第51話 年末の大掃除だ!

 国際会議について話し合いが終わり、一真達は慧磨のもとから転移魔法で移動し、アイビーへと戻った。

 アイビーに戻ると、子供達のお世話をしていたアリシアとシャルロットに帰ってきたことを告げる。


「おかえり~」

「ただいま~」

「どうでしたか?」

「特に何もなかったよ。国際会議について話しただけ」

「今回はどこでやることになってるの?」

「中華。大晦日の前にやることになってて、すぐに移動しないといけない」

「今日は二十六日ですもんね~。あれ、そうなるともしかして私、フランスに帰ったほうがいいんでしょうか?」


 現在、シャルロットは紅蓮の騎士預かりとなっている。

 以前、シャルロットが誘拐された際にフランスの中でも屈指の実力者達がアズライールによって亡くなった。

 そのせいで護衛に不安があるということで一真が引き取ったのだ。

 しかし、今は新型パワードスーツに加えて一真からの手ほどきにより世界屈指の実力者とも呼べる。

 つまり、もうここにいる理由は特にないのだ。


「フランスから何の連絡もないからいてもいいんじゃね?」

「それもそうですね!」


 フランス政府からは帰還するように指示を出されたわけでもないのでシャルロットは日本に滞在する事にした。


「アリシアのほうは?」

「スティーブンから連絡ないし、問題ないと思うわ。それにキングが行くから私は関係ないしね」

「なるほどな。じゃあ、しばらくはゆっくりするか」


 アリシアもアメリカにとっては重要な異能者であるが、アメリカには世界最強と呼ばれるキングがいる。

 それゆえに国際会議に彼女が呼ばれることはない。


「では、当日までフリーということですか?」

「だねー。桃子ちゃんはどうする?」

「スケジュールも確認できましたから、私は自宅で待機しています」

「一緒に遊ばないの?」

「貴方のせいで今年は酷く疲れてるんです。ゆっくりさせてください……」

「俺なんかしたかな~?」

「どの口がほざいてるんですか……」

「ごめんごめん。わかった。じゃあ、家まで送るよ」

「お願いします」


 今年は一真によって沢山振り回された桃子は今回の件でも疲労と心労が溜まり、いつ倒れてもおかしくはないほど弱っている。

 一秒でも早くベッドにダイブしたい桃子は一真に転移魔法で自宅まで送ってもらった。


 桃子を自宅まで送り届けた一真はアリシア、シャルロット、桜儚の三人とショッピングに出かけたり、子供達のお世話をしたりと国際会議まで時間を潰すのであった。


 ◇◇◇◇


 一真達が遊んでいる頃、イヴェーラ教ではルナゼルを始めとした幹部達が今後の計画について話し合いをしていた。


「国際会議はいつ行われるんだよ?」

「大晦日の前日だ。開催国は中華連邦。場所はエリア十三だ」

「首都じゃねえのか?」

「首都は前の作戦で崩壊している」


 全世界同時多発テロと言われているイビノム襲撃事件で日本以外の首都は大ダメージを受けている。

 各国の実力者達がイビノムを撃退することには成功したが、建物の被害や人的被害は免れなかった。

 日本もイビノムに襲撃されているが一真の尽力により被害は最も少ない。

 それゆえに最初は日本で国際会議を行うという意見が出たのだが、元々開催順が決まっているため中華となったのだ。


「手筈は?」

「すでに整っている。国際会議が開かれる時間帯に襲撃。及びに各国に配置したイビノムの解放。そして、首脳陣を含む異能者の殲滅」

「紅蓮の騎士は誰が相手するの~? アムルタートが適任だけど時間稼ぎにもならなさそう」

「その点については再三話し合った結果、教祖様にお任せする事になった」

「え~ッ!? うちの最高戦力じゃん! キング、太陽王、覇王にぶつける話だったんじゃないの~?」

「お前が研究室に篭っている間に決まったんだ。キング、太陽王、覇王は我々が相手をする」

「うへ~……」


 アスモディはルナゼルの言葉を聞いて項垂れるようにして息を零す。

 キング、太陽王、覇王の三名は世界でも最強と呼ばれており、イヴェーラ教の幹部とはいえ苦戦は確実だ。

 アスモディが新たに開発した強化薬を服用しても勝算はそこまで変わらないだろう。

 それだけ三人は常軌を逸している存在なのだ。

