第50話 桃子ちゃん出番やで!
ハワイ解放を無事に成し遂げた一真はスティーブンにその事を報告する。
「スティーブン。ハワイ解放したよ~」
『驚けばいいのか、称賛すればいいのか』
「どっちもして!」
『OKだ。今から衛星カメラで確認する』
「了解~」
一真は廃墟があった場所を宣言通り更地にしており、空からは所々に緑があり、禿げあがった山のように真っ白な部分が衛星カメラから見えた。
大きなタブレットでそれを確認しているスティーブンは夢でも見ているかのような気分であったが、これが紅蓮の騎士の実力なのかと再認識させられる。
『確認出来た。大統領も喜んでるよ』
「それはよかった! で、ついでに訊きたいんだけどハワイの一番のビーチを教えてくれ!」
『ふむ……。どこも綺麗だが定番はやはりワイキキだろう。地図で正確な場所を送ろうか?』
「頼む! あと、建設業と通信業とイビノムの研究者とかも送ってくれ。俺も知り合いを呼ぶから!」
『知り合い? 日本からか?』
「そう。頼もしい人達がいるから、その人達に復興を手伝わせたい!」
『ちょっと待ってくれ。大統領と話してみる』
「よろしく!」
というわけでスティーブンはその旨を大統領に連絡する。
大統領としては全てアメリカの人間でハワイの復興をしたかったが、紅蓮の騎士である一真の要望を断る事が出来ず、素直に受け入れる事にした。
もっとも、一真の性格ならば利権がどうのこうの言う事はないと判断しての事だった。
『ミスター皐月。大統領から許可を得た。日本から君個人の知り合いを呼ぶんでいいんだな?』
「そうだよ。面白くて頼りになる人達さ!」
『わかった。であれば、何も問題はない。こちらもすぐに人を用意しよう』
「準備ができたら言ってくれ。俺が転移ですぐに迎えに行く」
『OKだ』
急ピッチで進められるハワイの復興作業。
一真は時差の事を忘れて倉茂工業に連絡を入れる。
早朝から電話が鳴り響き、倉茂昌三は何事かと起きて、電話に出ると元気満タンの一真からハワイ復興の件を聞かされる。
『もしもし、昌三さん! 起きてる?』
「今起きました……」
『朝早くにごめんね。実は個人的な頼みでハワイの復興を手伝ってほしいんだ! 研究者達を含めた従業員全員呼べそう?』
「一真君からの頼みであれば、皆快諾しますよ。ただ、今は早朝なんで寝てるかもしれませんが……」
『アメリカの方も準備してるだろうから、まだ時間はあると思うけど、できれば急いでほしいかな』
「分かりました。従業員に連絡してみますね」
一真からの頼みであれば昌三は政府から反対されようとも賛成する。
念のために桃子へメールをしようとしたが昌三は先に従業員へ連絡を行い、ハワイ復興の件を伝えたのである。
それから最後に桃子へ連絡を入れたのは全ての準備が整い終わり、一真によって従業員がハワイに転移し終わった後だった。
ぐっすりと眠っている間にハワイが解放された事を知らない桃子は目を覚まして、朝食をとりつつノートPCを開き、届いていたメールを確認する。
そして、昌三からハワイの復興を手伝ってくるという旨のメールを読んで、飲んでいるコーヒーが気管に入ってしまい、盛大に
「斎藤首相はこの事を知っているのでしょうか……」
一応、桃子は一真がハワイを解放する事を慧磨に伝えている。
慧磨もハワイの解放については承知していたが、復興の手伝いに倉茂工業を使う事までは承諾していなかった。
日本の企業で政府の息がかかっている倉茂工業を使うのなら、まずは政府の許可を取らなければならないだろう。
しかも、それが外交につながるハワイの復興となれば猶更だ。
桃子は頭痛に悩まされ、小さく唸り声をあげながら慧磨に事の詳細を送るのであった。
「うッ!!! お腹が!!!」
桃子からのメールを受け取った慧磨は一真が勝手に倉茂工業を使ってハワイの復興を手伝っている事を知り、猛烈な腹痛に襲われる。
ハワイの解放は知っていたが復興に日本の企業を使うとは聞いていなかった。
しかし、予想は出来る事だっただろう。
一真の性格からすれば信頼のおける倉茂工業をハワイの復興に宛がう事は容易に想像できる。
ついでに秘密基地でも作るだろうという事も想像出来てしまう。
「一真君に電話しましょうか? 彼ならどんな怪我や病気でも治してくれますよ?」
秘書である月海が携帯を取り出しながら、慧磨を気遣っているが原因は一真なのでマッチポンプとしか言えない。酷く滑稽な話だ。
いっその事、笑い話として一蹴したいところだが笑えない状況なので慧磨は月海に一真へ電話を掛けるよう命じた。
「すまないが頼めるか? 本当にお腹が痛くて死にそうなんだ……」
慧磨の顔は血の気がなくなって青白くなっている。
このままでは本当に死んでしまうのではないかと不安に駆られながら月海は一真へ電話を掛けた。
『はい、もしもし』
「もしもし、一真君。今、総理が腹痛で苦しんでいるので一度こちらへ帰っていただけませんか?」
「マジっすか!? 慧磨さん大丈夫っすか?」
転移魔法で一瞬にして慧磨のもとへ現れた一真。
蹲っている慧磨のもとへ近寄り、回復魔法で腹痛を治す。
「あ、ありがとう……。本当に助かったよ」
「それはよかった!」
