第59話 ハーレム主人公は敵だ!!!

 それから一真達はビーチからホテルへ戻り、新旧生徒会の顔合わせである晩餐会に参加する。

 晩餐会は立食形式でホテルが用意した最高級の食材をふんだんに使った豪勢な料理がズラリと並んでいた。

 それを目にした学生達は晩餐会はまだ始まらないのかと首を長くして待っている。

 そして、司会役であり、総括でもある昨年の学園対抗戦優勝校、第七異能学園の生徒会長である一真が会場に設置されている壇上に姿を現した。


「え~、本日はお集り頂き、まことにありがとうございます。まあ、普通ならここらで長々と大切なお話をしなければならないと思うのですが、目の前の料理を待ちきれないので、さくっと終わらせます。では、今回ホテルを用意してくださった紅蓮の騎士に感謝の気持ちを述べると共に乾杯!」


 学生達が大きな声で「乾杯!」と告げる。

 晩餐会が始まり、学生達は各々好きな料理を皿に持って行く。

 一通り、料理を取り終えた学生達は仲のいい友人同士で集まり、談笑しながら食事を楽しむ。

 勿論、これは新旧生徒会の顔合わせが目的であるので、しばらくすると学生達は移動を始め、各学園の新旧生徒会長が集まる。


「一真君、一真君。皆、来てるよ。食べるの止めたら?」


 取り皿には山のように料理が盛られており、一真はガツガツと部活帰りの男子高校生のように食べていた。


「やだ!!!」


 隼人に一旦食べるのを止めるように言われるも一真は食べる手を止めない。

 普段の食事も好きだが今回はいつもと次元が違い、食材から調理まで全てが一級品で食べる事が大好きな一真にとっては挨拶よりも優先されるものだった。

 しかし、今回第七異能学園が進行役なので現生徒会長である一真が最初に挨拶をしないといけないので隼人も今回ばかりは譲るわけにはいかず、少しだけ厳しくなる。


「やだ、じゃないでしょ。君が最初に挨拶しないと始まらないんだよ?」

「そうなんすか?」


 そう言われると食べるのを止めて、一真は集まってきた者達に目を向ける。

 第一から第八までの新旧生徒会長が一真のもとへ集まっており、大所帯となっていた。

 その中心にいる一真は胸を張って声高らかに自己紹介をする。


「すでに知っている思いますが改めて自己紹介を。第七異能学園生徒会長、皐月一真です。以後よろしく」


 一真が簡単な自己紹介を済ませると、各学園の新生徒会長が自己紹介を始め、顔合わせは終わりとなる。


「一真君、皆の事覚えた?」


 隣にいた隼人は小声で一真に全員の名前を覚えたのか確かめる。


「……う、宇宙人と未来人と超能力者にしか興味ありませんので」

「……全く、君って奴は」


 全く覚えていない事に呆れ果てる隼人であったが咎める気はなかった。

 別に一真が覚えていなくても不都合はないからだ。

 基本的に一真はお飾りな生徒会長で業務のほとんどは副会長の火燐に任せきりになっている。

 火燐を始めとした生徒会メンバーが覚えておけば問題はない。

 その都度、教えてあげれば特に問題はないだろうが、覚えておいて損はないだろう。


 今回は本当に軽い顔合わせだったので自己紹介を済ませると、各学園の生徒会長はもとの場所へ戻っていった。

 残ったのは一真に興味を持ち、関心がある第一異能学園と第二異能学園の新生徒会長の二人だ。


「え~っと、即落ち二コマちゃんだっけ?」

「誰がエロ同人やねん! ウチは石動いするぎ神奈かんなや! 自分がクラウンバトルで一番最初に倒したやろ!」

