第43話 やっぱり、勢いとタイミングは大事だよね!
ほとんど何も考えず、脊髄反射かと思えるくらいに一真が楓からの申し出を受け入れたが、流石にそれはアウトだと周囲の人間が止めに入る。
「ちょ、ちょっと待って! いくら何でもそれは流石に早計すぎるんんじゃないかな~!」
「そうですよ! 恋愛というのはもっとこうお互いの事を知って、一歩ずつ距離を詰めていくのが正しいと思います!」
「私は別に構いまへんけど? 一真はんが望むならその子も娶ればいいだけですし」
「えっ!? ハーレムを築いてもいいんですか!?」
火燐、雪姫の介入など知った事ではないと無視して一真は弥生の提案に心躍らせる。
「一真はん。日本も一夫多妻制を導入してもう何十年、何百年となります。人口が増えてきたとはいえ、まだまだイビノムの脅威は消えず、毎年何万人もの犠牲者が出とるんです」
「え、あ、そうですね」
「せやから、力のある男が複数の妻を持つ事は義務であり、使命でもあるんですよ?」
「そ、そうなんですね?」
「勿論、ハーレム言うてもそう簡単には出来ません。男側の甲斐性や経済面に人格など色々と問われますから」
「へ、へえ……」
「でも、そこはご安心を。私がしっかりサポートしますので」
「つまり?」
「結婚しましょ」
「喜んで」
「アホかーッ!」
考える事をやめた一真は弥生からのプロポーズを受託し、婚姻が結ばれようとした時、どこからともなく現れた桃子が一真の頭を叩いた。
「も、桃子ちゃん!」
「
「何って……結婚?」
「結婚? じゃないですよ! そんなノリで決めていいんですか? 彼女は貴方の事を道具としか見てないんですよ!」
桃子の言いように弥生もムスッと顔を顰める。
「それは失礼とちゃいますか? 私はきちんと一真はんを一人の男性としてお慕いしております。いきなり出て来て適当な事を言わないでもらえます?」
「本当に心の底からそう言えますか!」
「勿論どす」
桃子は胸を張って自信満々にしている弥生を睨みつけながら心を読んだ。
「(一真はんの事を男性として好ましく思っとるのはホント。でも、天王寺グループのさらなる飛躍に利用したいとも思っとります。好意半分、打算半分、一真はんを射止める事が出来るならどんな女にだってなってみせるわ!)」
「(好意自体は嘘ではないのですね……! しかし、やはり天王寺グループの発展に一真さんを利用する算段でしたか! そうはさせません! 彼は国の為、国民の為に働いてもらうんです! 天王寺グループの金儲けに付き合わせてなるもんですか!)」
「(はわわわ……! えらいこっちゃ!)」
「(いきな乱入してこないでください!)」
火花を散らし、睨み合う桃子と弥生。
それを見てあたふたとしている一真だったが割と面白そうにしていた。
「はい! 一旦そこまで! これ以上は迷惑というか邪魔になるから撤収よ。いいわね?」
そう言って桃子と弥生の間に割り込んだ詩織は双方を睨みつけて黙らせる。
「も、もしかして副会長も俺の事を!」
「は?」
凍てつくような目つきで低い声を出す詩織に一真も命の危険を感じて素直に頭を下げる。
「あ、すいません。冗談です」
「私は隼人一筋だから。次に同じような事を言ったら脳みそに直接電気を流す」
「うっす」
「それじゃ、片づけの邪魔になるからこの続きはどこか別の場所でしてちょうだい」
未だ会場に残っていた生徒会メンバーは一真の茶番劇が幕を下ろしたのを見届けて、引継ぎ作業の為に生徒会室へ向かう。
一真も生徒会長に就任したので隼人から引き継ぎ作業を行いつつ、未だに居座っている宗次と弥生の相手をする。
「二人はいつ帰るんです?」
「いや~、帰ろうかと思ったんだけどタイミングを逃してな」
「私はこのまま一真はんと帰ろうかと思っとります」
