第6話 ニチアサに俺出るんですか!?

 性癖を暴露されているとは露知らず、一真は何故女性陣が集まっているのかを問い質す為に彼女達のもとに近付いた。


「皆して何してたんだ?」


 流石に一真のことについて穂花にあれこれ聞いた挙句に性癖まで知ってしまった彼女達は口を閉ざしており、誰も答えようとはしない。

 しかし、いつまでもこのままでは一真に不信感を抱かれ、あらぬ誤解を生じてしまう可能性もある為、桜儚が女性陣の代弁者となった。


「貴方の性癖暴露大会よ」

「…………ふぁっ?」


 桜儚の言葉を聞いてフリーズする一真。

 数秒ほどしてから意識を取り戻し、一真は桜儚に震えながら話しかける。


「な、何かの悪い冗談だろ?」

「いいえ、事実よ。この機会に貴方の事をもっと知りたくて貴方の母親に色々と尋ねたの。その結果、貴方の性癖も暴露されたわ」

「…………」


 あんぐりと口をあけて放心している一真に男性陣が歩み寄り、優しく肩を叩いて温かい目で彼を見つめた。

 男性陣からの無言の優しさに一真は涙を浮かべるも、この感情はきっと誰にも分からない。

 母親にエロ本やエロサイトがバレるのは仕方のないことだが、友人知人のしかも女性に発覚する事はほぼないだろう。

 暴露するか、付き合って性癖が露呈するかのどちらかだけだろう。

 後は男同士でくだらない性癖語りくらいだ。


 一真は一筋の涙を零し、空を眺める。


「雨が降ってきたな……」

「雨なんてどこにも――」

せ。俺達にはどうにも出来ない」


 晴れ渡った空である。

 一真の心はレイニーブルー。

 誰も彼を癒してはくれない。


 性癖を暴露されてしまい、心が荒んでしまった一真だが暴れる事もなく、無事に餅つきは終了した。

 一真だけ無事ではないが。

 余った餅は参加者に配り、残ってしまった餅はアイビーの子供達が後日お雑煮などにして食べる事になる。


 一真は参加してくれた友人たちを見送り、キングやスティーブンをアメリカに転移させる。

 残ったのはアリシア、シャルロット、弥生の三人に加えて桃子と桜儚の計五人だ。


 このまま宿泊でもするのかと思われたが夕飯を食べたら帰るとのことでしばらく一真と過ごすことになる。


「夕飯まで何するか……」

「また人生ゲームでもしましょ!」

「いえ、映画でも見て過ごしましょう!」

「私は別になんでもいいのですが……」

「私は他の人に合わせるわ~」

「実は私、皆さんで遊べるもんを持ってきたんです」


 弥生が指を鳴らすとどこに潜んでいたのか黒子が現れ、白色を基調とした小さな機械を置いてどこかへと消えていった。


「弥生さん。さっきの人達は?」

「うふふ。気にせんでもええで」

「そっか~。じゃあ、これは?」

「これは天王寺財閥が新しゅう開発した玩具です」

「見た目は小さいVRマシーンだけど、どんなものなの?」

「体験型の人生ゲームが出来るんですよ。ちなみに十八禁版は大人のあれこれもやけどね」

「是非やりましょう!」

「これは通常版やからそこは省略されるんやけどね」


 釘を刺される一真はしゅんと眉を下げて、とても残念そうにしていた。


「そっか~……」

「まあ、そう悲しまんといて。やってみると結構楽しいんよ?」

「よし、やろう!」


 単純な男である。

 弥生に唆されて一真はVRマシーンを装着し、体験型の人生ゲームを始めた。

 勿論、アリシア達も弥生からVRマシーンを受け取り、体験型の人生ゲームを始める。


 結果だけで言えば細工をしていた弥生が一真と順風満帆でゴールした。

 子宝に恵まれ、商売繁盛といった完全に出来レースのよなものであった。


「イカサマよ!」

「チートです!」


 当然、その結果が認められないアリシアとシャルロットが猛抗議したが弥生はどこ吹く風で彼女達の言葉を聞き流した。


「まあまあ、二人とも。これはゲームなんだし、それくらいで」


 最終的に一真が二人を宥めて終了となる。

 それから夕飯となり、食事を済ませた彼女達はそれぞれ帰っていく。

 残ったのは桜儚だけ。

 彼女を一人にしていると何をするか分からないので現在はアイビーの職員として住み込みで働いているのだ。


「風呂入って寝るか~」


 宣言どおり、一真は風呂に入り、寝る前にSNSなどで情報収集を行ってから眠りに就いた。


 ◇◇◇◇


 翌日、一真は子供達の雑煮を作るために早起きしていた。

 関西風のお雑煮を作った一真は子供達が起きてくるまでSNSを覗いていたら一通のメールが来ていることに気がついた。


 はて、昨日はメールなど来ていなかったはず。