「あ~! はいはい。出オチキャラ!」

「さっきからめっちゃ失礼やん! ウチ、自分より一個上で!? 普通、敬語使うやろ!」

「いや~、なんか神奈ちゃんって感じで敬語使うほどでもないかなって」

「いっぺんどついたろか!? ホンマに!」

「まあまあ、そう怒らないで。悪気はちょっとだけしかないんだ」

「ちょっとはあるんか!?」


 一応、一真も第二異能学園の生徒会長、石動神奈については覚えていた。

 クラウンバトルで一番最初に撃破したのが彼女なので、即落ち二コマというイメージが強く、印象に残っていたのだ。


「あ、えっと、そろそろ俺も話していいかな?」

「誰だ、お前?」

「誰なん、自分?」

「え……。さっき自己紹介したんだけど……」

「知ってる?」

「知らへん」

「そんな……」


 ショックを受ける第一異能学園の新生徒会長はがっくりと肩を落とす。


「おいおい、一真。あんまり、うちの如月を虐めないでやってくれ」

如月きさらぎ? どっかで聞いた覚えがあるような、ないような……」


 宗次に肩を叩かれ、一真は聞き覚えのある名前を聞いて、何かを思い出すように首を傾げた。


「あ! 思い出した!」

「ほ、ホントか!?」

「確か、お前、星空ノ記憶とかいう特殊な異能を持ってるっていう……如月……キサラギ……」


 そこまで思い出したが肝心の下の名前を思い出せず、一真はフリーズしてしまう。


一星いっせいだよ。如月一星。昔、超特殊な異能とかでニュースにも出たんだぞ?」


 補足するように宗次は一真に一星の名前を教えた。


「あ、あー! 過去の偉人を召喚出来るとかで一時期話題になってましたね」

「まあ、その後、お前が学園対抗戦で過去の英雄とタッグを組んだ俺を倒したせいで知名度は下がったがな」

「俺、最強!」

「あ、あの! 宗次先輩、そろそろ俺も話してもいいですかね?」

「あー、すまん。忘れてたわけじゃないんだぞ? 一真はこういうキャラだからな。ついつい、長話しちまうんだよ」

「そ、そうですか……」

「で、その如月一星が俺に一体何の用だ」

「先程から後ろで見ていましたが、随分と失礼な方ですね」

「フンっ!!!」

「がッ!?」

「椿!?」


 一星の後ろにいた大和撫子を具現化したような女性は一真に殺気を向けた瞬間、目にも止まらぬ速さで喉をフォークで刺され、塵と化した。

 突然の凶行に周囲は騒然としたが、彼女は一星が星空ノ記憶で召喚していた英雄ですでに故人である為、一真に罪はない。

 が、それはそれとしていきなり人に向かってフォークを突き刺すというのはやり過ぎであった。


「い、いきなり何するんだ!」

「いや、殺気向けてきたから」

「そ、それについては悪いと思ってるけどいきなり刺すなんて……」

「すまん。俺は皐月流を修めてるんで常に心は常在戦場でな。殺気を向けられると、ついつい殺したくなるんだ」

「ぶ、物騒すぎるだろ……」

「あと、さっき刺した人は死人だって気付いてたから躊躇しなかったんだよ。流石に生きてる人間にはやらないって。本気で殺しに来ない限りはね」

「……椿が星空ノ記憶で呼んだ英雄だって分かってやったのか?」

「そうだよ?」

「過去の英雄だって分かってて攻撃したのか……」

「英雄とか関係なく殺気を向けてきた奴はもれなく敵認定ですので。勿論、普段は即座に殺したりしないけど、すでに死人なら人権なんてないよね。もしも、俺を責めるならその時は容赦なくお前を殴る」

