第70話 悪い予感というものは当たるものだ

 シャルロットのスリーサイズが変わっているという波乱があったが、一真達は無事に日本へ戻ってきた。

 日本に戻ってきた一真は洗脳した人間を使って社会貢献に勤しんでいる桜儚に初詣へ行く事を伝え、彼女を現場から連れ戻す。

 当然、その際に指揮官の桜儚が抜けてしまうことになるので彼女の代理を立てて、きっちり引き継ぎ作業を行ってから彼女を連れ戻した。


「急ね~」

「柔軟に対応しろ」

「理不尽ね~」

「それがお前の上司だ」

「ブラック企業にピッタリな人材ね~」


 あまりにも突然すぎる展開に桜儚も物申すが一真には一切通じなかった。

 聞く耳を持たないというよりは世界が自分を中心に回っているような考え方をしている一真にはどれだけ苦言を呈しても意味はないだろう。


「このメンツで行くの?」

「ああ。何か問題でもあるのか?」


 一真の後ろに控えるのはアリシア、シャルロット、キング、スティーブン、桃子の五人。

 そこに桜儚も加わり、一真を含んだ合計七人である。

 大所帯ということはないが、問題があるとすれば知名度だ。


「騒ぎにならないかしら?」

「それなら問題ない。大きな神社じゃなくて近場の小さいところに行くつもりだ」

「それなら人も少ないから騒ぎにはならないと?」

「そういうことだ」

「まあ、私は貴方の言う事に従うだけよ」


 桜儚の発言に一真は首を傾げつつも大して気にすることなく、桃子が予約している振袖のレンタルしている店舗へ向かう。

 徒歩で向かい、道中すれ違う人々が一真達に何度も振り返り、携帯で撮影をしていた。

 勿論、盗撮になるのだがキングがファンサービスと称して、多くの人達とツーショットの撮影を行う。


「あ、あのサインいいっすか?」

「ああ。勿論さ!」


 キングは快くファンの声援に答え、サインやツーショットなどのサービスを行った。

 だが、流石にこちらにも都合があるということで一真がキングを連れ戻し、振袖のレンタルへ急いだ。


 桃子が予約した振袖のレンタルを行っている店に着くと、一真達は早速入店し、振袖のレンタルを行い、着付けをしてもらう。

 当然、そこでもキングやアリシア、シャルロットの三人が注目を集め、サインや写真などを求められてしまう。

 本来なら断って早急に立ち去るべきなのだが、今回はこちらの我が侭で予約なしで受け入れてもらった手前、邪険には出来ず、求められたままにサインを渡し、写真を撮影した。


「ありがとうございます! ところでこちらの写真は宣伝に使ってもよろしいでしょうか?」


 女性店員が勢い良く頭を下げたかと思えば、おずおずと尋ねてきた。

 中々に強かな女性であるが商売人にはこういう強さも必要だ。


「勿論、構わないさ! アリシアと聖女はどうする?」

「私もオッケーよ。こんな素敵な着物を貸してもらってるんだし、それくらい全然いいわ」

「私もです。私のような者でもお役に立てるのなら是非お使いください」

「あ、ありがとうございますぅ!」


 三人からの色よい返事に女性店員は感極まって涙があふれそうになる。

 もう一度頭を下げた女性店員はすぐさま写真をポスターにし、SNSに投稿して宣伝を行う作業に入った。

 その間に一真達は支払いを済ませて、颯爽と店を出て行く。

 嵐のような急襲であったが実りは大いにあった。

 一真達の去ったお店ではそのことで大いに盛り上がる。


「キングに魔女に聖女! 世界に轟く大スターがうちに来るなんて凄くない!?」

「ね! 最初は政府からのご依頼ですっごい緊張しちゃったけど、実物見ると全部どうでもよくなっちゃった!」

「やばいやばい! キングはファンサがエグイって話だったけどホントだった! 肩組んでツーショット撮ってもらっちゃった! しかも、袴姿の激レアでだよ!」

「うへへへ~。今年は年末の騒ぎのせいで売り上げ最悪だったけど、これなら一気に挽回出来るわ……! 来週の成人式はうちがぶっちぎりよ!」

「ところで一緒にいた人たちもやばくなかった?」

「あ~、ちょっと疲れ気味のハリウッドスター風なイケオジね! 私、好みだったわ~」

