第22話 俺、出ます!

 午前の授業を無事に乗り切り、一真は昼食を取る事にしたのだが唐突に校内放送で生徒会室に呼ばれる。


『戦闘科一年生、皐月一真君。至急生徒会室へ来てください。繰り返します――』


 弁当を広げていた一真は不服そうに顔を歪ませるも仕方なく弁当箱を持って生徒会室へ向かった。


 生徒会室に着くと、そこには学園対抗戦で一緒に戦ったメンバーが揃っていた。

 とはいっても、全員揃っているわけではない。

 隼人、詩織、雪姫、火燐の四人だけである。

 何の用件で呼ばれたのか一真は開口一番に不満そうな顔をして尋ねた。


「何のご用件でしょうか?」

「うん、まあ、一真君が不満そうにしているのはよくわかったよ。とりあえず、座って話をしようじゃないか」

「くだらないことだったらぶっ飛ばしますからね!」

「出会った当初とは比べものにならないくらい大柄になったね……」


 初めて生徒会室に呼んだ時はまだ礼儀を弁えていたのだが今はもう完全に素を晒している。

 それどころかどこかの暴君のような振る舞いになっている。

 注意したいが駄々をこねられると面倒なので隼人はスルーを決め込んだ。


「それで何で俺を呼んだんです?」

「結構、重要なことなんだけど……一真君はどうして生徒会決定戦にエントリーしないんだい?」

「え? 面倒だからですけど」

「でも、生徒会長は代々学園最強の生徒が就任している事は知ってるよね?」

「そうですね。だから、どうしたって感じですけど」

「だから、どうしたって……一応、伝統なんだけどな~」

「まさか、俺になって欲しいんですか? 生徒会長に」

「そうだね。本音を言えば君が相応しい。実力もそうだけどカリスマ性もあるからね」

「溢れ出るリーダーの気質がバレてしまったか……」

「アハハハハ。君ほど支えなきゃいけないと思うリーダーはいないからね」

「どういう意味だ!」


 良くも悪くも一真は先頭を走るタイプのリーダーだ。

 真っ直ぐに前を走り、道を示すタイプのリーダーとしては相応しいのだが、頭の方はよろしくない。

 それゆえに縁の下の力持ちが沢山必要だ。

 隼人としては一真を会長にして補佐に雪姫や火燐を添えた完璧な生徒会を望んでいた。


「まあまあ、一真君。落ち着いて」

「会長は一真君のことを思って言ってるのよ」

「そうですよ。一真君はちょっとお馬鹿さんですから私達で支えて欲しいと会長は仰ってるんです」

「雪姫先輩、それトドメですからね」

「ええッ!?」


 詩織と火燐が一真を落ち着かせようと優しい言葉を掛けていたら、最後の最後に雪姫が爆弾を落とした。

 強烈な破壊力に一真もガックリと肩を落として落ち込んでしまった。


「まあ、本当のことなんだからそんなに凹まなくてもいいじゃない」

「心のダメージは治らないんですよ? 知ってました?」

「その程度じゃダメージなんてないでしょ?」

「それはそうですけども……」

「だったら、いいじゃない。それに心のダメージがどうのこうの言うのなら私達にも同じ権利があるわよ。たとえば、学園対抗戦の時とか」

「ドキッ!!!」

「動揺を口にする人いるんですね……」


 当たり前のことを忠告されて一真は小さくなってしまう。

 非は完全に一真の方にある。

 詩織の言うとおり、学園対抗戦の訓練中に一真は多くのトラウマを彼女達に植え付けたのだから。


「はいはい。一旦そこまで。話が脱線してるから」


 パンパンと手を叩いて隼人は話題を元に戻す。


「話は戻るけど一真君、ホント~に生徒会長には興味ない?」

「支援科の時だったら興味がありましたね」

「それって歴代初となる支援科出身の生徒会長って肩書きが目当てでしょ?」

「よく分かりましたね! 詩織先輩はエスパーですか!?」

「一真君のことはある程度理解してるから私達でも容易に想像出来るわよ?」