「な、殴るって……。いや、でも悪いのは椿か。そうだな、今回はこっちに落ち度があるもんな。悪かったよ」

「いや、お前は悪くないだろ。召喚してたのはお前であっても罪があるのは殺気を向けたあの女だ。だから、もう一回召喚しろ。謝罪はそいつから受け取るから」


 言っている事は無茶苦茶に思えるが筋は通っている。

 恐らく、一星は言及していただろう。

 予め、一真がどういう人間なのかを。


「でも、星空ノ記憶で呼んだから責任は俺にもあるだろ?」

「あるかもしれんが俺はそうは思わん。星空ノ記憶で呼ばれた彼女はお前の命令に従ってはいるだろうが完全服従というわけじゃないんだろ?」

「あ、ああ。一応、俺が言い聞かせたりは出来るが完全に服従するとかじゃないな。自分の意志はきちんとあって、嫌なら嫌と言ってくる感じだ」

「命令に従わない時があるのか?」

「えっと、今のところはないな」

「つまり、試してない事とかあるのか……」

「前例がないから俺が試していくしかないんだよ。だから、物騒な命令なんて出来ないんだ……」

「そうか。そりゃ大変だな」


 一真としては一星の持つ星空ノ記憶という異能に興味は尽きないが、それよりも先程の女性を再召喚してもらい、さっさと謝罪をさせたかった。


「んじゃ、もう一回召喚してくれる?」

「いいけど……いきなり攻撃はしないでくれよ? こっちもちゃんと言う事を聞かせるからさ」

「オッケー! ちなみに言う事を聞かない狂犬だった場合は?」

「椿はそういうのじゃないから信用してくれ」

「一度噛みついてきた相手は絶対に信用しないんだ。だから、保証はできん」

「……わかった。ちょっと待っててくれ」


 一真の目の前で召喚すれば先程のような悲劇が起こるかもしれないと一星は離れた場所で椿を再召喚する。

 再び呼び出された椿は一星の記憶から自分に何が起き、その後、どのような会話をしていたのかを知った。


「申し訳ありません。ご主人様」

「いや、俺に謝るんじゃなくてあっちの――」

「それについては勿論承知しています。ですが、その前にご主人様に謝りたかったのです。私の勝手な判断でご主人様に迷惑をかけてしまいました。大変申し訳ありません」

「ああ、うん。椿が俺を思ってくれて言ってくれた事は理解しているから、そんなに謝らなくていいよ。それよりもほら、向こうで凄い形相でこっちを睨んでるから早く謝りに行こうか」

「は、はい……」


 腕を組み、怒りの形相を浮かべている一真のもとに一星と椿は向かう。

 一触即発の雰囲気に誰もが近づけず、事の成り行きを見守っている中、椿と一星は一真に頭を下げた。


「先程は浅慮な行動で貴方には不愉快な思いをさせてしまいました。心からお詫び申し上げます」

「次はないからね。もしも、次同じ事があったら見かける度にデリートするから」

「き、肝に銘じておきます……」


 いくら椿がかつてイビノムを相手に無双し、英雄と称されるほどの実力者であっても、ほんの僅かな隙を突き、急所を的確に貫く一真とは敵対などしたくないだろう。


「よし。謝罪は受け取った。帰っていいぞ!」

「いえ、少しお聞きしたい事があるのですが」

「凄い度胸だな……。まあいいけど、何を聞きたいんだ? ちなみに彼女はいない! 絶賛、募集中!」


 椿に向かってサムズアップする一真の背中に複数の女性から突き刺すような視線が向けられる。

 当然、自分が睨まれている事に気が付いた一真は誤魔化すように曖昧な笑みを浮かべて先程の発言を訂正した。


「間違えちゃった。今は募集してません」

「ご安心を。貴方を異性としては一切見ておりませんので」

「あ、はい」

「それでお聞きした事なのですが、皐月流というのは本当に実在するのでしょうか? 少なくとも私が生きていた時代には見た事も聞いた事もありません」

「俺が存在証明だが?」

「それは分かります。しかし、それ程の実力者ならば私が生きていた時代、イビノムと生存競争し、人類の安全圏を巡って戦いに明け暮れていた激動の日々に皐月流の噂を一つも聞いた事がないのが不思議なのです」

「皐月流は一子相伝だからね。多分、その時代はどこかでひっそりと戦ってたんじゃね?」

「では、そのような文献などは残っていないのですか? 武術であるなら指南書などがあると思うのですが」

「ない。皐月流は殺人術だ。いくら正当化しようとも人殺しの技術だ。ご先祖様は悪用されないように書物などに残さず、口頭で伝え、一つ一つの技を直接体に教え込むようにしたんだ」