笑みを浮かべているが原因は一真である。
本人にそのつもりは全くないので責める事も出来ない。
しかし、今のうちに言っておかなければいけない事もあるので慧磨は一真にハワイ復興の件について話し始める。
「東雲君から聞いたんだが倉茂工業を使ってハワイ復興を手伝っているらしいね?」
「ええ、そうですね。信頼できる人達なんで」
「(……本当なら怒鳴りたいところだが今回は友人に借りを返す為だと言っていたからな~。少し小言を言う位に留めておこう)」
一真一人がアメリカの為の働くのならば文句はなかったのだが、勝手に日本の企業を巻き込んだのはダメだ。
とはいえ、本人はその辺りについてあまり理解はしていないだろう。
だからといってこのまま見過ごすわけにもいかない。
一真も理解の出来ない子供ではないので慧磨は慎重に言葉を選びながら説教をする。
「一真君。今回、君は個人的な理由でハワイの解放をすると言っていたね?」
「そうですね。スティーブンには借りがあったんで」
「そこまではいいんだ。でも、ハワイの復興は別だろう?」
「合宿のためです! 今からアメリカにハワイの復興を任せてたら間に合いませんから」
「うん。それは分かる。倉茂工業と君ならたちまちハワイの復興は出来るだろう。だけどね、倉茂工業は日本の企業で政府の管理下に置かれているんだ。その意味が分からないわけじゃないね?」
「……うっす」
流石に一真も慧磨の言葉を聞いて理解したのか、先程よりも態度が小さくなっており、怒られている少年のように眉を下げている。
「わかってくれて何よりだ」
「今からやめた方がいいっすか?」
「いや、合宿でハワイを使いたいんだろう? なら、そのままで構わないさ。ただし、ハワイ復興に日本も協力したという事実が欲しい」
「どうすればいいんです?」
「ハワイには日本人の街があったんだ。それを言えば向こうも理解するだろう」
「なるほど! 分かりやした!」
「うん。じゃあ、頼んでもいいかな?」
「うっす! 任せてください!」
「一応、東雲君を連れて行くといい。彼女はこういう交渉にはうってつけの人材だ」
「ラジャ!」
慧磨に上手い事、丸め込められた一真は桃子に電話を掛けてから転移した。
執務室には一真のおかげで全快した慧磨は満足げに椅子へ深く腰掛け、月海が入れてくれたお茶を飲む。
「なんだか不服そうだね」
「まあ、いたいけな少年を口車に乗せていい様にしてるのを見ると、思うところはありますね」
「ハハハハ、正直な意見だ。でも、私の見立てだが一真君もそこまで純粋ではないよ。多分、私の考えを見抜いてるさ」
「そうは見えませんでしたが?」
「国益につながるよう誘導したが、彼は反省の意味も込めて話に乗ってくれたんだと思う」
「つまり、彼はいいように使われている事を承知の上で了承したという事ですか?」
「恐らくはだがね。彼にとってあまり不都合でなければ問題ないのだろう。義理人情に厚いから、その辺りを汲んであげればきっと彼は無償労働でも文句を言わないさ」
「いい人間ではありますが、損な性格をしていますね」
「そうとも限らんさ。恩を売れば巡り巡って返ってくるのだから」
実際、一真は無償労働が多い。
沖縄の解放も無償である。臨時報酬というのも一切ない。
毎月定額の報酬だけで一真は働いてくれる上に、ありがた迷惑な善意で動いてくれる事もあるのだ。
確かに頭を悩ませたり、ストレスを感じる面はあれど、総じてみればプラスなので慧磨も感謝はしていた。
しかし、それはそれとしてやはり、もう少しこちらの事を気遣ってくれてもいいのではないかと不満もあった。
◇◇◇◇
桃子の部屋に転移した一真は朝食をご馳走になっていた。
「ありがと、桃子ちゃん! 愛を感じるよ!」
「はいはい。ただトーストを焼いて上に目玉焼きを乗せただけで大袈裟なんです」
「こうしてると新婚さんみたいだね!」
「どちらかと言えば世話の焼ける弟を世話する姉の様子ですね」
「ぐうの音も出ないほどピッタリなシチュエーションですわ……」
桃子は朝からうるさい一真の相手をしていた。
一真の向かい側に座り、ノートPCで作業しつつ、桃子は何をしに来たのかと尋ねる。
「そういえば、今日はどんな用件で来たんですか?」
「一緒にアメリカ行こ! ハワイ復興の件で桃子ちゃんにはアメリカと交渉してもらいたいんだ!」
「…………」
「ど、どしたん? そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」
「は、初めて私の能力を活かす事の出来る仕事を持ってきた事に驚いてるんです」
「今までは?」
「くそほど面倒臭い事務処理ばかりで鬱屈していました」
「ごめんね。桃子ちゃんが相手だとついつい頼りがちになっちゃうから」
「(そう言われると悪い気はしませんが……面と向かって言うと調子に乗りそうなので黙っておきましょう)」
ほんの少しだけ機嫌がよくなった桃子。
僅かに桃子の機嫌がよくなった事を察した一真であったが、どうして機嫌がよくなったのかが分からず、不思議そうに彼女の事を見つめるのであった。
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