第44話 きっと泣いて喜んでくれるに違いない!
しかし、どうしたものかと一真は頭を悩ませる。
その場の勢いで告白されてしまったが、二人からの好意はとても喜ばしい事だ。
常日頃から彼女が欲しいと一真は嬉しい半面、非常に複雑な気持ちを抱いている。
何せ、先程も言ったように後輩としては慕われていたのだろうが異性として慕われているとは思ってもなかった。
とはいえだ、やはり自分を好いてくれている女性が目の前に四人もいると、思わず顔がにやけてしまう。
「げっへっへっへ……」
「一真。時と場合は考えた方がいいぞ」
流石にこの空気でそれはないと宗次が一真を窘めた。
「あ、はい……。いや、彼女が欲しいとかよく言ってましたけど、実際、こう告白とかされるとどうすればいいのか分かんないすね!」
「お前、さっきプロポーズを秒で受けてたじゃねえか」
「確かに! 先輩方! 俺で良ければ付き合いましょう!」
もう少し、ムードというものがあるだろう。
その場のノリで軽く決めないでもらいたいが、それでこそ一真だ。
生徒会室にいた他の男子生徒はは「あちゃ~」と手で顔を覆い、一真の失態を見て見ぬふりをする。
「一真。そういう所がダメだと思う」
「もしかして、やらかした?」
「うん。最悪だと思う」
「や、やり直しを求めます……」
楓に指摘され、一真は雪姫と火燐に告白の返事をやり直そうとしたが、完全に呆れられてしまい、蔑んだ目で見られる。
「…………よし! 一旦、この話はなかった事にしましょう!」
挽回できそうになかったので一真は今回の話を有耶無耶にする事に決めた。
当然、一真に気持ちを伝えた四人は不服そうにしていたが、意中の相手に愛想をつかれたくないと受け入れる事にした。
「まあ、今回は事故みたいなものだからね……。いつかきちんと正式に告白するわね」
「うっす……」
お互いに気まずい空気になってしまったが告白については無かった事になり、一真は難を逃れる。そして、同時にハーレムルートも潰してしまうのであった。
生徒会の引継ぎ作業が終わり、解散かと思われたがまだ業務連絡が残っているとの事で一真達は生徒会室に残る。
「さて、生徒会長は一真君に決定したけど、残りのメンバーも決めないとね」
「え? まだ決まってないんですか?」
「そりゃだって、生徒会長決定戦だからね。生徒会メンバーはまだ未定だよ」
「どうやって決めるんです?」
「君が選んで、生徒の信任投票だね。まあ、ほぼ当選するけど」
「じゃあ、副会長に火燐先輩、書記に雪姫先輩、会計に楓、庶務は俺が兼任で!」
「男いなくて大丈夫? 女子ばっかりだと針の
「庶務に大我先輩で!」
隼人の一言により一真はハーレムな生徒会をやめて、第七異能学園で屈指の実力者が集まる事になった。
「信任投票は君が持つ生徒会長専用デバイスから出来るようになってるから、今すぐにでも出来るよ」
「めっちゃ便利っすね! 早速、やってみます!」
というわけで一真は生徒会長専用デバイスを操作して、生徒会メンバーの信任投票を始めた。
生徒達が持つデバイスへ一斉に送信され、あとは投票が終わるの待つだけで、集計結果は勝手に公表してくれるようになっている。
「すげー! 初仕事がこんなに簡単でいいんすかね?」
「全然いいと思うよ。僕も会長に就任した時も同じように生徒会長決定戦で上位に残っていた生徒から選んでたから問題ないと思う」
「ちなみになんですけど、過去に不信任とかあったんです?」
「あるよ、勿論ね。実力は伴っていても人格がダメとかでね」
「そういうの分かるものなんです?」
「匿名の投票だからね。その人に対して不信感を持っている人達が結託するんだよ」
「もしかして、生徒会長も辞めさせる事が出来るんです?」
「当然さ。人格破綻者が生徒会長なんてダメでしょ?」
「でも、それじゃ生徒会長決定戦なんて意味がなくないですか? だって、その学園の最強が生徒会長になるんでしょ? 人格破綻者だろうと生徒会長になれる制度になってるのに、やっぱり貴方は相応しくありませんて、そんなのおかしくないすか?」
「おかしくないよ。国会でもやってる事じゃないか」
そう言われると何も言えなくなる。
生徒会長はその学園の最強である生徒がなるのが理想となっているが、だからといって、隼人の言う通り人格破綻者がなってもらっても困るのだ。
学園の代表にして顔でもあるのだから、品格と実力の二つを求められるのは当然である。
ちなみに一真は意外と品行方正な生徒として認識されている。
確かにお調子者であるし、暴走して周囲に迷惑をかけてしまう事もあるのだが、不思議な事に校則も法律も破った事がなく、教師陣も頭を抱えているが、限られた自由の中で最大限に楽しんでいる一真は素直に認められていた。
「う~ん。まあ、確かに不信任決議とか国会でもやりますもんね」
「そう。だから、おかしくはないんだよ。まあ、生徒会長が不信任でやめさせられちゃうと色々と大変なんだけどね……」
「聞かない方がいい感じです?」
「学園側としても大変だし、後任選びも面倒だし、何よりも学園自体の評価が下がって国からの支援とか就職先が減ったりとかで本当の本当に大変なんだ……」
「それはマジでやばいですね……。あれ? でも、今年は就職率高くなかったっすか?」
「過去最高だね。特に国防軍とか凄いよ。毎年、枠が決まってるんだけど、ほとんどが第七異能学園の生徒なのさ!」
第七異能学園からの入隊が増えた理由は、やはり夏休み前に起きた人型イビノムによる災害が大きい。
あの災害のおかげで第七異能学園の生徒は他の学園生よりも強さに貪欲であり、向上心が高く、また大切な人を守ろうとする意志が強いのだ。
「なるほど……」
ちなみに一真が鍛えた学園対抗戦の代表メンバーは幹部候補生となっている。国防軍は学歴よりも実力を重視するので当然の結果であった。
「と、余計な話はここまでにしてまずは各学園の新旧生徒会によるオリエンテーション合宿について話そうか」
「おおー! 待ってました!」
「一真。残念ながら、そんなに楽しいもんじゃないと思うぞ?」
「え……? それはどういう意味なんですか、宗次先輩!」
「各学園の新旧生徒会の親交を深めるための合宿なんだが、学園対抗戦で優勝した学園のあるエリアで行われるんだ。ここまで言えばわかるな?」
「つまり、この第七エリアでやるって事ですか!?」
「そうだ。お前は恐らく、旅行にでも行ける感覚だったんだろうが、残念ながら第七エリアのどこかだ。一応、合宿先を選ぶ権限はお前が持ってるけどな」
「え!? マジっすか!」
「うん。それも言おうと思ってたんだけど、宗次に全部言われちゃったね」
宗次と隼人の話を聞いて一真は天啓を得たかのように顔を輝かせる。
当然ながら、未だに生徒会室に残っていた桃子は一真の表情を見て、嫌な予感が頭をよぎるも止める事が出来ず、生徒会メンバーへ心の中で合掌するのであった。
「(合宿先を選ぶ権利が俺にあるって事は第七エリアじゃなくてもいいんじゃないか!? 前例がないなら作ればいい! 最悪、慧磨さんに頼めばなんとかなる!)」
使えるものはなんでも使うのが一真だ。
自身が持てるものの中で最大限の力を発揮してくれるであろう首相こと苦労人の慧磨を一真は巻き込む事を決めたのである。
「(いや、しかし、待てよ? 今は冬だ。どうせなら、ビーチの眺めるスポットではしゃぎたい! ハワイかグアム……! そういえば、両方ともイビノムの巣窟になってた!)」
どちらも昔は世界的有名な観光地であったのだが、イビノムの襲来により、破棄され、汚染されてしまい、今ではイビノムの巣窟となっており、どの国も近づけず、迂闊に手が出せない状況となっている。
「(ちょっと、後でスティーブンに電話しよ。いや、まず先に慧磨さんかな? でも、以前スティーブンに貸しを作ったから、ハワイ解放で手を打ってもらおうか。そうしよう! それがいい! ハワイをイビノムから取り戻せばアメリカも喜んでくれるに違いない!)」
一真の頭の中では
その未来を確信した一真はうんうんと頷き、一人満足そうに笑っている。
突然、黙ったかと思いきや、ニコニコと笑っている一真を不気味に思う生徒達の中、心を読んでいる桃子は急いで慧磨にメールを送るのであった。
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