淑やかで大人しくて可愛い女の子を紹介してくれ」
何一つ反省していない一真は縋るように一星を見詰める。
すると、一真を見ていた一星がふと彼の後ろへ目を向けた。
それに気が付いた一真は嫌な予感がしながらも後ろを振り返ると、そこには両腕を組み、不機嫌そうにしているアリシア達が立っていた。
「か、帰ってなかったの?」
「帰るわけないじゃない。それよりも、まだ反省してなさそうね。一真」
「海よりも深く、山よりも高く、反省しております~!」
「もう少しお話ししましょうか。か~ず~ま」
「イヤアアアアアアアアア~」
首根っこを掴まれて一真はズルズルと引きずられて行き、暗い闇の中へ消えていった。
会場にいた生徒達は面白いものを見せてもらったと満足したように笑い、晩餐会を続けていくのであった。
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