最終章 異世界からの帰還者
第1話 な~に~! やっちまったな~!
くじ引きを行い、初詣を終えた一真はある提案をする。
「この後、餅つきでもしないか?」
「お! いいね~! 是非とも!」
乗り気のキングを筆頭に他の者達も同意見であった。
一真は穂花に電話をかけ、アイビーで餅つきをしても良いかと確認する。
子供達の分も用意するのであれば許可するとのことで一真は二つ返事でオーケーを出した。
許可を得た一真は女性陣にアイビーへ戻って穂花の指示に従って餅つきの準備を行ってもらい、男性陣は材料の買出しに向かった。
もち米や飲み物、紙皿、紙コップ、割り箸といった必要な物を買い込み、一真達はアイビーへと戻る。
大量の袋を抱えている一真とキングに少量の袋を持って歩いているスティーブン。
力があるのは二人なので当然の配慮なのだが、スティーブンがアイテムボックスの持ち主だということをすっかり忘れている。
「ところで一ついいかな?」
アイビーへ帰っている途中、神妙な声でキングが一真に尋ねた。
スティーブンは今まで聞いたこともないキングの声に喉を鳴らし、緊張から汗をかき始める。
今、一緒に歩いているのはアメリカ最強の男と世界最強の男だ。
この二人が争いを始めたら、一体どれだけの被害が生まれることか。
スティーブンは最悪な未来を想像し、脂汗が止まらない。
「なんだ?」
「いや、俺も一真って呼んでいい?」
「凄い今更だな! 全然いいけどさ」
「サンキュー! 一真も俺のこと名前で呼んでいいぜ!」
「キングの方がよくね? 今更、エドワードって呼びにくい」
「う~ん! 言われてみればそうだな! 好きなように呼んでくれ!」
「じゃあ、キングね。これで決まり!」
キングを今更名前で呼ぶのも面倒なので一真はキングと呼ぶことに決めた。
勿論、彼の名前がエドワードだということは覚えている。
しかし、今までずっとキングと呼んできたのだから変える必要などないと結論付けたのであった。
「あ、そうだ」
アイビーへ帰っている道中に一真はふと思い出したかのように携帯を取り出して連絡を取る。
連絡先の相手は同級生の幸助だ。
これからアイビーで餅つきをするので来ないかと一真は幸助にメールで伝えた。
しばらく歩いていると幸助から連絡が来て、一真は携帯の画面に視線を落とす。
そこには実家に帰省しているので参加できないという旨が書かれていた。
残念ではあるは強制ではないので一真は返事を送り、他の者にも同じように提案を出した。
すると、戦闘科の同級生である俊介から色よい返事が来た。
一真は前回クリスマスパーティでアリシア達のことを報告せずに参加してしまい迷惑をかけたことを反省し、今回は俊介にキング達が参加していることを伝える。
『参加者なんだけどキングと魔女に聖女がいるけど大丈夫?』
『前回のことをちゃんと反省してたんだな。でも、参加するって言ったあとにそれを伝えるのはどうかと思うぞ』
『ごめんて。それでどうする?』
『まあ、問題ない。それに今、ネットで話題になってるぞ? お前とキング達が一緒にいたことが』
『あ~、一緒に初詣に行ったからね。その道中でキングがファンサしてたからSNSに上がってるんだろ』
『そうそう。あとはお前をスカウトに来たんじゃないかって話だ』
『スカウト? なんで?』
『知らないのか? 今、お前は大注目の学生だぞ。学生最強と言われていた剣崎宗次を圧倒した最強の一般人て呼ばれてるんだ』
『最強の一般人とは……』
『お前の異能が置換だからな。戦闘系の異能を持たないから一般人と何ら変わらんだろ? だから、最強の一般人だ』
『なるほど。理解した。話は戻るけど、餅つき参加で良い?』
『ああ。他にも誰か来るのか?』
『一応、知り合いには片っ端から連絡かけた。勿論、キング達がいることもちゃんと教えてる!』
『わかった。場所と時間だけ教えてくれ』
『オッケー』
一真は俊介に時間と場所を教えて携帯をしまう。
それから参加すると返事が来た友人達へ時間と場所を教えて一真はアイビーへ戻った。
アイビーに戻ると子供達の遊び場になっている広場に臼と杵といった道具が用意されていた。
どうやら子供達も手伝ってくれていたようで一真達を出迎え、大いにはしゃいでる。
そして、アイビーの中から穂花が出て来た。
「おかえりなさい。準備は出来てるわ」
「ありがと。友達呼んだんだけどいい?」
「問題ないわ。ただし、目に余るような行動を取るようなら、その時は貴方を殴ります」
「とんでもない説教だ……」
「当たり前でしょう。よそ様のお子さんを叩けるわけないのだから、その分貴方が責任を取りなさい」
「お母様も世間体を気にしてなさるのですね」
「躾るのは親の役目。教えるのは教師の役目。であれば私は注意はしても怒りはしないわ」
「なるほど……。とりあえず、言い聞かせておくか」
「まあ、貴方が一番はしゃいで私の手を煩わせそうだけどね」
「否定できない自分が悔しい……!」
すでに大人まで後少しの高校生だ。
きちんと分別は出来るはずだろう。
その点で言えば大きな子供である一真が一番の問題児である。
