第52話 とりあえず、まずは中華料理を!

 ◇◇◇◇


 国際会議、当日。

 一真は慧磨と共に国際会議の開かれる中華にやってきていた。

 アメリカに続いて二度目の海外に一真は少しばかり興奮している。


「おお……。アメリカも建物とか大きかったけど中華も負けてないな」

「今ではアメリカと並ぶ経済大国だからな。首都の方がもっと凄いんだが、今はイビノムのせいで半壊状態らしい」

「それは残念。まあ、またの機会にでもするか」


 またの機会と言っているが一真が自分から中華に来ることはない。

 なにせ、来る用事がないのだから。

 もし、一真が中華に来る時があれば、それは家族旅行や仕事だけだ。


「さて、これからどうする? 会議までは時間がある。観光でもするかね?」


 慧磨の提案に一真は二の腕を組み、唸り声を上げて悩んだ。


「う~ん……。なんかオススメスポットみたいなのある?」

「歴史的建造物もないからな~。とはいえ、第一エリアよりも大きいから見て回るだけでも面白いぞ」

「じゃあ、ホテルでしばらくゴロゴロしてようかな~」

「そういうことでしたら中華料理を食べに行っては如何ですか? 大通りには露店なども多く観光客で賑わっていますよ」


 一真は面倒になりホテル待機しておこうかと口にしたとき、慧磨の秘書である月海が口を開いた。

 彼女の言葉を聞いて一真は露店に興味を持ち、この機会に本場の中華料理を楽しんでくるかと決めた。


「そうするか~。会議は何時からだっけ?」

「十時からだ。昼食を挟むから、あまり食べ過ぎないようにな」

「オッケ~」


 一真は慧磨達と別れて、桃子、桜儚の二人をお供に街へ向かう。

 三人の背中が見えなくなり、慧磨は心配そうに呟いた。


「大丈夫だろうか……」

「どちらがです? 私達がですか? それとも彼等がですか?」

「どちらもだ。一応、彼からお守りを貰ったが果たしてどれだけの効果があるか……」

「確か、ミサイルが飛んできても問題はないと言っていましたが……」

「彼の能力ならば信じられるが……不安だ」

「どちらかといえば私は彼等が問題を起こさないかが心配ですが」

「それも心配だ~……。東雲君は問題ないと思うが残りの二人は問題児だからな。紅蓮の騎士に女狐だ。何も起こらなければいいのだが……」


 二人は心配そうに三人が向かった方を見詰める。

 願わくば何も問題が起こりませんようにと祈るのであった。


 二人の心配は杞憂に終わるわけもなく、一真達はチャイニーズマフィアに絡まれていた。


「よう、兄ちゃん。イイ女侍らせてるじゃねえか。ちょっと俺達に貸してくれねえか?」

「いいよ。こっちの子はダメだけど、そっちの女は貸してあげる」

「は?」


 桃子と桜儚は美少女と美女である。

 人目を惹く容姿をしている為、彼女達は目を付けられたのだ。

 そして、彼女達と一緒にいるのは容姿、体格はいいが覇気も感じない一真だ。

 チャイニーズマフィア達はどこかのお坊ちゃんだろうと判断し、三人に近付き脅しをかけたのだが、すんなりどころか自ら桜儚を提供してくるので呆然としていた。


「え、あ、いや、いいのか? 普通は抵抗するもんじゃねえのか?」

「いや、穏便に済ませたいんで。でも、こっちの子は勘弁してくれない?」


 一真が庇っている桃子をチャイニーズマフィア達は品定めするように下から上まで目を通した。

 それから桜儚に目を移して、見比べた結果、彼女だけで十分だと判断したのである。


「へっへっへ……。物わかりのいい餓鬼じゃねえか。それじゃ、借りていくぞ~」

「どうぞ、ごゆっくり~」


 円満な取引にお互い笑顔で別れる。

 桜儚の腰にチャイニーズマフィアの一人が厭らしく手を回し、脇道へと姿を消した。

 残った一真と桃子は踵を返し、大通りにある露店を見ていく。


「可哀想に……。まさか、爆弾を持って帰ったとは夢にも思わなかったでしょうね」

「まあ、死なないでしょ。多分、すぐこっち帰ってくるよ」


 露店を巡りながら一真と桃子は桜儚が消えていった方向に目を向けていると、そこから複数の怒声が聞こえてきたと思ったら発砲音が鳴り響いた。

 それから、しばらくすると喧騒も収まり、脇道から涼しい顔をした桜儚が一真達の方へ歩いてくる。


「殺したのか?」

