第53話 沢山キャラ出てきても覚えきれないよ~
露店巡りを終えて中華料理を楽しんだ一真達は会議の時間が近づいてきたのでホテルに戻ることにした。
道中、複数の視線を感じたが脅威にすらならない一真は判断して放置し、ホテルへ戻る。
ホテルに戻ると慧磨から会議に時間が来たのでロビーに来るよう指示が来た。
一真は桜儚と桃子を引き連れてロビーに向かい、慧磨と合流し、国際会議が行われる会場へ向かう。
黒塗りの高級車に乗った一真は外の景色を眺めつつ、慧磨に今回の会議について質問する。
「今回ってどういう議題なん?」
「以前、説明したと思うのだが……」
先日、慧磨は一真達に国際会議の日時や開催場所だけでなく話し合う議題についても教えていた。
そのことをすっかり忘れている一真は惚けたように笑い、慧磨へ質問を繰り返した。
「えへへ。忘れちった」
「それが許されるのは子供と美少女だけだ」
「ごもっともで……」
「まあいい。もう一度話すがイヴェーラ教についてだ。先日、起きた全世界同時多発テロとされるイビノム襲撃事件。アレは人為的なものであると各国は判断し、イヴェーラ教が主犯であると捜査して分かったんだ。そこで我々はイヴェーラ教について対策を行う事にした」
「それを国際会議で話すって?」
「そうだ。それと同時にイヴェーラ教を完全に排除する為に全世界へ告知する」
「なるほど。完全にぶっ潰すんだ」
「当たり前だ。各国の収容施設から犯罪者を解き放ち、数多くの命を奪った組織をこれ以上野放しには出来ん」
「出来るの? 大体、後手に回ってるけど」
「出来る、出来ないじゃない。やるしかないんだ。それ以外、我々には選択肢がない」
一真は今すぐにでもイヴェーラ教へ乗り込んで潰せることを話すべきか悩んだ。
ルナゼルとアズライールに自身の血液を付着させマーキングしているのでどこにいるのかを常に把握している。
今は一定の場所から動いていないが何かを企んでいるのは間違いない。
ただ、それが何かまでは一真にも分からない。
実際に聞いたわけでもなければ見たわけでもないので分からないのだ。
本人がやる気さえあればルナゼルのもとへ転移し、潜入活動も出来たのだがそこまでの必要性を感じなかったのだ。
勿論、見逃がしているわけではない。
イヴェーラ教は一真の逆鱗に触れている。
すでに一真はイヴェーラ教を敵と認識し、潰すことを決めているが急いで潰すことはないと思っている。
なにせ、いつでも潰せると確信しているからだ。
傲慢な理由だがイヴェーラ教の幹部が相手にならないのは事実。
教祖の神藤真人がどこまで一真と戦えるかは分からないが、少なくとも幹部よりは戦えるだろう。
「まあ、降りかかる火の粉は払うから安心してよ」
「出来れば積極的に動いてもらいたいんだがね……」
「大丈夫さ。イヴェーラ教は俺の家族に、友達に手を出したんだ。潰すのは確定している。それは今じゃない。アイツ等が準備を整えて自信満々にこっちを出し抜いた時に潰す。だって、それが一番アイツ等をイラつかせるだろ?」
「……末恐ろしいな。君はもしかして未来でも知っているのか?」
「流石にそこまではわからんよ。でも、慧磨さんはドンと構えてくれてたらいい。後は俺がどうにかするから」
「心強いな。では、お言葉に甘えてそうさせてもらおう」
そして、一真達を乗せた高級車は国際会議の開かれる会場に着いた。
一真は紅蓮の騎士として来ているので車を出る前に倉茂工業で作ってもらった彼専用の新型パワードスーツに着替える。
紅蓮の騎士をモチーフにしたデザインで赤を基調としたカラーになっており、他の四人のよりもメタリックである。
「ほう。それが新型パワードスーツか」
「かっこいいっしょ!」
バサッとマントを翻してポーズを決める一真。
