第54話 いよいよハワイ!
ハワイへ合宿に行く事が決まった一真達は準備に大忙しだ。
まず各学園との連絡及びに連携。そして、各学園の引率者の選抜。第七異能学園は紅蓮の騎士が引率を務める事になっているので気にしなくてもいい。それから、パスポートの取得。
今回、ほとんどの手続きを紅蓮の騎士がやってくれる事になっているのでビザの発行なども問題ない。
ただし、パスポートは今後とも必要になる日が来るであろうから、自分でやっておくようにとの事。
ちなみに一真は承認するだけでやる事は何もない。
面倒な事務仕事は火燐を始めとした他の生徒会メンバーがやってくれるので一真の仕事は教師に報告するだけだ。
そういう訳なのでやる事のない一真は知人になった各国の重鎮達に連絡を取り、ハワイ旅行へ誘うのであった。
それから、仕事がひと段落して生徒会は解散となり、それぞれの家に帰っていく。
一真はハワイの件を家族に伝える為、穂花のいる児童養護施設アイビーへ向かった。
「ただいま」
「おかえりなさい。ご飯の用意は出来てるから、手を洗ってきなさい」
「うい~」
穂花に言われた通り、一真は手を洗ってから食堂へ向かう。
食堂には子供達の姿はなく、穂花や陽向といった施設で仕事をしている大人達が待っていた。
今回、ハワイの件を一真が相談する事になっているので子供達は先に食事を済ませていた。
そして当然ながら、アイビーで世話になっている桜儚も食卓に交じっており、一真と目が合うとニッコリ笑顔を見せる。
「それじゃ、いただきましょうか」
穂花の号令に従って食事をする。
和気藹々とした雰囲気で食事が進んでいき、一真は本題を切り出した。
「母さん。メールで伝えてたハワイの件はどうする? 俺の権限なら全員を招待出来るけど」
「今回は遠慮しておくわ。従業員の皆さんとも話したんだけど、流石に場違いすぎるから参加は出来ないわね。でも、日頃お世話になってる従業員の皆さんに慰安旅行という形で提案してるわ」
「分かった。そういう事ならこっちで手配しておくよ」
「ありがとう。でも、VIP待遇とかはやめてね。私達は一般人なんだから普通でいいわ」
「じゃあ、民間に開放されたタイミングくらいでいい? 一応、ファーストクラスとかいけるけど、ビジネスクラスくらいにしとこうか?」
「エコノミーで十分よ。あんまり贅沢を覚えると良くないわ」
「母さんがそう言うならそうするけど、それでいいの?」
「いいのよ。今度はビジネスクラスとかで行きたくなったら個人で行けばいいんだから」
「でも、普段お世話になってる人達なんだから、そういう時くらい贅沢させてあげてもいいんじゃない?」
と、一真がそう言うと黙って聞いていた従業員も頷いていたりした。
どうやら、今回ばかりは穂花も譲歩するしかないようだ。
「そうね。あとで聞いておくわ。でも、一般人がちょっと背伸びした程度でいいからね?」
「分かった。そういう風に伝えておくよ。姉さんとか兄さんはどうしようか?」
「私の方から伝えておくわ。貴方も忙しそうだしね」
「助かるよ、ありがと。それから、クソババアの方には俺から言っておくわ。一応は産みの親だし」
「そうね。そうした方がいいわ」
ひとまず話は終わり、一真は食事を済ませる。
後片付けを手伝い、穂花は従業員と慰安旅行について話し合うと言って会議室を使っている中、一真は桜儚と一緒に部屋で格ゲーをしていた。
桜儚はいつの間に買っていたのか知らないがアケコンで操作している。
「お前、結構暇してたんだな……」
「当り前じゃない。貴方に契約で縛られてるんだから洗脳で遊べないのよ? だから、こうしてゲームで遊んでるんじゃないの」
「自業自得だろうが。それよりも子供達に変な事を教えてないだろうな?」
「話術を教えてあげたわ。あとは可愛い女の仕草とかね」
「魔性の女を製造するんじゃない! うちの可愛い弟妹がろくでもない大人になったらどう責任を取ってくれる!」
「大丈夫よ。穂花さん監修のもとだもの。いいお嫁さん、お婿さんをゲットするための修行だから許されたわ」
「お母たま……」
桜儚による教育だと将来ろくでもない大人になるだろうが穂花が見ているのならば問題はないだろう。
きっと、将来は優良物件と呼ばれるような人物を篭絡する事の出来る大人に成長するに違いない。
「それで私を呼んだわけは?」
「一緒にハワイへ行くか?」
「行くわ。ここにいても退屈だしね」
