第7話 映画と特別編はお任せください!

 桃子から有り難いお言葉を頂いた一真は聖一と話を続ける事にした。


「それで朝の特撮についてなんですが具体的にはどういう感じになってるんです?」

「ちょっと、待ってね」


 そう言って聖一はタブレットを取り出すと、企画書の入ったファイルを開き、一真にタブレットを渡した。


「それが企画書なんだ」

「これは社外秘なのでは?」

「アハハハ。確かにそうだけど一真君は部外者じゃないだろう?」


 聖一に指摘されて一真は一瞬キョトンとしたが彼の言う通り、既に部外者ではなく当事者になっているので社外秘のことは頭から消し去る事にした。


「そうっすね!」


 いつものように気楽な思考になった一真は桃子と桜儚の二人と一緒に企画書に目を通した。

 簡潔に纏めると紅蓮の騎士を主軸とした戦隊もので魔法と剣を使って悪役と戦うというコンセプトであった。


「これは何番煎じになるのやら……」

「ハハハ……。仕方ないよ。色々とやってるからね。ネタがほぼ尽きてるんだよ」

「魔法戦士は過去作にありますよね」

「剣士もね。今回のはそれを混ぜた魔法剣士じゃない」

「それでもネタとしては使い古されているけどね」


 三人の言い分に聖一は苦笑いで答える。

 聖一も紅蓮の騎士をコンセプトにした戦隊ものは使い古されたネタであることは重々に理解していた。

 それでも今回の企画には自信があった。

 なにせ、肝となる紅蓮の騎士が身内にいて協力してくれるのだから。

 それだけでも話題性は十分なので勝算はあるのだ。


「ふむふむ……。ちなみにキャストは決まってるんです?」

「すでに決まってるよ」

「企画の段階でキャストが決まってるって、彼が絶対OK出すと分かってましたね?」

「うっ……! まあ、その、一真君ならとは思ってたよ」


 桃子の鋭い指摘に聖一は目線を泳がせるが観念するように両手を挙げた。


「まあいいじゃないの。向こうも商売なんだから」


 桜儚の気楽な発言に桃子は不愉快そうな目を彼女に向けた。


「言っておきますけど私の仕事が増えるんですよ? こういうことが度々あると」


 棘のあるような言い方だが桃子は一真の秘書兼マネージャーだ。

 それゆえに一真の仕事については彼女を通すのが筋である。

 スケジュール管理や事後処理など桃子がしているので聖一のように勝手な事をされると非情に迷惑なのだ。

 桜儚に向けていた目を聖一に移し、何が言いたいかを察した彼は平謝りする。


「すいません……」

「今後は私を通してからにしてください」

「桃子ちゃ~ん。聖一さんには借りがあるんだから、そこまで厳しくしないでいいじゃん」

「借りがあるのは知っています。ですが、社会人であるならばルールは守ってもらわないと困ります」

「一真君。そちらのお嬢さんの言うとおりだから、気にしないで。今回、悪いのは完全に僕だ。君の好意に甘えて勝手な真似をしたんだから怒られるのは当然さ」

「うむむ……。まあ、聖一さんがそう言うのならこれ以上自分は何も言いません」


 桃子の言い分も理解できるため、一真は納得したように口を閉じた。

 企画書を読んでいる最中で話を振り、読むのが止まっていた一真は再び企画書に目を通した。


「大体、わかりました。俺はアドバイザーみたいな役割なんですね?」

「主にはね。まだ話し合いの最中だけど映画版か特別版にはスペシャルゲストとして起用しようかと考えているよ」

「え? それは俺も出演するってことですか?」

「そう! 強大な敵に敗北し、落ち込んでいる彼等のもとに現れるのは紅蓮の騎士! どうだい? 心躍る展開じゃないか?」

「おお~! いいですね~!」

「一真君ならそう言ってくれると思ったよ!」

「勝手に話を進めないでくれませんか?」

「これは上司命令だ!」

「職権乱用で訴えてやります!」

「俺は労基など恐れない! 法で俺を縛ることは出来ないのだーッ!」


 ソファから立ち上がり、レッサーパンダが威嚇するように一真は両手を挙げて桃子を脅す。


「く……!」


 抵抗することも出来ない桃子は悔しそうに奥歯を噛み締める。

 辞めたくても辞められない職場であるので完全に逃げ場はない。

 しかし、一真の好きにさせるのは気に食わないので桃子は先日手に入れた情報をもとに説得を試みた。


「も、もし、言う事を聞いてくれれば少しくらいはエッチなことしてもいいんですよ?」


 一真の耳元で囁く桃子は顔を真っ赤に染めている。

 聖一には聞こえていなかったが反対側にいた桜儚にはバッチリ聞かれており、彼女は面白そうにニヤニヤと笑っていた。


「…………桃子ちゃん。無理はしなくていいんだよ?」


