第27話 俺やります!

 改札口を抜けて、電車に乗った一真達は聖一から指定された場所へ向かう。ロケが行われている現場は少し街から離れた山間部だ。

 防壁の内側にあるのでイビノムに襲われることはないが、絶対に安全ということはない。


「着いた~」

「迎えがいると思うんですが……」

「アレじゃないかしら?」


 桜儚が指を差した方向には聖一が立っていた。

 聖一も一真達に気がつき、手を振りながら近付いて来る。


「やあ、待ってたよ」

「うっす、聖一さん。今日はお招きどうもありがとうございます」

「いいよいいよ。お礼なんて。むしろ、こっちがしなきゃいけないのに」

「あの、先輩。あんまり話してる時間はないっすよ」

「あ、そうだったね。それじゃ、早速移動しようか」


 駅に停めていた車に乗り込み、一真達はロケが行われている現場へ向かう。


「ところで、聖一さん。そちらの方は?」

「ああ、彼は僕の後輩だよ。名前は――」

「自己紹介は自分でしますよ、先輩」

「じゃあ、お願いできるかな」

「はいっす。自分は東屋あずまや幸太郎こうたろうといいます。よろしくっす」


 運転席に乗っている幸太郎はバックミラーに映っている一真達にめを向ける。聖一から聞いてはいたが、一真達の容姿に幸太郎は驚いていた。


「いや~、それにしても最強の一般人と凄い美人さんですね~。確か、一真君は義理のお子さんなんでしょ? 凄いな~」

「僕が凄いわけじゃないんだけどね。でも、息子を褒められるのは嬉しいかな」

「ところで、え~っと、一真君。て、呼んでも良いかな?」

「お好きにどうぞ~」

「ありがとう。じゃあ、ちょっと聞きたい事があるんだけど、そちらの二人とはどういう関係なんだい?」

「ビジネスパートナーみたいなもんです。学園対抗戦以降、色々とありましたから~」

「あ~、なるほどね。有名人も苦労するね。スカウトだったりする?」

「それは秘密ですよ」

「だよね~」


 雑談を交えながら現場へ向かう一行であった。


 現場近くの駐車場に着いた一真達は車から降りて現場へ移動する。

 その道中、一真は聖一に近付き、幸太郎に聞かれないようこっそりと小声で話しかけた。


「聖一さん。東屋さんは俺達のこと知らないんですよね?」

「うん。一真君が紅蓮の騎士だってことは誰にも話してないからね。勿論、他の二人のこともね」

「それなら安心です」

「僕は契約魔法で縛られてるけど、うっかり漏らさないようにね」

「大丈夫ですよ。多分……」

「心配だな~……」


 調子に乗ると暴走をすることを知っている聖一は、一真がうっかり紅蓮の騎士だということを漏らさないよう注意しておくことにした。

 万が一にも一真が紅蓮の騎士だと露見してしまえば、面倒な事になるのは間違いない。


「着いたっすよ~」


 辿り着いた場所はよく戦隊モノで見る砂利の広場であった。

 山間部に出来ており、周囲は草木が生えており、一真達の前には砂利一面の広場で撮影を行っているスタッフと俳優、女優陣がいた。


「おー、これが撮影現場か」

「一真君はこういうの見るの初めて?」

「そうですねー。初めです」

「ふふ、そうなんだね。それじゃ、監督に挨拶しに行こうか」


 聖一に連れられて一真達は監督に挨拶へ向かうが、忙しそうにしているので近くにいるスタッフに今は大丈夫かと確認する。


「ちょっと、いいかな? 事前に連絡しておいたんだけど、冴木監督と話せる?」

「確認してきますね」


 若いスタッフが俳優達と話し合っている監督のもとへ近寄り、耳打ちをしている。

 しばらくすると、監督は俳優達を連れて一真達のほうへやって来た。


「待ってたよ〜。叶君。そちらの子達が今日見学希望なのかな?」

「はい。そうです。冴木監督。僕の後ろにいるのが今回見学希望の人達です」

「ふ〜ん……」


 冴木監督は聖一の後ろにいる一真達をジロジロと見る。

