第51話 ハワイを魔改造! その頃、桃子ちゃんは……
アメリカへ着いた一真はスティーブンに連絡を入れて、桃子と一緒にホワイトハウスへ転移する。
大統領のいる執務室に転移した一真はスティーブンと大統領にハワイ復興の件について軽く説明をした。
「とりあえず、ハワイ復興なんだけど日本も一枚噛ませて!」
「ふむ……。そちらの
「そう! 俺は現場で復興作業するから桃子ちゃんと詳細を詰めてほしい!」
「そうか、分かった。それからミスター皐月。言われていた人材は用意した。一緒に連れて行くといい」
「サンキュー!」
一真はスティーブンから建設業者が集まっている場所を教えてもらい、早速移動しようとする前に大統領の方へ向かって警告をする。
「言っておくけど桃子ちゃんに何かしたら、その時はアメリカ全土が焼け野原になるからな?」
一真から放たれる凄まじい威圧感に大統領は委縮し、生唾を飲み込んでから言葉を発した。
「……彼女には手を出さないと誓おう」
言質を取った一真はにっこりと笑みを浮かべ、大統領に向けていた威圧感を解除し、桃子へ顔を向ける。
「それじゃ、桃子ちゃん! 後は任せた。行ってくるね!」
「はいはい。現場の人達を困らせないでくださいね」
「は~い!」
どんどん知能が下がっているように思える一真は元気よく桃子に返事をしてから建設業者のもとへ去っていった。勿論、紅蓮の騎士に変身してだ。
執務室に残された桃子と大統領にスティーブン。
三人は一真を見送ると、剣呑な雰囲気で見つめあう。
「お初にお目にかかります。私は国防軍特務部隊所属の東雲桃子と申します」
「知っているとも。日本の
「アメリカンジョークであればいくらでも」
「ハハハハ。まあ、堅苦しい話になるがハワイ復興について検討しようじゃないか」
「お手柔らかにお願いします」
「紅蓮の騎士の力を振りかざせば我々は無条件で従うさ」
「そんな事をすればアメリカではなく日本に彼は鉄槌を下すでしょう。そういう男ですよ、彼は」
「なるほど。随分と彼の事を知っているようだ。であれば、お互いにベストを尽くすとしようじゃないか」
「はい。双方にとっていい結果になるよう尽力します」
ようやく桃子の真の力を発揮する時がやってきた。
読心の異能で交渉事を有利に進める桃子の独壇場だ。
大統領とスティーブンは覚と呼ばれている桃子を相手にどのように戦うのか。長丁場になる事だけは間違いないだろう。
◇◇◇◇
スティーブンが用意した建設業者を一真を引き連れてハワイへ転移する。
そして、日本へ戻り、昌三に連絡を取った。
「もしもし、昌三さん。準備は出来ました?」
『はい。従業員一同揃ってます。いつでも移動は可能ですよ』
「了解です。すぐにそっちへ向かいます」
言葉通り、一真は転移で倉茂工業に移動し、整列して待機していた倉茂工業の従業員一同をハワイへ転移させる。
ハワイにアメリカの建設業者に通信事業者と日本の倉茂工業の従業員が一堂に会した。
総勢五百人を超える壮大な光景に一真は感動を覚えるも、早速仕事に取り掛かるように号令を出す。
「ようし! これからハワイ復興を始める! 手始めに空港からだ! ちなみに現場に指揮は俺が執る!!!」
まずは設計からなのだが一真が魔法でどうとでも出来るので、さくっと完成図のジオラマを作り上げた。
ド素人の一真だが土木工事に関してはほんの少しだけ覚えがある。
異世界で砦の修復や防壁の建造などを手掛けた過去もあり、根っからの素人という訳ではない。
現場の指揮官であるくせに一真は基礎工事を魔法で手早く済ませ、アメリカの建設業者を驚かせた。
「わ~お! こいつはすげえぜ! これはどれだけの強度があるんだ?」
出来上がった基礎部分をアメリカの建設業者が叩いたりして確かめながら一真へ強度を尋ねる。
「ふっ! 刮目せよ! これがジャパニーズクオリティだ!」
そう言って一真は魔法で基礎部分を何度も攻撃した。
一真が作った基礎部分は何度も魔法を受けたが一切の傷がつかず、アメリカの建設業者は大はしゃぎである。
「ジャパンすげ~ッ! 流石、変態の国だ! 土木技術も俺達の百年先くらい行ってやがるぜ!」
主に一真だけが変態であり、倉茂工業の従業員は日本全土がこれだけの技術を持っていない事をアメリカの建設業者に伝えた。
「彼だけが特別で我々は至って普通ですので、同じだと考えないでください」
「そ、そうか。つまり、彼がイカれてるって事でOK?」
「OK!」
アメリカの建設業者と倉茂工業の従業員が一真の作ったジオラマを参考にしながら作業が進んでいく。
当然ながら、一真の作ったジオラマ通りに進むはずがなく、オタク気質な倉茂工業の従業員がイビノム襲撃に備えて空港を魔改造したいと提案を出し、全責任者である一真が許可を出した。
「面白そうだから徹底的にやろうぜ! 俺達の秘密基地を作り上げるんだ!」
秘密基地ではなく空港なのだが、それは些細な事である。
一真達にとって重要なのは面白いか面白くないかだ。
倉茂工業の従業員が本領を発揮し、アメリカの建設業者をドン引きさせていたが、彼等も次第に感化され、ハワイの空港はとんでもないものへと進化していく。
「やっぱり、海の中から飛び出てくるカタパルトとか欲しいですよね!」
「勿論、海中基地もですね!」
「ロボットはどこに収容します?」
「軍事利用もされていた場所ですから防衛装置もつけましょう!」
「海面を割りながら戦艦が出てくるのは浪漫じゃないですか?」