 心の底からそう思っている一真は桃子の肩を優しく叩いた。


「くたばれーッ!!!」

「ぐはぁッ!?」


 桃子は自分がどんな気持ちで言ったのかを理解しようともしなかった一真に肘鉄を打ち込んだ。

 脇腹に桃子の肘鉄を受けた一真は悶絶してるように見えるが一切ダメージはない。

 ただ痛がっている振りをしているだけだった。


「もう二度としません!」

「え~! 恥ずかしそうにしている桃子ちゃん可愛かったよ?」

「忘れなさい。今すぐに」

「いや~、無理かな~」

「であれば記憶がなくなるまで頭を叩きます。ハンマーで」


 桃子は装着していたパワードスーツを一部展開。

 腕部分をハンマーに変形させて一真に向かって大きく振りかぶる。

 一真は桃子の目が本気であることを察し、落ち着くように宥めた。


「お、落ち着いて、桃子ちゃん。そんなので頭殴ったら死んじゃうよ?」

「普通の人なら死ぬでしょうね。ですが、貴方は普通の人間じゃありません。即死でなければ蘇ることくらい造作もないでしょう?」

「俺、そんなこと話たっけ?」

「訓練の時によく口にしてましたよ? 即死じゃなければ即座に回復させることが出来ると」

「……それ嘘なんだ。頭殴られたら死んじゃうよ~」


 うるうると涙目で命乞いを始める一真に桃子は容赦なくハンマーを振り下ろした。

 避けるとソファが壊れてしまうことに気がついていた一真は甘んじて顔面でハンマーを受けた。


「ぴぎゅッ」


 ゴシャッと鼻が潰れて顔が陥没する一真であったが淡い光が灯ると、彼の顔は元通りに戻った。

 桃子はその度に一真にモグラ叩きの如く何度もハンマーを振り下ろしたが、そろそろ子供達の教育に良くないということで桜儚が止めに入る。


「そこまでよ~。これ以上は子供達の衛生面に良くないわ~」

「む……。私としたことがすいません。次は気を付けます」

「謝るのは私にじゃないでしょう。まだ子供達は面白がってるからいいけど、流石に流血沙汰をこれ以上続けていたらギャグじゃなくなるわ~」


 一般的に人の顔面をモグラ叩きのように何度も叩くのは決してギャグでは済まされない。

 被害者が一真であるからギャグで済むのだ。

 決して良い子は真似してはいけない。


「一真君。いつもこんな感じなの?」


 鼻の穴にティッシュを詰め込んでアホ面になっている一真に心配そうな声で問いかける聖一。


「まあ、こんな感じです。平気ですよ。慣れてるんで」

「こんなバイオレンスな日常に慣れない方がいいと思うけどな~」

「いえいえ、これくらい可愛いもんです。向こうに比べれば」


 どこか昔を懐かしむように遠い目をする一真に聖一は不思議そうに首を傾げた。

 彼は一体どんな人生を歩んで来てのだろうかと聖一は知りたくなるが、今はそれよりも新しい戦隊モノの話が先だと忘れることにした。


「えっと、それじゃあ、話は戻るけどスペシャルゲストでの出演は可能ってことでいいのかな?」

「勿論です! 俺なんかでよければ是非とも!」

「ありがとう! 企画チームに朗報が届けれるよ!」


 聖一はこれで成功は間違いないと喜んだ。

 後は詳細を詰めていき、撮影日などのスケジュールを決めればいい。

 新年から途轍もなく忙しくなるだろうが楽しくなってきたと聖一はワクワクしていた。


「あの提案なんですけど」

「ん? 何かあるのかい?」

「ちょっと、お耳を」


 桃子に聞かれたくない一真は態々防音結界まで張り、バッチリ盗聴対策をして聖一に小声で提案を聞かせる。


「アリシア、シャル、桃子ちゃん、桜儚、それから首相をオファーしませんか?」

「…………」


 とんでもないビッグネームを聞いて聖一は絶句する。

 確かに一真の言うメンバーが出演してくれたら大盛り上がりだろう。

 だが、そもそも伝手がないし、出演料を払える自信がない。


「そ、その一真君ならオファーすることは可能だろうけど流石にウチでは取り扱えないかな~」

「大丈夫っすよ。俺が説得しますから」

「いや、一真君を疑っているわけではないんだよ。でも、会社としては雇えないって話で」

「問題ありません! 友情出演とかで無償でやってくれるよう掛け合ってみます!」

「それは嬉しいんだけど、コンプライアンスとか色々と問題が」

「万事俺に任せてください!」


 完全に暴走を始めている一真に聖一は何を言っても通じそうにないと諦めて考えるのを止める。

 むしろ、一真が持ってくる話を上にどう伝えるべきかを考え始めるのであった。

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