第61話 俺とお前は一緒! でも、人様に迷惑をかけるのはダメ!
勝利の余韻に浸っていた慧磨であったが、まだ他にも超巨大イビノムが残っている事を思い出し、気を引き締め直した。
「すぐに向かわねば!」
操作レバーに手をかけ、次の標的に向かって飛び立とうとした時、通信が入る。
誰からかと思いつつ慧磨は通信を受け取ると、彼の秘書である月海からだった。
「何かあったのかね?」
『ようやく撃破されたのでご連絡を差し上げました。申し上げます、現在、超巨大イビノムは各都市に侵攻中。各都市の異能者及びに超巨大イビノム対策用ロボットのおかげで被害は収まりつつあります』
「おお! それはよかった。まだ残っている超巨大イビノムはいるかね?」
『いますが現在対応中ですので討伐されるのは時間の問題かと』
「そうか……」
月海からの報告を聞いて、ほんの少しだけ寂しそうにする慧磨。
明らかに声のトーンが下がったのを知り、月海は通信越しにいる慧磨を叱った。
『お言葉ですがもう少し喜ばれては如何でしょうか』
「うッ……! そうだな! パイロット達には褒美を出さねばな!」
『物足りないのでしょうが歳と被害をお考え下さい』
「……見たくないなー」
超巨大イビノムだけでも目を覆いたくなる被害だ。
それに加えて小型から中型のイビノムによる被害も大きい。
イヴェーラ教が街中にイビノムを放った罪はあまりにも大きかった。
「考えていても仕方がないか……。これからそちらに戻る」
『畏まりました。お待ちしています』
慧磨は残りの超巨大イビノムを他のパイロット達に任せて、本来の役割へ戻るのであった。
◇◇◇◇
日本で慧磨が超巨大イビノムを倒した頃、一真は真人と泥仕合をしていた。
圧倒的な火力を持つ一真は真人を歯牙にもかけないが、彼は増殖の異能で無尽蔵に増えており、倒しても倒してもキリがない。
数十人単位で一真が真人を消し去っても、彼は数百人単位に増殖するので無限ループである。
「いい加減にしやがれ!」
「無理に決まってるじゃないか。むしろ、そっちの方こそいい加減にして欲しいな~。さっきから絶え間なく襲い掛かってるのに全然疲れないじゃないか。体力お化けにも程があるよ」
「舐めんな。俺は不眠不休で一ヶ月近くは戦える!」
実際、一真は異世界で絶え間なく襲い掛かってくるアンデッド軍団を相手に篭城戦で一ヶ月近く不眠不休で戦ったことがある。
とはいえ、本当に不眠不休ではない。
交代で仮眠は取っていたりするので完全に不眠不休で戦えるわけではないのだが、それに近いことは出来る。
「厄介だな~。ただでさえ、沢山の異能があるのに体力も無尽蔵だなんてチートすぎるよ~」
「お前にだけは言われたくないわ!」
対する真人も一真に負けず劣らずの反則性能をしている。
強奪で奪ってきた異能は数知れず。
異能の数だけならば世界一であり、その能力ゆえに最凶の異能者であろう。
「不老、再生、増殖、身体強化、地水火風、霧、結界、爆破、酸、変化、飛行、数え出したらキリがない! どれだけの異能者からお前は強奪してきたんだ!」
「さあ? 途中から数えるのやめたからわかんないや」
「少なくとも十や二十じゃないことはだけは確かだな!」
飛び掛ってくる真人の大群を一真は薙ぎ払い、歯をむき出しにする。
鬱陶しいのは勿論のことなのだが、彼がこれまでに強奪してきた異能者のことを考えると胸糞悪いのだ。
「だって仕方ないじゃん。僕の異能は強奪なんだし。誰かの異能を奪わないと何にも出来ないからね」
「だとしても、もう少しやり方があったと思うがな! たとえば悪人だけから奪うとか! 異能のせいで苦しんでる人とか! そういったことも出来たと思うが!」
「なんでそんな面倒な事を僕がしなくちゃいけないのさ~。僕の力を僕がどう使おうが勝手でしょ~? だいたい、それを言うなら君だって同じじゃないか。だって、それだけの力があるのならイヴェーラ教を潰すのなんて簡単に出来たでしょ~」
図星を突かれてしまい一真は口をつぐむ。
真人の言葉は正しく、一真はイヴェーラ教をいつでも潰せた。
しかし、己の都合で放置していたので真人の言葉に対して何も言い返せなかったのだ。
「あ~! 黙ったってことは図星だったんだ~。それじゃあ、君が僕のこと批難する理由がわかったよ。同族嫌悪してるんでしょ? だって、僕も君も自分勝手に迷惑を掛けてるんだから」
「誰がお前と一緒なものか!」
「一緒だよ。僕と君は同じだ。何も違わない」
「黙れッ!!!」
