第23話 見せてもらおうか!
昼休みも終わり、一真は生徒会室から教室へ戻る。
教室に戻ると、何故生徒会に呼ばれたのかとクラスメイトが押しかけて来たが、生徒会長決定戦に出場の有無を聞かれただけと答えるとクラスメイトは納得したように離れていった。
「で、出ることにしたのか?」
「生徒会長権限が気になってな。何が出来るか分からんが面白そうだから出ることにした」
「生徒会長権限か~。漫画やアニメだったら結構好き勝手してるけど普通に考えたらそこまでじゃないか?」
「俺が会長になったら女子は皆ミニスカにしてやる」
「嫌われるぞ……」
「じゃあ、ビキニで登校するように命じる!」
「全女子から敵視されて最後は下剋上だな……」
「返り討ちにしてやる……!」
「お前なら出来そうだけどやめとけ」
拳を握り締め、歯向かってくる奴を全員薙ぎ倒す気でいた一真を咎める俊介であった。
午後の訓練が始まり、一真は戦闘科に転入して初めてとなる支援科との合同訓練に興奮していた。
今までは戦闘科の生徒に護衛されていたが今回は護衛する側になるので一真は誰とペアを組むことになるのだろうかと楽しみにしている。
しかし、残念ながら一真は護衛ではなくテロリスト側にされてしまった。
護衛側であったはずなのだが一真は実力がずば抜けているので急遽変更されてしまったのだ。
「そんな、どうして!」
「お前が一番わかってるだろう?」
「納得できません!」
「お前の陣営は確実に勝つからハンデを設ける」
「話を聞いてください!」
「パワードスーツは強化値を三倍に固定。武器はナイフ一本だ」
「話を……話を聞いてください……!」
「特別ルールとしてお前はソロチームだ。そして、皐月を倒すことが出来たチームは最高評価を与えよう!」
『うおおおおおおおおおおお!!!』
戦闘科のクラスメイトは一真を倒せば一気に成績を上げることが出来ると判明し、やる気に満ち溢れていた。
一方で一真は生徒達のやる気を出させるための餌にされてしまい、少々不満に感じていた。
「先生! 生徒の声を無視するのはどうかと思うんですけど!」
「皐月、お前もしかして負けるのが怖いのか?」
「ようし! その挑発乗ってやらぁ!」
一真の人柄や性格は全教師に伝わっているのである程度コントロールが可能だ。
おかげで一真はまんまと教師の思惑通りに動いたのである。
訓練が始まり、一真はVR空間で一人佇んでいた。
「……マジでナイフ一本か」
一真の装備はパワードスーツにナイフ一本という貧相なもの。
パワードスーツは強化値が三倍で学園対抗戦の時よりも低い。
とはいえ、一真にとっては三倍もあれば十分だ。
ナイフとパワードスーツさえあれば遅れを取ることはない。
ナイフを握り締めて一真はその場から走り出した。
「護衛と護衛対象を含めて敵は十人。制限時間は三十分。逃げに徹されたらキツイかな~」
とは言いつつも顔は笑っている。
一真にとって三十分は短いようで長い。
生徒達がどういう戦法を取るのか分からないが一真にとって戦争の素人を相手にしているようなものなので苦にすらならない。
「さてさて、どこにいるのかな~?」
狂喜と狂気を掛け合わせたような笑みを浮かべながら一真はVR空間を走り回る。
その様子をモニター越しから眺めていた教師は頬が引き攣るのを抑えられなかった。
一真が獲物を求めてVR空間を駆け回っている頃、護衛を務めているクラスメイトは合流することを目標とし、慎重に物陰を隠れながら移動していた。
一真に見つかってしまえば負けは確定しているのでクラスメイトは戦う事よりも護衛対象を守り、生き延びることを決めていた。
「お! 夏目じゃん!」
「あ、速水! 無事だったんだ!」
「おう! 他に誰かと会ったか?」
「ううん。探しているけどまだ速水以外には会ってない」
「そうか~。早めに合流しないと一真に全滅させられるぞ」
「分かってるけど皐月君がどこに潜んでるか分からないから皆慎重になってるんでしょ」
「そうだな。俺もビクビクしながらここまで来たわ」