 しかも、キング、太陽王、覇王の三名を運よく倒せたとしても紅蓮の騎士が残っていれば意味がない。

 イヴェーラ教の教祖である神藤真人が紅蓮の騎士の相手をすることになっているが勝敗はやってみなければ分からない。

 どちらも実力の全てを見せてはいないのだから。


「ところで教祖様は~?」

「外出しておられる。作戦当日には顔を出すと言っていた」

「自由だね~」

「久しぶりのシャバなんだから、色々と見ておきたいんだろ」

「理屈は分かるけど自由な人だね~」

「元々、このイヴェーラ教は教祖様を中心に作りはしたが教祖様は一切関心がないからな」


 ルナゼルの言うとおりで神藤真人は強奪の異能を使い、好き勝手に生きてきただけであり、世間に対して何の関心もない。

 それゆえにイヴェーラ教の教祖と崇められても理解していないのだ。

 勝手に崇めてる物好きな連中程度にしか思っていない。


「そもそもなんで捕まってたんだっけ?」

「暇潰しだそうだ。教祖様は百年以上も生きておられるからな」

「その間にどんだけの異能を奪ったのかは分からないんだろ?」

「そうだな。少なくとも両手では数え切れない程だろう」


 現在、真人が強奪した異能で判明しているのは不老のみだ。

 それ以外は一切不明であり、政府にもそのデータは残されていない。

 なにせ、牢屋に入ってはいたが拘束できていなかった。

 自ら牢屋に住んでいたようなものなので政府も手出しが出来なかったのである。


「紅蓮の騎士には借りがあるから俺がやりたかったんだがな」

「言ったはずだ。お前には重要な役目がある。それに紅蓮の騎士には勝てないと分かってるだろう?」

「そうだよ~。僕の作った義手と強化薬を飲んでも勝ち目はほぼゼロなんだから大人しく運搬係としてキリキリ働いてよ~」

「ぶっ殺すぞ、テメエ!」


 アスモディの台詞に腹を立てたアズライールは青筋を浮かべて怒号を上げる。

 唾が飛んできて汚いとアスモディはアズライールから距離をあけた。


「もう叫ばないでよ~。唾が飛んで来て汚いからさ」

「ようし! 表に出ろ! ぶっ殺してやるから!」

「やめろ。二人とも。大事な作戦前にふざけるんじゃない」

「は~い」

「チッ!」

「全く……」


 間の抜けた返事をするアスモディとい苛立ちを隠せないアズライールの二人を見てルナゼルは疲れた中間管理職のように溜息を零した。

 作戦の要であるアズライールに組織の頭脳でもあるアスモディ。

 どちらも欠けてはならない人物なためにルナゼルは苦労するようだ。


「ところでアムルタートはどこに行ってるの~?」

「各地で工作活動だ。奴は増殖してるからな。世界中に潜んでいる」

「しかし、アムルタートは良く働くよね~」

「そうだな。諜報活動、信者の勧誘、資金の調達、と働きすぎなくらいな」

「奴には増殖があるからな。人手不足にならないんだ」

「やっぱとんでもない異能だな」

「教祖様も欲しがってたくらいだからね~」

「すでに強奪しているぞ」

「「は?」」


 アムルタートの持つ増殖の異能をすでに強奪済みであるとルナゼルから告げられた二人は同じ反応を見せる。

 まるで信じられないといった顔でルナゼルを見つめ返す二人。


「本当だ。教祖様はアムルタートの一人から増殖を強奪している。その個体は増殖を失ったが他の個体は失っていなかった」

「おいおい、えげつないな……」

「ねえ、教祖様ってもしかして最強なんじゃないの? 不老に増殖だけでも充分やばいじゃん……」

「まあ、そうだな。アムルタートと同じ増殖であるから同一個体が増える上に異能もそのままだ。いくら紅蓮の騎士が複数の異能を所持していようが教祖様には勝てないだろう」

「うっわ~。正真正銘の怪獣決戦じゃん……」


 ドン引きしているアスモディだが、その表情は面白可笑しな光景が見られると分かって緩んでいた。


「ああ。これで憂いはなくなった。教祖様が必ずや紅蓮の騎士を倒してくれるだろう」


 計画はすでに最終段階へと入った。

 あとは国際会議の最中に襲撃をかけて、全世界のネット中継に紅蓮の騎士及びにキング、覇王、太陽王の無様な姿を晒すだけである。


 勝利を確信しているルナゼル達は愉快に笑うのであった。


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