第9話 小型ロボットも浪漫あるよね!

 聖一との用事を済ませた一真は手持ち無沙汰となってしまったので、暇を潰しに倉茂工業へ顔を出す事にした。

 現在、倉茂工業は一真の魔法で魔改造されており、小さな土地なのに広大な工場を誇っている。

 そのおかげで巨大ロボットの建造が可能になっているのだ。

 とはいえ、今は何をしているか分からない。

 一応、一真は責任者ではあるが管理をしているわけではない。

 経営や管理はほぼ丸投げ状態であるが政府の管轄に置かれているので特に大きな問題はなかったりする。


「倉茂工業に行くぞ」

「パワードスーツの調整でもするんですか?」

「いや、暇潰しに向かうだけ。今は何を作ってるんだろうかなって」

「それなら知っていますよ。現在は上からの要望で新型パワードスーツを量産型に仕様変更している最中のはずです」


 一真達が装備している新型パワードスーツは破格の性能を誇っているが完全オーダーメイドなので費用が高層マンションを十数棟は買えるくらい高いのだ。

 流石に一真達と同じものを量産することは厳しいので性能を落とし、コスパに優れた量産型を開発している。


「マジか……。全然知らんかった」

「まあ、貴方は責任者であっても経営者でも管理者でもありませんからね」

「でも、そういうのは報告するのが義務じゃないの?」

「私のほうには報告がありましたから大丈夫です」

「完全に信用されてない上司やんけ!」


 何を当たり前のことを言っているのかと桃子は喚いている一真を見て不思議そうに首を傾げた。

 彼女の表情と雰囲気を察した一真は日頃の行いのせいだということを重々理解するのだった。


「ま、いいか。とりあえず、倉茂工業に行くけど異論はないな? あっても受け付けないが」

「受け付けないなら聞かないでくださいよ」

「私はどこでもいいわ~。貴方と一緒だとどこでも面白いし」

「それじゃあ、転移するから口を塞いどけ。舌を噛まないようにな」


 そう言ってから一真は二人を連れて倉茂工業へ転移した。

 転移した先の倉茂工業はお正月休みという概念がないのか作業員がひっきりなしに働いていた。

 工場内には機械音が鳴り響き、作業員の怒号が鳴り渡り、変態達の絶叫が聞こえてくる。


「う~ん、相変わらず騒々しい場所だ」

「最初は廃れた廃工場みたいだったのに随分と変わりましたね」

「貴方が提供した技術が革新的すぎたからでしょ~。技術者はそういうのが大好きなのよ」

「まあ、怠けているよりはマシだな」


 喧騒に包まれている工場に一真達は足を踏み入れる。

 所かしこで機械音が響いており、耳がおかしくなりそうだが一真は魔法で保護していた。

 勿論、部下である二人にもしっかりと保護魔法を掛けている。


 三人が工場に入ってから少しすると奥のほうから倉茂昌三が姿を現した。

 どうやら、一真達を見た作業員から彼等が訪問してきた事を伝えられたのだろう。

 急いでやってきたようで額には汗が滲んでいた。


「ご無沙汰してます。一真さん!」

「お久しぶりです、昌三さん。突然の訪問ですいません」

「いえいえ、お構いなく! 自分の家と思って頂いて結構ですよ。一真さんならいつでも大歓迎です」

「そう言って頂けると幸いです。ところでお忙しそうにしていますが今は何をされているので?」

「今は一真さん達にお作りしたパワードスーツを基に国防軍用に量産型を開発しています。それから街の警備などに使える小型ロボットの開発ですね」

「なるほど……。見学する事は可能ですか?」

「ええ、勿論です。ご案内しましょう」

「よろしくお願いしますね」


 と言うわけで一真達は昌三の案内のもと、工場を見学する事になった。

 一真の魔改造で広くなった工場内を見て回る一行。

 以前は巨大ロボット及びに搭載する大型兵装などの開発や製作がメインであったが今は量産型が主な作業となっていた。

 ほとんどの作業員が量産型の製作に尽力しており、目を見張るようなものではなかったが工場現場に相応しいものだった。


「アレは?」


 工場内を見て回っていた一真はふと隅の方で作業をしている者達を見つけた。

 他の作業員と違って量産型を作っておらず、何やら小さなロボットを作っている。

 どうにも気になってしまう一真は昌三にあそこでは何をしているのだろうかと尋ねた。


「あー、アレは先ほどお伝えした街の警備をする小型ロボットを作ってるんですよ。一真さんから頂いた技術を応用して」

「へ~。それは気になりますね。近くでも見ても?」

「構いませんよ。ただ、一真さんが近付くと」

「まさか怖がられるとか?」

