第14話 明日から戦闘科
帰宅した一真は今日から再び寮生活だ。
私室に戻った一真は精神的な疲労もあり、そのままの格好でベッドにダイブする。
「うへ~~~……」
だらしない声を出しながらベッドに寝転んでいるとポケットの中にしまっていた携帯が鳴る。
取り出して電話の相手を確認すると桃子からであった。
「はい、もしもし~」
『もしもし、聞きましたよ。戦闘科に転入するそうですね』
「あれ? 話し早いな~。そうだよ。いつから転入するかは聞いてないけどね」
『話は伺っています。学園長がどうやら冬期休暇中に色々と根回ししていたそうですよ』
「マジで? てか、何で知ってるの?」
『先程、斉藤総理から連絡がありましたので。今回の件はそこまで重要な案件ではなかったので下のほうで処理されていたそうです』
「一応、俺は紅蓮の騎士で国防軍特務部隊のトップだよね?」
『それは紅蓮の騎士の話です。皐月一真という個人は一般の男子生徒という認識ですよ。学園対抗戦で見せた活躍で今は有名人ですが』
「なるほど。つまり、俺個人は大人の汚い都合で振り回されてるってこと?」
『その解釈で問題ありません。嫌なら学園に報告しますがどうします?』
報告すると言うのは一真が紅蓮の騎士だということをだ。
一真が紅蓮の騎士だということを知っている人間はまだ少ない。
「契約するのが面倒だから、このままでいいや」
『わかりました。でしたら、私は支援科で貴方をフォローします』
「あっ……!」
一真が戦闘科に転入すれば桃子とはお別れになる。
彼女は一真の秘書をやっているが常に傍に控えていなければならないと言うわけではない。
今まで通り、学園に通う事にはなっているので多少クラスが違っても大きな問題はないのだ。
「どうにかならない?」
『なりませんね。むしろ、したくありません。私は透視の異能者として登録しているんですよ? 今更どうしろと言うんですか』
バッサリと切り捨てられる一真はガックリと肩を落とした。
駄々をこねても意味がないことを理解している一真は割り切って話を続けた。
「それじゃあ、基本は今まで通りでいい?」
『そうですね。異論はありません』
電話が切れて一真は空虚な気持ちになり大きく息を吐いた。
「は~……」
明日からどうしようかと一真が考えていた時、不意に電話が鳴り、意識が切り替わる。
「はい、もしもし」
『もしもし、一真』
「お母様!」
『学園から知らせがありました。貴方は明日から戦闘科に転入とのことです』
「仕事が早い! すでに準備万端だったってことか」
『そうみたいね。まあ、戦闘科の方が貴方の性には合っているでしょう?』
「否定できない自分が悔しい……」
『手続きはこちらで済ましておくから、貴方はその部屋から出て行く準備をしなさい』
「え? なんで?」
『そこは支援科の寮でしょう。貴方は明日から戦闘科になるのだから戦闘科の寮に移り住むことになるの』
「なるほど……。一年もいなかったけど寂しくなるな~」
『その部屋に何か思い出でもあるの?』
「国防軍と熾烈な争いを繰り広げたからね」
夜な夜な下らない駆け引きを行い、主に桃子の肉体と精神を疲弊させ、破壊した悲しき戦争である。
勿論、桃子は今もその事を忘れてはいない。
決して一真が行った所業を彼女は忘れはしないだろう。
『あ~……。相変わらずバカなことをしていたのね』
「はい……」
『とりあえず、話は戻るけど今週中にはそこから退去出来るよう荷物を纏めておきなさい。手伝いがいるならいつでも連絡しなさい』
「わかった。でも、特に大きな荷物はないから大丈夫」
『わかりました。それじゃ、伝えることは伝えたから、明日から新しいクラスで頑張りなさい』
「は~い」
電話を終えると一真は言われた通り、荷物を纏め始める。
学園が午前中に終わったのが幸いだったようで時間はまだまだある。
それに一真は荷物が少ないのでそこまで時間は掛からない。
スーツケースに制服や私服を入れて終わり。
なんとも呆気ない引っ越し作業であった。
「我ながら荷物が少ないな……」
