第41話 ダイジェストでお送りいたします

 楓が念力で建物を押しつぶす追い打ちを仕掛け、火燐が土操作の異能者達に号令をかけてドーム状に囲み、天井部分をワザと開けて、そこに雪姫を含んだ炎と風の異能者達が大火力の攻撃を放つ。


 風によって火力を増した雪姫達の炎は竜巻のように舞い上がり、土のドームの内部は灼熱地獄と化した。

 最早、人間が生存できるような環境ではなく、確実に一真は死亡したであろう。

 誰もがそう思い込みたかったが、一真は挑戦者達、観戦者達の想像を遥かに超えてみせる。


「作戦はよかったが実力が足りてなかったな」

「ッ! いつの間に!?」


 一真は土のドームに捕らわれていたはずなのに、何食わぬ顔で火燐の背後に立っていた。


「俺を視界から消すのはよくないよ。学園対抗戦の時に学ばなかったの?」

「それは痛いほど理解してるわ! でも、退路はなかったはずよ!」

「退路は確かになかったけど、俺を閉じ込める速度が遅かったね。もう少し土系の異能者の練度が高かったら危なかったけど」

「あのワイヤーで張られた罠の中を動き回れるはずが……」

「隼人先輩の糸を簡単に引き千切れる俺に通用するとでも?」

「~~~ッ! 相変わらず、化け物みたいね強さね」

「それで次は? もう他に手は残ってないの?」


 強者ゆえの余裕を見せつける一真は爽やかな笑みを浮かべる。

 対峙している火燐は悪魔の笑みを見ているようで冷や汗を流した。


「雪姫ッ! 楓ちゃんッ!」


 仕掛けていた罠は易々と破られ、残された手は何もない。

 火燐は総力戦を仕掛けるべく、二人の名を叫びながら一真へと異能を放った。


「爆砕ッ!!!」


 一真は途轍もない力で踏み込み、足元を破壊し、火燐が放った氷を打ち砕いた。

 恐るべき震脚に火燐の周囲にいた生徒達は立っていられず、崩れ行く足元と共に瓦解する。


「俺とやり合うには覚悟も度胸も足りなかったようだな!!!」

「総員! 迎撃開始! 相手は超大型のイビノムと思いなさい!」


 雪姫が火燐の援護に向かいつつ、集まっている生徒達に指示を飛ばす。

 画面越しではなく、目の前にいる一真を見てあたふたとしていた生徒達は雪姫の指示通りにありったけの異能を放つ。


「フハハハハハハハッ! 何も考えずに真っすぐ撃ってくる異能なぞ、俺からすれば弾幕ゲーをやってるに等しいだけだ!」


 雨のように降り注ぐ異能を一真は紙一重で避けていき、おろおろと狼狽えている生徒達を両手に握っている槍で切り刻んでいく。


「ひえええええっ!」

「うわああああああっ!?」

「いやあああああっ!」

「きゃあああああっ!」

「ぐえええええっ!」

「ハハハハハハハハッ!!! どうした、この程度か! 俺を倒すのではなかったのか!」


 突き刺し、薙ぎ払い、切り刻む。

 戦国武将の格好をした一真が高笑いを上げながら、生徒達を蹂躙していく姿は凄惨なものだった。


「む、無理だ……。あれは勝てんわ」

「に、逃げた方がよくないか?」