「いえ、逆です。意見を求められるかと。一真さんは技術提供者ですし貴重な資源を所有してますから」

「なるほど……」


 一真はここの作業員達からは紅蓮の騎士というイメージではなく、とんでもないスポンサーというイメージしかない。

 そして無茶振りをしても怒られないし、むしろ一緒に楽しんでくれるので割と好印象である。


 昌三と一緒に一真達は小型ロボットを製作している作業員達のもとへ向かう。

 作業に没頭しており、一真達の接近に気がついておらず作業員達は今も熱心に小型ロボットの開発に夢中であった。

 恐らくは一真達が訪問している事を通達されており、知っているのだろうが彼等は自分達のもとには来ないだろうと思っていたのである。

 それも相まって作業員達は脇目も振らず仕事に励んでいた。


「お~い、一真さん達が来てるからこっち向け~」

「へ?」


 作業台にかじりつくように働いていた作業員の肩を昌三は軽く叩いた。

 肩を叩かれてようやく人が来ていることに気が付いた作業員は振り向いた先に昌三と一真達を目にして間抜けな声を上げるも、上司に加えて役員相当の人間が来たことを理解してすぐに頭を下げた。


「これは大変失礼しました! お話は聞いていたのですが、うちには関係ないと思っておりまして……」

「そういう認識は捨てたほうがいいぞ。一真さんは隅から隅まで見回るお人だからな」

「(その言い方だと目敏くて嫌味な上司っぽい……)」


 重箱の隅まで突いて難癖をつけるような上司だと思われてしまうような言い方に一真は少しだけ不満を抱いた。


「すいません。次からは気をつけます!」

「ああ、いいよいいよ。俺は滅多に来ないんだから、そんなに畏まらなくても。それより気になったんだけど小型ロボット作ってるんだよね? どんなの作ってるの?」

「あ、それはですね」


 ペコペコと頭を下げて謝っていた作業員は一真からの質問を受けて、作業台に振り返り作りかけの小型ロボットを持って振り返った。

 作業員が抱えているのはお椀とボールをくっつけたような見た目をした小型ロボットだ。

 はっきり言って貧弱そうで、とても街の警備には使えなさそうに見える。


「これです! 見た目はそのまあ……情けないんですが性能は凄いんですよ! 手からレーザー、口からは電撃砲、目には温度センサーに録画機能や生体センサーなどといった機能を搭載しています!」

「へ~……」

「見た目が可愛くありませんね」

「すぐ壊れちゃいそうね」

「うぐぅ……」


 女性陣からの率直な意見に作業員はへこたれてしまう。

 わかっていたが、やはりデザインが優れないと有用性も分かってもらえない。


「これ、鳥とか猫じゃいけないの?」

「鳥に猫ですか? それはどうして?」


 一真は気になったことを素直に聞いた。

 別に鳥や猫といった動物をデザインにしてもいいのではないかというのが一真の意見である。

 一真の意見を聞いた作業員はどうして鳥や猫がいいのかと分からずに聞き返した。


「いや、街の警備っていうなら分かりやすい見た目でもいいと思うんだけど鳥や猫なら怪しまれないだろうし、周囲の景色に溶け込めるだろ? 潜入とか調査とか探索にも使えるし」

「……なるほど! 確かに言われてみればそうですね!」


 一真の話を聞いて作業員は動物をモチーフにするのは盲点だったと騒ぎ始める。


「ああ、なんてことだ! 既存の概念に囚われるのはいけないと考えていたのに! まさかこんな単純なことにも気が付かないとは!」

「まあまあ、面白そうなんで俺も少し参加してもいい?」


 喚いている作業員を宥めつつ、一真は小型ロボットの開発に興味を持ったので参加してもいいかと尋ねた。


「ええ、それは勿論構いませんがお時間のほうはよろしいので?」


 作業員でなく昌三が答える。

 一真は後ろにいる二人に目配せをし、時間は問題ないことを確認すると嬉しそうに小型ロボットの開発に参加するのだった。


「とりあえず、蜘蛛、鳥、猫、蝙蝠って感じでやろうぜ!」

「機能を小分けにするんですか?」

「いや、全部用途は一緒にする! とりあえず、街の警備を担当させるなら武装は必要だな! 犯罪レベルとか設定して制限とかつけてみるか!」

「おお~! 面白そうですね!」

「他にも――」


 作業員と一緒になって一真は子供が夢を語るように目を輝かせて楽しんでいた。

 その様子を見て、桃子と桜儚は顔を見合わせて呆れたように笑った。

 本当にバカなんだからと呆れつつも今を楽しんでいる一真を温かい目で見守るのであった。

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