 そう思い一真はメールを確認すると、受信先は聖一からであった。

 一体どのような用件であろうかとメールの中身を確かめる。

 すると、そこにはとても興味深い内容が書かれていた。


「これは早速お伺いしようじゃねえか……!」


 メールの内容には朝の特撮に関する企画であった。

 一真は以前、聖一が話していた事を思い出し、面白そうに顔を歪める。

 昨日の性癖暴露のことなどすっかり忘れて一真は聖一にメールを送った。


 それからしばらくして子供達が起きてきて一真は用意していた雑煮を一緒に食べてのんびりと過ごす。

 片づけが終わり、自由の身となった一真は穂花にメールの件を伝えて桜儚を連れて聖一のもとへ出かける。

 勿論、一真は忘れずに桃子も巻き込だ。


 聖一の家に辿り着いた一真は呼び鈴を鳴らして、しばらく待つ。

 間もなくして中から聖一が姿を見せる。


「やあ、一真くん。明けましておめでとう」

「明けましておめでとうございます。これ、うちでついた餅です。良かったら、どうぞ」

「ありがとう! 子供達も喜ぶよ。さあ、入って」

「お邪魔します」


 一真は用意していた餅を聖一に渡してから家の中に入っていく。

 中へ通された一真はリビングへ向かい、妹と弟に出迎えてもらった。


「一真にい!」

「にいに!」

「おお、元気だったかー。二人とも」


 元気よく飛びついてきた二人を受け止める一真。

 二人を持ち上げ、クルクルと回り、遊んでから一真は聖一に座るよう促されてソファに腰掛ける。


「あ、そうだ。二人とも明けましておめでとう。これは俺からのお年玉だ」

「わーい! お年玉だ~!」

「お年玉~!」


 一真からお年玉を受け取ってはしゃぎ回る二人。

 微笑ましい光景ではあるが父親の聖一はまだ子供である一真からのお年玉は受け取れないと大慌てだ。


「いいよ、一真君! まだ君は子供なんだから! むしろ、僕達が君にお年玉を上げないといけないのに!」

「ああ、いいんですよ。俺は一応お金を稼いでますから」

「それでもだよ! 言ったでしょ? 君はまだ子供なんだから大人からの好意を素直に受け取ればいいんだ」

「……うっす」


 気圧される一真であるが嬉し恥ずかしといった感情が滲み出ており、彼の耳は真っ赤に染まっていた。

 一緒に来ていた桃子と桜儚だけが一真の心情を読み取り、柄にもない反応を見せる彼を見て優しく微笑んだ。


 一真は一旦気を取り直して咳払いを挟んでから聖一から送られてきたメールについて話を始める。


「ゴホン。えーっと、聖一さんからのメール読みました。なんでも紅蓮の騎士を題材にした特撮を撮りたいそうですね」

「うん。うちの方で企画してね。あとは紅蓮の騎士である一真君の了承だけなんだ」

「あの、確かに彼の許可は必要だと思いますけど紅蓮の騎士はあくまでも国防軍特務部隊の人間です。まずは国防軍への交渉が必要なのではないでしょうか?」


 話を聞いていた桃子はまず国防軍に許可を取るのが先なのではないかと聖一に問い質す。


「う~ん……。その通りなんだけど」


 桃子の言葉に耳が痛いと聖一は唸り声を上げる。


紅蓮の騎士一真君に直接交渉できるならその方が早いかと思ってね。それにこういう言い方は卑怯だとは思うけど一真君がOKなら国防軍も政府も何も言えないと思うんだ」

「本当に卑怯な物言いですね……」


 身内贔屓など政府にとっては言語道断であるが世の中それを守っているような人間は少ない。

 私利私欲で好き勝手にされては堪らないが桃子には止める術もなければ力もない。

 それに何よりも横にいる一真が既に乗り気なのだ。

 止められるはずがないだろう。


「まあまあ、桃子ちゃん。そう責めんといて。聖一さんは新型パワードスーツの時に色々と協力してくれたんだから、これくらいの役得はあってもいいじゃん」

「……貴方が何も言わないから私が代わりに言ってるんです。今後もこういうことが続けばいい様に利用されるだけなんですよ? 貴方も彼も」

「うぐ……」


 桃子の言うとおり、このようなことを許していれば一真だけでなく聖一を利用する輩も今後出てくるだろう。

 それこそ会社の上司などは聖一が個人的に紅蓮の騎士と懇意であると知れば使わない手はないとばかりに事あるごとに悪用するかもしれない。

 それを防ぐにこうして釘を刺しておかねばならないのだ。

 たとえ、桃子は嫌われようとも一真の力を悪用されないように言い聞かせるのであった。

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