第49話 性なる夜は訪れない

 ◇◇◇◇


 ついにやってきたクリスマスパーティ。

 俊介がグランドワンのパーティブースを予約しており、ボウリングにカラオケと多岐に渡って遊べるようになっていた。


 しかし、一つだけ問題がある。

 それは一真と愉快な仲間達だ。

 俊介は前もって参加者が四名増えると聞かされていたが、誰が参加するかまでは聞いていなかった。

 よもや、魔女アリシア・ミラーと聖女シャルロット・ソレイユが一真と一緒に現れるとは夢にも思わなかっただろう。


「お前……ッ! 参加者が増えるっていうから、俺はてっきり支援科の友達を連れてくるもんだと思ってたのに! どうして、ここに魔女と聖女がいるんだよッ!」

「お、落ち着いて、俊介君」

「これが落ち着いていられるか? ああ!?」

「ご、ごめんて。俺にとっては彼女達もお友達みたいなもんだし」

「お前はそうだよな? でも、俺らからすれば雲の上の人間だ! いきなり、ハリウッドスターを連れてこられて楽しめると思うか?」

「すいません……」


 真面目に説教をされて一真は凹んでしまうが悪いのは完全に自分である。

 せめて彼女達のことを伝えていれば余計な混乱を招くことはなかった。

 それをしなかったのは一真だ。

 誰がどう考えても悪いのは一真である。

 とはいえ、確認しなかった俊介にも非はあるが一真ほどではないだろう。


「まあ、連れてきちゃったもんは仕方がない。でも、少し待ってろ。先に俺が行って説明してくるから」


 俊介は今回のクリスマスパーティを企画しただけあって幹事をしている。

 そのため、俊介はグランドワンの受付で参加者を待っていた。

 そこに一真と愉快な仲間達が来て大騒ぎ。

 一応、アリシアとシャルロットは変装こそしているが近くで見れば一目で分かる。

 それくらいに彼女たちは有名なのだ。

 ただ、シャルロットだけはメディアへの露出が低い為、言われなければ分からない程度だ。


「ごめんねー」

「いいよ、もう。それよりも騒ぎにならないようにだけ気をつけろよ」


 一真に一言だけ注意すると俊介は他の参加者が待っているパーティブースへ向かった。

 心の広い友人に一真は感謝をしつつ、後ろの四人へ振り返った。

 アリシア、シャルロット、桃子、桜儚と見事に人目を惹き付ける美女軍団だ。

 一真も容姿は整っているので行き交う人々がチラチラと様子を窺っている。

 幸いなことにナンパをしようとするバカな連中は現れなかったし、アリシア達の正体がバレて騒がれる事もなかった。


 しばらくすると、俊介が戻ってきた。


「よし、心の準備はオッケーだ。全員に伝えたから問題ないと思うぜ」

「ごめんね、ありがとう」

「もう気にすんなって。次から気をつけてくれればいいから」

「恩に着るわ~……」


 本当にいい友人である。

 一真はもう一度俊介の寛大な心遣いに感謝しつつ、彼の後ろに続いてパーティブースへと向かった。


 すでに大半の参加者は集まっていたようでパーティブースでは仲の良い友人達で集まっており、和気藹々と盛り上がっていた。

 そこに一真を含めた五人が加わったのだが、やはりビッグスターであるアリシアとシャルロットにほとんどの者達が気を使っていた。


「まあ、こうなるわな」


 案内した俊介は場の空気が悪くなったのを見て溜息を吐いたが、どうすることも出来ないので諸悪の原因である一真に任せて、残りの参加者を迎えに行った。


 居心地が悪いというより、どう接すればいいか分からないといった雰囲気である事を察した一真は後ろの四人を紹介する事から始める。


「え~っと、とりあえず後ろの四人にあんまり気を使わなくてもいいよ。アリシアもシャルもクラスメイトみたいに接してもらって大丈夫。その程度のことで怒る人たちじゃないから」


