第3話 突然の乱入者
「ところで気になったんだけど、貴女達って一真君の事狙ってたの?」
雪姫と火燐の態度を察して詩織は一真の事を異性として意識していたのかと尋ねた。
その質問に対して二人は顔を見合わせると、少しだけ頬が緩み、だらしのない顔を浮かべると詩織の質問に答える。
「いや~、実を言うと……ただ彼氏が欲しいな~ってだけでして」
「私もです。告白されることはありましたけど、必要ないかと割り切っていまして……」
「え? それじゃあ、何で一真君なの?」
「二人で話して彼氏にするならどういう男性がいいか? という事になりまして」
「それで一真君が一番いいんじゃないかと……」
「まあ、容姿は悪くないし、実力もあるし、人柄もよく知ってるから確かに彼氏にするならって考えるとアリね~。でも、空気読めないところあるし、すぐに調子に乗っちゃうし、察しが悪かったりするし、でもそれ以上に女性関係が幅広すぎて不安になるけどね~」
一真は男女問わず誰とでも仲がいい。
こうして集まっているのも彼の人柄ゆえだ。
しかし、詩織が言うように女性関係は幅広い。
アリシア、シャルロットといったワールドワイドだ。
それに学園対抗戦で見せた活躍により知名度はさらに上がっており、今後も増える可能性が高い。
そういう点では彼氏にすると女性関係が不安に思えるだろう。
「そうですけど……俗な言い方になっちゃうからあんまりこういうことは言いたくないですけど一真君ってかなりの優良物件じゃないですか?」
「……実力、容姿、性格、家事全般をこなせる能力、面倒見のよさ、人脈、そして将来性抜群。まだあると思いますけど、これだけでも充分結婚まで視野に入れてもいい男性ですよ」
「そう聞くと恐ろしいまでのスペックね。施設育ちだから子供の世話も得意そうだし……。やだ、一真君って超高スペックじゃないの!」
「一真兄ちゃんのお話してるの~?」
三人が一真についてあれこれ話をしていると、偶々三人の話を耳にした少女が唐突に会話に入ってきた。
三人は突然現れた少女に驚いたものの、一真のことを詳しそうな少女に話を聞く絶好の機会であると判断し、少女に話しかけた。
「そうなの~。お姉ちゃんたち、一真君のことを知りたくてお話聞きたいな~。お名前聞かせてくれる?」
「
「香澄ちゃんって言うのね。お名前教えてくれてありがとう。お姉ちゃんたちは私が火燐、こっちのお姉ちゃんが雪姫、そしてこっちのお姉ちゃんが詩織さんって言うの。よろしくね」
「火燐お姉ちゃん、雪姫お姉ちゃん、詩織お姉ちゃん、よろしくね!」
「それで一真君について聞きたいんだけど、いいかな~?」
「いいよ! 何が聞きたいの?」
有力な情報源に出会えた三人はここぞとばかりに香澄へ質問をする。
「一真君はどういう子だったのか教えてくれる?」
「う~ん、一真お兄ちゃんはね~。昔はとっても悪い子だったんだけどママのおかげで真人間になれたの」
「真人間……」
とんでもない人格破綻者であるという誤解が生まれた瞬間であった。
香澄の言うとおり、一真は幼少期に手の付けれらない問題児であることは確かであった。
それゆえにそういった問題児を矯正するのが穂花であり、一真を教育の一環として愛の鞭を振るい躾たのである。
その教育の賜物で今の一真があるのだ。
「えっと……昔ってどれくらい前の話?」
流石に香澄の話を疑問に思った詩織が聞き返す。
「一真お兄ちゃんが凄い小さい頃だよ。昔は手の付けられない問題児だったんだって。でも、今は私達の面倒見てくれるし、小さい子のお世話もしてくれるんだよ。オムツだって替えるし、お菓子だって作ってくれるんだ!」
「そ、そうなんだ~」
香澄の話を聞いてますます一真の評価が上がる。
むしろ、そこらの育児パパよりも凄いのではないかと危機感を抱く三人は冷や汗を浮かべていた。
「とんでもないですね……」
「赤ちゃんのお世話に手作りのお菓子! さっきも餅つきしてた時、手際がいいと思ってたけど、まさかそこまでとは……」
「他にも何かないか聞いてみましょ!」
香澄の前で内緒話をする三人は一真の知られざる能力に戦慄していた。
普段はお調子者でムードメーカーな面が目立つ一真だが、まさか想像以上に家庭的だったことが余程衝撃的だったようだ。
「ほ、他にも何か一真君の凄い所ってないかな~?」
「う~んと……あ、そうだ! アレ見て!」
悩ましい唸り声を上げたかと思うと香澄は何かを思い出したかのように指を差す。
彼女の示した方向に三人は顔を向けると小さな木製の椅子を目にする。
「えっと、アレが何かな?」
「あの椅子、一真お兄ちゃんが作ってくれたんだよ。最初は下手くそでガタガタして座れなかったんだけど、今は本棚や机なんかを作れるようになったんだ」
「……頭がおかしくなりそうなんだけど」
香澄の話を聞いて詩織は一真が分からなくなってしまう。
詩織の中の一真はお調子者であるが超一級の実力を持った変わ者の男子生徒。
学力テストでは赤点を回避するのが精一杯なお馬鹿な男。
そのイメージが音を立てて崩れていく。