「軍艦ドリフトとかやってみたいですね~!」
「演習場にロボット専用の場所を作りましょう!」
「超大型電磁砲も設置しましょうよ!」
「電力が断たれても独自に稼働出来るようにオリジナルの発電所を作っておきましょう!」
「火山の噴火口からロボットや戦闘機が飛び出すのもよくないですか!?」
「いざという時は基地全体が自爆し、同時に噴火もして、周囲一帯を焼き尽くすように仕掛けておきましょう!!!」
全員が好き勝手にハワイを魔改造していく。
一応、観光地なのだから少しは加減するべきなのだが、一度イビノムによって蹂躙されてしまったのだから、守りは強固にするべきだろうと自重をやめたのである。
歓楽街方面も形は歓楽街として見えるが地下には、防衛システムと称した避難用シェルター及びにイビノム迎撃装置が眠っており、緊急時には地上の建物と地下の防衛システムが入れ替わるようになっている。
勿論、入れ替わる際には緊急アナウンスが鳴り響き、住民へ事前に知らせるよう配慮されている。
もっとも、一真が魔法陣でハワイを覆いつくしているので、防衛システムが日の目を浴びる事はないだろう。
「いいぞ! ガンガンやろうぜ!」
恐ろしい速度でハワイの復興が進んでいき、インフラが整ってきたのですでに居住可能なまでになっていた。
一真がハワイを合宿で使うだけの予定であったのに、もう立派な観光地として宣伝出来るようになっている。
大統領もハワイ復興が完了したと聞いたら、腰を抜かしてしまうかもしれない。あまりにも早すぎると。
しかも、合宿に使う予定のワイキキビーチのみだったはず。
そのはずだったのにハワイのほとんどを復興させたのだ。
どのようにして喜んでいいか分からない事であろう。
◇◇◇◇
一真達がハワイの復興を終わらせる前、桃子は無事に大統領との交渉を終えて、一息吐いていた。
「やはり、心を読まれると話し合いは不利だね~」
「どの口が仰いますか……。あえて、読まれてもいいように交渉を進めていたじゃないですか」
「いやいや、これでも精一杯だったのだよ? とはいえ、少しばかり頭を使いすぎてしまった。何か甘いものでも頼もうと思うのだが、君もどうかね?」
「お気遣いいただきありがとうございます。では、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「うむ。任せたまえ」
そう言って立ち上がった大統領は執務室にある自身の作業机に置かれているアンティーク電話機を使い、お菓子とお茶を持ってくるように部下へ命じた。
そう時間もかからず、執務室にお茶菓子を持った女性が現れ、大統領とスティーブン、そして桃子の前にお茶菓子が置かれる。
「さて、少し世間話でもしようじゃないか」
「世間話ですか? 生憎、私は大して面白みのない人間ですので、あまり期待されないようお願いします」
「ハハハハ。大丈夫さ。絶対に面白い話が聞けると思うからね」
桃子は大統領の自信満々な顔を見つつ、お茶を飲み始める。
「ズバリ、聞こう! 君は紅蓮の騎士が好きなのではないかね?」
桃子は大統領からのとんでもない質問に飲んでいたお茶を吹きそうになる。
「な、ななな! そんな事ありません。私と彼はただのビジネスパートナーなだけで特別な感情など何も――」
「ほう? そうかね? しかし、彼はそうは思っていないかもしれないよ?」
「そんな事ありません。私は心を読めるんですよ? 彼が私に対して何も思っていない事はすでに把握済みです」
「ふ~む……。私に読みが外れたか? しかしな~、交渉前に見せた彼の姿はどう見ても君に対して好意を持っているようにしか見えなかったがね」
「あ、あれはただ単に交渉を有利に進めようと演技しただけだと……思います」
「心を読んでいるのではないのかね? あの時の彼は少なくとも本気だったと思うが?」
「むぐ……」
一真が大統領を脅している時、当然ながら桃子は心を読んでいた。
大統領は桃子を人質にでも取って、紅蓮の騎士へ対する切り札にでもしようと考えており、非常に警戒したのだが一真のおかげで事なきを得た。
そして、一真は言葉通りで裏表もなく、本当に心から桃子を思って大統領を脅迫していたのだ。
不本意ながらときめいたのは間違いなく、大統領の推理も当たっていたので桃子は咄嗟に言葉が出なかった。
「その顔は当たってそうだね?」
したり顔の大統領に桃子は観念したように本音で話す。
「……閣下も知っての通り、私の異能は人から疎まれます。それは当然、男性からもです」
「なるほど。確かに君と交際したら隠し事は出来そうにないね」
「ですが、彼だけは……非常に、非常に! 不愉快で不本意で腹立たしいですが! 心を読まれても平然と何事も無かったように私に笑いかけてくれるんです。それが…………嬉しくもあります」
「見ろ、スティーブン! 面白い話が聞けただろう! なんとも甘酸っぱいな!」
「
「おっと、私とした事が」
相手が第三者だからかぺらぺらと本心を喋ってしまった桃子は顔を真っ赤にして伏せていた。
「この話は出来れば内密にお願いします……。もしも、口外された場合は覚悟してください。私の異能でお二人の秘密を公の場で公開してあげますから!」
「「お、おう」」
真っ赤な顔で涙目になりながら桃子は自身よりも遥かに地位の高い二人を脅すのであった。
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