打算まみれではあるが美女からのお誘いを無下にでは出来ない一真はどうしたものかと悩む。
「あのさ、一真君。聞いていいかな?」
「なんすか?」
隼人が聞きたいのは何食わぬ顔でいる桃子の事であった。
先程も、突然乱入してきたが彼女は一体何者なのだろうかと隼人は戸惑う。
一応、情報としては一真と大変仲がいいという事だけで、それ以外は特に表記する事もない、至って普通の支援課の女子生徒だ。
「彼女はどうするの?」
「桃子ちゃんは俺の相棒っすから」
「そっか。相棒なら問題ないね」
一真の返答を聞いて隼人は深く考えるのをやめた。
きっと、これ以上考えても碌な事にはならないだろうからと隼人は淡々と会長の引継ぎ作業を終わらせていく。
「これで引継ぎ終わりなんですか?」
「うん。会長用の特殊デバイスは一真君専用になったから、もう使えるから使ってみて」
「校内スピーカーでラジオ流してもいいんです?」
「いいけど、反省文書かされるよ……」
生徒会長専用の特殊デバイスは校内スピーカに直接アクセスが出来て、校内放送を自由に使える事が出来る。
勿論、他にも生徒の成績の閲覧や素行の調査なども可能で、悪だくみをしようと思えば出来たりする。
「思ったより会長権限ってなんもないですね……」
「まあ、生徒と先生の間に挟まれた中間管理職みたいなものだからね。正直、微妙な仕事だよ」
「世知辛え~」
生徒会長になったところで横暴な事は許されない。
一真は早速会長を辞任したくなったが、一年は続けないといけないので大きな溜息を吐きつつ、頑張る事を決めた。
「まあまあ、嫌な仕事だけど一応色んな特典とかあるんだよ」
「たとえば?」
「そうだね。君が一番喜びそうなのは年に三回のオリエンテーションとして他校との交流会かな」
「もしかして、他県に行けるって事ですか?」
「そうだよ。割と楽しかったりするし、他校の女子生徒にも会えるんだ。一真君ならきっと人気者間違いなしだね」
「会長。俺にどんと任せてください。第七異能学園を最強にしてやります!」
チョロい、生徒会室にいた全員が同じ思いであった。
しかし、桃子は一真が調子に乗って本当に第七異能学園を最強にしてしまうのではないかと内心ドキドキしていた。
何せ、シャルロットと一緒に地獄の鍛錬に突き落とされた桃子は一真の言葉が出まかせではない事をよく知っているからだ。
とはいえだ、腐っても紅蓮の騎士という世界最高峰の異能者が積極的に人材育成をしてくれると言っているのだから、任せてしまってもいいのではなかろうかと桃子は考えてしまう。
そこまで考えたがシャルロットのような犠牲者をこれ以上増やすわけにはいかないと桃子は忘れる事にした。
「アハハハ……。まあ、一真君が全員を指導すれば本当に最強になっちゃうかもね」
「おいおい、勘弁してくれよ。一真だけでも厄介だって言うのに他の奴まで強くなられちゃ困るぜ」
現在、各学園は打倒第七異能学園を掲げており、訓練に力を入れている。
それは去年まで学園対抗戦で二連覇していた第一異能学園も例外ではない。
第七異能学園には学生最強だった剣崎宗次と英雄の秤重蔵がタッグを組んでも倒せなかった怪物がいるのだから。
「ふっ、俺を楽しませてくれる奴がいるだろうか」
「いるの?」
「……可能性だけで言えば如月だけだな」
強者の余裕を見せつける一真を横目にしつつ隼人は宗次に問いかけた。
宗次は隼人の問いに対し、唯一無二の異能、星空ノ記憶を持つ
彼が成長し、軍団規模で過去の偉人や英雄を呼べるようになれば一真も倒せるかもしれない。
ただし、あくまでも可能性の話なので実際に戦ってみない事には分からないだろう。
「ところで向こうは放置してていいのか?」
「俺にだって出来ない事はあるんすよ……」
宗次が指をさしている方向には何やら言い争いをしている女性陣の姿があった。
「一真君は確かにいい男なのかもしれないけど、人格破綻者よ!」
「そうです! たとえ、女性でも容赦なく殴る、蹴るを実行するんです!」
「それは戦闘面についてでは? 普段からもそうなら私も距離を置かせてもらいますが、そうではないんでしょ?」
「ふ、普段は……そうね。言われてみればおちゃらけたり、調子づいたりする事はあっても紳士的に振る舞うわね……」
「普段の言動で勘違いしがちですけど、一真君が意図的に誰かを傷つけた事はないですね……」
弥生に指摘されると火燐も雪姫も強く反論出来ない。
考えてみれば一真の悪い点はお調子者で馬鹿なところと暴走しがちで常識知らずな行動を起こす点だけだ。
しっかりと手綱さえ握っておけばある程度の制御も可能なので、それ程悪いという事はない。
そして、一真の魅力は何よりも戦闘系の異能者であろうと分け隔てなく接してくれるところだ。
無論、それは一真が圧倒的強者ゆえにこそ出来る芸当なのだが、元より勇者として選ばれる素質を持っていたので、きっと今のような力がなくとも彼女達の事を一人の女性として扱っていただろう。
「そもそもお二人さんはどういうつもりで私に意見をしとるんです? そちらの槇村さんという方が意見を申し立てるなら分かります。同じ男を取り合う関係ですし。でも、お二人さんは? これがただのお節介ならええ迷惑です」
「そ、それは……」
「……その」
弥生の言葉は鋭利なナイフのようにグサグサと二人の胸に突き刺さる。
彼女の言い分は正しく、雪姫と火燐は一真と先輩後輩の関係であり、師弟の間柄でもあるが、他人の恋路に口を挟めるようなものではない。
しかし、しかしである。
慕ってはいないが好ましく思っているのは事実で、現状で一番好感度の高い男である事は間違いなし。
かといって、
「なんとか言ったらどうなんです?」
反論も出来ないし、文句も言えない。
恋敵の立場ならば違ってくるのだろうが、今の二人では弥生に物申す権利はなかったのだ。
「雪姫、こうなったら腹を括るしかないわ」
「え! でも、流石にこんな場所でなんて……」
「躊躇ってる場合じゃないわ! というか、もうここまで露骨にしたら皆気づいてるでしょ!」
弥生に何も言い返せずに沈黙していた火燐だったが、もう後には引けず、自身の胸の内に秘めていた思いを晒すしかないと腹を括る。
そもそもの話、ここまで弥生に口出ししていたのは少なくとも一真に気があったからだ。
この茶番劇を見ているほとんどの人間がすでに察している事だろう。
ならば、これ以上グズグズと文句を言うよりも心の内を明かし、開き直るほかない。
「私も! 一真君が好き! だから、一番を譲りたくないの!」
「右に同じく、私も一真君の事を好きです!」
「ふっ、最初からそう言えばいいものを……」
やれやれと肩を竦める弥生に顔を真っ赤にしている火燐と雪姫。
そして、当事者でありながら気にも留めていなかった一真は二人のカミングアウトに目を丸くしていた。
「マジっすか?」
「一真君、気が付いてなかったの?」
どれだけ鈍いのだろうかと呆れつつある詩織。
一真は確かにある程度なら相手の感情も読み解けるが、万能というほどではない。
「いや、後輩として慕われているとは思ってましたよ? でも、男として慕われてるとは思ってもなかったっす」
「そこまでは分かってたのね。まあ、でも、その辺はあの子達も隠してたから仕方ないか。ただ……こんな形で思いを知られたくなかったでしょうね……」
どうせなら、もっといい雰囲気で告白したかったが、なりふり構っている場合ではないと判断しての事だった。
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