第52話 報連相は大事だからね! 頼むよ!?

 脅された二人も流石に乙女のプライバシーを侵害し過ぎたと反省し、二人揃って桃子へ頭を下げる。


「いや、申し訳なかった。今のは私達が悪い。下種の勘繰りだった」

「いえ……私も喋りすぎましたからお互い様かと」

「いやいや、我々が少し踏み込み過ぎたんだ。君は悪くないさ」


 と、三人がお互いに自分が悪いと謝っている所に突然、一真が帰ってくる。


「ただいま~!」

「……連絡を入れてから帰ってきてください。いきなり帰ってこられると心臓に悪いです」

「ご、ごめんちゃい……」


 何やら不機嫌そうな桃子に叱られて一真は縮こまってしまう。


「と、ところで何も聞きませんでしたか?」

「え? 何か言ってた?」

「い、いえ、何も聞いていないのなら大丈夫です」


 突然、現れた一真に先程のセリフを聞かれていなかった事を確かめた桃子はほっと胸を撫でおろし、大統領とスティーブンに先程の件は黙っておくように目配せをした。


「ミスター皐月。お早いお帰りだったがハワイの復興は順調にいきそうか?」


 空気を読んだスティーブンが話題をそらし、ハワイ復興の進捗を一真に尋ねた。


「ああ! ハワイなんだけど、もうほとんど復興が完了したんだ! ぜひ、その目で見てほしい!」

「「「はあ?」」」


 幼い子供が褒めてほしそうな顔でハワイが復興したと言う一真に対して、どこぞの猫のように目を丸くして疑惑の声をあげる桃子とスティーブンと大統領。


「まあ、疑うのも仕方ないさ! でも、本当だから皆で見に行こうぜ!」

「「「え?」」」


 三人の了承を得ぬまま、一真は最高潮のテンションでハワイへ転移する。

 転移した三人はビル群が並び、空を警備用ドローンが旋回しており、ウォータースライダーのようなものがそこら中を繋いでおり、浮遊している乗り物などを見て、目玉が飛び出るぐらい驚いた。