「逃げるってどこに!? 逃げ場なんてどこにもないわよ!」

「でも、ここにいたら殺されるだけだぞ!」

「お祭り感覚で参加した自分を恨めっ! 俺は一切容赦せんぞ!」


 そう言って一真は逃げ出そうとする集団に向かって、槍で突き刺した生徒を豪快に振り回し、人間砲弾として打ち出す。

 人間砲弾がぶつかった集団はまるでボウリングのピンのように盛大に吹き飛ぶ。


 見ている方は愉快だろうがやられる方はたまったものではない。

 これが現実世界だったならもっと悲惨だっただろう。

 唯一の救いはここが仮想空間だという事だ。

 人間が弾け飛び、肉塊が飛散しないのだから。

 死亡判定を受けた生徒達は次々と光の粒子となり、一人、また一人と昇天していく。

 神々しい光景かもしれないが生徒達にとっては下手をしたらトラウマものになるだろう。


「誰か俺を倒して一躍有名人になってやろうとは思わんのか!」


 大半の生徒達はもはやそれどころではない。

 いかにしてこの場を逃げ出せるか、上手く抜け出せるか、それしか考えていない。

 雪姫、火燐、楓といった一部の者達は一真を倒して脚光を浴びようとは考えておらず、どうにかして一矢報いたいと奮闘していた。


 そもそも勝てると思ってない。

 学園対抗戦に選ばれた選りすぐりの異能者が束になっても勝てなかった相手だ。いくら仲間が数百人に増えようが勝てるはずがない。

 だが、それでもほんのひと欠片でも可能性があるなら、それに賭けてみたいと思うのは当然だろう。


「現実は甘くない……」

「そうみたいですね。もう残ってるのは三割くらいでしょうか?」

「悲惨ね。大半は心折れて戦えそうにないわ。気概のある奴は少なそうね」


 楓、雪姫、火燐の三人は戦況を確認しつつ、戦力になりそうな生徒を探す。

 幸い一真は逃げ出そうとしている生徒に掛かりきりになっており、こちらを気にしていない。

 もっとも、気にしていないだけで気が付いていないわけではない。

 一真はしっかりと三人が逆転の一手を探している事を念頭に置いていた。


「(三人だけじゃないな。学園対抗戦で鍛えた連中は全員が結託して、まだ残ってる中から戦える度胸と覚悟を持った気骨のある奴を選抜してる。恐らく、来年の学園対抗戦も視野に入れてるんだろう。随分と計算高いもんだ)」


 馬鹿なくせにこういうところは抜け目のない一真。

 一真が生徒会長になるのはほぼ確定しており、生徒会メンバーも決まっているようなもの。

 であれば、次に考えるのは来年の学園対抗戦メンバーの選別。

 現段階で有力候補は現時点で一真と相対し、震えながらも立ち向かおうとしている生徒だ。

 その点については一真も認めている。

 どれだけの伸び代があるかは定かではないが、少なくとも心根だけは立派なものであろう。


 本来であれば生徒会長決定戦はバトルロイヤルで長時間の戦闘が予想されていたのだが、異例中の異例である一真という強敵を倒す為だけに参加者が全員集められた結果、想定以上に短いものとなってしまった。

