第21話 いつもと変わらぬ日常
食事を済ませた四人は私室へ戻る前にしばらく雑談をすることにした。
寮の中にある休憩所へ向かい、四人はそれぞれ自動販売機で飲み物を購入し、雑談にふける。
「そういや、一真のことは結構話題になってるんだぜ?」
「具体的にはどういう風にだ? 教えてくれ、俊介」
「まあ、歴史上初となる支援科からの編入。学園対抗戦のMVP。最強の一般人ってところだ」
「それってほとんど世間の評価と同じじゃね?」
「まあな!」
一真の噂話は大体どこも一緒だ。
世間の評価がそのまま生徒達の認識になっているだけでこれと言った話題はない。
「他にはないのかよ~」
俊介の話を聞いて一真は他にもっといい話題はないのかと不満を口にしていた時、ふと思い出したように毅が口を開いた。
「ふむ。一真が好みそうな話題ならあるぞ」
「え!? 何々? どんな話?」
気になる情報に一真は目を輝かせて毅に顔を向ける。
「彼女がいるかどうかという話だ」
「ほう……」
一真の目が鋭くなる。
彼女の有無を確かめようとする魂胆はずばり一つ。
「告白か!」
「いや、誰が一真を射止めるかを話していたぞ」
「え……?」
「一真は魔女、聖女をはじめとした多くの女性と接点を持っているだろう? それでそういう話になったらしい」
「いや、まあ、確かにアリシアやシャルとは仲良いけど彼女って言われると違うんだよな」
「そうなのか? それにしては随分と仲が良さそうに見えるが……」
一真とアリシアとシャルロットは誰がどう見ても友達以上の関係にしか見えない。
実際に三人の関係を目の当たりにしている毅は一真の物言いに疑問を抱いていた。
「ん~、まあ、他の人から見れば恋人みたく見られるんだろうけど、俺達は仲のいい友人だ。困った時にはお互い助け合う程のな」
「ふむ。一真がそう言うのならそうなのだろう」
一真に言われて納得する毅であったが隣で聞いていた慎也が流石にそれはないと待ったをかける。
「いや、ちょっと待て! どう見ても恋人みたいな関係にしか見えないじゃねえか!?」
「そうか? 普通だと思うけど?」
「どこかだよ! てか、そもそもあの二人はお前の事――」
「ストップ! 慎也、そこまでだ」
「ムグゥッ!」
何かを口走ろうとした慎也は後ろから俊介に口を塞がれ、羽交い絞めにされてしまう。
「それ以上は野暮だろ?」
「ム……」
慎也はコクコクと首を縦に振り、俊介が何を言いたいのかを理解した。
正月に彼女達の思いを知っている慎也は、危うく一真にその事を漏らしてしまいそうだったが間一髪である。
「え、メッチャ気になるんだけど……」
中途半端なところまで聞いてしまった一真は慎也が何を言おうとしたのか気になって仕方ない様子だ。
流石に本人達の与り知らぬ所で一真に伝えるのは不味いと思い、俊介は咄嗟に話題を変えた。
「そ、そういえば一真は生徒会長決定戦には出ないのか?」
「え、あ、う~ん……。面倒だから出ない」
「なんでだ? お前なら面白そうだから出ると思ったんだけど」
「いや、面白そうだとは思うけど別に生徒会長になってもな~って」
「まあ、確かに生徒会長なんて面倒なだけでいいことなんてなさそうだもんな~」
二人が想像しているのは学園の行事で毎回苦労している生徒会の姿だ。
生徒からも苦情を言われ、教師からも注意されて大変そうな中間管理職のイメージしかない。
そのようなものには率先してなりたいと一真は一切思えなかったのである。
「一真は出ないのか……」
「なんだ、毅。もしかして立候補する予定なのか?」
毅の残念そうな呟きを聞き逃さなかった慎也が不思議そうに尋ねた。
「いいや、ただ単に一真と本気で戦えるかもしれない絶好の機会だと思っていたからな」
「あ~~~……」
「一真と戦いたい奴は多いからな~。学生最強だって言われてた剣崎宗次先輩&英雄の秤重蔵タッグを倒した男だからな。一度は戦ってみたいと思ってる奴多いんだわ」
「モテる男は辛いぜ」
ある意味モテモテだがどちらかと言うと女性にではなく男性にだ。
やはり、強い者に惹かれるのは男の子の習性である。
「でも、一真が参加しないなら今年の生徒会長決定戦は分からなくなるな」
「そうだな。今年は結構混沌としてるからな。雪姫先輩に火燐先輩。そんで太我先輩とかいるから誰が生徒会長になるか分からないな」
「ポップコーンでも食べながら観戦してようぜ!」
呑気そうなことを言っている一真に他の三人は呆れたように溜息を吐く。
それからしばらく雑談をしていたが時計が二十時を回っており、そろそろ解散しようということになって、それぞれ私室へ戻っていく。
私室に戻った一真はシャワーを浴びて髪を乾かしている間に携帯でSNSをチェックする。
何か面白い記事でもないかと目を滑らせるが、特にこれといって面白い記事はなく、携帯を閉じた。
丁度、髪も乾き終わったので一真はベッドに寝転がり、ぼんやりと天井を見つめていたらウトウトしてきたので寝ることにした。
照明を切り、真っ暗になった部屋で大きな欠伸を一つして一真は眠りに就いたのであった。
◇◇◇◇
翌朝、いつもより少し早めに起きた一真は心機一転とばかりに新しい制服に身を包み、姿見の前で何度も身だしなみチェックしている。
どこかおかしなところはないかと念入りにチェックし、問題ないことを確かめて一真は部屋を出た。
いつもと違う制服姿なのだが特に珍しいこともなく、一真を目にした生徒は何のリアクションもない。
ただ、中には一真が戦闘科の制服を着ているので少し気になったように目を傾けていたが声を掛けるようなことはなかった。
「う~ん。教室に行ってもこんな感じかな~」
道中、何の反応もなかったので一真はいつもと変わらない調子で教室へ向かう。
教室に入ると中にいた生徒が一真に目を向け、制服が戦闘科のものに変わっていることに気がつくが、大して仲の良くない者達は視線をもとに戻した。
「よう、一真。新しい制服似合ってるじゃねえか」
「へっへ~。だろう?」
「ガタイもいいし、身長もあるから尚更だな」
「おいおい、どうした。俊介? 今日はやけに褒めてくれるじゃないの」
「今日だけだからな」
「今日だけか~」
初日だけの特大サービスということだった。
しかし、それはそれ、これはこれだ。
初日だけとは言え、こうまで褒められると一真は嬉しそうに笑った。
「一真君ってホント普段の言動や行動がもっとマシだったら彼氏にしたいよね」
「ね~。ルックスも実力も人柄もいいのに、何ですぐに調子に乗っちゃうんだろ」
「そこが可愛いところだと思うけど?」
「犬みたいだよね」
「あ~、犬系彼氏ってやつ~? 確かにそう言われるとそうかも~!」
俊介と一真が楽しそうに話している時、クラスメイトの女子達も盛り上がっていた。
お調子者ではあるが端整な顔立ちに男らしさを感じる体をしている一真はそこそこ評判はいい。
ただし、やはりすぐに調子に乗って失言をしてしまうのと頭が悪いという欠点が足を引っ張っていた。
それから次々とクラスメイトが登校してきて一真の制服について盛り上がり、朝のHRまでワイワイと過ごした。
そして、朝のHRが終わり、今日もいつもと変わらぬ日常が始まっていく。
一限目の英語で一真は単語を忘れ、二限目の数学で公式を忘れ、教師に注意されながら懸命に勉強へ取り組んでいく。
授業態度は真面目でノートにもしっかりと書き記しているが、学力は向上することはないだろう。
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