「「「ええええええええええーッ!?!?」」」

「いや~、めっちゃ頑張った! すごいでしょ!」


 近未来的な都市を作った一真は得意げな顔で三人を見る。

 予想通りの反応を見せる三人を見て一真は嬉しそうに笑う。


「それじゃ、見て回りながら遊ぼうぜ!」


 驚く三人を一真はウキウキな態度で先導する。

 心底楽しそうに先頭を歩いている一真の後ろでは気の毒そうに大統領が桃子へ話しかけていた。


「あ~……。一旦、ハワイ復興の件は白紙にするかね?」

「…………それがいいと思います。一度、見て回ってから検討しましょう」


 日本にも利益が出るように桃子は読心の異能で大統領の思惑を看破し、見事に多くの利権を勝ち取ったのだが、そのすべては一真の暴走によって水泡に帰した。

 大統領の言う通り、一度白紙に戻して、ハワイの現状を鑑みてから検討するのがいいだろうと判断するのであった。


 ◇◇◇◇


「ハワイ復興の件についてですが、紅蓮の騎士の活躍により、想定をはるかに上回る成果が出ました事をここに報告します」

「…………よくやったと褒めればいいのか、どうしてくれるんだ、と怒ればいいのか分からないな」

「結果だけを見れば日本にも多くの利益が生まれたので褒めてあげるべきかと……」

「それはそうなのだが、新技術を惜しみなく他国に公開するのはいかがなものかと思う」

「現状では真似できない技術だそうで特に問題はないかと思いますが」

「倉茂工業の人間の監視をもっと厳重にしておいてくれ……。他国に引き抜かれたら目も当てられん」

「その点は心配ないかと思われるのですが、監視レベルをあげておきましょう」


 ハワイ復興から数日、慧磨は桃子から報告を受けていた月海と話していた。

 ハワイ復興がほんの数時間で成された事も驚きだが、それ以上に倉茂工業及びに一真が新技術を惜しみもなく披露した事に頭を抱えている。

 アメリカからは質問攻めされ、技術を開示及びに提供しろと言い寄られており、慧磨は対応に追われていた。

 しかし、先程月海が言っていたように倉茂工業と一真による共同開発された魔法を織り交ぜた新技術なので提供のしようがない。

 一体どのように説明をすればいいのかと慧磨は嘆いていた。


「全部、紅蓮の騎士のせいにすればいいのか……?」

「納得してくれるとは思いますが、絶対に後で紅蓮の騎士を貸すように言われますよ?」

「一真君ならどんな要求をされようとも跳ね返してくれるさ」

「彼の性格なら面白そうな事だとホイホイ乗っかりそうですけどね」

「もう駄目だ。不安で不安で仕方がない……」

「まるで諸刃の剣ですね」


 一真は大きな利益をもたらすが、大きな損害ももたらすという意味ではピッタリな言葉だ。

 とはいえ、現状で日本が損している事はほとんどない。

 新技術を公開しろ、とせっつかれているが損害はないのだ。

 現在は紅蓮の騎士がいなければ成立しない技術なので日本が独占状態している。


 ただし、アメリカが痺れを切らし、紅蓮の騎士の派遣要請をしてきた場合は分からない。

 一真が良かれと思ってアメリカにも魔法を使った新技術を提供してしまう恐れがあるかもしれないのだ。

 出来れば日本だけに留めておきたいが、一真の性格上それは難しい事だろう。


「……外国が嫌いになったりしないかな~」

「個人を嫌う事はあっても国を嫌う事はないのでは? 一真君は国全体が嫌った個人と同じような風潮じゃない限りは見限らないと思いますよ」

「一真君をアジア人に意地悪な国へ海外留学をさせてみるのはどうだろうか?」

「私達の思惑が発覚した場合、日本は終わりでしょうね」

「もうどうしようもないな……」

「そもそも一真君の性格なら正直に伝えればわかってくれるんじゃないですか?」

「出来れば、もっと日本に貢献して、海外にはなるべく行かないでくれ、と言えば納得してくれるか?」

「意外とすんなり聞いてくれるかもしれませんから試してみてはどうでしょうか?」

「……おっさんが言うと露骨に嫌がりそうだから君に任せてみてもいいか?」

「責任を問わないのであればお伝えしますよ」

「この件については一切の責任を負わなくていい。少しだけ、一真君を説得してほしい」

「出来る限りやってみます」


 というわけで月海は学校が終わり、放課後のタイミングを狙って一真に連絡を入れた。

 月海個人からの呼び出しという事もあって、一真はなんら警戒する事なく、呼び出しに応じるのであった。


綾城あやしろさんから個人的な話し合いって珍しいですね。なんかありました?」

「一真君。単刀直入に言うわね。もっと日本に貢献しろとは言わないけど、簡単に海外へ協力しないでほしいの」

「大人の事情ってやつですか?」

「そういう事。本音を言えば日本を第一に考えて欲しいけど、一真君にも自由にする権利があるから、とやかく言えないんだけどね」

「今回の一件はそんなに不味かったですか?」


 一真率いる倉茂工業がもたらした技術は革命的で世界が欲しがる代物であった。

 おかげでアメリカが一真の知らない所で日本に対し、ちょっかいをかけているのだ。


「そうね。人間は業突張りが多いから、ちょっと困ったことになってるわ」

「俺がちょっと出ましょうか?」

「駄目よ。そんな事したら一真君が沢山恨みを買う事になるわ」

「慣れっこですけどね~」

「とはいえ、私達の手に負えない時もあるから、その時は頼んでもいいかしら?」

「問題ないっす。好きにさせてもらってるんで、その分はきちんと働きますとも」

「ありがとうね。とりあえず、今回の件は政府の方でなんとかするわ。でも、次からは報告、連絡、相談はきちんとしてね。皆が皆、一真君みたいに善人ばかりじゃないから」

「うっす! 気を付けます!」


 敬礼する一真は月海の前から転移魔法で自宅へと戻った。

 先程の会話を思い出し、月海はやはり素直でいい子であると一真を評価する。


「さて、総理に報告しないとね」


 一息入れてから月海は慧磨に一真を説得出来たかもしれないと報告する。

 あくまでも、かも、なので過度な期待はしないように釘を刺しておく月海なのであった


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