第40話 始まる生徒会長決定戦
ついに生徒会長決定戦が幕を開け、第七異能学園の生徒達は熱狂に沸いた。
優勝候補筆頭である一真の活躍に生徒達だけでなく、世界中の人間が期待をしている。今回はどのような活躍を見せてくれるのだろうかと。
「移動するか~」
今回、一真が転送された場所は森の中。
視界は悪く、どこに敵が潜んでいるのかも分からない。
ただし、一真は仮想空間だろうと人の気配は察知出来るので特に問題はない。
しかし、周囲を探っても気配を感じなかったので一真は移動するしかなかった。
「とりあえず、人がいっぱいいる所に行くか~」
ガチャガチャと金属音を鳴らしながら、一真はゆっくりと移動を始める。
いきなり乱闘が始まる事はなく、まずは様子見といった形で生徒会長決定戦は進んでいく。
というよりも、最初は協力を仰ぎ、生徒会長最有力候補の一真は排除しようと結託していた。
その光景に誰もが納得し、当然の結果だろうと頷いた。
何せ、相手は学生最強と呼ばれた剣崎宗次と英雄の秤重蔵をたった一人で倒した男だ。
しかも、圧倒的な実力で捻じ伏せ、蒼依の不意打ちすら避けてみせるのだから。
結託し、協力し合って、強大な敵を叩き潰す戦法は何も間違ってはいないだろう。古来より続く正しい戦い方である。
勿論、誰も責める事はない。むしろ、当然の判断だと感心していた。
「アハハハ。まあ、そうするよね~」
「協力するのは悪い事じゃないけど、勝てると思う?」
「う~ん……」
役割は司会の隼人と解説の詩織。
はっきり言って仕事はほとんどしていない。
今回の主役は一真なので彼の動向を実況するのがメインの仕事だ。
無論、他の生徒も忘れてはいないが注目度が段違いなので致し方なし。
「はっきり言って無理だね」
「やっぱり、そうよね~」
「いや~、申し訳ないけど一真君は別格だよ。一真君専用にルールを変更しないと勝ち目はないかな」
「ちなみに隼人ならどういう風にルールを変えるの?」
「とりあえず、一真君にはパワードスーツなし、痛覚を二倍、武器はナイフとか?」
「なんで痛覚を二倍にする必要があるの?」
「一真君も分類上は人間だから痛みがあると思えば躊躇しちゃうでしょ。だから、痛覚を二倍にすれば動きも鈍るかなって」
「あ~、確かにその可能性はあるわね」
残念ながら一真は苦痛耐性がついているので痛覚を数倍にされたところで動きが鈍る事はないし、恐怖に動じる事もない。
つまり、一真にデバフは通じても劇的に弱くなる事がない。
しかも、一応は勇者として召喚されたほどの人間なので窮地に立たされると覚醒する場合があるので手に負えないのだ。
「随分とまあ、豪勢な面子が集まって」
「お嬢か」
来賓席に少し遅れてやってきたのは天王寺弥生。
一真を婿にしようと画策している女性だ。
虎視眈々と狙っているものの少し空回り気味であるが、意外といい線はいっている。
同じく来賓席に座っている宗次の隣に彼女は腰をかけ、モニターに映っている一真を見つめながら横目で他の来賓者を流し見した。
「フフフ、流石旦那様。こんなにも注目されて私も鼻が高いわ」
「いや、お前の旦那じゃねえだろ」
宗次は弥生の嫁発言に呆れつつも、彼女と同じようにモニターに映っている一真を見る。
戦国武将のように甲冑を纏い、真っすぐに森を抜けようとしている一真がどのようにして戦うのかを楽しみにしていた。
当然ながら業務に励んでいる慧磨も部屋に設置されているモニターから第七異能学園の生徒会長決定戦を観戦していた。
「ふむ……。あの甲冑は本田忠勝をモチーフにしてるのか? ふふ、一真君も男の子だな。戦国最強と名高い本田忠勝の真似をするとは」
「手が止まってますよ。斎藤首相」
秘書の月海に言われて慧磨は書類作業に戻る。
無論、観戦しながらも仕事は怠らなかった。
「お、雪姫と火燐が同盟を組んだみたいだね」
「あの子達も優勝候補だけど、一真君相手に一人は厳しいからね」
モニターの向こう側、仮想空間では雪姫と火燐が同盟を結び、打倒一真に向けて動き出した。
着々と打倒一真同盟が広がっていき、一大勢力を築き上げながら、生徒会長決定戦は進んでいく。
「……人が集まってるな」
人の気配に敏感な一真は森を抜けた先で大勢の人間が集まっているのを察知する。
「ああ、そうか。徒党を組んで俺を倒そうって魂胆か……」
座学の成績こそよろしくないが一真は決して馬鹿ではない。
自分が脅威である事を自覚しており、人々から恐れられている事を認識している。
当然、今回の生徒会長決定戦で自分が狙われている事も良く分かっていた。
そして、バトルロイヤルゆえに孤立無援、四面楚歌に陥る事も想定していたのだ。
普通の人間ならば及び腰になるであろう状況下だが一真は生憎普通とはかけ離れた存在だ。
すでに学園対抗戦で実力を見せている以上、隠す必要がない一真は闘争心に火が付き、獰猛な笑みを浮かべた。
「くっくっく……! 真正面から粉砕してやる!」
大勢の人間が市街地エリアに移動を始めているのを察知した一真は、真正面から突撃する事にした。
恐らく、罠が仕掛けられ、あらゆる策が施されているだろうが関係ない。
一真はその全てを真正面から打ち砕き、第七異能学園最強の名を手に入れる事を決めたのである。
「いい? 一真君は多分、こっちの動きに気が付いていると思う。でも、真正面から飛び込んでくるに違いないわ!」
「マジなんか? 流石にそれはないと思うんだけど」
「学園対抗戦での一真君しか知らないから、そう思うのも仕方がありません。ですが、彼と少しでも付き合いがある人なら分かります。一真君は清々しいまでの大馬鹿者なんです」
「馬鹿だから罠だと分からないって事ですか?」
「違う。一真は罠だと分かっても嬉々として飛び込んでくる。だって、負けないと確信してるから」
雪姫、火燐、楓の三人が同盟を組んだ他の生徒達に一真という人間について演説をしていた。
所々、貶しているが一真の実力をこの場にいる誰よりも理解しており、同時に尊敬もしている。
そして、一真がこちらの動きを察しており、それでも真正面から来るであろうと確信していた。
「まあ、学園対抗戦に出たメンバー全員がそう言うんなら信じるか」
「お祭り感覚で参加したけど、ちょっと後悔してる……」
「俺もだよ。噂の皐月一真がどんなもんか知りたくて参加したけど、まさかこんな事になるなんて思わなかったわ」
「学園対抗戦で実力は知ってたけど、そんなにやばいんだ……」
「でも、割と楽しみにしてる。どんなもんなんだろうな」
それから作戦会議を行い、それぞれの配置に分かれた。
一真が市街地に突入してくるまでもうすぐだ。
建物に身を潜め、合図があるまで待機している生徒達は緊張にゴクリと喉を鳴らす。
ついに一真がやってきた。
生徒会長決定戦に参加している生徒達は戦国武将の格好をしている一真を目にして、忍者ではないのかと残念がっていた。
しかし、油断は出来ない。
一真の格好は決してただのコスプレではないのだ。
その装いに相応しい実力を有しており、決して馬鹿には出来ない。
学園対抗戦でその事を知っている生徒達は高鳴る心臓を落ち着かせ、一真が罠に嵌るのを待った。
「(周囲の隠れているのか……。恐らく、罠を仕掛け、俺が罠に嵌るのを待っているとみた。今回の生徒会長決定戦で警戒すべきは俺が鍛えた者達のみ。だからといってそれ以外を疎かにしていると足元を掬われるからな。お祭り感覚で参加した生徒の中にもきっと厄介な能力者がいるはず。最後まで油断しないように行こう)」
市街地へ足を踏み入れ、真っすぐ進んでいる一真の足元が突然、火柱を上げて爆発音が鳴り響く。
爆炎に包まれる一真を見て勝利を確信する生徒達がいる中、一真が次にどう動くのかをじっと待っている者達は固唾を飲んで見守っていた。
「え、結構あっさり勝ったんじゃね?」
「嘘……。これで終わり?」
「マジかよ。呆気ないな~」
「なんだよ。聞いてたより全然弱いじゃん」
と、油断していた生徒達が次に見たのは爆炎の中から飛び出してくる一真だった。
『うわああああああああッ!?!?』
あの爆炎からどうやって生き延びたのかは不明だが、一真は無傷で爆炎の中から飛び出し、隠れている生徒達のもとへ一直線。
驚いている生徒達は自分達がどこにいるかも分かっていないはずなのに、的確に自分達のもとへ突っ込んでくる一真に混乱する。
「な、なんでこっちに向かってくるんだよ!」
「し、知らないわよ!」
「お、おい! 次、どうするんだ!?」
「に、逃げた方がいいんじゃねえか!」
「やばいやばいやばい! こっちに来る!」
雪姫、火燐、楓といった一真に鍛えられたメンバーは当然、警戒していた。一真が地雷を踏んでも無傷だという事をほぼ確信しており、次の罠を張っていたのである。
「む! これは!」
真っ直ぐに突き進んでいた一真の動きが止まる。
彼の前には極細のワイヤーが幾重に張られており、動きを封じられた。
すかさず、一真はワイヤーを槍で薙ぎ払おうとする。
ワイヤーが千切れた瞬間、周囲の建物が一真に向かって倒壊した。
「上手いな! しかし、この程度で俺は止められんぞ!」
一真は尋常ではない速度で槍を振りワイヤーを全て引き千切り、その場を離脱しようと足に力を込める。
「今よ!!!」
火燐の合図と共に周囲に隠れていた生徒達が一真の逃げ道を塞ぎ、全ての退路を潰した。
これで一真は逃げ場を失い、倒壊する建物に押し潰される。
だが、その程度では一真を倒せないと知っている者達がさらなる追い打ちを仕掛けた。
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