 特に一真を凝視し、頭の天辺から足のつま先まで見た監督は嬉しそうに笑う。


「いい子を連れて来てくれたね! 特に皐月一真君! まさか最強の一般人を連れて来るなんてね」


 笑いながら、バシバシと聖一の肩を叩く監督。


 何故、一真がこれほどまでに歓迎されているか分からない聖一は監督に尋ねた。


「えっと、一真君が何か?」

「実はスタントマンが怪我をしてね。代役をどうしようかと困ってたところだったんだ」

「はあ、なるほど……ってまさか、一真君を代役に!?」

「うむ! で、どうかな。皐月一真君!」

「勿論っす!!!」

「よし来た! それじゃ、教えるからこっちに来てくれ」

「うっす!」

「ちょ、ちょっと待って下さい! 今日は見学だけのはずでは!?」


 ノリノリで冴木監督のもとに寄る一真を止める桃子。しかし、一真は止まらない。


「現場が俺を必要としてるんだ!」

「ただの代役に何を燃えてるんですか!」

「されど代役だ!」

「あの! 代役ってどんな役なんですか!」


 服を掴んで止めようとしているが一真の力が強く、ズリズリと桃子は引き摺られている中、必死な声で代役について尋ねた。


「敵の怪人役だね」

「でしたら、彼はやめたほうがいいです! 手加減出来ずにヒーローを全滅させてしまう恐れがありますよ!」

「え、それは困るな〜」

「大丈夫です! ちゃんと、やられ役も出来ます!」

「演技したこともないのに、どこからそんな自信が湧くんですか!」

「この熱いハートがあればなんとかなるさ!」

「無駄に暑苦しいんですよ! 少しは大人しく出来ないんですか!」

「出来るものかぁッ!」


 桃子を振りほどき、一真は冴木監督のもとに辿り着いた。


「う、う〜ん……。とりあえず、やってみてダメそうだったらCGで誤魔化そうか」

「任せてください。完璧にこなしてみせます」


 先程のやり取りを見ていた撮影スタッフ一同及びに俳優人、女優陣は不安を抱く。

 果たして、彼はまともに演技が出来るのだろうかと。


 その不安は的中することになる。


 一真は怪人役のスーツを身にまとい、ヒーローの前に立ち塞がる。


「行くぞ、皆!」

「「「「おう!」」」」


 声は後であてるので一真は無言でヒーロー達と戦い始める。

 ヒーロー役はプロのスタントマンが担当しているので戦闘シーンもバッチリである。


「ハッ!」

「……」


 監督から最初は思うように戦って欲しいと指示されてるので一真は言われるがまま、好きなように戦い始めた。


 おお振りのパンチを避けて、回し蹴りを叩き込み、ヒーローを転倒させる。

 大袈裟にジャンプして殴りかかって来るヒーローの腕を掴み、背負い投げで地面に叩きつけた。


「アレ、大丈夫です?」

「向こうもプロだから大丈夫だと思うけど……皐月君、ホントにヤバいね」


 スタントマンも一真には本気を出しても問題ないことを悟り、いつもより激しいアクションに燃える。

 五人がかりで容赦なく一真に襲い掛かり、防がれ、いなされ、反撃を受けた。


 調子に乗り始めた一真は魔法を使って、さらにド派手なシーンにしようとしたが、マスクの下から見える視界の先に悪鬼のような目をしている桃子を見つけ、これ以上は不味いと自重した。


 その後、立ち上がったヒーロー達に一真は程よい感じにやられて倒れた。


「いや〜、最高だ! でも、今回はボツかな」

「え、何故なんです! 監督!」

「序盤からこんなに激しいと後半がさらに激しくしないと盛り上がりに欠けるから、かな」

「だったら、最初っから最後までこんな感じでいきましょう!」

「スタントマン達の身がもたないよ……。それに一真君以上に動ける人間がいない」

「ぬぅ……!」


 唸る一真であったが監督の言うことも分かるので、渋々ながらも納得するのであった。

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