第37話 た~の~し~!

 倉茂工業の中は相変わらず混沌としていた。

 主な原因は他の誰でもない一真である。

 時空魔法を使い、空間を拡張し、一定の空間内の時間を狂わせているのだ。

 おかげで研究者達は以前にも増してゾンビのようになっている。

 時間が足りなかった所に時間を無限に増やしてくれたのだから研究者達は狂喜乱舞になるのは当然の結果だ。


「あの人達は何してるんだ?」

「一真さんが捕まえてきたイビノムをもとに新技術を生み出そうとしてるみたいですよ」

「ほう。どんなものが出来るんだろうか」

「私には分かりませんが医療の方にも応用出来るとか」

「もしかして、アンドロイドとか出来たりして……」

「可能性は大いにありますね~」

「マジかよ……。ついに家政婦ロボットが来るのか!? あんな事やこんな事もしてくれる、あの!」

「まあ、研究が進めば将来的には可能かもしれませんね」

「こうしちゃいられねえぜ! 俺も行ってくる!」

「あ! ちょっと!」


 昌三の制止を気にも留めず一真はゾンビのようになっている研究者の群れへ直行した。

 一真は研究者達からは神のように崇められており、ゾンビと化していた研究者達はまるで神の降臨を祝福する信者のように喜び始めた。


「クラゲ、昆虫型、節足型、鳥型のイビノムが欲しいんです! もっと、サンプルがあれば嬉しいんです!」

「俺に任せとけ! だから、エッチなメイドさん型ロボットは頼んだぞ!」

「任せてくださいよ! 俺達の! いえ! 人類の夢を叶えてみせましょう!」

「イエーイ!」


 新たな技術というのは戦争から生まれてくるものも多いが、人類の性欲から生まれてくる事も多い。

 欲望に忠実な生き物である人間は罪深き存在であろう。

 ここに神がいたなら間違いなく一真に天罰を下しているだろうが、残念な事に神はいないのだ。

 つまり、誰も一真を止める事は出来ない。


 その光景を見ていた昌三は、やはり自分ではどうする事も出来ないと諦め、桃子が来る事をただ祈るだけであった。


「獲ってきたど~!」

「「「「「イエエエエアアアアアアアアアアッ!!!」」」」」


 一真が指定されたイビノムを大量に乱獲してきて研究者達はお祭り騒ぎである。

 定期的に一真はイビノムを捕獲し、工場に持ち込んではくれるが指定されなければ適当なものになっている。

 だからこそ、今回のように指定したイビノムを捕獲してくれるのはとても有難い事なのだ。

 貴重なサンプルを生け捕りにして持ってきてくれる一真はまさに神に等しい。


「カフェインをきめろ! 今夜は徹夜だ!!!」


 主任である研究者が声高らかに叫び、拳を振りかざす。

 やる気に満ち溢れているが、流石に体力の限界は近く、足元が覚束ないものになっている。


「主任! 死んじゃいますよ!?」

「人は寝なくても死なん!」

「いや、死にますから! せめて、八時間だけでも寝てください!」

「がっつり寝るやんけ……」


 必死に研究者達が主任を止めようとしているが、興奮が冷めないのか主任は止まる気配がない。

 これ以上は見ていられないと一真は魔法を行使する。


「大丈夫だ。俺に任せろ。睡眠魔法スリープ、追加で快適魔法リラクゼーション回復魔法ヒールを相乗して、疲れを癒したまえ~」

「ぐわ~~~っ!」

「光に当てられて苦悶の声をあげながら眠りにつくのを見ると、本当にアンデッドみたいだな~」


 白衣を着て、目の下に大きな隈を作り、青白い顔をしていた研究者達がバタバタと床に倒れこみ、大きな寝息を立てる。

 一真が使った魔法は強制的に眠りにつかせ、体の疲れを癒し、幸せホルモンをドバドバと溢れさせ、目覚めるとハッピーになれるものだ。

 ただし、乱用しすぎると常時ハッピーな無敵人間が生まれてしまい、生活に支障をきたすので要注意しなければならない。


「仮眠室ってある?」

「ありますよ。この人達、家に帰らないですから」

「どこにある? この人達を運ぶから教えて」

「こっちです。ついてきてください」


 一真は昌三の案内に従って研究者達を魔法で浮かせて運び、仮眠室へぶち込んだ。

 大雑把に仮眠室へ研究者達を魔法で投げ込んでいるのを見て、昌三は目を丸くしていたが一真によって眠らされたので特に問題はないだろうと見て見ぬふりをするのであった。


「次はどうしますか?」

「今は他に何か作ってるの?」

「超巨大イビノムに対する防御機構を作っていますね」

「戦艦とか?」

「はい。勿論、巨大ロボットもですよ」

「おお~! 宇宙戦艦とか作れたりしないのか?」

「技術的には可能ですが必要性があまりないですからね。当分は先だと思います」

「いずれ作る予定ではあるのか……」

「そもそもイビノムは宇宙から来た未知の生命体ですからね。なら、宇宙人もいるでしょう。侵略しに来ないとは限りませんから、備えておくに越した事はありませんよ」

「宇宙人か……。確かにそうだな。可能性があるなら対策はしておかないとね」


 壮大な話であるがイビノムは確かに宇宙からやってきたのだ。

 ただの災害なのか、それとも何者かの意思なのか、分からないが宇宙にも脅威があると考えていい。


「そうだ。街の警備ロボットとかはどうなってるんだ?」

「すでに完成していますよ。あとは政府の仕事です」

「なんで政府?」

「法律上の問題とかありますから」

「あ~、そういう事か……」

「今も街中には監視カメラを設置してありますが、今度のはネズミ、クモ、鳥といった生き物をベースにしたロボットが街中を巡回し、搭載されたカメラで犯罪行為をチェックしますからね。プライバシーとかも関わってくるので色々と複雑なんです。いくらAIによる自動分析でも常に監視されているというのは人によっては苦痛でしょうから」

「防犯の為とはいえプライベートを覗かれるのは嫌だわな」

「ええ。皆が皆、納得するわけではないですから……」


 一真が協力のもと作られた警備ロボットは小型動物や昆虫、それから鳥をベースにしており風景に溶け込むようなものになっている。

 一目見た程度では分からないが、目などをよく注視すれば瞬きしていなかったりするので分かるのだ。

 とはいえ、言われなければ誰も気が付かないほどなので気にする事でもない。


 しかし、警備ロボットと称されているようにカメラが搭載され、常に犯罪行為がないかをチェックしている。

 その為、建物の中なども覗くようになっているので人によってはプライバシーの侵害と言えるだろう。

 防犯の為とは言ってもプライベートを覗かれるのは気分がよくないだろう。


「ままならないな~」

「こればっかりはどうしようもないですね~。犯罪行為は後を絶たないですし」

「ニュースでもよく見るし、人間てのは愚かだね~」

「日本は治安がいいとは言いますけど、全員が善人というわけではありませんから」

「世の中そんなもんか」


 こればっかりはどうする事も出来ない問題だ。

 いくら一真が無双出来ても解決出来ない問題はある。


「ちょっと、脱線しすぎたが他にも作ってるのあるんでしょ?」

「ええ。勿論です」

「それじゃ、見て回りたいから案内して」

「わかりました。こちらへどうぞ」


 一真は昌三と一緒に工場の中を見て回る。

 アットホームな職場の為か、作業員は生き生きとしている。

 それもそのはず。資金は潤沢でスポンサーが一真だから、趣味に走っても怒られない。

 余計なものを作るなと普通は怒られるのに一真が許してくれるのでお咎め無し。

 オタク気質な作業員にとっては天国のような職場だ。


「うおおおおおおおおおっ!!!」

「パイルバンカーはやはり男の浪漫だよね……」

「いい……」


 相変わらず、オタク趣味全開、男の浪漫が炸裂している。

 パイルンバンカー、ドリル、チェーンソーといった兵器を開発している一陣が盛り上がっていた。


「あそこ楽しそうだね!」


 当然、同じ男の子である一真が興奮しないわけがない。

 きらきらと目を輝かせて一真は昌三に遊びに行ってもいいかな、という視線を送っている。


「そうですね。見学なされますか?」

「いいの!?」

「ええ。問題ないですよ」

「うっひょー!」


 公園で遊んでいる子供達のところへ混ざるかのようにハイテンションで一真は兵器開発チームのもとへ飛び込んだ。


「俺にもやらせて~!」

「いいよ~!」

「わ~い!」


 それから一真はパイルバンカー、ドリル、チェーンソーなどの兵器をぶんぶん振り回して遊び尽くした。

 無論、自分の持っているパワードスーツに組み込むように指示を出したのは言うまでもない。

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