第16話 新たなスタート

 新しい教室で新たに戦闘科としてスタートすることになった一真は朝のHRを終えて、クラスメイトと交流を深めるべく会話を試みるのだが出鼻をくじかれる。


「か~ず~ま~。アンタが今までアタシを怖がらない理由がよ~く分かったよ」

「ア、アリスちゃん……」


 ボキボキと手を鳴らし、一真を威嚇しているのは宮園愛莉珠。

 彼女は一真が普通の支援科でないことを良く知っていたが剣崎宗次を圧倒するほどの強者だと言う事は見抜けなかった。

 しかし、学園対抗戦での活躍を知ってしまった今、アリスは一真に対して不満を抱いていた。


「あれだけ強かったら確かにアタシ程度は怖くないだろうね~」

「い、いや~、ハハハ」


 明らかに不服そうな顔をしているアリスに一真もたじたじである。

 彼女からすればバカにされていたようで腹が立つのだ。

 一真もそのことを理解しているから何も言えず、ただ誤魔化すように笑っていた。


「ふん! まあいいさ。訓練の時に思い知らせてやるよ」


 大きく鼻を鳴らすとアリスは自分の席に戻っていった。

 アリスがいなくなってようやく一真のもとに数名のクラスメイトが近付いた。

 アリスが怖かったと言うより一触即発の雰囲気だったので誰も近づけなかったようだ。


「よう、一真」

「おう、餅つき以来だな、俊介」

「ああ。そんなに時間が経ってないのに懐かしいぜ」

「確かに」

「それより、お前は相変わらずぶっ飛んでるな。支援科から戦闘科に転入って聞いたことないぞ」

「知ってる。田中先生からも聞いたよ。前代未聞の一大事らしい」

「だろうよ。戦闘科から支援科に転入するのは割りとあるが逆はないからな。普通は」

「俺が異常みたいな言い方はやめて欲しいね!」

『お前は異常だよ!』


 クラスメイトの意見が見事に一致した瞬間であった。


「ぴえん……」


 新しいクラスメイト一同から異常者扱いをされて一真は誠に遺憾ながらも反論できずに泣き真似をするだけだった。


「まあ、それはさておき、これからよろしくね」

「切り替え早いよな」

「そうしなきゃ死ぬ環境にいたからな」

「れいの皐月流か……」


 盛大に勘違いしているがそのほうが都合がいいので一真はそのままにしておく事を決めた。


「そうだよ。一子相伝の殺人術だけど弟子は俺以外にも三人いたからね。血で血を洗う激しい後継者争いをしたんだ……」


 調子に乗った一真はプロペラのように舌が回り、ありもしない嘘をでっち上げる。


「それは嘘だろ、流石に」


 流石にそのような話が現代にあるはずがないとクラスメイト全員が首をうんうんと縦に振っていた。


「嘘じゃないんだよ、これが」

「面白くはあるけどな。でも、流石に信じられねえよ」

「でも、俺の強さを見てたろ?」

「んむ……。そう言われると確かに信憑性が増してくるが」


 学園対抗戦で見せた一真の出鱈目な強さを思い出すと、あながち嘘ではないのではないかとクラスメイト全員が惑い始める。


「まあ、全部作り話なんだけどね」


 あっけらかんと言い放つ一真にクラスメイトは呆れ果ててしまうが、平常運転なので無視する事にした。


「とりあえず、俺としては聞きたいことがあるんだけど何か戦闘科には

 支援科にはないルールとかある?」

「あー、そういうのは特にないな。人としてのモラルを守ってれば」

「あ~、そういうことね。てか、このクラスって人少ないよな?」


 一真が新しく配属されたクラスは他のクラスよりも二名少ない。

 すっかり忘れているがこのクラスには田村と井上という生徒がいたのだがイヴェーラ教に唆されてしまい、残念ながら退学となってしまったのだ。


「お前、忘れたのか? 田村と井上は退学になったってことを」

「あ、いたな~。すっかり忘れてたぜ!」


 大笑いする一真に俊介も釣られて笑うが一応取り繕った。


「そりゃお前みたいな人生送ってりゃ井上と田村なんて記憶の彼方だよな」


 井上と田村はイヴェーラ教の新薬で暴走し、クラスメイトを襲い、半殺しにまでした。

 その事件は当時のクラスメイトにとっては衝撃的な事件だったのだが一真からしてみれば確かに些細なことだろう。