真理を説くように真人は大勢で一真を囲い込む。
いくら図星を突かれて怒りを感じていようとも一真は真人に遅れを取るわけがない。
周囲を囲んでいる真人を一真は魔法で一掃する。
「鬱陶しい!」
「図星を突かれて怒っちゃったね~。だから、足元が疎かになるんだよ」
真人は影移動の異能を使い、一真の足元から姿を現す。
そのまま足を掴んで硬化と拘束の二つを使って一真の足を地面に縫い付けた。
これで一真は動けなくなると踏んだ真人であったが、彼にとっては拘束などあってないようなものであった。
「ふんッ!」
「うっそ~ん……」
セメントで固めたようなものであったのにも拘らず、一真は足を強引に動かすことで真人の異能を粉砕。
先程から出鱈目な力は見せられているが、これには真人も呆れ果ててしまう。
一体、どうすれば目の前の化け物を止めることが出来るのだろうかと。
自分も大概であるが一真はさらに酷いと真人は渇いた笑みを浮かべていた。
「アッハハハ……。勝てそうなヴィジョンが浮かばないや」
あまりの理不尽さに冷や汗を流す真人。
最初こそ、いくら紅蓮の騎士とはいえ限界はあるはずだと思っていたが、どれだけ自分を送り込もうと疲れを見せず、全く衰えない姿に畏怖の念を抱き始めている。
しかし、それと同時に心底期待していた。
紅蓮の騎士から一体どのような異能を強奪出来るのかと。
鑑定の異能を使って紅蓮の騎士を丸裸にしてみたいが、お楽しみは取っておきたい。
それゆえに真人は愉快そうに笑いつつ、紅蓮の騎士の異能を奪うために奮闘する。
「(う~ん。でも、全く歯が立たないんだよな~。さっきみたいな精神攻撃が有効なのかな? 怒ってたし、効果はありそうだ)」
自身と同類であることを指摘したら激しく怒っていたので真人は精神攻撃が有効であると判断して攻め方を変えることにした。
「(とりあえず、濃霧で視界を塞いで幻聴、幻覚で相手の思考を乱そうっと)」
一真の精神を揺さぶるべく、真人は濃霧で視界を覆い隠し、幻聴、幻覚といった異能で思考を乱してみる。
「お前のせいだ」
「どうして助けてくれなかったの」
「自己中め」
「そうやって自らの罪から目を背けるのか」
「貴方が好きです」
「お前なんて死ねばいいんだ」
「お前さえいなければ」
「貴方を愛しています」
「死んでください」
「何故、お前は生きている」
「消えろ、消えてしまえ」
「お前が死ねばよかったんだ」
一真の耳に聞こえてくる幻聴の数々。
そして、同時に襲い来る幻覚。
足元には大量の屍。
自分のせいで犠牲になった人々。
救えなかった人達。
自分が殺してきた多くの敵。
一真がこれまで積み重ねてきた罪が彼にしがみついた。
「くだらん!」
幻聴を振り払い、幻覚を一蹴する一真。
異世界でも同じように精神攻撃で何度も苦しめられたこともある一真にとっては今更どうということはない。
それよりも一真にとって大事だったことは先程の問答であった。
「ああ、そうとも。俺がお前に怒りを感じたのはまるで鏡を見ているみたいだったからだ! 自分勝手に生きて、他人に迷惑をかける。それがお前で、そして俺だ! お前の言う通りさ! 俺もお前と大して変わらん! 本質は一緒だろう。だがな、だからと言って他人に迷惑をかけていいはずがないだろう!」
自分の力をどう扱うかは自分が決めることだ。
だからと言って、他人に迷惑をかけていいはずがないというのが一真の持論であった。
彼は世の為、人の為などという大層な事は考えていない。
どこまで行っても真人と同じで自分の為だ。
そこは同じであり、同類という点では納得である。
「そういう意味ではやはりお前は気に食わん! 俺の家族に、友人に手を出したお前達は決して許さん! 降りかかる火の粉は振り払う。それが俺だ! お前達は踏んではいけない虎の尾を踏んだに過ぎん!」
結局のところ、一真が本気でイヴェーラ教を潰すと決めたのは家族、友人に手を出されたからだ。
そうでなければ誰が好き好んでイヴェーラ教という狂った組織を相手にするものか。
ただ、一真は降りかかる火の粉を振り払うだけ。
それがイヴェーラ教であっただけの話だ。
「ふ~ん。まあ、言いたいことはわかったよ~。僕も君も同類。でも、敵だから馴れあう事はないってことだね」
「そういうことだ。だから、ここでお前等は潰す」
真人を指差して一真は宣言する。
イヴェーラ教は今日ここで潰すと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます