第15話 今日から戦闘科として頑張ります!

 食堂にて一真は幸助と支援科として最後になる晩餐を取る。


「それにしても一真が戦闘科か~」

「おかしいか?」

「いや、むしろようやくかって感じ。元からお前おかしかったし」

「お前にだけは言われたくないな」

「なんだとう?」

「人のことは言えないがお前も突飛な行動を取りがちだろ?」

「心当たりがないんだが?」

「体育祭や学園祭もそうだが普段も俺が女性と絡んでいると襲ってきたりしただろ」

「……何のことか覚えてないな~」

「ぶん殴ったら思い出しそうか?」


 いい笑顔で一真は金槌のように握り締めた拳を幸助に見せつける。

 幸助はあの拳で殴られたら無事では済まないと命の危機を悟って平謝りする。


「ごめんなちゃい」

「うむ。許してやろう。だが、この拳が許すかな」

「い、今は食事中だから後にしてくれると嬉しいな~」


 幸助は殴られることが決定事項となった。

 その後、夕食を済ませた二人は各々部屋へ戻ることになるのだが一真は決めていた通り、幸助の胸に拳を当てる。


「今週中にはここを退去になるんだ。お前とこうして飯に行くのも今日が最後になると思う。今までありがとうな」

「一真……。ああ、俺も楽しかった。戦闘科に行っても元気でやれよ。まあ、お前なら大丈夫だと思うけど」

「当たり前さ。なんて言ったって俺は最強の一般人だぜ!」

「ハハハハ! 間違いねえ!」


 ひとしきり笑い合って一真は幸助と別れる。

 幸助と別れた一真は自室へ戻り、軽く筋トレを行ってからシャワーを浴びる。

 汗を流し終えて、さっぱりした一真はパンツだけを履き、上半身裸のままベッドに腰を下ろした。


「う~む……」


 唸り声を上げる一真は腕を組んで神妙な顔をしていた。

 何やら考えているようだが、彼は基本バカである。


「明日から転入ってことは自己紹介があるよな。どういう風に挨拶をしようか……」


 下らないことで一真は数分ほど悩むのであった。

 結局、いい案が浮かばなかったので寝ることにした。

 一真は寝間着に着替えてベッドに転がり、冷たい布団の中に潜り込んで明日のことを思い浮かべながら眠りに就いた。


 ◇◇◇◇


 翌朝、いつもより早くに目が覚めた一真は顔を洗ってジョギングに出かけた。

 まだまだ厳しい寒さが続き、朝日も昇らぬ薄暗い空の下、一真は白い息を吐きながら走っている。

 軽く三十分ほど走った一真は火照った体を冷ますようにベンチへ腰掛けると大きく息を吐いた。


「ふう~~~。気持ちのいい朝だ」


 しばらくのんびり過ごしていたが太陽が顔を見せ始め、一真は丁度いい時間になったことを知り、部屋に戻って登校の準備を始める。

 いつも通り支援科の制服を身に纏い、簡単に髪を整えたら一真は学園に向かった。


 先日に言われていた通り、一真はいつもとは違い、真っ先に職員室へと向かう。

 職員室のほうへ向かう一真は誰ともすれ違うことなく、職員室へ辿り着いた。


「失礼しま~す」


 軽いノリで挨拶をしてから職員室に足を踏み入れた一真は田中先生を探す。

 キョロキョロと首を動かし、田中先生を見つけた一真はのんびりとした歩みで田中先生のもとへ向かった。


「おはようございま~す」

「おう、おはよう。遅刻はしなかったな」

「すんません。折角、フラグを建ててもらったのに」

「いや、遅刻するなよって注意しただけだからな。フラグじゃないからな」


 大事な事なので二度も繰り返して一真に言い聞かせる田中先生。


「わかりましたって。それで俺が転入するクラスは?」

「多分、もうそろそろ担任が迎えに来ると思うんだが……」


 そう言って田中先生は壁に掛けられている時計に目を向ける。

 釣られて一真が時計に目を向けた時、職員室のドアが開き、誰かが入ってきた。

 二人揃ってドアのほうに顔を向けると、そこには戦闘科の教員が立っており、二人と目が合うとこちらに向かって来る。


「おはようございます、田中先生。皐月君を迎えに来ましたよ」

