第47話 器物破損罪だ!
『待たせてしまってすまない。ミスター皐月。ハワイ解放の件についてなんだが、こちらとしても有難い。だから、一旦、詳しく話さないか?』
「詳しく話すって?」
『そうだな。たとえば、ハワイだけを解放するのか、それともハワイを含めた近海を解放するのか、そういった事を話したい』
「あー、はいはい。なるほど。そう言う事ね」
一真はアメリカが邪な事を考えているのだけは分かった。
かといって、今更断るような事はしない。
そもそも一真からの提案でもあるし、スティーブンへの借りを返す為でもある。
体よく利用されたとしても一真に不利益がなければ大きな問題はない。
一真も日本人ではあるが、だからといって何でもかんでも日本の為に働くとは限らない。
『気に障ったかね?』
「別に。アメリカがどう考えてようと俺は気にしない。でも、降りかかる火の粉は振り払うよ、俺は」
『OK。了解した。ハワイ解放の件なんだが実は大統領が君に会いたいと言ってるんだ。話し合いの場には参加しても大丈夫かな?』
「マジ? 大統領来るの?」
『ああ。勿論、大統領だからって気にしなくていい。紅蓮の騎士は
「やけに煽てるな~。悪い気はしないが何か企んでるんじゃないかと邪推しちまうぜ」
『ハハハハ。神に等しき紅蓮の騎士に媚を売るのは当然じゃないか』
「宗教はお断りなんだがな。まあ、いいよ。大統領がいても問題はない。いつなら話せる?」
『本来なら時差を考慮しなければいけないんだがミスター皐月なら関係ないだろう。そちらの都合にこちらが合わせよう』
「それなら今からでどうだ? 俺は明日休みだから夜更かししても支障はない」
スティーブンは現在休暇中であったが一真からの要望とあっては断る事は出来ない。
とはいっても、元々急ぎの案件だと言っていたのでスティーブンも休暇を返上する事を視野に入れていたので、今からでも特に問題はなかった。
『OKだ。大統領に連絡するから、10分後に俺のもとへ来てほしい』
「わかった。10分後にそっちに行く」
それから、一真は服装を整えてからきっちり10分後にアメリカへと転移する。
何度か来た事のあるビルに転移した一真はスティーブンに到着した事を伝え、待ち合わせ場所の住所を受け取ってから移動した。
「スティーブンだけか?」
待ち合わせ場所にいたのはスティーブンだけで他には誰もいない。
普段ならばアリシアくらいはいるだろうと思っていた一真は不思議そうにしていた。
「ああ。今、お姫様は沿岸部に現れた大型イビノムの相手に忙しくてな。キングは逃走犯の追跡中だ」
「そっか~。二人はいないのか~」
「まあ、ハワイ解放の件は後で伝えるから、またすぐに会う事になるさ」
「それもそうだな」
キングとアリシアに会えない事は残念であるが、転移魔法を持つ一真ならばいつでも会える。
それにハワイを解放すれば、十中八九二人もバカンスに来るだろう。
なら、今は会わなくても寂しい事はない。
「さ、それじゃあ、行こうか」
「どこに行くんだ?」
「大統領に会うんだ。行く場所なんて決まってるだろ?」
「ホワイトハウスか! そりゃ楽しみだな!」
ホワイトハウス。アメリカの大統領が執務を行う公邸だ。
一般人でも耳にした事があり、目にした事もあるだろう。
イビノムが現れる前は敷地内の庭を見学する事の出来るツアーも開かれており、定番の観光スポットだ。
だが、内部まで入った者はごく僅かであろう。
それこそ一般の日本人などいないのではないだろうか。
そのような場所に自称一般人である一真は足を踏み入れる事が出来るのだ。
テンションが上がってしまうのも無理はないだろう。
「……俺が飛んでいく方が早くない?」
「いや、まあ、そうなんだが……。紅蓮の騎士がホワイトハウスに飛んで来たら外交問題になるだろう?」
「むう……。そうかもしれんが……」
「まあ、少しの辛抱だ。すぐに着くから、それまで寛いでいてくれ」
VIP待遇である一真はスティーブンが用意していたリムジンに乗り込み、用意されていたジュースを口にする。
「もしかして、これ日本から取り寄せた?」
「当然。ミスター皐月の口に合うのは、やはり日本製しかないだろう?」
「わざわざ、そこまで気を遣わんでもいいのに……。でも、ありがとさん」
日本のお菓子やジュースを口にしつつ、一真はホワイトハウスに向かうまでの道中、スティーブンと日本のお茶菓子について大いに盛り上がった。
そうこうしている内に目的地に到着したので二人は話を切り上げて、リムジンを降りていく。
「おお~、ここがホワイトハウス!」
「そうさ。ここにアメリカのトップがいるんだ」
「アメリカのトップ! 昔だったら絶対に会う事のなかった人物だぜ……」
「まさか、緊張してるのか?」
「んにゃ、全然。異世界で人類最後の王様とかに会ったし、魔王にも会ってるから特にはなんも感じないな」
「比較対象がおかしい……。まあ、確かに人類最後の王や魔王に出会えば大統領なんて比べ物にならないか……」
