第57話 きらきらビーチで追いかけっこ
キャバクラごっこを楽しんでいた一真であったがハワイに到着したという機内アナウンスによって現実に引き戻される。
「もう着いたのか……! お楽しみはこれからだってのにっ!」
悔しそうに顔を顰めている一真だが、そもそもアフターサービスはない。
一真がはっきりと答えを出していれば可能だが、現在複数の女性からアプローチを受け、あやふやな関係性なのでそれを解消しなければ永遠に訪れないだろう。
「てか、あっちに戻らないと!」
「一応、こちらの方で伝えていますよ」
「え? マジっすか。どんな風に伝えてるんです?」
桃子、桜儚、アリシア、シャルロットの四人に囲まれていた一真のもとに月海がやってきて、すでに学生達に伝えていると教えてくれる。
「一真君はこのまま紅蓮の騎士と降りますのでご安心を、と」
「なるほど……。あとで質問攻めされそうな感じですね」
「そこはいつものように上手く誤魔化しておいてください」
「あいあい。適当に言っておきます」
そして、無事にハワイの空港に着陸した。
一真は飛行機から降りる事になったのだが、キャバクラごっこを楽しんでいたせいで名残惜しく、駄々をこねていた。
「うわああああああ! やだやだ! 俺はもっとこの天国にいたいんだ! スケベなドレスを着た桃子ちゃんを侍らしていたい!」
「アホですか……。駄々をこねてないでさっさと降りてください。私達は着替えてきますので」
「やだー!」
無情にも一真のお願いは却下され、桃子達は普段着に着替えた。
ハワイに到着した一真はドレス姿から普段着に着替えた桃子達に一抹の寂しさを感じるも、すぐに気持ちを切り替える。
新旧生徒会のオリエンテーションでハワイに合宿へ来た一真はテンション上げて空港を飛び出た。
「いやっほう~!」
「アレ、もう一種の才能ですよね」
「切り替えの早さが尋常じゃないのよね。普通はもっと長引いたりするのに、あの子は一瞬で気持ちを切り替えるんだから凄いわ」
勇者であった一真は一々、人の生き死にでうじうじしている暇はなかった。
だからこそ、すぐに気持ちを切り替えるように言われ、精神を鍛えられ、倫理観などが歪められたのだ。
悲しい事だが、そうでもしないと勇者として使い物にならず、深く感情移入させないよう魔王殺戮マシーンに仕立て上げられたのである。
もっとも、根幹には穂花の教育があるので優しく善良な勇者ではある事だけは確かだ。ただし、蛮勇、破天荒、常識破りといった二つ名は絶えない。
「それじゃ、俺は皆と合流するから後で会おう!」
そう言って一真は学生達のもとへ戻った。
空港まで送迎バスが来ており、学生達はウキウキで乗り込んだ。
一真も第七異能学園の生徒会メンバーと共に送迎バスへ乗り込み、ホテルまでの道のりを楽しむ。
「一真君。紅蓮の騎士とはどんな事を話してたんだい?」
一真の横に座っているのは隼人で彼は飛行機で移動の最中に紅蓮の騎士に呼び出された一真の事が気になっていた。
「国防軍への勧誘と皐月流に関してですね~。皐月流は本当に実在する流派なのか疑われましたよ」
「まあ、確かに皐月流なんて聞いた事ないしね。紅蓮の騎士が気になるのも仕方がないか」
「後は、これといってないですね。適当に世間話をして終わりです」
「へ~。気になったんだけど、ファーストクラスってやっぱり凄かった?」
「めっちゃ凄かったですよ。どういう訳か、めちゃくちゃ広くてダンスホールみたいになってました! 大統領や首相なんかはシャンパンみたいなの飲んでましたし」
「それは凄そうだね。僕も一度はファーストクラスに行ってみたいな」
「ハワイが民間に解放されてからですね。でも、きっと高いですよ」
「だろうね~。とんでもなく高そう……」
などと話をしている内に一真達が宿泊するホテルに到着する。
今回、一真達が宿泊するホテルは日本が建設したもので五つ星ホテルとなっている。
そして、VIPの方々が宿泊するのはアメリカのホテルでこちらも同じく五つ星となっている。
どちらも最高級なものに変わりはなく、好みによって評価が分かれるくらいだろう。
「す、すげ~……」
「マジでここに泊まれるんか……?」
「うひゃ~、やべ~」
「最高すぎんか?」
「生きててよかった……」
「写真撮っとこ!」
男性陣が盛り上がっている横では女性陣も同じように盛り上がっていた。
「やば、すご!」
「ねえ! エステとかあるんだって!」
「サロンもあるみたい!」
「最高じゃん!」
「予約入れておこ!」
「五つ星ホテルのエステやサロンとか絶対勝ち確じゃん……」
「紅蓮の騎士と一真君に感謝しとかなきゃ……」
今回、ハワイの合宿が叶ったのは一真と紅蓮の騎士が懇意にしているからだと学生達は考えているが、実際は一真の我が儘である。
とはいえ、結果的には一真のおかげなので感謝するのは間違っていないが、本人にそれを伝えると間違いなく調子に乗るので心の内に留めておくのがいいだろう。
「はい。というわけでホテルに到着しました!」
一応は今回の新旧生徒会のオリエンテーションで主役を務める一真。
「えー、皆さん! ハワイに来れてウキウキだとは思いますが日本の学生として恥ずかしくない行動を心掛けるようにしてください!」
代表者としてホテルのロビーで一真は学生達に節度ある行動を心掛けるように注意するのだが、一番危うい奴が何を言うかと猛反発を食らう。
『お前が言うな!!!』
「ぴえん……!」
それから、一真は合宿の日程を軽く説明を始める。
「今日から新旧生徒会のオリエンテーションですが日程につきましては今一度配られた資料をご確認ください。長時間の移動で疲れていると思いますので今日はゆっくり休むように。勿論、元気が余ってるようならハワイを観光しても問題ありません。ただし、新旧生徒会の顔合わせである晩餐会には必ず出席するように! それでは解散!」
一真は手荷物をホテルマンに預けると、風のごとくホテルを飛び出していった。
誰よりも楽しみにしていた一真は誰よりも早く、一番乗りで海へ飛び込んだのである。
他の学生達に節度ある行動を心掛けるように言っておきながら、秒で破るのは流石であると誰もが思った事であろう。
「イエエアアアアアア!!!」
一真に倣って他の学生達も手荷物をホテルマンに預け、ホテルを出ていく。
長時間の移動で疲れている生徒は周囲の散策だけに留め、元気が有り余っている生徒は一真のようにビーチで遊び始めた。
無論、生徒の中には乗り慣れていない飛行機に酔った者が数名程いる。
本来であれば引率の教師が面倒を見るのだがホテルマンが代わりに面倒を見てくれるので、教師達は申し訳なさ半分、嬉しさ半分といった様子で観光へ赴くのであった。
「お~い、一真~」
バッシャバッシャと一人で沖の方を泳いでいた一真へ宗次が呼びかける。
呼ばれた一真は浜辺に戻り、宗次のもとへ駆け寄った。
「なんすか? 宗次先輩」
「遠泳してないで違う遊びでもしようぜ! 見たところ、色んなものがあるみたいだしよ!」
「じゃあ、定番のアレをしましょう!」
「定番のアレ?」
定番のアレと言われても分からない宗次は首を傾げる。
一真はいたずらっ子のように笑みを浮かべると宗次に耳打ちをした。
「……マジでそれやるのか?」
「嫌っすか?」
「う~ん……。まあ、後でやり直せばいいか」
そうして二人は少しだけ距離を開けると、きらきらビーチを恋人のように小走りで進み始める。
「アッハッハッハ! 捕まえてごら~ん!」
「アハハ~、待て待て~!」
最初こそ宗次も渋っていたがやり始めると、案外楽しくて止まらなくなった。
とはいえ、絵面はあまりよろしくなく、遠くからその光景を見ていた宗次の恋人である水着姿の蒼依はあんぐりと口を開けて目を見開いている。
「な、なんで私より先に皐月君とやってんの!?」
「まあまあ、落ち着いて。多分、一真君の入れ知恵でしょうから」
荒ぶる蒼依を宥める詩織だが彼女は気が収まらない様子で地団太を踏む。
「たとえ、入れ知恵だとしても普通は彼女とするでしょ!?」
「ほ、ほら、剣崎君って一真君に似てるところがあるから……」
「くっ……! そうだった。宗次は皐月君ほどじゃないけど馬鹿だった……!」
むしゃくしゃして頭を掻きむしっている蒼依と苦笑いで宗次と一真を見つめる詩織。そして、蒼依同様に苛立ちを抑えきれない集団がいた。
そう、一真に惚れている女性陣だ。
アリシア、シャルロット、火燐、雪姫、楓、弥生といった女性陣は呑気に宗次と浜辺の恋人ごっこをやっている一真に腹を立てていた。
「アレ、どう思う?」
「許せませんね。たとえ、お遊びだとしても最初は私がよかったです」
アリシアとシャルロットはメラメラと怒りの炎を燃やしている。
「ねえ、雪姫。あそこに火の玉を投げない?」
「いいですね。ついでに氷柱も投げたらどうです?」
「ん。先輩、私も手伝う」
「あらあら、ホンマに困ったお人やね、一真はんは~」
火燐、雪姫、楓、弥生の四人は絶賛アピール中なのに一真は宗次と呑気に遊んでいる。
それが気に食わない四人は嫉妬の炎を燃やしており、一真にどうお仕置きしてやろうかと企て始めた。
「なあ、一真。凄い悪寒がするんだが気のせいか?」
「気のせいですよ! 見てくださいよ! この晴れ渡る青空! 照りつける太陽! きらきら輝くビーチ! 寒いはずがないじゃないですか!」
「そうか。そうだよな! 気のせいだよな!」
「そうですよ! ワハハハハハハハ!」
気のせいではないのだが一真の能天気な発言とハワイという環境に宗次は頭をやられてしまった。
一真の意見を鵜呑みにしてしまい、後で蒼依から折檻を受ける事になるのは間違いない。
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