第24話 訓練終了!

 俊介と香織を秒殺した一真はナイフをクルクルと自在に回し、物陰に隠れていた二人の護衛対象に目を向ける。

 目が合うと二人は一真にこれから殺されると理解してしまい、ジワリと背中に嫌な汗が流れた。


「あ~、さくっと終わらせるから安心して」

「そのさくっとも怖いんだけど……」

「大丈夫。心臓を一突きして即死判定出すから!」

「心臓刺されるって分かったら余計に怖いんだが……!」


 護衛対象である一真の元クラスメイトの二人は心臓を刺されると知って、ブルリと全身を震わせる。

 恐怖を和らげようとしてくれる意思は伝わるのだが、先程の光景も相まって二人は一真が恐ろしい怪物にしか見えなかった。

 とはいえ、ここは仮想空間で痛みを感じないようになっている。

 かつて行われていた戦闘科の暴力に比べれば、一真の気遣いは幾分かマシであろう。


「め、目を瞑ってるからすぐに終わらせてくれよ……」

「分かった。それじゃ、目を閉じてくれ」


 言われた通りに二人はめを閉じる。

 一真は二人が目を閉じたのを確認して、ナイフを振るう。

 一瞬で二人の心臓を貫き、即死させると一真は踵を返し、その場を後にする。

 次の標的を求めて一真は市街地エリアを隅から隅まで走り回り、標的がいない事を確認してから、森林エリアへ向かうのであった。


 森林エリアへ辿り着いた一真は標的を探すべく、森に足を踏み入れた。

 草木が生い茂り、鬱蒼とした森の中を一真は標的を探るように、注意深く周囲を見渡しながら、森の中を進んでいく。


「ん?」


 身を潜め、生い茂る草の中に隠れていた一真は耳慣れない音を聞いた。

 正確に言えば全身に音がぶつかり、奇妙な感触が残っている。


「……ソナー音か」


 普通なら感じ取れないのだが一真はただの人間ではない。

 ソナー音が飛んできた方向へ一真は迅速に向かう。

 そこに標的がいると確信して。


「移動するよ」

「え、でも、ここで隠れてやり過ごすんじゃなかったんですか?」

「その予定だったけど、さっきソナーに反応があったの。一人分の反応だったから皐月君で間違いない。急いで逃げなきゃ」


 音の異能でソナー音を発して、周囲を探っていた響は一真の反応を捕らえて、即座に逃走を図る。

 彼女も一真の実力は目にしており、痛いほど知っているので勝ち目がない事を十分に分かっていた。

 ソナー音を利用した索敵で不意打ちが出来れば、一真も倒せるかもしれないが分の悪い賭けになる。

 それなら、護衛対象を制限時間まで守り抜き、逃げ切る方が賢明であると響は結論を出していた。


 しかし、そのソナー音が原因で敗北する事になるとは響も予想出来なかっただろう。


「嘘……」

「いや~、まさかソナー音で周囲を索敵出来るなんて思わなかったよ。でも、そのおかげで見つける事が出来た」

「いやいや、普通ソナー音なんて分からないからね! どうして分かったの!?」

「それは俺が特別だからさ!」


 ドヤ顔でキラリと歯を見せる一真に響は青筋を浮かべる。

 こちらは真面目に聞いているのにふざけた態度を見せる一真に響は大きく息を吸い込んだ。


「だったら、無理矢理にでも――」

「それは一回見たから知ってるけど、隙が大きすぎるよ。もっと工夫した方がいい。さっきのソナー音を攻撃に転じてみたりした方が効果的だよ」


 口を大きく広げて、竜の咆哮にも似た音の砲撃を放とうとした響だったが、それよりも先に動いていた一真によって呆気なく散った。

 それからすぐに一真は近くにいた護衛対象の女子生徒を、ナイフで一突きして強制退場させる。


「さて、残りは二人か」


 残り時間は二十分ほど。

 俊介、香織、響の三人が倒れたので残りは二人。

 男女混合でチームを組むので、残りの二人は男と男か、女と男のペアだ。

 どのような相手だろうとも一真にとってさほど脅威はない。

 響を倒した一真は森林エリアをくまなく探索し、誰もいない事を確かめてから別のエリアへ向かうのであった。


 一真が向かった先は岩山エリアである。

 ゴツゴツした岩山が連なっており、隠れ住むにはピッタリな場所だ。

 勘でしかないが一真はここに残りの二人が隠れていると確信していた。


 さすがというべきか一真の予想通り、岩山の洞窟に護衛の二人と護衛対象の二人が隠れていた。

 四人が洞窟の奥に身を寄せ合って、息を殺し、一真が来ない事を祈っている。


「土でカモフラージュしてるけど大丈夫だよな?」

「わかんないよ、そんなの。皐月君は規格外だから」

「つっても、ここまで厳重にしてるんだぜ? 流石に一真も俺達を見つけるのは無理なんじゃないか?」

「だから、そんなの分からないって! 学園対抗戦見てたでしょ? あんな規格外な皐月君が本気出したら、ここが見つからない保証なんてないんだから!」

「うっ……! まあ、その通りなんだけども……」


 バツの悪そうに後頭部をかくのは慎也である。

 そして、慎也に説教をしているのは詩音だ。


「あ、あのそんなに声を立てないでくださいね……」

「「あ、ゴメン……」」


 一緒に隠れていた支援科の女子生徒が二人に注意する。

 今は洞窟の奥に身を潜めているのだから、なるべく大声を出さないように気をつけなければ一真に見つかってしまう。

 いくらカモフラージュをしているとはいえ、隠れているとバレたら意味はない。


「しかし、これ便利だよな」

「アハハ……。ただのハリボテなんですけどね」

「でも、色や形は好きに変えれるんだろ?」

「まあ、そうですね。一応、洞窟の形に合わせてますし、色も見分けがつかないようにしていますので触られなければバレないと思います」


 慎也が感心しているのはハリボテを生み出す異能を持っている支援科の男子生徒だ。

 彼の異能はハリボテというもので言葉通り、好きなようにハリボテを生み出す事が出来る。

 今は洞窟に溶け込むような形と色をしたハリボテを作っていた。


「ッ! 足音が聞こえました」

「……数は?」

「一つです」

「皐月君ね……」


 そして、慎也と詩音を注意していた女子生徒の異能は聴力強化。

 自分だけでなく他人の聴力も強化出来る。

 だが、戦闘には向かない為、支援科に属していた。

 とはいえ、有用性は高く、重宝されている異能でもあるので就職先は多く存在する。


「こっちに来ます!」

「皆、絶対に音を立てちゃダメよ!」


 詩音の言葉に三人は深く頷き、一真に見つからないよう息を殺す。

 聴力が強化され、コツコツと一真の足音が怖いくらい耳に響く。

 どんどん近付いて来る足音に全員の背中に緊張が走り、物音を少しでも立てれば一真に気付かれてしまう恐怖から口の中が渇き始めた。


「……誰もいないか~。隠れてると思ってたんだけどな~。勘が外れたか」


 ハリボテの目の前まで来ていた一真がそうボヤいて踵を返していく。

 遠ざかっていく足音を聞いて、四人は安堵の息を吐き、一真が去った事に小さく笑みを浮かべた。

 その次の瞬間、ハリボテにナイフが突き刺さった。

 突然の出来事に四人は驚きの声を上げてしまい、一真に隠れ場所が見つかってしまった。


「見~つ~け~た~」


 一真は洞窟の奥に辿り着いた時、人の気配を感じていた。

 四人が隠れている事を見抜いており、ワザと見逃した振りをしたのだ。

 そうして、四人が安心した瞬間を狙ったのである。

 単純にそちらの方がインパクトがあるだろうと思っての事だった。


「くそったれが!」


 慎也がハリボテを蹴り破り、一真に向かって砂鉄を伸ばした。

 ナイフを失ったとはいえ、相手は素手でも化け物の一真。

 容赦なく慎也は砂鉄を使い、一真に攻撃を仕掛ける。

 それと同時に詩音も動き出し、一真に向かって電撃を放った。

 二人同時の攻撃ならば希望はある。

 そう思われたが、真っ直ぐ向かって来る砂鉄も電撃も一真にとっては遊びに等しく、踊るようにして避けると一気に踏み込んで二人の顔を掴んだ。


「もっと自分の異能を理解しようぜ。二人の異能は強力なんだからさ」


 顔面を掴まれた二人は目を一真に向けるが、次の瞬間には真っ暗になる。

 一真は二人を地面に頭から叩きつけ、戦闘不能にしたのだ。

 これにて決着。

 一真は十分以上時間を残して、敵チームをたった一人で殲滅したのであった。

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