紅蓮の騎士もモチーフになっているが一真の希望によりヒーローもののデザインも含まれており、真っ赤なマントが背中部分に広がっている。
「フフ……。随分と懐かしい思いをさせてくれる」
「お、慧磨さん。分かる口ですね~」
「昔は憧れたものだ。こんなカッコいい大人になりたいとな。まあ、現実は違うし、むしろ嫌悪していた悪い大人になってしまったよ」
哀愁漂う笑みに一真は何も言えない。
慰めの言葉も思い浮かばないし、どのように声を掛ければいいのかもわからない。
そのようなことはないと否定も出来ないのだ。
少なくとも一真も慧磨が自分を利用していることは分かっているからだ。
とはいえ、自分も同じように相手の立場や権力を当てにして好き勝手やっているので同じようなものだが。
「ハ、ハハ……」
結局、一真が出来たのは苦笑いを浮かべる事だけであった。
「君もいずれそうなるさ……」
一真にこっちへおいでと言わんばかりに暗い笑みを浮かべる慧磨。
すでに同じような道を辿り始めている一真は頬が引き攣っていた。
それから、一真達は会場に入り、案内に従って会議の場へと向かった。
今回、日本から参加するのは慧磨を含めた五人。
秘書の月海、護衛の一真、そして一真の部下である桃子と桜儚。
事前に参加することを伝えているが知っている者達からすれば大問題であろう。
紅蓮の騎士はまだいい。
しかし、読心の桃子と洗脳の桜儚ははっきり言って会議の場では最強最悪の組み合わせだ。
彼女達が本領を発揮する最高の機会といってもいい。
もしも、彼女達がその気になれば世界を掌握することが出来るだろう。
「このようなことを言うのは良くないと思うのだが、君の部下を使えば世界を掌握できるのではないかね?」
「出来るだろ。桃子ちゃんは心読めるし、桜儚は洗脳出来るし、組み合わせれば余裕だ」
「恐ろしい異能だ……。心底味方でよかった思うよ」
「いや、桃子ちゃんは味方だけど桜儚は信用するなよ。食われるぞ」
「上手く手綱を握っておいてくれ」
「俺の目の黒いうちは大丈夫さ」
慧磨は指定された席に座り、一真は護衛として傍に付き従う。
残りの三人は二人の後方にある椅子に座り、月海は慧磨のサポートで桃子と桜儚は待機である。
とはいえ、桃子は心が読めるので疑いがある場合は彼女が先頭に立つ。
勿論、桃子の存在は各国にも知れ渡っているので、このような場で虚偽の発言をする者はいない。
会議の時間まで後少しとなった。
最後の参加国が会議室に入ってきて、席が埋まり、あとは時間が来るのを待つだけとなった。
その時、一真のもとに多くの者達が集まる。
紅蓮の騎士に扮している一真は顔を上げて、集まって来た者達の顔を見回す。
どういう理由で自分のもとに集まったのかを理解している一真は席から立ち上がり、一歩前に進んだ。
「お初にお目にかかる。先輩方」
「フハッ! いやー! ようやく会えたね、紅蓮の騎士! アリシアから話は聞いてるよ。俺はキング。本名はエドワード・クライムだ。よろしく!」
一番最初に声を掛けて来たのはハリウッドスター以上に知名度を誇り、アメリカで最強の異能者であるキングことエドワードだ。
金髪青目と端正な顔立ちをした好青年であるが、アリシアの話では承認欲求の塊である。
「よろしく。俺もアリシアから聞いている。承認欲求の塊だと」
「アハハハ! 間違ってないさ! 俺は皆から褒められたいし、称えられたいからヒーローやってるんもんだからね。気に食わないのなら仕方ないけど」
「いや、別に気にしないさ。どんな理由であれ、貴方は世の為、人の為になっているのだから」
「サンキュー! それじゃあ、お願いがあるんだけどいいかな?」
「俺に出来る事なら」
「一緒に写真撮ろうぜ! SNSにあげたいんだ」
「それくらいなら構わんさ」