アメリカの大統領も十分に偉大な存在ではあるが、人類最後の王と魔王に比べたら、矮小なものに見えてしまうのもおかしくはない。
だが、どちらかが偉いとかそういった事は一切ない。
どちらも偉大であり、高尚な存在である事は違いないのだから。
「さ、大統領が待ってる。中へ入ろうか」
「お邪魔しま~す」
気の抜けるような声で一真はスティーブンの後へ続き、ホワイトハウスへと足を踏み入れた。
初めて入るホワイトハウスに一真はテンションを上げ、キョロキョロと首を動かしていると、いつの間にか大統領が待っている部屋へ辿り着いた。
「随分と早いな……」
「真っすぐに来たからな。さ、待望のご対面といこうか」
開かれた先にいたのはニコニコと満面の笑みを浮かべている大統領が両手を広げて待ち構えていた。
「やあ! 初めまして、紅蓮の騎士! いや、ミスター皐月と呼んだ方がいいかね?」
中へ通された一真はまず大統領にお近づきの印とばかりに力いっぱいハグされ、離れると握手を求められた。
「今回はハワイ解放の件でお話に参りました。お初にお目にかかります。紅蓮の騎士こと皐月一真です。好きに呼んでもらって構いません」
「ハハハ、君も日本人らしいな。とても礼儀正しく、真面目だ。アメリカ人じゃないのが残念でならない」
紅蓮の騎士がアメリカの異能者であればよかったのにと愚痴を零しつつ、大統領は一真をソファに座らせる。
「さて、自己紹介も済んだことだし、早速本題に入ろうか」
大統領はスティーブンからハワイ解放の資料を受け取り、中身を確認してから一真へ渡す。
「ハワイ解放の件についてだ概ねそこに書いてる通りにしてもらえると嬉しい」
「では、失礼して」
一真は受け取った資料を読んでいく。
最初は英語で書かれていたが日本語に訳されたものが後半にあり、一真は資料を確認していき、大雑把に内容を把握した。
「ハワイと近海を解放して、アメリカまでの安全な海路を確保ですか」
「うむ。空路はキングがなんとか出来るが、海路はほぼ異能者がお手上げ状態だ。出来れば、ハワイまでの安全な海路を確保してもらいたい」
「ハワイの解放についてはスティーブンへの謝罪も込めてやらせてもらいますけど、ハワイまでの海路の確保は流石に俺一人で決める事は出来ませんね。一度、この資料を持ち帰らせて頂いても?」
「(ふむ。流石にそこまでは無理か。結構なお人好しと伺っていたが、そこまで甘くはないらしい。政府と手を組んでいる以上、彼に知恵を授けている者もいるのだろう)」
スティーブンから一真の人柄について聞いていた大統領は素直に引き下がる事にした。
お人好しだとは聞いているが、そこまで都合のいい人間ではなかった事を知れだけで十分だ。
ただ、本音を言えばもう少し頭の緩い人間であって欲しかった。
とはいえ、ハワイに加えて周辺諸島にハワイ近海を無償で解放してくれるのだから、それ以上は高望みというものだろう。
「なるほど! ハワイを解放してもらえるだけ有難いものさ! 人員はどうする? 必要かね?」
「そうですね。建設業や通信業にあとは……ホテルマンとか派遣してもらえないですかね?」
「ああ。スティーブンから聞いている。なんでも親交を深める為にオリエンテーションでハワイを使いたいとの事だと」
「はい。それでどうですかね?」
「構わんよ。ハワイの復活は全世界の住民が望んでいる事だ。いくらでも投資しようじゃないか!」
「気前が良くて助かります」
「ハッハッハッハ! なあに、それくらい安いものさ」
実際にハワイ奪還の費用を考えれば、とんでもないくらい安い。
人件費どころか安全はもう保証されたようなものでアメリカとしては復興費用にお金と時間がかかるだけで、苦労するような事は一切ないのだ。
であれば、一真が欲している人材の派遣費用など大統領のポケットマネーでも十分に事足りる。そうと分かれば笑うしかないだろう。
「それじゃあ、さくっと片付けてきますわ」
そう言って立ち上がる一真は指を鳴らすと、周辺の電子機器をすべて破壊した。
「盗聴、盗撮はご遠慮くださいね」
「…………肝に銘じておこう」
念のために仕掛けておいた盗聴器、盗撮カメラはすべて一真の魔法によって破壊された。
しかも、最新鋭のものばかりで極小、極薄で決して人が感知できるようなものではない。
いとも容易く見抜き、部屋に隠されていた全ての盗聴器、盗撮カメラを一瞬で破壊する一真に大統領は冷や汗が止まらなかった。
「待て。ミスター皐月」
「なんだ? スティーブン。もしかして、弁償しろとでも言うつもりか?」
「いや、違う。ハワイを奪還しに行くのは問題ないが時差がある事を忘れてないか?」
「……五時間だっけ?」
「ハワイと日本の時差は19時間だ。日本の方が先に進んでるから、今行けば深夜だぞ」
「……ちょっと、アメリカを観光してから行こうかな!」
その言葉を聞いて大統領は、一真は脅威ではあるが、やはり知能は高くないので扱いやすいかもしれないと判断するのだった。
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