「さあ? 私は俺のものだーって言って急に仲間割れし始めたのよ」

「恐ろしい能力ですね。洗脳したんでしょう?」

「ええ。命の危険を感じたもの」


 一真が桜儚に下している命令の一つに彼女が命の危機を感じたら洗脳を使っても良いというものがある。

 一真が傍にいれば使えないが今回は連れ去られ、人気のない路地裏だったので彼女の洗脳が解禁されたのだ。

 桜儚は男達を洗脳し、仲間割れを引き起こして揉めに揉めさせたことで殺し合いにまで発展させた。

 その結果、街から少しばかりのチャイニーズマフィアが命を落としたのである。

 しかも、一人の女を奪い合ってというものと噂され、一真達は被害者として同情されるだけであった。


「派手な事はするなよ~」

「これくらい問題ないわ。この辺りだと割と日常茶飯事なのよ」

「そうなのか。それならいいか」

「良くありませんよ。間違いなく目を付けられますよ」

「私の為に争わないで欲しいわ~」

「どの口がほざいてるんですか……」

「そんなことよりも腹減ったから適当に何か食べたい」


 と、桜儚が間接的に複数人を殺害したというのに一真と桃子は大して気にしていなかった。

 それよりも腹が減ったからと露店巡りを再開させる。


「ところでさっきからこっちを見てる奴どうしようか」

「え? 見られてるんですか?」

「うん。二人じゃなく俺に視線が集中してる。これは俺の正体がバレてるのかね?」

「迎撃するの?」

「しないよ~。向こうが手を出さない限りは無視無視~。俺は今観光中の一般人みたいなもんだから」

「貴方のような一般人がいてたまりますか……」


 一真の一般人発言に呆れて肩を落とす桃子とクスクス笑っている桜儚。

 その三人を見詰めているのは中華連邦の諜報部隊である。

 彼等は一真が中華に来ることを知り、すぐさま監視行動をとった。

 なにせ、中華は一真を紅蓮の騎士と断定しており、その取り扱いに注意していたのだ。

 超ド級の爆弾である一真が暴走すれば覇王でも止められるか怪しいので注意するのは当然である。

 先程のチャイニーズマフィアには肝を冷やしたものである。

 いざとなれば身を挺して止めるつもりであったが、まさかの事態に息を呑んだほどだ。

 一人の女を奪い合って自滅するなど愚かとしか言えないが彼等がバカでよかったと諜報部隊は安堵していた。


「隊長、どうしますか? 対象はこちらに気づいてるようです」

「そうだな。我々、全員の居場所を見詰めていたから監視されていることは気づかれているだろう。しかし、放っておくわけにもいかない。もしも、暴れられでもしたらひとたまりもないからな」

「ですね。それよりも彼が連れている女性はさとりではないでしょうか?」

「これまた厄介な女を引き連れているな……」

「もう片方の女は? 資料にはなかったぞ」

「お、俺知ってる……! あの女は紅蓮の騎士なんかよりも危険人物だ!」


 諜報員の一人は桜儚ことを知っていたようでかなり動揺していた。


「知っているのか? どういう人物だ。詳しく説明しろ」

「そ、その自分は日本の犯罪者について調べていたことがありまして、その中でも特に凶悪かつ危険極まりない者達がいました。彼女はその中の内の一人です」

「つまり、紅蓮の騎士は凶悪犯罪者も手なずけているということか……。それで、どういう犯罪者なんだ?」

「彼女の名前は夢宮桜儚。元キャバ嬢で異能は洗脳。そして、たった一人で国家転覆を実行しようとした気狂いだ」

「…………何かの冗談だと言ってくれ」

「間違いない。資料の写真と一致している。先程のチャイニーズマフィアが仲間割れしたのはきっと洗脳によるものだ」

「日本は中華を滅ぼしにきたのか?」

「対応を間違えれば、どちらか片方だけでも中華は滅ぼせますね」

「冗談でもそういうことを言うな……」


 一真が本気で中華と敵対すれば一日もなく、中華を地図の上から消すことが出来る。

 桜儚は一真程ではないが入念に準備を整えれば、中華を滅ぼすことは出来るだろう。

 どちらも凶悪極まりない存在だが、今は敵でもなければ味方でもない。

 対応を間違えなければ問題はないのだが、やはり監視している二人はおっかない存在であると諜報部隊は認識した。

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