穂花を困らせるとしたら一真くらいだろう。
それから一真は荷物を台所へ運び、餅つきの準備を進めて行く。
なんだかんだと言って穂花に厳しく躾けられた一真だ。
時間のかかる作業は魔法で加速させ、手際良く準備を終わらせていった。
準備を終えた一真は広場に向かい、
着火剤を用いて薪を燃やすのだが一真は魔法使いであるため、手間暇をかけずに魔法で済ませる。
もち米を蒸しているとアイビーに一真が呼んだ友人たちが訪れてくる。
俊介をはじめとして大勢がアイビーにやってきた。
少なくとも十数人はいるだろう。
しかも、そのほとんどが同じクラスの支援科ではなく戦闘科というのだから一真が支援科なのか戦闘科なのか分からなくなってしまう。
「おお、みんな! あけおめ~」
「「「「あけおめ~」」」」
「「「「あけましておめでとう」」」」
火の番をキングに任せた一真は俊介たちを迎え入れる。
それぞれ飲み物やお菓子などを持参した俊介たちから荷物を預かり、一真は彼等を中へ案内する。
広場の方に案内された俊介達は袴姿のキングが火の番をしているのを見て目を丸くする。
さらにその近くで着物姿のアリシアやシャルロットを目にして、ここは本当に日本なのかと錯覚を覚える。
とはいえ、一真から事前に聞いていたので動揺はそれほどしなかった。
しかし、やはり三人のインパクトは大きい。
「ごめ~ん。椅子と机の準備手伝ってくれるか~?」
俊介達からの荷物を台所に置いた一真は飲食するスペースを作るために中から椅子や机を引っ張り出してきた。
しかし、一人では限界がある為、広場に集まった友人達へ声を掛ける。
一真からの要請を聞いた友人達は指示に従って椅子や机を運び出す。
「サンキュー!」
「これで全部か?」
「うん。足りるよな?」
「まあ……多分?」
アイビーの子供達、それから職員に一真達を含めれば結構な人数だ。
「う~ん……。最悪、立って食べればいいか」
「そうだな。それがいいと思うぜ」
椅子や机は子供や女性を優先にして、一真達男性陣は立って食べることが決まった。
「お~い、一真~。もういいんじゃないか~?」
火の番をしていたキングが片手を振って一真を呼ぶ。
呼ばれた一真はキングのもとへ駆けより、蒸籠にセットしていたもち米を臼に移した。
「ようし! 餅つきをはじめっぞ~!」
「イエーイ!」
杵を持っているのはキングと一真。
明らかに人選を間違えている。
事情を知っている人間ならば分かるがもち米を返す人間がいない。
「それじゃ早速!」
「待て、キング!」
杵を持ったキングが大きく振りかぶって餅を叩こうとしたが一真に止められる。
何故、止めるのか分からないキングは杵を振りかぶったまま首を傾げた。
「まずはこうやってこねるところから始めるんだ。もちをつくのはそれからだ」
「おお~! そうなのか!」
キングに実演を見せる一真。
杵を使って蒸したもち米をこねこねしてく一真とキング。
その様子を眺めていた俊介達は開いた口が閉じなかった。
「アイツ、キングとどういう関係なんだ?」
「知らん。だが、少なくとも悪い関係ではなさそうだ」
「相変わらず、一真はぶっ飛んでるな~」
「キング相手によくやるよ」
「恐れ知らずっていうかバカと言うか……」
散々な言いようであるが一真の評価としては正しいので仕方がない。
友人たちからは既に珍獣、変人、変態扱いされている一真。
もう今更どう取り繕っても評価が変わることはないだろう。
「よし、キング! 俺が餅をひっくり返すからお前は高速で餅を叩け!」
「任せろ! あ! ヘイ、そこの君!」
二人の様子を眺めていた俊介はキングに指を差されてしまい、大いに戸惑う。
両脇にいる慎也や剛士に目を向けるも彼等は首を横に振り、自分ではないことを示した。
これは行かなければならないと俊介は諦めて二人のもとを歩み寄る。
「え、えっと……なんでしょうか?」
「これ、俺の携帯だ。動画を取ってくれないか? 全世界に俺の餅つきしている姿を公開しないのは勿体ないからね!」
流石は承認欲求の塊と言われる男だ。
たかが、餅つきであろうと公開しないという選択肢はない。
俊介はキングから受け取った携帯を操作して二人の餅つきを録画する。
「キング! 餅が冷める前にさっさとしろ!」
「OK! ついて来いよ、一真!」
「お前こそ!」
かつてないほどの餅つきが始まった。
アメリカ最強のキングと世界最強の一真が手を組んだ餅つきだ。
絵にならない訳がない。
二人の息はピッタリなのだが、あまりの速さにカメラがついて行けない。
「す、すげ~……」
「キングの力でも壊れないって、あの杵と臼どうなんってんだ?」
「それよりも一真がやばくね? アイツ、なんでキングの速度についていけてるんだ?」
「キングがタイミング合わしてくれてるんじゃないのか?」
「どっちにしろ、二人共おかしいだろ……」
正月の風物詩にでもなりそうな二人の圧倒的なパフォーマンスにギャラリーは大盛り上がりであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます