第64話 真の最終決戦

 襲撃犯と死闘を繰り広げている中華の異能者たちのもとは一真は赴き、増殖で大量にいる襲撃犯を魔法で一掃した。

 襲撃犯を一掃した一真は中華の異能者達に指示を飛ばす。


「ここは俺が引き受けるからお前達は首脳陣を守っていてくれ」

「わ、分かりました! ご武運を!」


 中華の異能者たちは一真が一人残ったほうが効率的であること理解しており、すぐに彼の言葉に従って引き下がった。

 残された一真は襲撃犯の方へ振り返り、気だるそうにしながらも仕事であるので首を鳴らし、襲撃犯と相対する。


「さて、どこのどいつだか知らんが観念してくれや」

「……」


 襲撃犯に対して強気な発言をする一真。

 対して襲撃犯は不気味なまでに静かだ。

 先ほど戦っていた真人と違って、随分と静かな襲撃犯に対して一真は少々気味悪がっていた。


「だんまりか。まあいいさ。どのみち、増殖ならすぐに終わる」


 一言も喋らない襲撃犯に対し、一真は真人に使った魔法で増殖した襲撃犯を一網打尽にしようと試みる。


「クックック、キヒヒヒヒ、イーッヒッヒッヒッヒ!」


 すると、沈黙していた襲撃犯はくつくつと笑い出し、ゲラゲラと下品な声を上げた。

 突然、狂ったように笑い声を上げて身体を揺らしている襲撃犯に一真は不愉快そうに語りかける。


「何が可笑しい?」

「会いたかったぜ~、紅蓮の騎士~! いや、皐月一真と呼んだほうがいいのかな~!」


 とても愉快そうに笑い声を上げた襲撃犯は紅蓮の騎士である一真の正体を言い当てた。

 つまり、襲撃犯はイヴェーラ教の幹部クラスということで間違いない。

 しかし、一真に心当たりがなく、襲撃犯に疑問をぶつけた。


「悪いが俺はお前なんて知らないが?」

「おいおい、久しぶりの再会なのにつれないことを言うなよ。グランドワンで殺し合った仲じゃないか!」


 両手を広げて声高らかに叫ぶ襲撃犯。

 一真は襲撃犯の台詞を聞いて、春先に起きたグランドワン占拠事件を思い出した。

 あの日、あの時に一真はイヴェーラ教と因縁が出来た。

 そして、当時の犯人の名前も一真は思い出したのである。


「まさか、無限のアムルタート! そうか、お前が増殖の異能を持っていたのか!」

「ゲヒャヒャヒャヒャヒャ! ご名答! そうさ、俺こそが増殖の異能を持ち、無限の名を冠したアムルタート様だ!」

「最後の最後に因縁の相手か。つくづく、運命ってやつは憎い演出をしてくれる!」

「クキキキキッ! まさにその通りだな! 俺とお前は運命の赤い糸で結ばれていたってことだ! 最高のシチュエーションだ!」

「こっちは最悪だがな! でも、所詮増殖。俺の相手じゃない」


 増殖の異能は厄介なのは確かだが、身体能力が向上したりするわけでもないので大したことはない。

 一真が嫌なのは増殖したアムルタートを数える事だ。

 グランドワンで戦ったこともあるアムルタートの実力は既に知っている。

 自分の相手にすらならないと一真は余裕を見せていた。


「ギャーッハッハッハッハ! 昔の私とは違うのです! その証拠を今、お見せしましょう!」


 相変わらず、口調が安定しないアムルタートに一真は疑念の目を向ける。

 昔とは違うという言葉に引っかかりを覚えた一真は警戒を強めた。

 その瞬間、かつて味わった事のない痛みが一真を襲う。


「グブッ!?」


 パワードスーツを着用していたのにも拘わらず、一真は口から血を吐いた。

 一体何が起きたというのかと一真は目の前で肩を震わせているアムルタートに尋ねた。


「今、何をした?」

「簡単なことだよ。お前の体内に侵入した僕に自爆するよう命じただけさ~」

「なんだと?」

「グフッ、グフフフフ! 理解できていない君に親切丁寧に教えてあげよう。某はこの異能増幅剤と異能強化薬を使い、増殖の他に微小化という異能を手に入れ、異能のレベルを大幅に上げたのである。そして、微小化で微粒子レベルまで小さくした自分をお前の体内に侵入させたのさ!」

「……なるほど。大体わかったが一つ分からない事がある。お前は先程自爆させたと言ったな? 増殖に微小化だけでは出来ない芸当だが、どうやってやったんだ?」

「分からないのか? 僕の異能は増殖。この二つの薬を増殖させて、別の僕に新たな異能を発現させたんだよ。勿論、発現する異能はガチャのようにランダムだけど当たるまで回せばいいだけだよね」

「まさか、念話や自爆の異能が出るまで増殖した個体は薬を飲み続けたってことか……!」


 アムルタート自身の異能は増殖のみ。

 しかし、アスモディが開発した異能増幅剤で新たな異能を発現させ、強化薬で異能を強制的にレベル上げした。

 その結果、アムルタートは複数の異能を持つだけでなく、文字通り無限の異能を持つことが出来るようになった。

 しかも、お手軽にレベルアップできるアイテムまで無限に所有している。


「そういうことだ。増殖の異能とこの二つの薬があればお前にも負けない」


 一真は間違いなく世界最強ではあるが無敵というわけではない。

 その証拠にアムルタートの能力により傷つき、血を流している。

 この世界に戻ってきて初めて血を流す一真は焦燥感に包まれていた。


「(マジか、マジか、マジか!!! 微小化で体内に侵入ってだけでもやばいのに、他の異能もあるってやばくね!? 真人なんて目じゃないくらい強いんだけど!)」


 真人も充分強かったが一真からすれば大したことはなかった。

 しかし、目の前にいるアムルタートは違う。

 増殖の異能に加えてアスモディの開発した薬があるおかげで真人以上の力を手に入れていた。

 とはいえ、アムルタートは隠しているが彼は異能を増やしても二つまでしかない。

 ただ、増殖の異能があるのである意味無限に等しい。


「さて、それじゃあ、今度は脳を破壊してやろうか?」

「ッ!」


 血を吐き、片膝をついている一真は非常に焦る。

 即死さえしなければどうということはないが脳を破壊されるのは非常に不味い。

 何せ、魔法を発動するには脳からの命令が必要になる。

 勿論、無意識下でも使えるが結局は脳がなければ意味がない。

 それゆえに脳を破壊されることだけは決して許されないのだ。


「させるかッ!」

「もう遅い!」


 一真の体内に侵入していたアムルタートが脳を破壊する。

 電源が切れたかのように倒れる一真。

 かと思われたが一真は平然としている。

 その理由はただ一つ。

 体内に侵入していた無数のアムルタートを魔法で殲滅したのだ。

 体感時間を極限まで加速させ、アムルタートよりも先に魔法を発動したのである。

 とはいえ、かなりの負担がかかり、頭痛を起こしていたが。


「(くっそ! どんだけ侵入してたんだよ!)」


 文字通り、数え切れないくらいのアムルタートが一真の体内に侵入していた。

 体感時間を加速させ、必死で数えた結果、一真は頭痛を起こしているだけで特にダメージを受けたわけではない。

 とはいえ、毎回このようなことを続けるのは苦痛でしかなく、一真はどうにかして増殖によって増えたアムルタートを一網打尽に出来ないかと策を巡らせる。


「(体感時間を加速させてアムルタートを一気に倒す魔法を開発する。これしかない!)」


 土壇場に新たな魔法を開発するしかない一真は大急ぎで知識を掘り起こしていく。

 賢者ルドウィンに叩き込まれた魔法を懸命に思い出し、一から新たな魔法を構築し、アムルタートを殲滅する為に脳の回路が焼き切れるくらい試行錯誤する。


「(ふぎぎぎぎ……!)」


 鼻血を噴き出しそうになりながらも一真は思考を止めない。

 アムルタートを一網打尽にする魔法を開発するまで彼は永劫の時を過ごす。

 しかし、一真が思考の海に沈んでいた時、彼の思考を中断させる出来事が起きた。


「よう、何してるんだ~?」

「は?」


 突然、肩を掴まれて後ろに振り返った時、そこにはアムルタートがいた。

 イビノムのマスクをしているので表情は分からないが、恐らく醜悪な笑顔を浮かべているだろう。


「な、に?」

「ハハハハハハハ! どうだ、驚いたか~?」

「バカな! 今の俺は体感時間を加速させているんだぞ! それなのにどうしてお前が!」

「少し考えれば分かるだろ? 俺も加速してんだよ」

「まさか……加速の異能で体感時間を!」

「ギャ~ッハッハッハッハ! 正解、大正解! 花丸を上げましょう!」


 アムルタートは増殖によって増えており、その中の一人が加速の異能に目覚めていた。

 強化薬で加速を強化し、本来は人よりも早く動けるものであったが体感時間の加速すら可能になった。

 そのおかげで加速した世界にいる一真を捉えることが出来たのである。


「今度こそ死ね」


 一真の体内に潜んでいる自身を使って一真を殺そうと試みたが、彼は一切傷つかなかった。

 先程と違って何の反応も示さなかった一真にアムルタートは首を傾げ、彼に問い掛けた。


「もしや、お前、体内にいた俺を全部排除したのか?」

「当たり前だろう。いつまでも好きにさせてたまるか」

「だったら、もう一度やればいいだけだ!」

「バカが! 対策してるに決まってるだろ!」


 微小化し、ウイルスのようになったアムルタートを体内に侵入させないように一真は全身にバリアを張っている。

 そのおかげで一真はアムルタートの微小化を無力化することに成功はしたが、根本的な問題は解決していない。

 アムルタートという存在をどうにかしない限り、平和は訪れない。

 イヴェーラ教との真の最終決戦が始まるのであった。




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