第49話 ハワイ奪還!
本場アメリカのハンバーガーも食べ終え、満足した一真はスティーブンに現在のハワイの時間を尋ねた。
「もうハワイは朝を迎えているか?」
「そうだな。明け方くらいだろう」
「行っても大丈夫そう?」
「暗くても問題ないならいいが、もう行くのか?」
「早いうちに終わらせておきたいからな。復興とか時間もかかるだろ?」
「まあ、そうだが……」
一真の力を持ってすれば、そこまで急ぐ必要はない。
しかし、今の一真はどうにも焦っているように見える。
スティーブンは何故、そこまでハワイの解放を急ぐのか気になった。
「それほど急ぐ必要があるのか?」
「言っただろ。合宿に使いたいって」
「それはいつなんだ?」
「まずは俺が行き先を決めて、先生達が会議して、最後に各学園へ通達してからだから、バレンタイン前くらいだったかな」
「まだ先の話だとは思うが、それよりも日本の学校はその時期だと普通に授業があるんじゃないのか?」
「毎年恒例行事らしくて生徒会所属は優遇されてるんだ」
「へえ~。そういうものなのか?」
「俺も詳しくは分からんが、まあ強者ゆえの特権かもしれない」
「なるほどな。でも、今からハワイを解放したとしても合宿までには復興が間に合わないんじゃないか?」
「その辺は問題ない。俺の魔法で合宿に使う場所だけ復興させる」
「魔法はそんな事も出来るのか……」
「俺だからやで!」
「…………そうか」
魔法について知識のないスティーブンは深く考えるのをやめた。
ちなみに一真の言っている事は事実であり、異世界でも賢者と魔王くらいしか同じ使い手はいない。
今はどうなっているか分からないが、一真が異世界から現世に帰還する際には死んだ魔王と賢者以外、万能な魔法使いは存在しなかったのである。
「とりあえず、もう行っても大丈夫そうならさくっと片付けるか」
コキコキと首を鳴らして、準備運動を始める一真を見てスティーブンはふと疑問に思った事を尋ねる。
「……場所は分かるか?」
「……ナビゲーションお願いします」
「了解した」
半ば呆れているスティーブンだが一真の性格を少なからず理解しつつあるので半笑いでもあった。
「地図アプリでこの方角に真っすぐ飛べばいいだけなんだが、ハワイがどれかわかるか?」
「ビルの残骸とか転がってる大きな島を見れば、そこなんじゃないか?」
「そうだ。イビノムに破壊されたが空港などもあるからすぐにわかると思う」
「とりあえず、GPSとかで俺をナビゲーションしてくれ。一応、真っすぐ飛ぶがハワイに着く自信がない」
「まあ、水平線を真っすぐというのは難しいからな。真っすぐに進んでるつもりでも逸れたりするんだ。仕方ない事さ」
「じゃあ、よろしく頼むわ」
「待て」
飛び立とうとした一真の襟首をスティーブンは掴んで止める。
どうして、止めるのかといった顔で一真は振り返った。
「なんで止めるんだ。もしかして、ハワイの解放に反対なのか?」
「ミスター皐月。今の自分の格好を思い出してみてくれ……」
言われて一真は自身を見下ろすがズボンのチャックが空いてるというようなところはない。
何か気になる事でもあるのだろうかと不思議そうな顔で一真はスティーブンを見る。
「……本当に何も分からないか?」
「えっと……うん」
「はあ……。今の格好で空なんて飛んだら大騒ぎだぞ」
今の一真は普段着のままであり、紅蓮の騎士の姿をしていない。
スティーブンの言う通り、今のまま一真がハワイへ飛び立てば、行き交う人々は騒然とし、携帯などで写真や動画を撮ってSNSに投稿したりするだろう。
そうなれば、もう一真は紅蓮の騎士だという事を誤魔化す事が出来なくなる。
「ちょっと、場所を変えようか!」
「君がすぐに紅蓮の騎士だと露見した理由がよくわかるよ……」
一真がもっと賢ければ紅蓮の騎士は未だに謎に包まれた人物だったかもしれないが、彼がおっちょこちょいであったおかげで、こうして縁を結ぶ事ができ、様々な恩恵にあやかれたのだ。
