第18話 訓練相手には丁度いい
昼休みも終わり、一真は午後から戦闘訓練があるため、トレーニングルームにクラスメイトと向かう。
戦闘訓練は体操着ではなく指定された道着で行われることになっているので一真は貸し出し用の道着を身に纏い、トレーニングルームに入っていく。
「VRマシーンを使わない実技か~」
「緊張するか?」
「いや、どういう組み合わせになるのか気になる」
「基本はペアで組み手だな。相手を変えたりすることもあるけど、お前は今日が初参加だからずっと同じ相手とかもな」
「人数的に足りなくない? このクラスって二人退学して俺が入ったから奇数じゃん」
「その場合は先生が相手してくれるって。それに慣れてない……いや、お前なら誰でもいいのか?」
「いや、なんで疑問系なんだよ」
「だって、お前強いじゃん。組み手で手加減する必要なさそうだし」
「まあ、組み手くらいなら別に問題はないな~」
もう既に一真の実力は自他共に認められている。
なにせ、全国ネットで放送された学園対抗戦で華々しいデビューを飾っているのだから。
「だったら、多分…………大変なことになるな」
「なんだよ、その意味深な間は!」
「ハハハハ、まあ後で分かる」
授業の始まりを告げる鐘が鳴り、トレーニングルームに一真達と同じような道着を着た先生が入ってくる。
「よし、お前ら、まずはストレッチからだ」
言われた通り、ストレッチを行い、体を解してた一真達は先生に呼ばれて集まる。
「それじゃあ、今日は初参加の皐月がいるから説明を行う」
「あ、一応軽き聞いてます」
「そうか? なら、説明は省いてペアを組んでもらおう。皐月は初参加だが実力は皆知っている通り、大人顔負けのレベルだ。それゆえに誰と組んでも問題は――」
「それならアタシが組んでもいいですか?」
「宮園か。確かにお前なら問題はないだろう。皐月もいいか?」
「問題ないです」
「わかった。では、各自ペアを組み、怪我に充分気をつけてはじめてくれ」
という訳で一真はアリスとペアを組み、一番近くのリングで向かい合う。
「言っておくけど手加減はいらないよ」
「……あー、ちょっとだけいいかな?」
「なんだい?」
一真はどうしてもアリスに言っておかねばならないことがある。
「自惚れるなよ、小娘。俺とお前の間にどれほどの実力差があるか分からないのか?」
ズンとアリスの全身に鉛がのしかかったように重たくなる。
今、一真はほんの少しだけ威圧感を放ち、アリスを威圧していた。
手加減など不要とアリスは言ったが、それは強者であれば出る台詞だ。
一真が言うのならば問題はないがアリスが言う分には大問題である。
実力が伴っていない行為はただの無謀でしかない。
「ッ……」
「学園対抗戦を見ていたのなら理解できるだろ? 俺とお前の間にある差が。それを理解していないのならばお前は今すぐにこの学園を去るといい。国防軍に志願してもすぐに死ぬだけだ」
一真も蛮勇の勇者と言われているので人のことは言えないが、言っている事自体は間違っていない。
「…………アンタの言うとおりだ。悪かったね」
自身の非を認めたアリスは素直に頭を下げた。
一真はそれを見ていつも通りのふざけた態度を取り、アリスに声を掛けた。
「分かってくれたならいいよ。俺としても友人をみすみす見殺しにはしたくないからね」
「まあ、もとはといえばアンタが実力を隠してたからアタシもムキになったんだけどね」
「それはごめん」
「もういいさ。それよりも始めようか」
「どこからでもかかってきんしゃい」
「それじゃあ、遠慮なく!」
合図もなしに組み手は始まった。
アリスは言葉通り一切の遠慮なしに一真に向かって跳躍し、懐へ侵入する。
一真の襟首を掴もうと手を伸ばすも逆に手を掴まれてしまい、そのまま視界が反転して逆さになってしまったアリスは驚きに固まっていた。