「あと、お裁縫なんかも得意なんだよ! ちょっと、待ってて!」
詩織が混乱していると香澄は屋内へ走り去り、しばらくすると可愛らしい熊のぬいぐるみを抱えて戻ってきた。
「これ! 耳の部分が取れちゃった時に一真お兄ちゃんが直してくれたの!」
「え~~~……」
香澄からぬいぐるみを渡された雪姫は教えて貰った耳の部分を見るが正直なところ、どう評価していいか分からない。
ただ、下手ではないということは分かる。
少し引っ張っても千切れるようなことはない。
恐らくだが相当腕がよいのだろうと雪姫は結論を出した。
「す、凄いですね~」
「うん!」
兄を褒められたのが嬉しいようで香澄はとてもいい笑顔をしていた。
子供達から慕われているのが伝わってきて三人も頬を緩めた。
一通り話終えたようで香澄は他の子達のもとへ戻っていき、その背を見つめながら三人は改めて一真について話し合う。
「結論から言うと一真君は将来の旦那にピッタリね」
「ですね」
「ただ、普段の態度を知っているとお調子者でバカな男子でもあるから恋人としてはちょっとマイナスかな?」
「結婚となると話は変わってくるけど、恋人でも丁度いいんじゃない? 愛嬌があっていいとは思うし、一緒にいて面白いと思うわ」
「でも、鬱陶しいと思うような場面もあるかもですね」
「う~ん……。評価が難しい所ね」
結婚相手としては申し分ないが恋人としては及第点くらいだ。
煽てられればすぐに調子に乗るし、学力テストは赤点回避がやっと。
悪くはないのだが、調子に乗りすぎると鬱陶しさを感じるだろう。
赤点回避がやっとということは勉強に専念しなければならない時があるだろうから、一緒にいられない時もあるということだ。
学生の本分は勉学だが、それでもたったの三年しかない高校生活だ。
存分に青春や恋愛を味わいたいという人間からすれば厳しい。
「まあ、私には隼人がいるから関係ない話だけどね」
「うわ、勝ち組だからって~」
「彼氏持ちだから出来る発言ですね~」
詩織には隼人という彼氏がいる。
それゆえに二人の悩みなど所詮他人事である。
自分には関係ないと言って詩織はぬるくなってしまったお餅を食べるのであった。
それからしばらくしていると空からけたたましい音が聞こえてくる。
広場で楽しんでいた一同は何事かと空を見上げると、そこにはヘリコプターがアイビーの元に向かって飛んできていた。
「アレは?」
一真が呟いてから間もなく、ヘリコプターはアイビーの上空に止まる。
一真とキングが警戒態勢を取り、いつでも迎撃出来るように準備をしていたら、ヘリの中から和服姿の女性が姿を見せた。
「弥生さん!?」
「受け止めて、一真さん!」
「へあッ!?」
ヘリから豪快に飛び降りた弥生。
空から美少女が降ってくるというシチュエーションに一真はアタフタしながらも落下地点を見極め、弥生を見事に受け止めた。
「ふんぬぅッ!」
気合の入った声を出しているが弥生は風の異能で落下速度を調整しており、一真が受け止めなくても自分で着地出来た。
しかし、それでは味気ないため、演出として弥生は一真に向かって受け止めてと叫んだのだ。
そのおかげでお姫様抱っこのように弥生は一真に受け止めて貰っている。
無論、空中でそうなるように体勢を整えたのは言うまでもない。
「うふふ、久しぶりやね。一真さん」
「うん、久しぶり。でも、どうしてここが分かったの?」
「愛の力と言ったらどうします?」
「そうか。やはり、俺達は赤い糸で結ばれデデデデデデデッ!」
「一真さんッ!?」
キリッとした表情で臭い台詞を吐いていた一真は突然耳を誰かに引っ張られる。
痛みに顔を引き攣らせて、誰が耳を引っ張っているのかと視線を動かしてみるがそこには誰もいなかった。
はて、それでは一体どういうことなのかと一真は考えて、すぐに答えが分かった。
念力を持っているアリシアか楓のどちらかだ。
一真は視線を動かして二人を見てみるがどちらも念力を発動した様子は見られない。
「(しまったな~。二人を鍛えたせいで念力を発動しているのか見分けがつかないや)」
以前、一真は二人に視線や動作で念力の発動した瞬間が分かるからと指摘した。
そこで一真は二人に相手へ見破られないように念力を使えるよう指導を行った。
そのおかげで一真も二人のどちらが念力を使っているのか分からなかった。
「(魔法でも物理でもない念力を引き剥がすのは難しいな……)」
分からないのであれば仕方がないと一真は身体強化を行い、強引に念力を引き剥がした。
まさか念力を力づくで引き剥がされるとは思ってもいなかったようで犯人であるアリシアの顔が少しだけ歪んだ。
それを見逃さなかった一真は氷の魔法でアリシアのうなじに悪戯をしてやり返す。
「ひゃんッ!」
「うわッ! どうしたんですか、アリシア? そんな色っぽい声なんて出して」
「な、なんでもないわ!」
一緒にいたシャルロットに言い訳してアリシアは一真に恨めしそうな目を向けるのであった。
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