複雑な思いではあるがスティーブンは一真の性格に感謝するのであった。
それから、一真はスティーブンの忠告に従って、
監視カメラなどはスティーブンの方で上手く処理してくれるので一真は心置きなく、その場を飛び立ち、ハワイへ一直線に向かう。
アメリカを飛び出し、空と海の狭間を飛ぶ一真は真っすぐに進むが、僅かに進路から逸れ始める。
携帯で一真の位置をリアルタイムで確認していたスティーブンは進路から少しずつ逸れてきている事にいち早く気が付いた。
「ミスター皐月。聞こえるか?」
通信機越しにスティーブンは一真へ話しかける。
『おう。聞こえる。もしかして、進路ずれてた?』
パワードスーツに搭載されている通信機から聞こえてくるスティーブンの声に返答する一真。
「少しずつだがずれてきている。少し左に修正してくれ」
『あいあい』
スティーブンの指示に従いつつ、一真はハワイを目指す。
程なくして一真はハワイに到着し、空港らしき廃墟へ降り立った。
「ここであってるか?」
『ああ。そこだ。その辺一帯は全部ハワイだから好きに暴れてくれて構わない。どうせ、君が色々と直してくれるんだろ?』
「ふふ、随分と俺の事が分かってきたじゃないか。一回更地にした方が後で色々とやりやすいからな! 好きにさせてもらうぜ!」
『島を沈めないでくれよ……』
スティーブンの心配をよそに一真は廃墟に住み着いている大型から小型のイビノムを一掃していく。
蟻のように次から次へと巣から飛び出してくるが一真にとっては何の脅威でもない。
イビノムの巣窟に単身で乗り込み、進化しようとしていたイビノムを粉砕し、指揮をしていたと思われる女王型のイビノムを一撃で沈めた。
「う~ん。さっきのって新種だったんだろうか……?」
考えても仕方がないので一真は新種と思われる女王型のイビノムの死骸を回収し、土魔法で巣を完全に埋め尽くした。
そうこうしている内に島内にあったイビノムの巣は全て破壊し、元の形へと戻っていた。
「次は海か~」
厄介なのが海だ。
地球の半分以上が海水であり、未だに海中のイビノムは健在である。
船の旅は出来ない事はないが危険が伴い、強力な異能者が同伴していなければ行えないものとなっている。
それでも命懸けのようなもので海に引きずりこまれてしまえば、たとえキングや覇王といった異能者でも命はない。
それゆえに誰も海中のイビノムまでは手が出せないでいた。
「とりあえず、ハワイの近海を解放して、魔法陣で守るか」
とはいえ、海中でも問題なく動ける一真には関係ない。
パワードスーツ及びに魔法で水中の呼吸を可能とし、水圧を打ち消す。
深い場所へ突き進んでいく一真に襲い掛かるサメ型のイビノム。
大きな口を開けて一真を丸呑みにしようとするイビノムであったが、一瞬でバラバラにされ、海の藻屑と化した。
そのままイビノムのバラバラになった死骸を放置して先へ進もうとしたが、イビノムは環境汚染につながる生物だという事をなんとか思い出した一真は慌てて回収しに向かう。
血の一滴まで消さなければいけないはの非常に面倒であるが、一滴でも残してしまえば、そこから新たなイビノムが生まれてしまうかもしれないのだ。であれば、血の一滴も見逃せない。本当に厄介な生き物である。
「(宇宙から飛来した謎の生物。なぜ、宇宙からそんなものが来たのか……。未だに分からずじまいか)」
海中に潜んでいるイビノムを一匹残らず一真は駆逐していき、確実な安全を確保しつつ、地面に魔法陣を刻んで、イビノムという脅威をハワイに立ち入らせないようにしていく。
数時間ほどで全ての工程が完了し、ハワイの完全開放が紅蓮の騎士によって成し遂げられるのであった。
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