「言っておくけど、お前は桃子ちゃんと一緒に行動だからな」
「そんなに悪さばかりしないわよ」
「どうだか……」
呆れたように息を吐きながら一真はコマンドを入力する。
対して桜儚はしばらくの間、退屈しのぎにオンラインで鍛えられた腕前を発揮し、一真を完膚なきまでに圧倒した。
「どんだけやり込んでんだ……!」
「ここしばらくは一人で暇だったからね~」
「ちくしょう! 現実なら勝てるのに!」
「ゲームは現実で勝てない人間の方が大半なのに」
ゲームで負けてムキになった一真は桜儚に他のゲームで勝負を仕掛ける。
FPS、レーシング、カード、パズルといった様々なゲームで勝負を挑み、全て敗北するのであった。
そうして、夜は深まっていき、一真は日課のトレーニングを行ってから眠りについた。
◇◇◇◇
あっという間に時間は過ぎ、一真は新旧生徒会のオリエンテーションでハワイへ行く事になる。
バレンタイン前の一週間を一真はハワイで過ごす予定となっているのだが、ハワイ復興についてはトップシークレットになっているので教師陣含め穂花やアイビーの従業員くらいしか知っていない。
一真のクラスメイトは合宿で一週間休む事しか聞いておらず、適当にお土産でも買ってきてくれと気軽に頼むだけだった。
そして今、一真は第一異能学園から第八異能学園までの新旧生徒会及びに引率者の教師達と一緒に第七エリアにある空港にやってきていた。
「いや~、楽しみですね」
「楽しみなのは分かるが……一真。ちょっと早とちりすぎないか? てか、その格好で寒くないのか?」
親友の宗次は隣に立っている一真を心配そうに見つめる。
一真はすでにアロハシャツを着ており、麦わら帽子を被ってサングラスをかけていた。
紫外線対策ばっちりなのはいい事なのだが、まだ日本であり、二月上旬で冬真っ盛りだ。
空港のラウンジは空調が完備されているので寒くはないのだが、一真の格好は寒そうに見えて仕方がない。
「寒くないっすよ!」
「でも、ここまでその格好で来たんだろ?」
「うっす! めっちゃ見られましたよ! まあ、俺ってば有名人ですから! ガハハハハハッ!」
「多分それ、アホな奴を見る目だったと思うぞ……」
「そんなわけないっすよ! 皆、目を見開いて二度見してきましたもん!」
「そりゃ、こんな真冬の時期にアロハシャツの短パン小僧がいたら見ちゃうだろ……」
当然の事ながら一緒に空港まで来た第七異能学園の新旧生徒会メンバーも宗次の意見と同じでうんうんと頷いていた。
「そんな事よりも! 宗次先輩、ちょっとテンション低くないですか? ハワイですよ? ハワイ! もっとテンション上げましょうよ!」
「あのな……。これからキングや紅蓮の騎士が来るんだぞ? 普通はもっと緊張するだろ? しかも、首相や大統領も一緒って言うじゃねえか……」
「大丈夫っす! 大統領も首相の気のいいおっさんですから!」
「バッ!? お前、流石に失礼だぞ!」
「平気っすよ。首相とはマブダチなんす!」
「めっちゃ不安になってきたな……。マジで粗相するなよ? 流石に庇いきれねえぞ?」
宗次は一真の事を気に入ってはいるが、流石に大統領や首相といった権力者に無礼を働いた場合は助けられない。
いくらなんでも相手が悪すぎるからだ。
大統領と首相の下にはキングと紅蓮の騎士がいるのだから、宗次が学生最強だろうが関係ない。
世界には宗次よりも強い人間はいくらでもいるのだ。
「お! 来ましたよ!」
ラウンジの窓から見える先の滑走路に飛行機が到着する。
その中には世界中の重鎮達が乗り合わせており、空港全体が緊張に包まれた。
しばらく、待っているとラウンジにキング、覇王、太陽王といった屈指の実力者が姿を現し、最後に威厳たっぷりとした紅蓮の騎士が現れる。
「おおお……。生で見るとやべえな」
「そうっすかね?」
「一真。あの人達、怒らせたらマジで命がないからな?」
「宗次先輩は気にしすぎですよ~」
「お前が気にしなさすぎるんだろ……」
ケラケラと笑う一真を見て不安そうに頭を抱える宗次。
頼むから大人しくしててくれと学園側全員の思いが一致した。
その次の瞬間、紅蓮の騎士が一真に駆け寄り、熱い抱擁を交わす。
「「「「「「「「え?」」」」」」」
戸惑い、困惑、混乱、驚愕、騒然。
一真の自作自演によりラウンジは混沌と化したのである。
「「友よ」」
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