第42話 あまりにもチョロすぎる
◇◇◇◇
生徒会長決定戦があっさりと終わり、生徒会長は予想通り一真となった。
生徒会長になった一真は一番最初の仕事して優勝スピーチを行う事になる。
「明日から女子生徒は全員ミニスカだ!!!」
大ブーイングである。
女子生徒達から嵐のように罵詈雑言が飛び交い、一真を襲う。
しかし、一真は誹謗中傷、罵詈雑言など効かないのでへっちゃらな顔をして、満足そうに頷いていた。
「一真君。生徒会長にそんな権限はないからね」
元生徒会長である隼人が一真に容赦のない現実を突きつける。
「え!? じゃあ、どんな権限があるんですか!?」
「生徒の成績を閲覧出来たりする程度かな……」
「そ、そんなのいらんわ! 他には何かないの?」
「ある程度の裁量権はあるけど学生の範疇だから、そこまで強くはないかな。でも、一般の生徒より強いのは確かだよ」
「じゃあ、制服の改造くらいは許してくれてもいいんじゃね?」
「要望としては受け入れられるけど、会議で通るかどうかだね」
「女性生徒全員ミニスカ計画はダメなんですか!? 男子生徒のやる気と向上心にモチベーションが上がると思いますよ!」
「まあ、上がるだろうね……」
悲しいかな。
男という単純な生き物は下半身に直結しているのが大半だ。
一真の言う女子生徒全員ミニスカ計画が成功すれば、少なくとも一部の男子達はやる気を出すだろう。
当然、その中に一真も含まれている。
だが、大きな代償が伴う事もまた事実である。
有り体に言えば女子から非難を浴び、蔑まれた目で見られる事になるだろう。一部の人間にはご褒美かもしれないが。
「だったら、やるべきですよ!」
「モラルがね……。あるんだよ」
「何がモラルだ! そんなもん破ってなんぼじゃい!」
「……歴代で最も破天荒な生徒会になりそうだ」
一真が生徒会長のもと、作られる生徒会はさぞ愉快なものになるだろう。
それだけはこの場にいた全員が確信するのだった。
優勝スピーチも終わり、生徒会長決定戦は幕を下ろした。
観戦していた生徒は興奮冷めやらぬまま帰宅していく中、来賓者達は優勝した一真のもとへ集まる。
「何すか、これ?」
一真は荒縄で縛られており、女子生徒の代表として楓、雪姫、火燐によってタコ殴りにされていた。
異様な光景であるが優勝スピーチで女子生徒全員ミニスカ計画を宣言した一真が悪いので当然の報いである。
「君にお客様が……来てるんだけど……」
「はあ。お客様って誰ですか?」
隼人の後ろに立っていたのは紅蓮の騎士が現れるまで国内最強と言われていた真田信康だった。
「こうして顔を合わせるのは初めてだったね。私の名は真田信康。株式会社サムライの経営者だ」
「あ、どうも初めまして。皐月一真です。真田さんのお噂についてはかねがねから伺っております」
「……壇上で見たよりも随分と礼儀正しいね」
「目上の人には礼儀正しくしないといけないでしょう」
「「「(一真君にも常識はあったんだ……!)」」」
「酷いな~。俺にだって礼儀正しく出来るさ」
「「「え!? 声に出てた?」」」
驚く一同に対して一真は平然と答える。
「いや、顔見ればどう思ってるかくらい読み取れるから」
「そんなに顔に出てたかしら?」
「いえ、特には……」
「楓ちゃんなんて表情変わってなかったもんね」
「ん、いつも通りだったはず」
「俺の前で隠し事は出来んのじゃ」
「あ~、盛り上がっている所、申し訳ないのだがそろそろいいだろうか?」
「あ、申し訳ありません。それで、どのようなご用件でしょうか?」
「ギャップが凄まじいな……」
優勝スピーチで見た一真は所謂お調子者というイメージで信康は到底今の礼儀正しい姿が思い浮かばなかった。
あまりのギャップの激しさに風邪を引きそうになる一同だが、信康は本題を忘れてはいけないと会話を続ける。
「オホン。時期尚早ではあるのだが皐月一真君。卒業後はサムライに就職してみないかな?」
信康から直接の勧誘に一真以外の人間は驚くが、彼の功績などを考えると勧誘は当然の事だろうと落ち着いた。
置換という戦闘には不向きな異能でありながら、戦闘系の異能者を圧倒し、学生最強と呼ばれていた剣崎宗次、そして英雄である秤重蔵を単独撃破したのだ。
その実力は疑いようもなく、誰もが認めているだろう。
「(え、どうしよう。毎月国から十億貰ってるから、就職とか考えてなかった……)」
国内で異能者の質が一番と言われている株式会社サムライ。
仕事はイビノムの駆除から護衛と多岐に渡り、国内外問わず信頼と実績のある会社で就職できれば将来安泰と言われている程だ。