 と、言われても戸惑ってしまうのが普通だ。

 しかし、そこは有名人たるアリシア。

 彼女はフレンドリーに参加者と接し、雰囲気を和らげていく。

 雰囲気が和らいだのを感じ取ったアリシアはシャルロットを連れて、他の参加者と親睦を深めていく。

 魔女と呼ばれてはいるが人気者のアリシアだ。

 打ち解けるのにそう時間は掛からなかった。


「凄いですね」

「桃子ちゃんは混ざらないの?」

「正直言うと混ざりたいです。私、この能力のせいで学生時代はあまりいい思い出がありませんでしたから」

「ボッチちゃん……」

「不愉快なあだ名をつけないでもらえますか? 好きで一人でいたと思ってるんですか?」

「ごめん……」


 流石に今のは一真が悪い。

 桃子は人の心が読めてしまうため、どうしても上手く馴染めないのだ。

 表面上は人の良さそうな顔をしていても内心では醜悪な者を沢山見てきた彼女は人を遠ざけてしまう。

 ただ、一部の例外はいる。

 一真は例外中の例外ではあるが中には純粋な人間もいるのだ。

 桃子は今まで生きてきて運悪くそういった人間に出会ってこなかったが、一真という例外が出来てしまった。

 良くも悪くも彼は桃子にとって影響を与え、人生に刺激を提供してくれる重要な人物である。


「……まあ、良くも悪くも貴方の傍では退屈しなさそうです」


 一真から顔を背けて、ボソリと小さく呟くもハイスペックな変態は彼女の呟きを聞き逃さなかった。


「聞こえてるよ、桃子ちゃん! そう思ってくれてたなんて嬉しいぜ!」

「死ね、くそ野郎! そこは聞こえていても知らないフリするのがマナーというものでしょうがッ!」

「ぐはぁッ!」


 肘鉄を喰らい、一真は悶え苦しむ。

 追撃とばかりに一真から教わった拳法で桃子はトドメを刺そうとしたが、グッと堪えて慈悲を与えた。


「次は仕留めますからね」

「知ってた」


 痛みに苦しんでいたはずの一真はケロッとした顔で答える。

 桃子も一真のことは理解しているので先程の一撃が大したダメージを与えていない事を知っており、尚且つ彼が殺意や敵意に敏感だということも知っている。

 それゆえに先程の一撃はあえて受けたということも彼女は分かっていた。


「全く……。もう少し大人になれないんですか」

「まだ子供でいたいじゃん」

「貴方は異世界で三年過ごしたのでしょう? でしたら、精神年齢は十九歳のはずですが……」


 桃子は一真が異世界で三年間過ごし、こちらに戻ってきている事を聞いている。

 そのため、一真の肉体年齢と精神年齢が三歳違う事も当然知っていた。

 とはいえ、十九歳などまだ大学生に入ったばかりの高校生と同じだ。

 ノリが子供くさいのは仕方のないことであろう。

 それにだ。

 どれだけ歳を重ねようとも幼い人間はごまんといる。

 そのことを知っている桃子は説教するのを諦めるのであった。


「もういいです。とにかく、正体がバレるようなことはしないでくださいね」

「はい。わかりました。ところで桜儚は?」

「そういえば見当たりませんね」


 二人がキョロキョロとパーティブースを見回すと、桜儚はキャバクラで培った話術と磨かれた容姿を利用して男子諸君を篭絡していた。

 数名の男子に囲まれて楽しそうに談笑しているように見えるが、一真と桃子からすれば非常に危険な光景であったのですぐさま彼女を連れ戻した。


「おのれは何をしとるんじゃ!」

「あら、別になにもしてないじゃない。少し、話していただけよ」

「勝手にうろつくな。俺の傍にいろ!」

「ふふ、強引ね~」

「俺にくっつくな。桃子ちゃんにくっつけ」

「は~い」

「押し付けないでくださいよ。暑苦しいです」

「いいじゃない。今日はクリスマスなんだから人肌恋しいのよ」


 何故かイチャイチャしだす桃子と桜儚。

 その傍らで一真は適当に時間を潰している。


 それから程なくして俊介が最後の参加者を連れてきて、クリスマスパーティは開始を告げた。

 メインであるプレゼント交換会を行ってから、カラオケやボウリングといった遊びをして、最後は食事を取り終了となる。


 パーティブースで各々プレゼントを出し、軽快な音楽に合わせてプレゼントを回していく。

 音楽はAIによってコントロールされているので完全にランダム抽選だ。

 一真も誰のプレゼント貰えるのか楽しみにしつつ、プレゼントを回していった。


 やがて、音楽がピタリと止まり、一真の手元には馬鹿でかい袋があった。

 感触は柔らかく、弾力があるのでぬいぐるみではないかと予想する一真。


「ようし! それじゃあ、プレゼントを確認しようぜ!」


 俊介の言葉に従い、それぞれ手元にあるプレゼントを確認する。

 一真が受け取ったプレゼントは抱き枕であった。

 真っ白な無地の抱き枕で味気のないものであったが、包装されていたのは抱き枕だけではない。

 薄い画用紙も一緒に包装されており、これは一体なんなのかと一真が首を捻っていると慎也が声を掛けた。


「お! 一真が当たったか」

「おお! 慎也じゃないか。これってなんなの? 抱き枕は分かるけど、こっちの紙は?」

「フッフッフ。その抱き枕って真っ白で何の変哲もないだろ? でも、違うんだな、それが! その紙に好きなイラストを印刷して抱き枕に張ってドライヤーで温めれば抱き枕にイラストがつく仕組みになってるんだ!」

「それは凄いな! しかし、よく三千円で買えたな」

「セールしてたからな。実を言うと、それは最新じゃない。何代か前のやつなんだ」

「いいよ、いいよ。そういうのは気にしないって。ちなみにどんなイラストでもいいの?」

「ああ。勿論、ムフフ……」

「グフフフ……」


 男同士分かり合うものがあった。

 二人の脳内はピンク色に染まっている。

 一真と慎也が気色悪い笑みを浮かべていると、他の人達も交換が終わり、それぞれにプレゼントを受け取っていた。

 中にはアリシア、シャルロットのプレゼントを受け取り、歓喜の雄叫びを上げている者もいた。


 プレゼント交換会が終わり、予約していたボウリングで盛り上がり、カラオケではしゃぎ、最後に全員で夕食を取り解散となった。


「終わるの早かったなー」

「そうだな。それにしても意外と楽しめたな。ぶっちゃけ、お前が連れてきた人達のせいでギクシャクすると思ってたわ」

「それはほんとごめんて。今回、助かったのはアリシアのおかげだな~。色々と気を使ってくれたから皆と楽しめた」

「御礼を言っておいてくれ。それから、また機会があれば遊びましょうって伝えてくれ」

「わかった。今日は本当にありがとうな、俊介」

「いいってことよ。学園対抗戦の話も聞けたし、色々と楽しかったわ。それじゃあ、今年はこれで最後だからまたな」

「おう。よいお年を」


 解散し、一真は四人を引き連れて街を歩く。

 今日はクリスマスということで煌びやかな街並みに多くのカップルが歩いている。

 その中に一際目立つ集団として一真達がいた。

 四人の美女を連れて歩く一真は人目を惹いている。


「お……。雪か」

「ホワイトクリスマスね。いいじゃない」

「幻想的でいいですね~」

「どうりで冷えるわけですね。早く帰って寝たいです」

「こういう時はもっと楽しまないとね」


 雪が降る中、一真達は聖夜を楽しむのであった。

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