 なにせ、一真は魔女をはじめとした世界でも名だたる有名人と出会い、交流を深めているのだから。


「ふッ、俺以上に波乱万丈な人生を送ってる奴がいたら是非とも会ってみたいね」


 一真は俊介の言葉の意図を理解しておらず、無駄に意地を張っていた。


「何を張り合ってるんだよ……」


 わけのわからないことで意地になっている一真をみて呆れ果てる俊介は肩を竦めるのであった。


 やがて、始業のチャイムが鳴り、一真の周囲にいたクラスメイトは自身の席へ戻っていき、最初の授業が始まる。

 戦闘科も基礎は当然にあるので一真は受け取った教科書を開き、真面目にノートを取っていく。

 ただ、ノートは真面目にとっているが勉強についていけるか分からない。

 それでもやらないよりはマシだろう。


 最初の授業が終わり、一真は大きく息を吐いた。


「ふ~~~ッ……」


 残念ながら戦闘科に移ったからと言って一真の学力が劇的に上がるわけではない。

 授業こそ真面目に聞いていたが、その内容の三割も一真は理解していなかった。


「やべえ~……」


 机に突っ伏す一真は焦りを感じるが有り難い事に戦闘科は学力よりも戦闘力を重視する。

 だからこそ、学園側は一真の戦闘力を見込んで戦闘科に転入させたのだ。

 勿論、一真にとってもメリットはあり、学園側にとってもメリットはある。

 ウィンウィンの関係だが多少学園側のほうが利益は大きい。


「苦労しているみたいだな」

「ん? 剛田君か」

つよしで構わない」

「ああ、それなら俺も一真でいいよ」

「心得た」

「毅って妙に喋りが古臭い感じがするけどなんで?」

「随分とストレートに聞いてくるな」

「あ、ごめん。別にバカにしてるわけじゃないんだけど」

「気にしてないからいいさ。それで俺の喋りが古臭いという話だが、まあ、これは父親の影響だ。うちは空手道場をやっていて父が威厳を保つ為に堅苦しい喋りをしていた。それに影響を受けてこうなった」

「なるほど。俺はいいと思うよ」

「そう言われると助かる。中には堅苦しくて嫌だと言う者もいてな」

「あ~、確かに同級生がそんな言葉遣いだと戸惑う事もあるかもね」


 毅は見た目が古臭いと言うわけではないのだがどうしても古臭く感じてしまう見た目をしている。

 綺麗な坊主頭に引き絞った肉体に制服を着ているのだが、首もとのボタンまできっちりと閉めているのでいかにも優等生に見える。

 そして、同時に古臭いしきたりに守られた家の人間にも見えてしまう。

 空手をしているおかげで姿勢もよく、背中に物差しでも差しているようにピンと背筋が真っ直ぐになっているので余計にだ。


「ところで毅は身長いくつだ?」

「最近は計っていないが前に計ったときは179cmだ」

「マジか! でかいな!」

「そういう一真も大きいほうだろう?」

「俺も計ってないけど175cmは超えてるだろうな」

「日本人の平均身長はゆうに越しているじゃないか。少し立ってみてくれないか?」


 座って毅と話していた一真は言われた通りに立ち上がる。


「む。ほぼ俺と同じ視線だな」

「みたいだな~。身長が伸びたと思ったけどここまでとはな~」

「制服を買うときに考えなかったのか?」

「中学で頭打ちかと思ったんだよ。これ以上、大きくなる事はないだろうなと思って今のサイズを買ったんだ」

「失敗したみたいだな」

「ああ。言われてた通り、少しサイズが大きいのを注文しておくべきだったわ」


 過去のことを悔やむが落ち込んでいても仕方がないと一真は割り切っており、新しい制服が支給されるのを待つだけだ。


「そういえば勉強のほうはついていけそうか?」

「頼む、助けてくれ」

「素直なのはいいことだ。俺でよければ勉強を教えよう」

「おお~、心の友よ~」

「気にするな、友よ」

「お、おう!」


 ネタが通じず、一真は困惑するも笑顔で誤魔化した。

 それからも休憩時間が終わるまで他愛もない会話で盛り上がるのだった。

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