「男の子もよかったわね! ちょっと生意気そうだけど、そこが可愛い感じだったわ!」

「女性の方もモデルみたいな美人にアイドルみたいに可愛い子でビックリしたわ。一体、どういう集まりなのかしら……」

「政府からの依頼って聞いてるから、恐らくは政府の関係者なんだろうけど……」

「そういうのは詮索しないのが身の為よ。あと、男の子は第七異能学園の皐月一真君よ」


 桃子と桜儚についての情報は一切ないが一真は今や有名人である。

 紅蓮の騎士ということが判明したわけではなく、学園対抗戦で見せた活躍で一躍有名人になったのだ。


「あ! どこかで見たことあるって思ったら最強の一般人だったんですね!」

「そうよ。学生最強と謳われていた剣崎宗次を下し、見事第七異能学園を優勝に導いた最強の一般人、皐月一真君。多分だけどアメリカは彼をスカウトしに来たんじゃない? キングと魔女まで来たってことはそれだけ本気ってことね」

「なるほど! そういうことだったんですね!」


 盛大な勘違いであるが一般人が得る情報ではそれが限界であろう。

 むしろ、そこまで推測できれば充分だ。


「ま、今はそんなことよりも仕事よ! これから忙しくなるわよ~! 皆、気合入れていきなさい!」

「「「「はい!!!」」」」


 来週の成人式に向けて社員一同力を合わせて頑張るのであった。


 ◇◇◇◇


 その頃、一真達は近場の寂れた神社に到着していた。

 参拝客もほとんどおらず、見かけるのは近所に住んでいるであろう老人達くらいだ。

 恐らく若者はここではないもっと大きく有名な神社に向かったのだろう。

 そのおかげで騒ぎになることはないのだが、道中に何人かとすれ違っているのでSNSのほうでは大騒ぎになっていた。


『キング見た! 一緒に写真も撮った!』

『魔女いた! 振袖着ててメッチャ可愛い! ヤバイ!』

『これもしかして聖女か? 振袖着てるし、髪型も違うけど多分聖女だと思う』

『やべー集団がうちの近所を歩いてた』

『ここだけオーラが違う。別世界の人間だ……』

『場所特定した。恐らくここ。振袖着てるってことは初詣に来たと予想。位置から見て初詣に向かう神社はここだと推測される』


 SNSのほうで大騒ぎになっており、居場所まで特定されているが一部の者達が盛大に勘違いした発言をしてくれたおかげでここには誰も来ていない。


「それじゃ、お賽銭投げて神様にお祈りしたら、お守り買って、くじ引きしてから帰ろうか」

「一真は何をお願いするの?」

「それは秘密だ。こういうことは口にしないほうがいいだろ?」

「気になります。教えてください、一真さん」

「ダメだ。ほら、アリシアもシャルも喋ってないで手を合わせて」

「「は~い」」


 お賽銭を投げた一真達は鈴を鳴らしてから手を合わせる。

 参拝にもやり方はあるが一真はうろ覚えである上にアリシア達、外国人もいるので簡単に手を合わせるだけ。


「(今年こそは平穏に過ごせますように!!!)」

「(一真ともっと仲良くなれますように!)」

「(一真さんに責任とってもらえますように!)」

「(神様も俺のことを称えてくれよ!)」

「(ご縁がありますように……)」

「(心身共に健やかに過ごせますように!)」

「(何か面白いことでも起きて欲しいわ~)」


 それぞれお祈りを済ませるとお守りを買い、おみくじを買った。

 お互いに今年はどのような年になるのだろうかとおみくじの結果を見せ合い、一真の大凶に全員が大笑いした。


「不吉な……」

「大丈夫よ、一真! 大凶ってことはそれ以上悪くなる事なんてないわ!」

「そうですよ。きっと良いことはあります!」

「くじ運も一真は持ってるんだな~。一本取られたぜ!」

「まあ、俺の中途半端な吉よりもいいじゃないか」


 慰められる一真だが彼はどうしても不安が拭えない。

 所詮はただのくじだと割り切ればいいのだが、何かよからぬことでも起こるのではないかという予感があった。

 ただの勘違いであればいいのだが、この手の予感は外れたことがない一真は憂鬱そうに空を見上げるのであった。

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