「ま、俺に勝とうなんて百年早いんだけどね!」
「この野郎……」
真面目に説教したかと思えば、この始末。
アリスも調子が狂ってしまうのは仕方ないだろう。
その後もアリスは何度も一真と組み手を行い、幾度となく床に倒されるも決して諦める事はなかった。
「完敗だね。ここまで子ども扱いされるのも久しぶりさ」
「組み手の相手にはいつでもなるよ」
「そりゃ有り難いね。一真とやってれば強くなれそうだよ」
仰向けに倒れて疲労から胸を上下に揺らしているアリスの顔はすっきりとしていた。
一真から差し伸べられた手を取り、アリスは立ち上がると笑みを浮かべて彼の肩を叩いた。
「ま、これからもよろしくな」
「おうとも!」
それから組み手の相手を変更する事になり、一真は毅と組むことなった。
アリス同様に一真は毅を軽くあしらい、何度も床に叩き付けたが彼は文句一つ言わなかった。
むしろ、いい訓練になると喜んでいた。
「なるほど。宮園が楽しそうにしているわけだ」
「投げられてばかりだとつまらなくないか?」
「それはそうだろうが、懐かしい気持ちになれるんだ。反骨心とでも言えばいいのか。目にもの見せてやる、とかつて抱いた気持ちがふつふつと湧いて来るんだ」
「あ~、なんとなく分かる気がする」
一真も異世界で師匠達に扱かれていた時はよくいつの日かぎゃふんと言わせてやるとムキになっていた。
「さて、まだまだ後が控えているだろうから俺はこれにて失礼する」
「いつでも相手になるよ」
「今度は有効打を入れられるくらいには成長しておこう」
毅と組み手を終えて一真は次の相手となる俊介と向かい合う。
列こそ出来ていないが他の場所で組み手を行っているクラスメイトから熱烈な視線を送られて一真は苦笑い。
「(みんなギラギラした目で見てくるな~)」
クラスメイトは最強の一般人と呼ばれる一真と戦ってみたいのだ。
勿論、公式戦でもないし、本気の試合というわけでもないが、その片鱗を味わってみたいと彼等彼女等は思っている。
「へへッ、実は俺もお前と戦ってみたかったんだよな~」
「戦闘狂みたいな言い方だな……」
「そんなんじゃねえけど、やっぱり最強の一般人がどれ程のものかってのを見てみたいじゃねえか」
「そういうことか。だったら、本気でやってあげようか?」
「いや、それはやめてくれ。多分、死んじゃう」
「死なないよう手加減するよ~。皐月流は殺人術だけど活殺術も使えるから~」
「活殺術ってマッサージでもするのか……?」
「出来なくはない。疲れた貴方を癒してあげます」
「怖え~よ……。なんかボコボコって膨れ上がって派手に飛び散ったりしない?」
「しないわ。出来なくもないけど……」
「出来るのかよ!」
ちょっとした漫才のように盛り上がった所で俊介は気持ちを切り替えて真剣な表情を見せる。
一真も俊介が気持ちを切り替えたのを察して、ファイティングポーズを取り、組み手の準備を整えた。
「それじゃ、行くぜ!」
「ドンと来い!」
果敢に攻めたものの、やはり一真には通じず、俊介はあっさりと床に倒されてしまった。
天井を見上げ、一真の強さを改めて認識している俊介は大きく息を吐いた。
「は~~~。っぱ、強いな~」
「年季が違いますから」
一真は異世界で一年にも及ぶ地獄の訓練を課され、二年に渡って魔王軍と死闘を繰り返し、魔王と熾烈な戦いを繰り広げたのだから年季が違うのは当然だろう。
俊介達はまだ一年にも満たないのだから一真と違って弱いのは当たり前の事だ。
だからこそ、こうして訓練をしている。
それゆえに一真という強者はクラスメイトにとって有り難い存在だ。
指標にもなるし、明確な目安にもなる。
自分がどれだけ強くなったかを一真で計る事が出来るのだから。
とても都合のいい存在でもあった。
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