「マジっすか!? いや、言われてみれば正月に性癖まで暴露されたんだから当然か……」


 儚い目で窓の外を見つめる一真に生徒会のメンバーは口を閉ざしてしまった。

 女性陣は穂花から一真の性癖を聞いているので余計に気まずく、隼人は同じ男性として同情していた。


「あ~、ゴホン。とりあえず、一真君は生徒会長になるつもりはないんだね?」

「まあ、そうですね」

「じゃあ、生徒会長権限を使えば、ある程度融通が効く話もしなくていいね」

「それは是非ともお聞かせください!」


 一真が好みそうな餌を用意していた隼人は見事に食い付いたのを見てほくそ笑む。


「それじゃあ、生徒会長になれば聞かせてあげようか」

「な! 今、教えてくれるんじゃ?」

「だって、今教えたら一真君はならないかもしれないだろ?」

「む、そんなことは……」


 無いとは言い切れない。

 生徒会長権限は魅力的な話だが、どこまで効果があるのか分からない。

 それを今、知ってしまえば生徒会長に一真はならない可能性がある。

 そうなれば隼人の計画はパーだ。

 一真に生徒会長を継いでもらい、第七異能学園を盛り上げて欲しい隼人は画策しているのだ。


「どうする、一真君? 生徒会長権限について詳しく知りたくないかい?」

「ぐ、ぐぐぐ……」


 卑怯だと反論する事は出来るだろうが完封されることは目に見えている。

 一真が出来るのはせめてもの抵抗とばかりに唸る事だけだった。


「……知りたいです」

「ふっふっふ。それじゃあ、生徒会長決定戦に出場してくれるかな?」

「分かりました。優勝は目に見えてますけどね!」


 意趣返しと言わんばかりに一真はドヤ顔を見せるが隼人は笑みを崩さない。

 一真は何やら自信がありそうな隼人に気圧されてしまい、ゴクリと喉を鳴らす。


「まさか、俺が優勝出来ないとでも?」

「君は自分がどういう立場にいるのかを理解した方がいいよ」

「……可愛い一年生?」

「どういう思考回路をしていたら君が可愛い一年生に思えるんだ……」

「一部女子からは可愛いと評判はされてるわよ」

「え!? ホントかい?」


 詩織の口から知らない情報が飛び出てきて隼人は驚きの声を上げてしまう。


「ルックスはいいからね。一真君のことをあまり知らない女子達は結構、話題にしてるのよ」

「マジっすか!!!」

「生徒会長権限の話をした時よりも大きい声出してるね……」

「でも、私が色々教えておいたからそこまでだけどね」

「マジっすか……」

「凄いトーンが落ちたね! むしろ、心配になるくらい意気消沈してるけど大丈夫かな!?」


 上げてから盛大に叩き落された一真はしおしおのナメクジみたいに萎んでしまった。

 流石に可哀想になってきた隼人は心配そうに一真を見つめる。


「大丈夫ですよ、一真君。きっと素敵な女性は見つかりますから」

「そうそう。案外近くにいるかもよ?」

「雪姫先輩、火燐先輩……!」


 その様子を見て、これなら大丈夫かと隼人は安心したのだが隣で詩織が不気味に笑っているのを見て怖気つく。


「ふふ、これで一真君もあの子達を意識するでしょうね」


 小さく詩織の口から漏れた台詞を聞き逃さなかった隼人は女子の恐ろしさを垣間見た。

 恐る恐る詩織の顔を覗く隼人はゾッとするほど美しい笑みを向けられ、ただただ渇いた笑みを浮かべる事しか出来なかった。


「え~っと、それじゃあ、話はここまでで。ご飯を食べようか」


 これ以上は危険だと判断した隼人は話を打ち切り、昼食を取る事にした。

 食事中、女性陣が一真の持ってきた弁当に興味津々で色々と質問をし、本人の手作りだと知って愕然としていた。

 料理が出来る事は知っていたがその腕前に女性陣は白旗を上げるのが精一杯だった。

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