ということで一真はキングと肩を組み、仲良しアピールをして写真を撮った。
すぐさまキングは自身のSNSにアップロードし、とんでもない量の反応があった。
「ふー! やっぱり、俺の目に間違いはなかったぜ! 見ろよ! 一瞬で世界一位のトレンドだ!」
「お、おお……。それはよかった」
「そうだ。今度、一緒に――」
「そこまでにしてもらおうか」
キングが一真にさらなるお誘いをしようとしたところを黒髪をオールバックにした厳つい顔の男が口を挟んだ。
「おっと、悪いね」
「紅蓮の騎士と話したい気持ちは痛いほど分かるさ。だが、我々もいることを忘れないように」
「ハハハ、覇王様の言う通りだ。それじゃあ、俺はこれで。あ、これ俺のIDだから登録しておいてくれ」
キングは一真に連絡先を渡すと、次に控えていた覇王に順番を譲って自分の席に戻っていった。
一真は映像で何度か見たことのある覇王と初めて対面する。
はちきれんばかりの筋肉に皺が寄って他者を威圧する鋭い眼光の覇王。
常人ならば圧倒され、怖気つくだろうが一真は異世界で同じような男を何度も見た。
それゆえに覇王には何故か親近感を抱いている。
「初めまして。私は中華連邦の代表の一人である
「初めまして、紅蓮の騎士です」
「よろしく頼む」
スッと手を差し伸べてくる白龍に一真は怪訝そうに眉を寄せたが悪意は感じなかった。
であれば、ただの握手であろうと一真は差し出された手を掴んだ。
ここでよくあるのは力試しと言わんばかりに力を込めることだが白龍は特に何もすることなく手を離した。
拍子抜けした一真は思わず、白龍の顔を見上げる。
そこには不敵な笑みを浮かべている白龍の姿があった。
「どうしたのかね? 私の顔になにかついているか?」
「いえ……」
「君の思っていることは分かる。何故、力試しをしなかったということだろう。安心するといい。この後、訓練所を予約している。君が良ければそこで腕試しと行こうじゃないか」
そこまで言うと白龍は一真の耳元に顔を寄せると、他には聞こえないよう小さな声で名前を呼んだ。
「なあ、皐月一真君。私は、いや、取り繕うのはやめよう。俺は是非とも君と勝負がしたい」
「断ったら?」
「素直に退くさ。君と敵対はしたくないからな。ただ、俺の個人的な見解としては腕試しくらいなら君は乗ってくると思うが?」
一真の耳元から顔を離して白龍は愉快そうに口元を歪めている。
まるで一真の答えが分かっているかのように。
「(多分、断っても問題はない。さっきの言葉は本心だ。そして、分かるのは根っからのバトルジャンキー。姑息な手を使わず、真っ向からのお誘い。くっそ~、武王を思い出させるぜ~)」
白龍のやり方は間違っていなかった。
一真が異世界で共に戦い、背中を預け、死線を潜り抜けた仲間の一人であり師匠の一人でもある武王。
彼も猪突猛進の脳筋であったが悪い人間ではなかった。
それゆえに白龍の真正面からのお誘いは一真にとっては非常に好感触である。
「俺でよければ」
「フッ! そう言ってくれると思ったぞ! 紅蓮の騎士! 思う存分、楽しもう!」
バシッと背中を叩かれて一真はますます目の前の男が好きになった。
懐かしさを思い出させる白龍に一真は好印象を残すのであった。
「では、そろそろ私の番だな」
白龍が下がり、席へ戻ると次に現れたのは褐色肌のイケメン。
一真はその顔を見て驚いた。
彼こそがエジプト最強の異能者であり、究極の一とも呼ばれている炎使い。太陽王アルシャムス・シャリーディ。
「君の噂は我が国にまで届いている。なんでも神の化身とも呼ばれているそうだな」
「いやいや、そのようなことは」
「謙遜することはない。君の活躍を見れば民がそのように言ってしまうのも無理はない。私は敵を燃やし尽くすことは出来ても、癒し、救う事は出来ない。統治者としては情けないばかりだ」
「そんなことはないですよ。貴方には多くの人が救われています。エジプトは貴方が作り上げた
炎の番兵はアルムシャスが自身の異能で作り上げた独自の軍隊である。
炎で形作られており、無敵にして不死身の兵士だ。
水すらも一瞬にして蒸発させるほどの火力を秘めており、世界最強の軍隊とも呼ばれている。
そして、太陽神殿は名前の通り太陽が祀られた神殿であり、外敵を燃やし尽くす役割を担っている。
つまり、太陽王がエジプトから離れても炎の番兵と太陽神殿がある限りエジプトは難攻不落の都市なのだ。
とはいっても、前回は内側にイビノムが現れたので犠牲者は出てしまったが、それでもエジプトは間違いなく世界でも一番の堅牢な都市である。
「私の唯一自慢できることはそれくらいさ」
「他にもあるでしょうに……」
「ハハハ。君に比べたら霞んでしまうようなものばかりさ。おっと、それよりもまだ君に挨拶したい者がいるだろうから、ここらでお喋りは終わりにしよう。今度、我が国に来る機会があれば言ってくれ。私自らが案内しよう」
「その時は是非ともお願いします」
それからアムルシャスと一真は握手をして別れる。
次に一真のもとにやってきたのは白馬の王子様のようなビジュアルをしている金髪青目の男だった。
キングの様にも見えるが彼とは体格が違い、スラッとしたモデル体型をしている。
「僕で最後かな。僕はイギリスでアーサー王の名を授かったクルス・アーゲイル。よろしくね、紅蓮の騎士」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「そう畏まらなくてもいいよ。僕たちは同じ騎士じゃないか」
「騎士と言いましても自分は剣を使わないので……」
「そういえば君の戦っている映像では殴ったり蹴ったりが普通だったね」
「そうです。野蛮な騎士なんです」
「アハハハハ。面白いね。でも、戦い方はどうあれ姿は騎士なんだから僕達と一緒さ」
「違うと思うんですが……」
「まあまあ、そう言わないで」
円卓の騎士、紅蓮の騎士、どちらも同じく騎士であり、そこに何の違いもないと言いたげなクルス。
対して一真は全然違うと主張している。
しかし、クルスはどうしても一真を騎士として扱いたいようで肯定しか言わない。
敵対したいとかではなく、単純に同じ騎士として一真を尊敬しているのだ。
アーサー王も有名ではあるが先程のキング、覇王、太陽王に比べると実力は一歩劣る。
彼の異能は聖剣召喚という極めて特殊なものなのだが、いかに聖剣が優れていようとも前者の三人には及ばないのだ。
何せ、キングは一真が現れるまで世界最多の異能を所持しており、覇王はたゆまぬ努力と才能で成り上がり、太陽王はまさに一つを極めた規格外。
そして、そこに現れたのは紅蓮の騎士という今までの異能者を圧倒する存在。
同じ騎士として彼が尊敬するのは仕方のない事であった。
「これ以上は長話になってしまうね。今度、ゆっくり紅茶を飲みながら話そう」
「機会があれば……」
ようやく解放された一真はドッと疲れたように席に戻る。
キング、覇王、太陽王、アーサー王と世界でも名だたる有名人と対面した一真は精神的に疲れていた。
「ご苦労様」
「もう帰りたい……」
「そう言わないでくれ。これからが本番なのだから」
各国の異能者達が挨拶を済ませたことで国際会議が始まる。
一真はイヴェーラ教の動向を探りつつ、会議に耳を傾けるのであった。
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次回の更新は明後日です。
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