第20話 お引越し!
午後の訓練も終わり、一真は帰りのHRが終わるのを待っていた。
特に何の連絡事項もなく帰りのHRは終わりを告げて、帰宅となったのだが一真だけは呼び止められてしまう。
「あ、皐月君は待って」
「はい? なんですか?」
「制服が届いたから受け取りに行ってほしいんだ」
「分かりました。どこに行けばいいんです?」
「購買で受け取りが可能だから名前を言えば貰えるようになってるから」
「そうなんですね。分かりました」
「もしも、サイズが合わなかったら購買の店員に言ってね。後日新しいのをくれるから」
「分かりました」
と言う訳で一真は購買へ赴き、戦闘科の制服を受け取り、寮へ帰るのだが支援科の寮に着くと寮母から戦闘科の部屋が用意されたことを告げられる。
「皐月君ね。部屋の用意が出来たからいつでも移動できるわ」
「あ、そうなんですか。これからでもいいです?」
「今から引っ越し作業するの? もう暗いからやめておいた方がいいと思うわ」
「いえ、荷物は少ないんですぐにでも引っ越しは出来るんですよ」
「あら、そうなの?」
「はい。段ボール一箱とスーツケースだけです」
「それならすぐにでも引っ越しは出来そうね」
「そうなんです。だから、戦闘科の寮の方に連絡してもらえませんか?」
「わかったわ。ちょっと待ってて」
寮母は一真に言われた通り、戦闘科の寮に連絡を入れる。
しばらく寮母が電話をしているのを一真は近くで聞いていた。
電話が終わると寮母が一真に声を掛ける。
「大丈夫だそうよ」
「じゃあ、すぐに準備してきます」
「わかったわ。何か手伝いましょうか?」
「いえ、一人で大丈夫です」
寮母と別れて一真は部屋に戻り、荷物の入った段ボールとスーツケースを持って降りる。
玄関にはまだ寮母がおり、一真は最後に別れの挨拶を済ませることにした。
「それじゃ短い間でしたけどお世話になりました」
「ふふ、ここの寮母をして長いけど貴方のような子は初めてだわ。戦闘科でも頑張ってね」
「うっす!」
元気よく返事をした一真は片手を振って寮母と別れた。
荷物を持って一真は戦闘科の寮へ向かい、連絡を受けて待っていた戦闘科の寮母と顔を合わせる。
「どうもです。これからお世話になる皐月一真です」
「はい、よろしくね。話は聞いてるわ。支援科から戦闘科に史上初となる編入でしょ。歓迎するわ」
「よろしくお願いします」
「それじゃ部屋に案内するわね」
寮母の後に続き、一真は戦闘科の寮に入る。
勉強会の時に来たことがあるので、戦闘科の寮に何があるのかを知っていた一真は特に驚くこともなく先へ進んでいく。
案内された部屋に通された一真は荷物を置いて寮母から鍵を受け取った。
「……支援科とはシステムが違いますね」
「まあ、それは仕方のない事よ。政府が力を入れてるのは戦闘科の方だもの」
渡された鍵は最新版のもので生体認証、声紋認証といったものが採用されており、紛失する恐れもないものである。
支援科よりも厳重なシステムであり、最先端の技術を駆使しているものであった。
「寮内にある施設について説明しようと思うんだけど必要かしら?」
「もしかして、俺が以前ここに来たこと知ってます?」
「ええ、勿論。人の出入りは私の方で管理してるからね。だから、一応必要あるのか聞いてるの」
「なるほど。それならもう一度教えてもらってもいいですか? 正直、全部覚えている自信がないんで」
「わかったわ。それじゃ簡単に説明するわね」
寮母から改めて戦闘科の寮にある施設について説明を受ける。
時間もすでに遅かったので簡単な説明だけをして寮母は一真の部屋から出て行った。
一人になった一真は引っ越しといこともあり、テンションが高く、用意された部屋をウキウキしながら見て回る。
「リビングにキッチン、風呂場、寝室と支援科よりも豪華だな、やっぱり。そもそも2LDKってのがおかしいわ」
支援科の寮は基本1DKである。
そこそこいいが戦闘科に比べれば劣るのは間違いない。
とはいえ、学生の一真にとっては1DKでも十分に快適な空間だったのは言うまでもない。
「とりあえず、戦闘科の制服に一度袖を通しておかないとな」
学園の購買で受け取った制服を取り出して袖を通してみる一真。