「おはようございます、佐藤先生。こちらが皐月一真の資料になっておりますのでご確認を」

「はい。わかりました」


 一真の目の前で田中先生と佐藤先生は引継ぎ作業を行い、色々と話し合う。

 引継ぎ作業が終わると田中先生が佐藤先生に頭を下げた。


「では、皐月一真君のこと、よろしくお願いします。ご迷惑をお掛けするかもしれませんが根はいい子なので見放さないでください」

「勿論です。戦闘科のほうにも彼の人となりは聞こえてます。ですので御安心を」

「そうですか。それでは改めてよろしくお願いします」

「はい。お任せください」


 引継ぎが終わり、佐藤先生は一真に顔を向ける。


「初めまして。皐月一真君、今日から君の担任になる佐藤です。よろしくね」

「あ、はい。よろしくお願いします」

「何か困った事や分からないことがあったら遠慮なく聞いて欲しい」

「では、質問があります」

「なにかな?」

「支援科の制服ですけど戦闘科の制服はいつ支給されるんですか?」

「ああ、それについてはまずサイズを測らないとね。見たところ、今の制服は小さいみたいだから一度サイズ測定しないと、今みたいになっちゃうから」

「なるほど。わかりました」

「質問はそれだけかい?」

「とりあえず、今はこれだけです」

「それじゃあ、朝のHRが始まる前に君がこれから通う教室に向かおうか」

「わかりました。それでは、田中先生。行って参ります!」

「おう。頑張れよ」


 田中先生に別れを告げて一真は佐藤先生について行く。

 一度、戦闘科の職員室に立ち寄って一真は教材などを受け取り、新しい教室へと向かう。


「合図をしたら入って来て」

「は~い」

「うん、いいね。ガチガチに緊張してるより、それくらい自然体の方がいいよ」

「ありがとうございます」

「でも、気をつけてね。戦闘科って結構規律に厳しい先生もいるから」

「わかりました! 以後、気をつけます!」

「素直で助かるよ。それじゃ、合図したら入ってきてね」


 朝のHRが始まり、一真は合図があるまで教室の外で待機する。

 程なくして佐藤先生から合図が出て一真は教室の中へ入った。

 三ヶ月遅れで入学した当時とは違い、ごく普通に一真は教室へ入り、クラスメイトを一望する。


「皆、知ってると思うけど今日から新しく我がクラスの仲間になった皐月一真君だ」

「どうも~。皐月一真で~す。退学と留年を免れる為に戦闘科に転入しました。よろしくね~」


 適当な自己紹介を済ませた一真は手をフリフリしていた。

 一真の自己紹介を聞いたクラスメイトから落胆の声が出てくる。


「なんだよ、一真かよ~」

「美少女がよかったのに~」

「うわ~、萎える~」

「新しい人が来るからって楽しみにしてたのに一真とか残念すぎるだろ~」

「期待して損したわ~」


 男性陣から不満の声が上がり、一真は満面の笑みを浮かべて佐藤先生に顔を向ける。


「先生、あいつ等ぶっ飛ばしてもいいですか?」

「コラコラ、転入初日から暴れないで」

「俺を歓迎しないあいつ等が憎い!」


 初日から喧嘩腰の一真に佐藤先生も苦笑いだ。

 お調子者だと聞いていたがまさにその通りだと佐藤先生は困り果てたが、女性陣のほうから一真を歓迎する声が聞こえてくる。


「一真君じゃ~ん。イケメンだから割とアリ!」

「ちょっとウザいところもあるけど、クラスの男子より将来性もあるから良き!」

「黙ってればイケメン」

「今度、あのハリウッドスターみたいなイケおじ紹介して~」

「優良物件だから唾つけとかないと……」


 最後の方はよく聞こえなかったが女性陣からは歓迎されていることが分かった一真は怒りを鎮め、佐藤先生に決め顔を向けた。


「先生、僕の席はどこですか?」

「本当に調子がいいね。君の席はあそこだよ」


 一真の手のひら返しに佐藤先生は呆れながら空いている席を指差した。

 佐藤先生に指示された席へ向かい、一真は今日から戦闘科として新鮮な気持ちで学園生活を送ることになるのだった。

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