第55話 ボクと紅蓮の騎士は大親友!
一真の自作自演によってラウンジ内は騒然としたが、内情を知っている者達からすれば笑い話である。
キングや太陽王、覇王といった者達は一真が紅蓮の騎士だという事をすでに知っているので、彼が自分と熱い抱擁を交わしているのを見て、吹き出しそうになるのを必死に堪えていた。
しかし、学園側はそのような事など知らないので、突然一真と紅蓮の騎士が抱擁を交わしたのを見て大パニックだ。
一体、どういう関係があるのかと騒然としている。
「え!? いったい何がどうなってるんだ!?」
「二人はどういう関係なの?」
「まさか、親友って言ってたのは嘘じゃなかったのか……」
「一真君のいつもの冗談じゃなかった……?」
「なるほど。あそこまで仲がいいなら確かにハワイ旅行をプレゼントするのも頷ける」
あらぬ誤解も受けているが、そもそも紅蓮の騎士は性別不明の為、一真とどのような関係なのか分からない。
紅蓮の騎士が男性ならば友人なのかもしれないし、女性ならば恋人、友人、どちらかだろう。
色々な憶測が飛び交う中、一真と紅蓮の騎士は離れた。
「というわけなんです!」
何が何やら分からないが、少なくとも一真と紅蓮の騎士が友人関係である事は証明された。
今回、新旧生徒会のオリエンテーションでハワイ旅行が叶ったのも、そのおかげだろうという事も理解した。
であれば、疑問は残るが納得は出来ると学園側の者達は落ち着きを取り戻したのである。
「一真。マジでお前凄いな。いつの間に紅蓮の騎士と仲良くなってたんだよ?」
「学園対抗戦の後くらいですね~」
「あの時か……。しっかし、まさかな~。一真が紅蓮の騎士とあそこまで仲良くなるなんて予想もしてなかったわ」
「まあ、仕方ないっすね。宗次先輩は第一エリアにいましたから、俺と接点なんてなかったですし」
「そうだな。連絡先は交換してたけど、忙しかったから碌に連絡もしてないし」
「お互い様ですね。俺も一月は結構忙しかったんで」
事実、一真は一月に特撮の撮影や倉茂工業との仕事に政府からの要望でイビノムの掃討などをしており、割と忙しかったのである。
「それよりも、これから点呼とか取るんで並んでください。その後に、各自連絡事項など済ませます。そんで最後に引率してくれて護衛までしてくれる方達からの挨拶が終われば飛行機に搭乗するようになってます」
「分かった。それじゃ、飛行機に乗った後でな」
「うっす!」
それから、各学園に分かれて点呼を行い、遅刻者、欠席者などいない事を確かめ、総括である一真へ報告される。
勿論、総括補佐には雪姫と火燐が控えているので一真が総括でも不安はないというのが全員の意見だ。
学園側の連絡事項が終わり、各国の重鎮達が挨拶を始める。
自己紹介から始まって、軽い演説のようなものを行って終わった。
そして、ようやく飛行機へ搭乗となるのだが、一真は見知らぬ一団がついて来ているのを発見し、疑問に首を傾げる。
すると、そこへ慧磨が現れ、第七異能学園の生徒会は騒然となるのだが一真は至って普通にしていた。
「彼等が気になるかね?」
「あの人達の説明を聞いてませんからね」
「まあ、君に言うと絶対に首を突っ込んでくると思ったから秘密にしてたんだ」
「報連相は大事だって綾城さんが言ってましたよ!」
「……君が言うかね」
慧磨はやれやれといった顔で溜息を吐き、学園生の後ろを追従している一団について一真へ説明を始める。
「彼等は所謂テレビ局の人間だ。今回のハワイ解放は世界的ニュースだから、大々的に公開する予定でね。各国の信頼出来るメディアに来てもらっている」
「なるほど。宣伝という事ですか」
「そう。そして、君達にもインタビューが来る事になっている。無論、君もね」
「任せてください! 僕はテレビのインタビューには慣れっこですので!」
ドンと胸を叩いている自信満々の一真に不安を覚える慧磨だが、異世界で勇者として活動してきたのだから、人前に立つ事には慣れているのだろうと推測するも、やはり不安は拭えない。
盛大なやらかしてしまうのではないかと慧磨は心配で心配で夜も眠れそうにない。
