第11話 ライダーキック!!!

「では、再開しよう」


 頭を下げていた覇王は頭を上げると、再び戦闘態勢に入った。

 一真も同じように戦闘態勢を取り、覇王の出方を伺う。

 数秒程睨み合っていた両者であったが、覇王が先に動き出して戦いが始まる。


「ハアッ!!!」

「フッ!」


 覇王から高速で放たれる連続の拳を一真は軽やかにいなしていく。

 すかさず、一真は数発ほど覇王の腹部に叩き込む。

 覇王が着ていた鎧がへしゃげて大きく息を吐き、彼は体勢を崩した。


「ぐふぅッ!」

「悪くはない動きだ。だが、その程度では俺には届かん!」

「まだだッ!」


 すぐさま覇王は体勢を整えて一真に向かって体を回転させて蹴りを放つ。

 独楽コマのように回転して放たれた蹴りは岩すら粉砕する威力で一真に襲い掛かる。

 普通なら避けなければならないが一真には効かない。

 一切避ける素振りもせず一真は片手を上げて覇王の蹴りを防いだ。

 微動だにしない一真を見て覇王も息を呑み、目を見開いた。


「ちぃぇあッ!!!」


 であれば、今度は逆回転で蹴りを覇王は放つ。

 しかし、先程通じなかったのだから通じるはずがない。

 覇王の放った回し蹴りは簡単に受け止められてしまう。


「ぬぅッ!」

「言ったはずだ! この程度なら見て来た!」


 一真は大声を出すと同時に覇王の足を掴んで振り上げた。

 覇王は一真よりも巨躯で筋骨隆々の重量級だ。

 それをいとも簡単に持ち上げた一真はタオルを振り回すように覇王を振り回して放り投げた。


「ぬぅおおおおおおおおッ!?」


 驚愕の声を上げながら覇王は吹き飛んでいく。

 一番近くにあった岩山に覇王はぶつかり、轟音を鳴らした。

 砂塵が巻き起こり、覇王の姿は消えており、無事かどうかわからない。

 流石に死んだかと思われたが一真は覇王がまだ生きていることを確信していた。

 そもそも、殺す気でいるなら岩山にぶつかった瞬間に追い打ちをしている。

 そうしないのは手加減をしている証だ。


「鎧がダメになってしまったな……」


 岩山が吹き飛び、砂埃の中から姿を見せたのは鎧を脱ぎ去っている覇王だった。

 どうやら、先程の一撃で完全に鎧が壊れてしまったようだ。

 防御力がガクンと下がってしまったが、そのようなことは些細なことである。

 なにせ、相手は紅蓮の騎士だ。

 常識が通じる相手ではない。

 ならば、鎧など最初からいらなかっただろう。


「フッフッフ……。身軽になったと思えばいいか」


 下に来ていたインナーも覇王は所々破れていたので強引に引き千切り、鍛え上げた肉体を惜しげもなく晒した。

 一真は覇王の鍛え上げられた肉体を見て、彼がどれだけ鍛錬に明け暮れて来たのかを理解する。

 恐らく、生涯のほとんどを鍛錬と戦いに明け暮れてきたのだろう。

 そこには歴戦の戦士としての積み重ねと歴史が語られていた。


「彼になら本気を出してもいい。いいや、本気の本気だ。そう! 限界を超え、己の全てを曝け出すのだ!」


 一真に向かってゆっくりと歩いていた覇王は闘志を滾らせ、瞳に炎を灯す。

 キング、太陽王といった好敵手は存在したがどちらもおいそれとは戦う事の出来ない相手。

 しかし、紅蓮の騎士だけは自身の望みに応えてくれた。

 であるのなら、その恩を返さなければならない。

 つまらない戦いなど言語道断である。

 彼にだけは失望されてはならないと覇王は力強く一歩を踏み出し、全身からは闘志が陽炎のように揺らめいている。


「ほう……」


 ほんの少し小突いただけで覇王が殻を破ったことを理解した一真は薄く笑う。

 先程よりは楽しめるかもしれないと一真は拳を握り締めて覇王を迎え撃つ準備を整える。


「行くぞ……ッ!!!」


 覇王は自身の異能が飛躍的に成長したのを感じ、最大限の力を発揮し、倍化で身体強化を数百倍にまで跳ね上げた。

 地面を砕き、砂塵を巻き上げて荒野を駆け抜ける覇王は先程以上の迫力を見せており、放たれる威圧感も桁違いに上がっている。

 まともに受ければ新型パワードスーツも破壊されてしまうかもしれないと危惧した一真はパワードスーツを解除して迎撃した。


「ぬぅんッ!!!」

「ぬう!」


 迫り来る覇王の拳を受け止める一真。

 その余波で一真の背後にあった地面が吹き飛び、覇王が放った拳がどれだけの威力を誇っていたかを知らしめていた。


「フハッ! 先程よりも強くなったじゃないか! だがしかし! その程度では俺を倒せんぞ!」

