第46話 Win-Winだね!

 生徒会長の引継ぎ作業も終わり、一真は宗次と隼人の三人でグランドワンに来ていた。


「何からして遊びますか?」

「そうだな~。定番のボウリングはどうだ?」

「僕は二人に合わせるよ」

「それじゃ、ボウリングからにしますか」

「おう!」


 という訳でボウリングの受付に向かい、一真達は男だけのボウリング大会を始める。


「ただボウリングするだけじゃつまらねえよなぁ!」

「そうっすね! 何を賭けます!?」

「ええ~、普通にしようよ~」


 隼人が賭けなどせずに普通にボウリングを楽しみたいと抗議するも二人は聞く耳を持たず、賭けボウリングを始めてしまう。


「それじゃ、好きな人を言うってのはどうですか!」

「いや、俺には蒼依がいるし」

「僕も詩織がいるから」

嫉妬shit!!!」


 英語のクソと嫉妬を掛け合わせた高度なツッコミをする一真。

 ド定番の賭けであったが隼人と宗次には意味が無かった事を理解した一真は次の提案を出す。


「じゃあ、新旧生徒会のオリエンテーションで一発ギャグやりましょう」

「負けられねえなぁ!!!」

「ちょっと本気を出そうかな!!!」


 何故か、すでに承諾された事になり三人は本気で勝負する。

 が、腹立たしい事に基礎スペックが異様に高い一真はパーフェクトを出し、宗次と隼人の一騎打ちになってしまう。


「これ、賭けにならないからやめないか?」

「そうだね。一真君がプロだから無効だね」

「いや、俺はただの学生じゃないっすか! 今更、賭けは無しだなんて卑怯っすよ!」

「うるせえ! 年上の言う事は素直に聞いとけ!」

「僕達は先輩で君は後輩! こういう時は先輩の意見が尊重されるんだ!」

「とんでもねえ理論っすよ!」


 結果的に賭けは有耶無耶になってしまい、オリエンテーションでの一発ギャグはなくなってしまった。


「で、次は何をしますか?」

「う~ん……。カラオケはどうだ?」

「ちなみに一真君、カラオケの腕前はどのくらい?」

「人並みだと思います」

「信じれるか?」

「なんでもそつなくこなすし、下手をしたらプロレベルのものまであるから見てみない限りは信じられないね」

「同感だ。カラオケで勝負するのは点数を見た後からだな」

「それがいいね。よし、一真君。カラオケで勝負だ!」

「じゃあ、先程のボウリングを有効にしてくれるなら乗りますよ。その挑発に」

「健全に遊ぼうか! な、隼人!」

「うん! 賭け事なんて碌なものじゃないね、宗次!」


 一真の歌唱力が不明な内は勝負しない方がいいと判断した二人だったが、ボウリングの件を蒸し返されると勝ち目がなさそうなので最初から勝負しない方向にシフトチェンジした。


「まあ、なんでもいいっすけどね……」


 カラオケのあるフロアへ移動し、一真達は勝負する事なく、普通に歌って踊って盛り上がった。

 ちなみに一真は可もなく不可もなくの点数で、これなら勝負していれば勝てたかもしれないと隼人と宗次はほんの少しばかり後悔するのであった。


「いや~、遊んだ、遊んだ。楽しかったぜ!」

「俺もっす! また遊びましょう!」

「じゃあ、この辺りで解散しようか。もう、そろそろ日も暮れるし」

「だな。名残惜しいが予約してるホテルに行くとするわ」

「あ、ホテル予約してたんすね。泊る所がなかったらウチに呼んだのに」

「それは面白そうだが、もうホテルを予約してあるからな。また今度頼むわ」

「うっす!」


 そういう訳でここで男子会は解散となる。

 隼人はこの後も用事があるとの事なので先に帰り、一真は宗次と二人で駄弁りながら帰路につく。


「ここら辺って銭湯とかないのか?」

「ありますよ。入っていくんです?」

「ちょっと、早いけど入ってから帰らないか?」

「でも、着替えとかないですよ」

「あ~、そうだったな。どうっすか……」


 着替え用の下着もなく、手ぶらなので銭湯に行きたくてもいけない。

 どうするかと二人で悩んだが、裸の付き合いはまた今度にしようと決めて、解散するのであった。


「また今度にするか」

「そうっすね。今日は帰りましょうか」

「おう!」


 そう言って二人は談笑しながら和気藹々と夕日に向かって歩いていく。

 宗次はホテルへ、一真は寮へ、それぞれ分かれて帰路についたのである。


 ◇◇◇◇


 一真は夕食を済ませ、風呂に入った後、スティーブンに電話を掛けた。


『もしもし。君から連絡なんて珍しいじゃないか? どうしたんだい? ミスター皐月』

「実はスティーブンに頼みというか、大事な話があってな。今、大丈夫か?」

『ああ。問題ない。今は休暇の最中だからな。それで大事な話ってのは?』

「ああ。以前、俺がスティーブンに洗脳されてないかを確かめるからって電撃を浴びせただろ? お詫びに俺がお願いを一つ聞くって話があったじゃないか?」


 以前、桜儚がイヴェーラ教の教祖、神藤真人から逃げ延び、アメリカに保護されていた時、紅蓮の騎士と面会を求められた際、一真はスティーブンが洗脳されてないか確かめる為に電撃を執拗なまでに浴びせたのだ。

 しかも、その際、一言もなく突然に電撃を浴びせてしまい、スティーブンに拷問じみた真似をした。

 その事を謝罪する意味も込めて、一真はスティーブンと約束をしたのだ。

 自分が叶えられる範囲でなら、なんでも言う事を聞くと。


『もちろん。覚えてるとも。それがどうかしたかい?』

「それでなんだがハワイの解放とかどう?」

『What?』


 スティーブンは最初、一真が何を言っているのかを理解出来ず、思わず聞き返してしまう。


「だから、ハワイの解放とかどうかなって」

『……あ~、ちょっと待ってくれ。少し、考えさせてほしい』

「わかった。でも、早めに考えてくれないか?」

『なぜ? 急ぎの用事でもあるのか?』

「ああ。実は生徒会長になったんだが、新旧生徒会の親交を深めるオリエンテーションがあるんだが、ハワイを使わせてもらえないかなと思ってな。それでスティーブンのお願いもついでに叶えられないかと思ったんだ」

『なるほど……』


 スティーブンは一真の話を聞いて考える。

 彼の提案はとても魅力的だ。

 紅蓮の騎士が無償でハワイの解放をしてくれる。

 すでに沖縄と周辺諸島が紅蓮の騎士によってイビノムから解放され、観光地として蘇っている事をスティーブンは知っている。

 ハワイも同じように周辺諸島が解放されればリゾート地として、また新たな資源の回収先として利用出来るのだ。

 アメリカにとっても非常に嬉しい提案ではあるのだが、それはスティーブンのお願いではない。

 出来れば一真が自主的にハワイを解放し、尚且つスティーブンの願いを聞いてもらえるのが最高の結果につながる。


『(しかし、そんな事をすればミスター皐月からは軽蔑されるだろうな~。多分、彼はハワイを解放すればアメリカが喜んでくれる、そして自分もハワイで遊べる。一石二鳥でどちらもWin-Winだと信じてるからこそ、俺に提案してくれてるんだろう……。それを裏切るような真似をしたら、きっと縁を切られてしまうかもしれない)』


 非常に悩ましい問題ではあるが、やはり一真に嫌われてしまい、紅蓮の騎士との縁を手放す事は出来ないと判断し、スティーブンは一度大統領に電をすると言って電話を切った。


『何かね?』

「大統領。良いニュースと悪いニュースどちらから聞きたいですか?」

『ハハハハ。面白い事を言うね。では、悪いニュースから聞こうか』

「以前、紅蓮の騎士と交わした私のお願いを聞いてくれるという約束はなくなりました」

『私の許可なく使ったのかね?』


 スティーブンが紅蓮の騎士と約束している事を大統領は知っており、いざという時の切り札にしていた。


「いえ、向こうが提案してきたんです。ハワイの解放を」

『なるほど。それが良いニュースという訳か……。察するにそれでチャラにしてもらえないかと言う事かね?』

「そう言う事でしょう。まだ詳しくは聞いていませんが、これから詳細を詰めていくつもりです」

『ふむ……。できれば、私もその場に参加したいのだが出来そうかね?』

「問題はないと思いますが、一応聞いておきます」

『よろしく頼んだよ』


 それから大統領との通話を終えてスティーブンは一真に電話を掛けなおし、ハワイ解放の件について詳しく話し合うのだった。

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