しかし、一真は既に紅蓮の騎士として政府と契約を結んでおり、毎月十億といった報酬を受け取っている。
ちなみに一真は良く分かっていないが、すでに報酬以上の働きをしているので政府側は大変喜んでいたりする。
もしも、この事を一真が知れば体よく利用していたのかと激昂するのだが、好き勝手させてもらっている面もあるので何も言えない。
「どうだろうか?」
「あ~、えっと~」
「おっと、すまない。急な話で困惑させてしまったようだ。頭の片隅にでも入れてもらえたら十分だ」
「は、はあ……」
「勿論、今すぐにでもいいんだがね」
「ちょっと、失礼」
そう言って一真と信康の間に割り込んできたのは天王寺弥生。
彼女は一真を婿にしようと画策している強かな女性だ。
目の間で勧誘されている一真を黙っては見ていられず、横やりを入れて妨害する。
「む。君は確か天王寺グループの……」
「天王寺弥生です。こうして顔を合わせるのはお久しぶりですね。真田信康さん」
「ああ。久しぶりだな。まさか、君も来ているとは思わなかったよ」
「来賓席にはいてはったんですけどねぇ……」
「そうか。それは申し訳ない。試合に夢中で気が付かなったよ」
「そうですか……」
恐らく、信康の言葉は本当だろう。
確かに一真の試合が始まれば、そちらに集中してしまうのも無理はない。
であれば、遅れてやってきた弥生に信康が気が付かないのも仕方がないだろう。
「ところで君も皐月一真君を応援に来たのかね?」
「それは勿論。一真はんは私の将来の旦那さんですから」
「え……!?」
驚く信康は勢いよく一真の方へ振り返る。
信康と目が合う一真は首を横に振ってそういった事実はないと否定した。
「と、言っているが?」
「あくまで予定ですから」
「そ、そうか……」
弥生の発言に唖然としながらも信康は一真に振り返って「君も大変だな」と同情するのであった。
「それじゃ私はこれで失礼する。皐月一真君、君が望めば我々はいつでも歓迎する。それでは」
この後も用事がある信康は一足先に第七異能学園を後にする。
他にも来ていた来賓者は一真に名刺を渡したりして会社のアピールなどをして帰って行った。
一真の手元に十数枚の名刺が残され、ほとんど来賓者がいなくなった。
残っているのは宗次と弥生くらいだ。
「よう、お疲れさん」
「先輩。もしかして、モテモテってこの事だったんですか?」
「今頃、理解したのか。そうだよ。引く手あまただっただろ?」
「俺が望んでいたものはこんなものなんかじゃない……!」
歯を食い縛り、悲痛な表情を浮かべながら一真は世の理不尽さを嘆いた。
学生最強になればモテると聞いていたのに、実際は各企業からの勧誘。
聞いていた話とは大分違う事に一真は憤慨するも勘違いしていたのは他の誰でもない本人なので、その怒りは見当はずれというものだろう。
「安心してや、一真はん。私がいますよ」
「弥生さん……」
勿論、女性にもモテない訳ではない。
弥生を始めとした一部の女性は一真を好ましく思っている。
何せ、容姿端麗、将来性抜群なのだから世の女性は放っておかないだろう。
身近な女性は一真を知っているから将来のパートナーに選んだりしないが、何も知らない女性からすれば優良物件なのである。
「どうです? 生徒会長就任をお祝いして私の家でご飯でも」
「是非」
打算まみれだが一真からすれば暗殺の心配がないハニトラならば大歓迎である。
その魂胆が自身を利用したものであっても愛が育めるのであれば、そのような事は些細な事だ。
「ダメ。一真は私達と祝賀会するの」
当然ながら弥生の好きにはさせてもらえない。
楓が弥生に絆されている一真を強引に引き離した。
「俺は弥生さんと幸せな家庭を築くんだい!」
「私とはダメ?」
「え……?」
思いも寄らなかった楓からの発言を受けて一真は頭が真っ白になる。
確かに楓とは仲が良かったが、所詮は友人程度の付き合いで終わるだろうと思っていたのだ。
しかし、まさか楓から結婚に対するセリフが出てくるとは思いもしなかった。
これには一真も言葉を失ってしまう。
「あ、えっと……喜んで!」
相手の思考を読み取り、ある程度の読心が可能な一真は楓が割と本気である事を見抜いた。
もう自分を好きでいてくれるなら誰でもいいとすら思っている一真はあまりにも愚かであり、容易い人間であった。
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