「私もよ。いつ皐月君とばったり出くわすんじゃないかってドキドキしっぱなしよ」
「俺等じゃ間違いなく勝てないもんな」
「そうね。逃げるのが精一杯だけど……見つかった時点で詰みじゃない?」
「一真のパワードスーツは身体強化三倍だろ? 学園対抗戦の時よりも低いから逃げるのは出来るんじゃねえか?」
「学園対抗戦の時は五倍。でも、アレが五倍の動きに見えた?」
「いいや。アレはもう十倍だって言われても嘘だって思うレベルだった」
「でしょ? つまり、見つかった時点で詰みよ」
最善策は制限時間まで見つからないこと。
最悪は発見されること。
一真の性格ならば護衛対象を狙い撃ちすることはないだろうが、そもそも発見された時点でアウトだ。
「最悪の鬼ごっこだな……」
「鬼ごっこじゃなくてかくれんぼだけどね……」
鬼ごっこはある程度実力が同じならば盛り上がるだろうが差が激しいと只の苦行でしかない。
素の身体能力が化け物の一真が身体強化三倍のパワードスーツを身に纏っているのだ。
あまりにも理不尽としか言えない。
「とりあえず、移動しようぜ」
「そうね。ここに留まってても見つかっちゃうかもしれないし」
「隠れてる奴がいなきゃいいけど……」
「皐月君が相手なら制限時間まで身を隠すのは悪くない作戦でしょ」
「見つかったらお陀仏だけどな」
二人は護衛対象を引き連れて他のクラスメイトを探しに行く。
俊介が先頭を歩き、香織が後方で周囲を警戒しながら二人は移動する。
他のクラスメイトがいそうな場所を検討し、二人は市街地エリアへ向かった。
建物があり、遮蔽物も多くあるので身を隠すならここが一番であろう。
「人の気配はある?」
「分かるわけないだろ……」
「それもそっか……」
一番前を歩いている俊介に香織は尋ねるが、そのような高等技術を俊介は持ち合わせてはいない。
「大体、普通人の気配なんて分からないだろ……」
ごもっともな意見に香織も言い返せず、納得したように黙っている。
二人はそれからも市街地エリアを回って他のクラスメイトを探すが見つからなかった。
そろそろ別のエリアに移動をするかと考え始めた時、二人の背中に悪寒が走る。
「ッ……! 夏目、今感じたか?」
「うん……! 多分、近くに皐月君がいる!」
「急いで離れるぞ!」
「わかった!」
ここに留まっていては危険だと本能が叫び、二人は護衛対象を引き連れて走り出した。
周囲をくまなく警戒し、一真がいない事を確かめながら市街地エリアを駆け抜ける。
あと少しで森林エリアに到達するといった所で悪魔が現れた。
「遅かったじゃないか、二人とも」
市街地エリアの出口には三日月状に口元を歪めていた一真が立っていた。
警戒を怠らず、慎重に移動していた二人は先回りされていた事に気がつき、悔しそうに奥歯を噛み締める。
「一真。お前、どこから見てたんだ?」
「二人が呑気に歩いてた所からだ」
「物陰に隠れながら移動してたのよ。裏路地も使って慎重に」
「そんなもん上から見れば一発だ」
「まさか、屋上を移動してたのか!?」
「正解だ」
「待って。もしかして、皐月君はいつでも私達を倒せたって事?」
「そうだな。隙だらけだったんでいつでも倒せたかな。でも、これじゃ訓練にならないかと思ってちょっと殺気を飛ばしてみた」
「あの時か……」
先程の悪寒は一真が放った殺気だと言うことを理解した俊介と香織は冷や汗を流す。
目の前にいるのは友人の一真であるが同時に敵であるということを痛感させられた。
「話はこれでお終いだ。制限時間があるからさくっと終わらせよう」
「へッ、舐めたこと言ってくれるじゃねえか。そう簡単にはやられねえよ!」
「言っておくけど私達もレベルアップしてるんだからね」
「じゃあ、見せてもらおうか」
その言葉が合図となり、三人が激突する。
巻き込まれないように護衛対象の二人は物陰から三人の戦いを見守った。
結果、十数秒で一真が二人をナイフ一本で制圧し、その圧倒的な強さを知らしめたのであった。
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