「ふむ。確かにそう言う事なら皐月流が無名であった事に納得は出来ます。しかし、それならば何故、今更になって表の舞台に出てきたのですか?」

「後継者が俺だからだ!」


 説得力に欠ける強気な発言だが一真の人間性を知っている者達からすれば、納得しかない一言であった。


「貴方の事についてはご主人様からの記憶で少しは知っていますが、目立ちたがり屋という事でよろしいのでしょうか?」

「うむ!!!」

「……分かりました。そう言うのならそう言う事にしておきましょう」


 疑問は尽きないが椿は一真がまともに答える気はないと判断し、ひとまず引き下がる事にした。

 椿と一真の話し合いが終わり、後ろで見守っていた一星が前に出てくる。


「もう良さそうか?」

「ああ。謝罪も受け取ったし、俺からは特に何も」

「そっか。え~っと、色々とややこしい事になったけど、改めてよろしくな。皐月」


 本当は普通に挨拶を交わし、親交を深めようとしたのに色々と面倒な事になってしまったが、ようやく最初の一歩として握手を差し出した。


「……」


 一真は一星から差し出された手を見て、握手に応じようとした時、彼の背後から二人組の女性が現れる。


「もう! いつまでやってるのよ。一星! そんな奴、放っておいて早く行きましょうよ」

「そうです、兄さん! いきなり人を刺すサイコパスなんて関わらない方が身のためですよ!」

「ちょ、ちょっと、二人共。いきなり出てきて何てこと言うんだ」

「アンタがいつまで経っても戻ってこないから悪いんでしょ!」

「生徒会長同士の挨拶ですから待ってはいましたが長すぎです。それに、あの人と関わるなんて思ってませんでした」

「いや、皐月は第七異能学園の生徒会長だから今後も関わっていく相手なんだぞ? 失礼な事を言うなって」

「失礼も何もなんで支援科の生徒が生徒会長してるの?」

「皐月は特例で支援科から戦闘科に転入したんだよ。それでちゃんと生徒会長決定戦で優勝して、正式に生徒会長に就任してるんだ。だから、何もおかしくないんだよ」

「それについては分かりました。ですが、先程の一部始終を見ていましたが、最低限の付き合いだけにした方がいいと思いますよ? 椿さんをいきなり突き刺して殺すなんて、とてもじゃないですがまともな感性をしていないと思います」

「アレは椿の方が先に仕掛けたんだ。悪いのは椿なんだよ。だから、皐月を責めるのはお門違いだ」

「むう。あの品行方正な椿さんが先に仕掛けたなんて信じられません」


 一星の隣に控えていた椿が補足するように先程の光景について説明した。


「いえ、ご主人様の言う通り、先に私が殺気を向けたのが原因ですので悪いのは私です。彼は正当防衛しただけに過ぎません」

「それでもいきなりフォークで突き刺すなんてひどすぎない!?」

「現代の人間からすれば過剰なのかもしれませんが私が生きていた時代は治安が最悪でしたから気持ちは分かりますよ。殺気を向けられれば即座に反撃するのは何もおかしくはないかと」

「ここは現代で法律もしっかりと機能してるのですが……」


 目の前で言いたい放題、言われる一真は青筋を浮かべ、一星の手を取った。


「よろしくな、如月一星……!」


 一星の手を握り潰さんばかりに力を込める一真。

 尋常ではない握力に顔を顰める一星は一真が二人の事で怒っていると思い、慌てて頭を下げる。


「ご、ごめん。二人には後で言って聞かせておくから」

「そこじゃねえんだよ。この野郎……!」


 一真は悪口を言われる事には慣れているので二人の発言についてはどうとも思っていない。

 美少女三人に囲まれ、ハーレム主人公のようなムーブをしている一星に嫉妬をしているだけの一真であった。


「俺はお前が憎い……ッ!!!」

「な、なんでっ!?」

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