「……なるべく、穏便に頼むよ?」
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ! 安心してください!」
「今までの事を考えると安心できる要素がないのだがね……」
過去の実績を考えると信用してもいいのだが、つい最近、調子に乗ってハワイ復興を成し遂げているので安心出来ない。
勿論、ハワイ復興は悪い事ではない。むしろ、有難い事だ。
しかし、何事にも限度というものがある。
ハワイを魔改造してもいいとは誰も言っていないのだ。
本人は良かれと思ってやったのだろうが、国際問題にも繋がる案件だったので非常に危うかった。
幸い、新技術の公開及びに提供をせっつかれているだけで賠償などを求められていないのが救いだろう。
「それじゃ、後でまた会おう」
先にVIPの方々が飛行機へ登場していき、一真を含めた学園生及びにメディアは最後尾となっている。
VIPはファーストクラス、VIPの護衛はビジネスクラス、そして学園生とメディアはエコノミークラスとなっているのだ。
「一真! 首相と何話してたんだよ?」
「宗次先輩! 何横入りしてるんですか! 第一異能学園は二番目でしょ!」
「こういう時に茶化すなよ。何を話してたのか教えてくれよ」
「まあ、いいですけど……。特に面白い話でもないですよ?」
「いや、首相と一真が話してるだけで面白いわ。で、どんな事を話してたんだ?」
「ちょっとした世間話と国防軍へのお誘いですね。あとは、後ろにいる人達がテレビ局の人間だって教えてもらいました」
「首相自ら国防軍へのお誘いとか、本当にお前は凄いな。そんで後ろの人達はなんなのかと思ったらテレビ局の人か。まあ、ハワイが蘇ったってニュースは世界中が驚くだろうよ」
「ちなみに学生達にインタビューもあるそうですよ」
「お! マジか! それはちょっと楽しみだな!」
「全世界に俺達の存在をアピールするチャンスですよ!」
「おお! でも、程ほどにしとこうぜ。映像として一生、残るんだから恥ずかしくないやつにしないか?」
「ひよってんじゃねえぞ! 俺と先輩でハワイを宣伝してやりましょうよ!」
「い、いや、遠慮しておくわ……。流石にそこまでの度胸は俺にはない」
そう言って宗次は列に戻っていった。
取り残されてしまった一真は案内に従って飛行機へ搭乗し、離陸準備が終わるまで静かに窓の外を眺めている。
「一真君。やけに静かだね」
「そうっすね。もしかして、飛行機が怖くなったんじゃないですか?」
「え~、一真君に限ってそれはないでしょ」
「分かりませんよ。意外とこういうのは皐月みたいな奴に限って変な妄想しちゃうんですよ。墜落したらどうしようとか考えて、急に怖くなったりするんです」
三列シートとなっており、一真の隣には隼人と大我が座っている。
女性陣と男性陣で分かれており、第七異能学園の生徒会は一番前の席に座っていた。
「多分、違う。あの顔は何か企んでる顔」
後ろの席からひょっこりと顔を覗かせてきたのは楓だ。
楓は一真が物静かな表情で窓の外を眺めている様子を見て、何かを企んでいるのではないかと怪しんでいる。
「まあ、そうね。この状況で一真君が黙るなんて何か変な事を考えてるか、くだらない事を企んでるかの二択でしょ」
「ハワイへの合宿が決まる前にも急に黙ったと思ったら、不気味そうに笑いだしたりしてましたから、そういう事だと思った方がいいですね」
「碌な事にならなさそうなのは確かね」
「さっきから黙って聞いてれば随分好き勝手言ってくれるじゃないですか!? 俺の事をなんだと思ってるんです!?」
流石に聞いていられなかったようで一真も怒ったように声をあげる。
「「「「「アホかな」」」」」
全員の意見が一致した瞬間である。
一真は生徒会メンバーからの心無い発言に涙を流し、いじけて膝を抱えると、そのまま丸くなってしまった。
しかし、悲しいかな。
離陸準備が整い、一真は離陸体勢を取るように命じられ、ささやかな反抗もすぐに幕を閉じるのだった。
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