第67話 そういえばそんな約束してたね
アムルタートに勝利をした一真は会議場へ戻り、外の敵を倒したことを他の警備員に報告する。
その際に一真はパワードスーツを解除していたことを忘れて素顔を晒してしまったが中華の警備員は既に承知済みであったので黙ってくれていた。
おかげで一真の正体がバレることはなかった。
間一髪のところで助かった一真はその後、他の警備員と一緒に周囲の警戒を行い、職務を全うする。
それからしばらくして、超大型イビノムを討伐した覇王が帰還。
警備を担当していた一真のもとに覇王は訪れ、真人がどうなったのかを尋ねた。
「イヴェーラ教の教祖、神藤真人はどうなったんだ?」
「ああ。それなら日本で拘束しています」
「日本はどういう処分を下すつもりなんだ?」
「死ぬまで扱き使おうかと。強奪の異能は有用性があるので」
「なるほど。紅蓮の騎士がそう言うのならウチは何も言わない。ただし、何かあった時は責任を取り給えよ?」
「それは勿論」
「では、結構。私は戦後処理があるのでこれにて失礼する」
「あ、待ってください」
話を終えた覇王は一真のもとから去ろうと背中を向けたが、呼び止められて振り返る。
「何かね?」
「いや、その、戦況はどうなってるんですか?」
「すでに鎮圧済みだ。中華はだがな」
「そうですか。ところで話は変わるんですけど腕比べはいつするんですか?」
「随分と乗り気だな。出来れば今すぐにでもと言いたいが、先程も言ったように戦後処理がある。それが終わり、世間が落ち着きを取り戻した頃がいいかな」
「わかりました。ご連絡をお待ちしています」
「うむ。それでは、また今度会おう」
今度こそお別れであると覇王は片手を上げて去っていく。
一真はその背中を見送ってから仕事へ戻り、騒動が落ち着くまで会場の警備を続けるのであった。
やっと、会場の周囲も落ち着きを取り戻し、一真も警備の仕事から解放されていた時、不意にポケットの中にしまっていた携帯が鳴り響いた。
ようやく一息つけるというのに、一体何事かと一真は電話に出ると非常に焦っている慧磨からであった。
『もしもし、一真君! 至急、日本へ帰ってきてくれ!』
「うおッ! それは分かりましたけど一体何があったんですか?」
『負傷者の手当をしてもらいたいんだ。出来れば今すぐに!』
超大型イビノムを退けた日本であるが、小型や中型は別である。
とはいえ、日本の各都市に現れたイビノムも数が減っており、完全に制圧されるのも時間の問題であった。
しかしである。
小型、中型によって多くの死傷者が出てしまった。
その為、多くの治癒系異能者が駆り出されているのだが数が足りない。
そこで一真だ。
以前、数百、数千もの負傷者を一度に救ったことがある一真が加われば百人力である。
「そういうことですか。わかりました。すぐに戻ります」
『助かる!』
と言う訳で一真は電話を切ると、他の警備員に日本へ戻ることを伝えた。
「ごめん。ちょっと、総理に呼ばれたから日本に戻るね。俺いなくても大丈夫だよね?」
「はい。問題ありません。すでにここら一帯は制圧済みですので」
「了解。それじゃ頑張って」
「ご苦労様でした!」
転移で一真は日本に戻り、慧磨からどこの地域へ向かえばいいのかを尋ねる。
慧磨から指示された地域へ一真は転移ですぐに向かい、野外病院を訪れ、回復魔法で大勢の負傷者を治して回る。
次の場所はどこなのかと電話で尋ねて、次の場所へ向かい、次々と負傷者を治して回った。
僅か一時間足らずで一真は各地に展開された野外病院を回り、負傷者を治した。
とてつもない功績がまた一つ増えたのだが、そもそもの話、一真がイヴェーラ教をもっと早く潰しておけば、今回のようなことは起きなかった。
ある意味ではマッチポンプと言っていいかもしれないが、一真はその事を理解していないのであった。
「これで全部か?」
「はい! 紅蓮の騎士様! この度はありがとうございます!」
「いいって。これくらい大したことじゃないから」
「そんなことありません! これだけの人数を一度に治せるなんて聖女でも出来ないのですから! もはや、奇跡と言ってもいいくらいです」
大袈裟であるが一般人からすれば一真の力はまさに奇跡の体現だ。
圧倒的な能力に加えて、死んでさえいなければ治すことも出来る治癒能力。
一般人が奇跡と言ってしまうのも無理はないだろう。
「そ、そうか。まあ、治ったようで良かったよ。俺は他にも行かなきゃならないところがあるから、これで」
圧が凄いので一真はこれ以上ここにいるのは不味いと判断して、適当に話を切り上げて転移で慧磨のもとへ逃げた。
「ふぃ~……」
「おかえり。もう終わったのかね?」
「報告した通り、各地に展開されていた野外病院に収容されていた負傷者は全員完治させた。それとついでに残っていたイビノムも粗方片づけたんでこの騒動も終わると思う」
「相変わらず、仕事が早いな。出来ればもう少し積極的になってもらいたいところだが」
一真の能力は今更であるが彼の性格がもう少しまともであればと慧磨は不満を吐く。
とはいえ、癇癪を起されて暴れられても困る。
非常に扱いに困る一真であるがその力は間違いなく有用なので慧磨も文句は言えなかった。
ただし、愚痴や不満は一真の目の前だろうと平気で零している。
「本人のいる前でそういうこと言うのやめた方がよくない?」
「この程度ならば問題ないだろう?」
「段々、俺の事理解してるじゃん……」
「君と過ごしていれば嫌でも分かるよ。調子に乗りやすく、煽てればこちらの思う通りに動いてくれることも」
「…………」
否定も反論も出来ない一真はただ黙る事しか出来なった。
何せ、全て本当のことだからだ。
豚も煽てりゃ木に登るという言葉がピッタリな男である。
「まあ、それはさておき戦後処理が大変だな~」
「あ、それに関しては頑張ってください。俺は全く力になれませんので」
「分かっているさ。適材適所。君には十分働いてもらった。今度は我々の番だ」
今回、出てしまった負傷者を一真は全員回復させ、一仕事終えた。
その道中で大半のイビノムを一真が狩ったので、完全に制圧されるのもそう時間は掛からないだろう。
これで一真の役目は終わり、後は慧磨及びに政府の仕事である。
という訳で一真は一時帰宅することにした。
アイビーへ戻り、事の次第を確認し、負傷者が誰もいないことを確かめた一真は休息を取る。
「お仕事はいいの?」
これから私室で仮眠でも取ろうかとしていた一真に穂花が声を掛ける。
「もう俺の出番は終わりみたいだから」
「そう。それならしばらく休みなさい」
「うい~」
部屋の扉を閉めて一真はベッドに転ぶ。
大きな欠伸をして眠気が襲ってきたのを感じた一真は目を閉じ、眠りに就こうとしていた時、電話が鳴った。
これから寝ようとしていたのに、一体どこのどいつが邪魔をしてきたのだと一真は少し苛立ちながら電話に出る。
「はい、もしもし!」
『一真君。申し訳ないんだがフランスから君に応援要請が出ているんだ』
「なぜ!?」
『何故も何もフランスには有力な異能者がいないからだ。現存の戦力では厳しいらしい。それに聖女もいないから状況は良くないようだ』
「あ~……」
慧磨からの説明を聞いて一真は納得してしまう。
シャルロットは現在、国際会議の為に中華へ派遣されており、フランスは戦力不足である。
それゆえに日本と協定を結んでおり、いざという時は紅蓮の騎士が救援に向かうようになっていた。
「わかりました。さくっと終わらせてきますわ」
『よろしく頼む』
仮眠を取る事は出来なかったが一真は今回の騒動の原因が自分にもあることを自覚しており、ツケが回ってきてしまったとボヤきながらフランスへ向かう。
僅か一時間足らずでフランスを救い、負傷者を完治した一真は後日フランスから多大な御礼を頂くのであった。
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