「わかっているとも!」


 そこから始まるのは乱打の嵐。

 覇王は拳を引くと、一真に向かって連続の拳を繰り出し、蹴りを混ぜ合わせた戦法で攻め立てる。

 苛烈な攻めに一真は苦戦することもなく、軽く受け流し、反撃を行い、覇王を牽制する。

 一真の容赦ない正確無比な一撃で覇王は何度も怯むが臆することなく果敢に攻め続けた。


「ぬおりゃあああああッ!」

「見事! しかし、まだ届かんぞ!」


 ガトリング砲のような乱打を一真は華麗に捌き、覇王を殴り飛ばす。

 空中で身を翻して覇王は止まるも顔を上げれば、そこには追撃を仕掛ける一真がいた。


「ふんッ!」

「ぐっ!」


 顔を殴られて覇王は地面に倒れる。

 そこへ一真は容赦なく追撃を浴びせて覇王ごと地面を粉砕した。

 蜘蛛の巣のように地面が割れて覇王は口を大きく開けて息を吐くが意識を失う事はなかった。


「ほう! 今ので気を失わなかったか!」


 さらに追撃を仕掛けようと一真は覇王の頭上に跳び上がり、踵落としを放つ。

 二度も一真の攻撃を受けるわけにはいかないと覇王は体を横に転がして避けると同時に飛び跳ねて起き上がった。

 そして、すぐさま地面を蹴って覇王は一真に向かって跳躍からの接近戦を試みる。


「ちぇりゃぁああああああッ!!!」

「無駄だ! お前の動きはすでに見切った!」

「であれば、さらに加速するだけだ!」

「なんだと!?」


 言葉通り覇王の動きが加速した。

 技のキレ、攻撃速度が一段階上がり、一真は僅かながらも被弾してしまう。

 頬を掠める程度であったが確かな手応えを感じた覇王は高揚感に包まれる。

 とはいえ、これで満足していては意味がない。

 歩みを止めなければ成長するのだから覇王は一切の妥協を許さない。

 一真に一発ではなく二発、三発と当ててこそ成長するのだと覇王は呼吸すら忘れて攻め続けた。


「フハハハハハハッ! 少しは楽しくなってきた! 少しギアを上げるぞ!」

「ッッッ……!」


 一真から放たれる威圧感が上がったことを肌で感じ取った覇王は一瞬だけ怯む。

 しかし、臆してはならないと一真に向かって踏み込んだ。

 呼応するように一真も覇王に向かって踏み込み、迫り来る拳を避け、受け流すと懐に侵入した。


「ッ……!」


 覇王は懐に侵入を許してしまい、焦りの表情を浮かべる。

 一真は逃げられる前に力強く地面を蹴って覇王の腹部を打ち上げた。


「ぶッ……!」


 フワリと覇王の体が宙に浮かび上がる。

 無防備となった覇王に一真は体を回転させて回し蹴りを放ち、勢いよく吹き飛ばす。

 ゴムボールのように地面を何度もバウンドして覇王は吹き飛び、ゴロゴロと転がってから立ち上がった。

 すぐに一真の姿を確認するも彼はどこにも見当たらず、首を動かして周囲を見回す。

 しかし、どこにも見当たらない。

 一体どこに消えたのかと警戒していると影が差し、覇王は頭上を見上げるとそこには太陽を背にした一真が飛び蹴りを放っていた。


「しま――」

「もう遅い!」


 防ぐ間もなく覇王は胸部に一真の飛び蹴りを受けてしまい、背中から地面に激突する。

 あまりの破壊力に地面が砕かれ、覇王が口から盛大に血を吐いてしまった。

 これには二人の戦いを見守っていた中華の異能者達が息を呑んだが一真によって覇王は息を吹き返した。


「ふむ……。どうだった?」

「完敗だ……。もう少し戦えると思っていたのだが、どうやら自惚れであったらしい」

「そうでもないさ。少なくとも貴方は強かった。そこだけは確かさ」

「そうか。そう言ってもらえるのは嬉しい限りだ」

「アドバイスとしてはもっと異能を伸ばした方がいいね。倍化の異能で身体強化を極限まで上げてるんだろうけど、それだけじゃ不足だね」

「将来、敵になるかもしれない相手に助言してもいいのかね?」

「……その時はその時さ。でも、今は友達みたいなもんだろ」


 そう言って一真は笑顔を浮かべると覇王に手を差し伸べる。

 倒れていた覇王は呆気に取られたが、すぐに負けを受け入れたように小さく笑うと一真の手を取って立ち上がった。


「今日はありがとう。また時間があればお願いしたい」

「こっちにも都合があるけど時間があえば全然いいよ」


 こうして覇王との模擬戦は終わり、一真は日本へ帰るのであった。

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