第13話 え!? 退学か留年ですか?

 朝のHRが終わり、始業式に一真達は移動する。

 学園長の長い話を聞き流し、今日で生徒会長を最後となる隼人が壇上に上がるのを一真は目にする。


「おはよう、みんな。去年はみんなの応援もあり、代々生徒会長の夢であった学園対抗戦で見事優勝を果たす事が出来ました。ありがとう」


 隼人が頭を下げて、すぐに生徒達から拍手喝采が送られる。

 今までは第一、第二が優勝するのが当たり前であった。

 それが今回はついに今までの常識を覆し、第七異能学園が優勝を果たした。

 生徒達は戦ってこそいないが同じ学園の生徒として代表者達を誇りに思っている。


「みんな、ありがとう」


 隼人が頭を上げて軽く手を振ると拍手が止んだ。

 まだ話はあるようで隼人は手元のマイクを手に取った。


「さて、これから僕は生徒会長として最後の仕事を果たす。来月に行われる生徒会選挙、そして生徒会長決定戦。思う存分、力を出し切って欲しい。今年はきっと大荒れするだろうからね」


 最後に隼人は一年生の列に視線を向ける。

 そこには呑気そうにしている一真がいた。

 まるで自分には関係ないと話半分で聞いている一真を見て、小さく笑うと再び前を向いた。


「生徒会長は第七異能学園最強の生徒がなる決まりだ。これは他の学園も同じで違いはない。一年生であろうと関係ない。参加する場合は担任の先生に伝えればいいからね。それじゃあ、参加を楽しみに待ってるよ」


 最後は笑顔を浮かべて隼人は手を振ってから壇上から降りた。

 その後は連絡事項などを先生が生徒達に伝えて始業式は終わった。

 教室に戻ってきた一真達は担任の田中先生から休み明けのテストがあることを知らされる。


「今日はテストをするぞ~」

『え~!』

「え~! とか言わない。テストが終わったら今日は帰れるんだから文句は言うな! いいな!」

『は~い!』

「それじゃ、休憩後にテストを始めるからな」


 と言うわけで一真は僅か十分しかない時間で頭に公式や単語を詰め込もうとしたのだが、今日は午前で学園が終わる事になっていたので教材を何も持って来てはいない。

 それゆえ、どうすることも出来ずに一真は虚空を見つめ、何度も「終わった」と不気味に呟いていた。

 その様子を見ていた桃子はやれやれと肩を竦めたが自業自得であると一真を見放すのであった。


 一真のテストがどうなったかと言えば無残な結果とだけ言おう。

 他の生徒達は冬期休暇の課題に復習などをしていたので赤点を取るような生徒は一真以外いなかった。


 テストが終わり、下校時間となる。

 一真もコートを羽織り、マフラーを首に巻いて帰ろうとしたのだが田中先生に呼び止められた。


「あ~、皐月。ちょっと、職員室まで来てくれないか?」

「はあ。わかりました」


 言われるがままに一真は田中先生と一緒に職員室へ向かう。

 そのまま田中先生に連れられて一真は学園長室へと向かった。


「先生、なんで学園長室に?」

「あ~、その、なんだ……とても大切なお話がお前にあるんだよ」


 歯切れの悪い田中先生の物言いに一真は疑問を抱くが答えは学園長室に着いてから分かるので黙ってついていく。

 学園長室に入った一真は高級感のあるソファに座るように言われて腰を下ろし、田中先生と一緒に学園長が来るのを待った。


「待たせてしまったようだね」

「いえ、我々も来たところですから」

「田中先生、お座りください」

「はい!」


 向かい合うように学園長が一真の前に座り、重苦しげな雰囲気を出す。

 もしかして正体がバレてしまったのだろうかと一真は不安になるが既に政府に所属しているので問題はない。

 そのことを思い出した一真は落ち着きを取り戻すが、では一体何の用件で呼ばれたのだろうかと心配になる。


「皐月一真君。まず始めに言っておこう。これから話す内容は君の将来を左右する大事な話だ」

「え、あ、はい……」


 学園長の言葉に一真は全身に緊張が走り、ゴクリと生唾を飲み込んだ。


「皐月一真君。君はこのままだと退学だ」

「…………え?」

「先程、行ったテストなんだが君のだけ採点をすぐに終わらせた結果、全て赤点だった」

「…………頑張ったんですが」

「努力は認めるよ。でも、それが結果だ」

「はい……」

「話を戻すが、今回のテストの点数を顧みて支援科の先生方と協議した結果、君は退学が確定となった」

「さ、流石にそれは! まだ期末テストがあるじゃないですか! それからでも遅くないと思うんですが……」

「我々もそのことを踏まえて協議したのだよ。でも、君は一学期、二学期と赤点を重ねているね。勿論、君が事故により入学が遅れてしまい、他の生徒と比べて遅れているのは承知しているが……それでも酷いものだ」

「う……」

「君が頑張っている事はテストを見れば分かる。だが、今の君を進級させることは難しい」

「ど、どうにかならないんですか?」


 退学だけは何としても避けたい一真は縋るように学園長を見つめる。


「まだ話は終わっていないよ。当然、どうにかする方法はある」

「ほ、本当ですか!」

「方法は三つ。一つ目は期末テストで学年十位以内に入ること」


 一真は下から数えたほうが早いのでほぼ無理な方法だ。


「二つ目は留年。来年も一年生として一から頑張ること」


 悪くはないが学園対抗戦であれだけ華々しい活躍を遂げた一真が留年など耐えられるはずもない。


「そして、三つ目が戦闘科に転入すること。正直、言うと君には転入をおススメしたい。理由は君が一番分かってると思うが支援科よりも戦闘科の方が相応しいだろう」


 学園側としては第七異能学園を優勝に導いた一真を退学にはしたくない。

 しかし、規則として支援科の生徒は一定以上の学力がなければ進級は不可能となっているのだ。

 ならば、別の方法で一真には留まってもらわなければ困る。

 貴重な人材を失うわけにはいかない学園が用意したのは一真の戦闘科への転入というわけだ。


「転入ですか……」

「そうだ。君の異能は置換で本来は支援科なのだが学園対抗戦で見せたあの動きは凡そ一般人とは言えない」

「ま、まあ、そうっすね……」


 でっち上げた皐月流という殺人術が存在しないことは一真と親しい人間しか知らない。


「で、どうだろうか?」

「少し考えさせてもらってもいいですか?」

「勿論、構わない。だが、今週には答えを出して欲しい」

「わかりました……」

「それでは田中先生、後はお任せします」

「はい。お任せください」


 学園長は他にも用事がある為、二人を残して学園長室を去っていった。

 残された二人はしばらく沈黙していたが一真の方から田中先生に話しかけた。


「田中先生、俺どうしたらいいんですかね?」

「…………」


 答えにくい質問なのか田中先生は目を閉じて両腕を組んだままだんまりだ。

 答えなど出ないだろうと一真が諦めてソファから立ち上がろうとした時、田中先生は閉じていた口を開いた。


「俺は転入したほうがいいと思う。この際だ、大人の事情も話そう。我々、教師陣はお前を退学になんてしたくないんだ。何せ、学園対抗戦を優勝に導いたんだからな。知ってるか? 学園対抗戦の裏で動いていたお金がどれだけ第七異能学園に入ってきたかを」

「初耳ですね~」

「まあ、そういうわけでうちとしてはお前を退学なんてさせたくないんだ。来年も再来年も学園対抗戦で優勝に導いて欲しいからな」

「汚い大人の話ですね~」

「まあな。でも、それだけじゃないぞ。お前はいい刺激にもなるんだ。向上心のある奴らはお前に負けないと冬期休暇中もVRマシンを使って自主練に励んでいたからな」

「それはなんとも……」

「それに今回の話は前例のないことなんだ。戦闘科から支援科に転入することは稀にあるが支援科から戦闘科に転入するなんてことは今ままで一切ない。理由は分かるな?」

「支援科の能力じゃイビノムが倒せないからですよね?」

「そうだ。お前の置換もイビノム相手には意味を成さない。だから、支援科だったんだが……お前は全世界に知らしめたんだ。お前の価値を」

「なるほど……」

「あとはお前、好きそうだろ? 前代未聞、空前絶後とか」

「大好きですね~」

「どうだ? 転入してみないか?」

「しましゅ!」

「そうか。じゃあ、俺のほうで手続きは済ませておくから帰ってもいいぞ」


 前代未聞、空前絶後といった四文字熟語に踊らされた一真は気がつけば帰路にいた。


「はッ!? 詐欺にあった気がする!」


 今更である。

 田中先生はこの一年で一真のことをある程度は理解していた。

 そして、保護者の穂花からも一真について聞いている。

 だから、田中先生は一真が煽てれば簡単に頷く事も知っていた。

 もっとも、そのおかげで一真は退学を免れたのだから御礼を言うべきであろう。

 やり方は兎も角、結果で言えば救われたことには違いないのだから。

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