一真の目の前にはスーツケースと段ボールが一箱あるだけ。
そもそも今、一真が使っている部屋は学園側が用意したものであり、家電製品などは全て学園のものだ。
それゆえに寮に住む生徒は必需品である服や衛生用品といったものしか持ち込まない。
「まあいいか。これで明日学園に行ったら説明があるのかな?」
荷物を纏め終えた一真はベッドに寝転び、携帯で動画サイトを閲覧していたら田中先生から連絡が来た。
「はい、もしもし」
『もしもし、皐月。今、時間大丈夫か?』
「はい。大丈夫です」
『そうか。実はさっき、お前のお母さんに転入の件について連絡して許可を貰ったからお前にも報告をと思ってな』
「あ、それはもう聞いてます。なんでも明日から戦闘科だとか」
『あ~、もう聞いていたのか。そうだ。明日から戦闘科だ』
「随分とお早いですけど、やっぱり学園側の意向としては俺を利用するおつもりで?」
『人聞きの悪いことを言わないでくれ、と言いたいがそういうことだ。もし、お前がどうしても嫌だと言うなら転校も出来るぞ?』
「え? そうなんですか?」
『当たり前だろう。学園対抗戦であれだけの活躍をしたお前だ。どこの学園も喉から手が出るほど欲しいさ』
「それってスカウトみたいなもんです?」
『そうだな。まあ、どこもウチみたいな思惑があるけどな』
「でしょうね」
田中先生の言葉を聞いて一真はケラケラと笑う。
事情は良く知らないが田中先生から聞いた話では学園対抗戦の裏側で動いていたお金は相当なもの。
ということは、学園長の懐には多くのお金が入ったことだろう。
それだけ美味しい思いをしたのなら、大半の人間は同じことを考える。
一真を利用してもう一度お金を儲けたいという邪まなものだ。
『で、どうする?』
態々、その事を教えてくれて選択肢を与えてくれる田中先生は良心的な人間であろう。
もしかしたら、他にも思惑があるのかもしれないが田中先生からは悪意を感じないので一真は第七学園に残ることを決めた。
「問題ありませんよ。世の中、そういうもんでしょう」
『そうか。それじゃ、こちらで手続きを行っておく。お前は明日、職員室に来てくれ。お前が入るクラスの担任に引き継ぐから』
「わかりました」
『明日は遅刻しないように。それじゃあな』
田中先生との電話を終えた一真は思い出したかのように支援科の友人達に連絡を入れる。
明日から戦闘科に転入することになるので支援科の教室に行くことはないということをチャットアプリで伝える。
『明日から戦闘科に転入する』
『は? マジで?』
『マジだよ、幸助。俺の実力がバレちまったからな』
『暁もいなくなって次は一真もいなくなるんだね』
『太一、俺達二人だけになっちまったな~』
『そうだね。寂しくなるけど仕方ないよ。それぞれ事情があるんだし』
『二人には感謝してる。俺が三か月遅れで入学した時、友達になってくれて』
『実は田中先生から頼まれたんだよ~』
『ちくしょう! 俺の感動を返せッ!!!』
『まあまあ。何はともあれ、戦闘科にいってもよろしくね』
『任せろ、太一。俺は強いから困ったことがあれば相談してくれ』
『おい、俺は!?』
『幸助は自力でどうにかしてくれ』
『もしかして、さっきのこと怒ってる?』
『怒ってないよ』
『怒ってる?』
『いや、真実を知って悲しくなっただけで怒ってはいない。それに田中先生ならそういうことしそうだなって』
『割と生徒思いの先生だよね~』
『だな~』
『まあ、そういうわけで俺は明日から戦闘科に行きます!』
『頑張れよ。まあ、ぶっちゃけ剣崎宗次に勝ったお前に勝てる奴はいないと思うけど』
『一真なら大丈夫でしょ。怪我だけはさせないように気を付けてね』
『二人共……優しいな~』
一真は二人の優しさに白目である。
二人への報告も終わり、適当に時間を潰した一真は同じく寮に住んでいる幸助と一緒に夕食を食べに食堂へ向かうのであった。
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