サイズは伝えていたので特に問題はなく、裾上げも必要がなかった。
姿見の前で何度かポーズを取った一真は満足げに頷くと制服をハンガーにかけてクローゼットにしまった。
「さて、晩飯をどうするか……」
食堂に行くか、自分で用意するか悩む。
食堂に行けば安くて旨い飯がすぐに食べれる。
自分で作れば食堂よりも安くて済むが、その分面倒な手間が増える。
しばらく考えたが、今日は引っ越してきたということもあり、一真は食堂で手早く済ませることに決めた。
「よし、食堂に行こう」
早速、寮母から教えてもらったルートを辿って一真は食堂へ向かう。
食堂に辿り着くと、丁度夕飯を取りに来たであろう生徒で溢れていた。
育ち盛りに加えて戦闘科と言うこともあって沢山の料理を食べている生徒の姿があった。
「支援科とは違うな~……」
支援科の食堂は戦闘科の食堂に比べると質素だ。
そして利用する生徒も多くない。
同い年であるので育ち盛りなのは一緒なのだが戦闘科と違って線が細い生徒が多く、がっつり食べる生徒が少ないのだ。
支援科との違いに驚嘆しながら券売機へ向かい、食券を購入しようとするのだが道中、多くの視線を浴びてしまい、妙に気になってしまう。
自身に向けられている視線が気になってしまい、一真は自分に向けられている視線の主達に顔を向ける。
すると、一真が視線を向けたことで多くの者達が顔を逸らしてしまう。
その事に対して一真は少しだけムッとするも微かに聞こえてくる話し声に気を取られる。
「なあ、アレって噂の?」
「ああ、皐月一真だ」
「アレが最強の一般人か……」
「編入して来るって聞いたけど随分と早いな」
「どうする? 話しかけてみるか?」
「いや、とりあえず様子見だな」
などといった声が聞こえてきて一真は自分が注目を浴びていることを理解し、満更でもなさそうに口元を歪めた。
「(ぐっへっへっへ~。そっか~。皆、俺のこと気になってるんだな。有名人は辛いぜ~)」
ここぞとばかりに調子に乗り始める一真は内心ニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべている。
一人で浮かれている一真だったが腹の虫が鳴いたので正気に戻り、食券を購入し、料理を待った。
注文した料理を受け取り、一真は適当に空いている席を探す。
キョロキョロとどこかに席が空いていないか探していたら丁度、食堂に来ていた俊介達が一真を呼んだ。
「お~い、一真~」
「んあ? お! 俊介じゃないか。それに毅に慎也も!」
「ここ空いてるから、こっち来いよ」
「サンキュー!」
呼ばれて一真は俊介達がいる席へ向かい、空いている席に腰を下ろした。
「いや~、助かったよ。結構、人が多くてどこに座ろうか迷ってたんだ」
「支援科の時はどうしてたんだよ?」
「あっちはここまで人が多くないからな。基本、どこでも空いてた」
「それは勿体無いな。ここの飯は美味いのに」
「支援科と戦闘科とじゃ体の作りも違うからな。仕方ないことなんだ」
「でも、安くて美味いんだから利用した方がいいだろ?」
「慎也、さっきも言ったけど戦闘科と支援科じゃ食う量が違うんだって」
「あ~、確かに結構ボリュームあるからな~」
普通のから揚げ定食でもから揚げが八個あり、ご飯は大盛りで味噌汁に副菜と食堂のメニューは一つ一つが多めだ。
線の細い人間が多い支援科には少しキツイのだ。
「ところで一真は今日からこっちなのか?」
「ああ。割と早めだったから俺も驚いたけど今日からこっちなんだ」
「なんかアレだな。裏の事情がありそうだな」
「まあ、あるだろう。実際、編入の話が出た時はそれっぽいこと言われたし」
「マジで!?」
「マジ。学園対抗戦で結構なお金が動いたんだってよ」
「ふむ、それで一真を戦闘科にして来年以降もということか」
「多分、そういうことだろ」
「うわ~……マジでそういう話あるんだ」
一真から汚い大人の話を聞いた三人だが食欲が失せる事はなく、普通に食べ進めていき、綺麗に平らげるのであった。
****
更新遅れてすいません。
リアルが忙しく、今後も遅れるかもしれません。
これからもよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます