第10話 そういえば模擬戦の約束してたね!
小型ロボットの製作に精を出していた一真であったが夕食時になったので中断する事になってしまった。
もう少しやっていきたい所であるが穂花から呼び出しされたので渋々ながらも帰ることになる。
「すまん。俺はもう帰らないといけない」
「そうですか。残念です。折角、盛り上がってきたのに……」
「完成したら教えてくれ」
「わかりました。完成を楽しみにしていてください」
最後まで付き合うことが出来ず、一真は残念そうに肩を落として倉茂工業を後にする。
転移で桃子を送り届けてからアイビーに戻って来た一真は夕食を済ませると、風呂に入り、就寝に就いた。
◇◇◇◇
お正月休みも残り僅かとなった。
一真は冬期休暇の課題は全て免除されているので焦ることもなく、呑気に惰眠を貪っている。
すると、不意に携帯が鳴り響き、一真は目を開けた。
「んあ? 誰からだ?」
枕元に置いていた携帯を手に取り、誰から電話が来たのだろうかと一真は確かめる。
画面に表示されたのは慧磨の名前であった。
一体何の要件だろうかと一真は電話に出る。
「はい。もしもし」
『もしもし、一真君。お休みの所、申し訳ないが君に伝言があるんだ」
「伝言? 誰からです?」
『覇王だよ。君、国際会議の時に模擬戦を約束したんだろ? 覇王から今日はどうかって』
「今日ですか?」
唐突な話ではあったが特に何の用事もない一真は考える振りをして数秒程黙ったがすぐに返事をした。
「わかりました。今日でしたら空いているので問題はありません」
『わかった。では、こちらから先方に伝えておこう』
「お願いします」
電話を切って一真はベッドから起き上がる。
それから一真は洗面所に向かい、顔を洗い、歯を磨き、髪を整えてから部屋に戻る。
普段着に着替えている最中に電話が鳴り、一真は電話を手に取ると見たこともない番号からだった。
普段なら怪しくて無視一択だが先程、慧磨から覇王についての話を聞いていたので一真は電話先が覇王だと確信して電話に出た。
「はい。もしもし」
『もしもし、皐月一真君の携帯で合ってるかね?』
「ええ。合ってますよ」
『そうか。では、改めて名乗らせてもらおう。趙白龍だ』
「よろしくです。今日、模擬戦したいとのことですが」
『ああ。先日の件がようやく片付いてな。やっと時間が取れたんだ。場所についてはこちらから座標を送る』
「わかりました。すぐに行きますんで」
『急かすようで悪いな。実を言うとこの時を楽しみにしていたんだ。期待して待っているよ』
「ご期待に沿えるよう頑張りますね」
『ハッハッハッハッハ! 紅蓮の騎士ともあろう男が随分と面白い事を言う。そう言う事であれば、こちらも胸を借りる思いで挑ませてもらおう』
上機嫌な覇王から電話が切れて一真は慧磨にこれから中華に向かい、模擬戦を行う事を伝えた。
慧磨は一真から模擬戦の話を聞いて、くれぐれも無茶だけはしないようにと釘を刺す。
笑って一真は答えたが果たして自分の言葉を理解してくれているのだろうかと慧磨は不安になるもどうすることも出来ないので、ただ祈るばかりであった。
それから一真は穂花のもとに向かい、慧磨に話した内容をそのまま伝えた。
「母さん。ちょっと、中華に行ってくるよ」
「そう。お土産よろしくね」
「わかった~。桜儚のことよろしくね」
「わかった。気を付けていってらっしゃい」
挨拶を済ませると一真は転移で前回行われた国際会議場に向かう。
すると、一真の来訪が通達されていたようで多くの異能者達が待ち構えていた。
いきなり大勢の異能者に出迎えられた一真は驚いたが、その中から見知った顔がいるのを発見する。
向こうも一真が見ていることに気がついたようで一人前に出て来た。
「よう、久しぶりだな。紅蓮の騎士~」
「久しぶりですね~。斉天大聖~」
「くっくっく……。出来れば俺ともやってもらいたいんだが、オジキが首をなが~くして待ってるからな」
「座標は送られてきてるけど?」
一真は携帯に送られてきた座標を斉天大聖こと
王風は一真に見せてもらった座標を見て、納得したように頷いた。
「なるほどな。ここなら確かにオジキとお前が暴れても問題はないだろ」
「どこなんだ、ここは?」
「ここは訓練に使ってる場所なんだが周りに何もないんだ。荒野と岩山が広がってるだけで人っ子一人住んでない」
「へ~。それなら確かに思いっ切りやっても問題なさそうだな」
「あと、俺達がここにいる理由は二人の模擬戦の観戦と周囲の安全確保だ」
「そういうことね。ルールとかは?」
「向こうに着いたらオジキが教えてくれる。俺達は道案内だ」
「飛んでいけるからいいんだけどな~」
「まあ、そう言うな。実を言うとオジキは準備中なんだ」
「準備中? なんの?」
「お前と戦うには万全の状態がいいってことで体を温めてるんだよ。それから装備を整えたり、問題がないかを確かめたりしてるんだ」
「模擬戦でしょ? そこまでする必要ある?」
「お前相手なら本気出してもいいと思ってるからな~。だからこそ、準備が必要なんだよ」
「わお……」
そこまで評価してくれるのは有り難いが一真は軽い手合わせだと思っていた手前、どう反応すればいいか分からなかった。
とりあえず、期待に応えれるよう頑張るしかないと一真は軽く拳を握ったり開いたりを繰り返した。
「それじゃ、悪いが俺達についてきてくれるか?」
「は~い」
一真は王風についていき、ヘリコプターのような乗り物に搭乗する。
自動運転なのでパイロットはおらず、乗っているのは一真と王風だけ。
何故、王風だけかと言うと他の者達は別で向かうためだ。
周囲を封鎖し、安全を確保するため、他の異能者達は先回りをする。
他愛もない雑談を一真は王風と行いながら目的地へ向かった。
しばらく空の旅を続けて数十分が経過した時、目的地に辿り着いた。
アラーム音が鳴って王風が目的地に辿り着いたことに気がつき、一真へ声を掛ける。
「どうやら、ついたようだぜ」
「お、そうか。でも、空の上だけど?」
一真は窓から見える景色が地上ではないことを王風に告げる。
王風はくつくつと笑い、一真に飛び降りるように命じた。
「ここから飛び降りてくれ。恐らく、すぐに模擬戦が始まるだろうから俺はこいつで早急に離脱する」
「マジか……。まあいいけど」
そう言って一真は搭乗口を王風に開けてもらい、別れを済ませて飛び降りる。
「ここまでありがとう! 行ってくる!」
「おう。高みの見物してるぜ!」
一真が飛び降りたのを確認した王風はすぐに搭乗口を閉めて操作を行い、急いでその場から離れるのであった。
飛び降りた一真は無事に着地すると目の前にはフル装備の覇王が待ち構えていた。
「すまないな。準備に手間取ってしまい、君には迷惑をかけた」
「いえいえ、王風さんが色々と面白いお話をしてくれたのでそう待ってはいませんよ」
「そうか。あとで王風には礼を言わねばな」
カラカラと笑う覇王と一真。
その数秒後、覇王が笑うのを止めると一真は空気が変わったのを察した。
「では、始めようか?」
「いつでも」
一真はパワードスーツを展開して戦闘態勢に入った。
覇王はそれを確認した瞬間、獰猛な笑みを浮かべると背中に差していた二本の青龍刀を抜いた。
「初めに言っておく。本気で行かせてもらうぞ」
「無礼を承知で言わせてもらいます。死ぬ気でかかってこい!」
一真から放たれた殺気を感じ、覇王はゾワリと背筋が震えると同時に歓喜した。
求めていたものが目の前にある。
求めていた敵が目の前にいる。
何度も味わったことのある緊張感。
一つ間違えれば命はない本物の殺し合い。
模擬戦だと理解していても覇王は隠しきれなかった。
自らの欲望を。
手に汗握るような試合ではなく、ヒリつく緊張感と高揚感迸る死闘を彼は待ち望んでいた。
「参るッ!!!」
身体強化と倍化の異能で自身の身体能力を大幅に底上げして覇王は地を蹴った。
陥没どころか大地を大きく抉り、粉砕して砂塵を巻き起こして覇王は一真
に迫る。
「カアッ!!!」
一気呵成に覇王は青龍刀を振り下ろした。
常人ならば目に捉えることも出来ずに斬り裂かれて死ぬ一撃であったが一真には通用しなかった。
一真は迫り来る青龍刀の腹を叩いて粉砕すると、跳び上がるように膝蹴りを覇王の腹部に叩き込んだ。
「ぐふぉッ!」
「お前程度はいくらでも見て来た」
強烈な膝蹴りに両膝をつく覇王。
しかし、まだ終わってはいない。
彼は奥歯を砕きそうなほど噛み締めて立ち上がった。
「ふう……ふう……。すまない。どうやら、俺は慢心していたようだ。もう一度お願いしてもいいだろうか」
「構わんさ。満足するまで付き合おう」
「感謝する」
覇王が一真よりも背が高く年上であるが戦士として敬意を払っており、頭を下げるのであった。
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