 現在、楓、雪姫、火燐といった学園対抗戦メンバーを含めた十数人の参加者と撃墜数歴代ナンバーワンに輝いた一真が戦場に残されている。


「どうやら、残った者達はほんの少しだけやるようだな」


 一真が目を向けている先には烏合の衆ではなく、ほんの僅かではあるが戦う事の出来る戦力だ。


「そうね。まともに戦えるのはこれだけよ」

「最初に比べれば大分減りましたが……」

「少なくとも一真にダメージは与えれる」

「いいや、それは残念ながら無理だな。だって、ここで半分は消える」


 その言葉と同時に一真が視界から消える。

 瞬時に雪姫達は「散開ッ!」と散り散りになって、その場を離れるも一歩遅かった生徒達は一真によって薙ぎ払われ、彼の言葉通り半分が消えた。


「出鱈目すぎなのよ!」

「少しは手心というものをください!」

「ん、流石一真」


 一真に鍛えられた学園対抗戦のメンバーは各々、手を尽くし、策略を巡らせ、ありとあらゆるものを活用し、力の限り立ち向かう。


「せめて一撃でもおおおおおおっ!」

「拙い! そして遅い! 次!」


 雪姫、火燐と同じく二年生にして身体強化の異能者、虎頭大我は果敢に攻めるも呆気なく敗れ去る。

 こうして、残ったのは雪姫、火燐、楓の三人のみ。

 一真がいなければ優勝間違いなしの三人だが今回ばかりは運が悪すぎた。


「さあ、どこからでも掛かって来い」


 不敵に笑う一真に楓が周囲の瓦礫を念力で浮かせ、攻撃を仕掛ける。

 雪姫、火燐の二人は楓が飛ばした瓦礫に隠れて、一真に奇襲を仕掛けるべく身を潜めた。


「そのような小細工が今更通じるとでも!」


 真正面から飛んでくる瓦礫を一真は両手に持っている槍で薙ぎ払い、どこかに身を潜めている火燐と雪姫に警戒しながらも楓のもとへ駆ける。

 念力で宙に浮いている楓は向かってくる一真から距離を離すように後ろへ下がりつつ、念力で瓦礫を飛ばし続けた。


「一つ、二つ、三つ!」

「ッ!」


 相変わらず物理法則を無視したように念力で飛んでいる瓦礫を足場にして一真は楓へと迫る。


「これで!」

「そこぉ!!!」

「ぬ!?」


 一真が次の足場に足をかけようとした時、物陰に潜んでいた火燐が飛び出し、足場にしようとしていた瓦礫を凍り付かせた。

 咄嗟に方向転換も出来ず、一真は凍った瓦礫に足を滑らせ、バランスを崩してしまう。


「今です!」


 同じく物陰に身を潜めていた雪姫が特攻を仕掛ける。

 体勢を崩し、隙だらけとなっている一真へ向かって跳躍。


「ド阿呆が! この程度でやれると思うたか!」


 当然、一真がそう簡単に隙を晒すはずもなく、彼は空中で身を翻し、飛び込んでくる雪姫に向かって槍を突き付けた。


「無論、承知していますとも!!!」

「なんとーッ!」


 真正面から差し迫ってくる槍を雪姫は受け止めると同時に体を捻って、一真から武器を奪った。

 これには一真も驚きの声を上げ、雪姫の成長に感心していた。


「だが、忘れたか! 俺には置換があるという事を!」

「当然! だけど、入れ替える瞬間さえ分かれば!」


 手元の石ころと奪われた槍を入れ替えようとしている時、火燐が指を鉄砲のように構える。

 そして、一真が槍と石ころを入れ替えた瞬間を狙い撃ち、まだ握られていない槍を弾き飛ばした。


「見事ッ! だが、まだ武器はある!」

「本命はこっち!」


 火燐の氷で弾き飛ばされた槍を楓が念力で操り、一真に向かって撃ち出す。


「ハッハー! 武器を返してくれるとは優しい事だ!」

「誰がただで返すとでも?」

「む!」


 恐ろしいまでの動体視力と反射神経で一真は飛んできた槍を掴んだが、持ち手部分に結露していた。

 これが罠だと知り、一真は槍を手放すも、それよりも先に火燐が仕掛けていた罠を発動させる。

 結露していた部分から氷柱が放たれ、一真はもう片方の手に持っていた槍を薙ぎ払うも全てを防ぐ事は出来ず、ダメージを受けてしまった。


「中々にやるではないか!」

「致命傷にはならなかったか!」

「ですが、ダメージは与えましたよ!」

「ん! 希望が出てきた」


 ついに一矢報いる事が出来たと喜んでいるが忘れてはいけない。

 目の前にいるのは変態師匠こと一真であるという事を。

 弟子達の成長は一真にとって喜ばしい事でもあり、同時に今までしていた加減を緩めてもいいというわけだ。


「ふっふっふっふ……。俺は嬉しいぞ」

「……もしかしてだけど、私達やらかしたんじゃない?」

「多分そうみたいですね……」

「さっきよりプレッシャー感じる」

「ギアを一段階あげる! もっと俺を楽しませてみろ!」

「「「いやあああああああああっ!!!」」」


 宣言通り、先程よりも機動力が上がり、攻撃力も増した一真に三人は手も足も出ずに敗北するのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る